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6 討伐大会編
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私が連れて行かれたのは、一部隊全員が入れる広さの会議室だった。
基本、各師団は部屋に特別な装飾をほどこさないので、この部屋も、殺風景な仕上がりになっていた。
接待用の場所でもないので、師団なんだからこれでいいのだろう。
第六師団に限らず、師団の建物には各部隊が会議や打ち合わせを行える広さの部屋が設けられている。
師団全員の場合、普通は室内ではなく、屋外で集まって行う。
全員が入れるような場所が室内にないのはもちろん、全体で行うことといったら訓辞やら挨拶みたいなものだけ。だから、屋外で十分。
ところが、いくら戦闘集団の部隊だとはいっても、打ち合わせや意見交換は行われる。座学みたいなものも、もちろんある。
以前、各部隊長を集めて行った師団内会議も、場所はこの会議室だった。
そして今回も、この広々とした会議室に、第六師団のいろいろな人が集められていた。
正面の大きな黒板に向かって、整列した席には、各部隊から正副部隊長と他数名が参加している。
そして、第二、第三、第四、第五、第八師団長と師団長がずらりと勢揃いしている姿も見える。この場にいないのは近衛騎士団の第一、辺境騎士団第七、詠唱魔術師団の第九。
各師団長はさらに自分のところの同行者も伴っているので、ちょっとした集団になっていた。
「いったい、これは何の会議…………?」
次のあっち、という言葉を聞いていただけなので、参加メンバーを見ても何の会議だかが掴めない。
「むーっとするフィアもかわいい」
「は?」
会議が始まる前から夫がおかしい。
そもそも、抱き上げられては連れてこられている状態からしておかしいし、未だに抱き上げられている状態なのもおかしいんだけど。
この移動方法に関しては、専属護衛のジンクレストも何も言わなくなった。
最初はラウに、私に近づきすぎだとか馴れ馴れしいとか言ってたのに。最近は私の安全を考えると仕方ないと言い出している。
そうそう、仕事中だから夫じゃなくて上司だったわ。
ジンクレストでさえ最近はこんな感じなので、この場におかしい上司を窘めてくれる人が存在しない。
なんとかしてくれる人はいないかと、キョロキョロしていると、カーネリウスさんと目が合う。
よし。
カーネリウスさんは空気を読まない。
ラウの望むようなこともしない。
念をこめてカーネリウスさんを見つめると、カーネリウスさんは、小さくあっとつぶやいて、大きく頷いた。
よし。通じた!
「全体会です、クロエル補佐官」
違う、さっきの質問の答えを期待したんじゃないから!
ラウのいつもの発言を無視したまでは良かったのに!
まぁ、いいや。
ラウ発言はスルーできたんだから。
私もラウ発言を無視して、気になることを質問してみた。
「他の師団長もいるけど?」
全体会っていったら、普通、参加者は第六師団の人だけ。他の師団長が参加するはずがない。
けど、いるんだよね、目の前に。
「討伐大会に参加するメンバーの推薦を募るから、それで呼んだんだ」
私とカーネリウスさんが会話しているのが気に入らなかったのか、ラウが会話に割って入る。
ちなみに、抱き上げられた状態での移動は完了し、ようやくイスに座らせられた。
場所はもちろん、ラウのぴったり隣だ。
ラウがぴったりくっついているとも言う。
カーネリウスさんはラウの向こう側。
「メンバー選出って推薦制なの?」
「優勝した第六師団に優先権はあるんですが、国として参加するので、主メンバー以外は他師団からも推薦してもらうんです」
珍しくカーネリウスさんがまともに説明している。ルミアーナさんの手をまったく借りることなく。
「最終的に決めるのは俺だけどな」
「主メンバーって?」
「既に選出済みで、これから発表します」
「五人だけな」
まるで、ラウとラウの前副官カーシェイさんとのやり取りを見ているようだった。
私は感心して、カーネリウスさんをちょっとだけ誉めてみた。
「凄いね、カーネリウスさん。討伐大会については詳しいんだね」
ラウが拗ねるといけないので、ちょっとだけ。
言ってしまってから、ハッとする。
この言い方だと、捉え方によっては、バカにしているように聞こえてしまいそう。
「あー、別に他のことはよく分かってないとか、ルミアーナさんがいないと使い物にならないとか、思ってないから」
あ、余計なこと、言っちゃったかな。
恐る恐る、カーネリウスさんを見ると、カーネリウスさんは怒っている感じもなく、苦笑い。
「いちおう、総師団長の副官やってましたから。師団全体の話については、叩き込まれたんです」
「あー、なるほど」
すっかり第六師団に馴染んでいるから忘れていたけど、カーネリウスさんは元々、総師団長付きの副官だったっけ。
それで詳しいのか。
理由が分かってスッキリする。
それじゃあ、会議を始めてもらおうかな。
と、思ったところで、ラウが話しかけてきた。とても真剣な顔で。
「フィア」
これから始まる全体会の注意事項だろうか?
私も真剣な顔でラウを見つめると、ラウは私の手を握り、大きく頷いた。
「他のことはまったく分かってないとか、エレバウトがいないと使い物にならないどころか迷惑極まりないとか、ここにいる全員がこっそり思ってることだから、気にしなくて大丈夫だぞ」
私、そこまで酷いこと、言ってないし思ってないから。
ラウの向こうでカーネリウスさんが机に突っ伏す姿が目に映った。
基本、各師団は部屋に特別な装飾をほどこさないので、この部屋も、殺風景な仕上がりになっていた。
接待用の場所でもないので、師団なんだからこれでいいのだろう。
第六師団に限らず、師団の建物には各部隊が会議や打ち合わせを行える広さの部屋が設けられている。
師団全員の場合、普通は室内ではなく、屋外で集まって行う。
全員が入れるような場所が室内にないのはもちろん、全体で行うことといったら訓辞やら挨拶みたいなものだけ。だから、屋外で十分。
ところが、いくら戦闘集団の部隊だとはいっても、打ち合わせや意見交換は行われる。座学みたいなものも、もちろんある。
以前、各部隊長を集めて行った師団内会議も、場所はこの会議室だった。
そして今回も、この広々とした会議室に、第六師団のいろいろな人が集められていた。
正面の大きな黒板に向かって、整列した席には、各部隊から正副部隊長と他数名が参加している。
そして、第二、第三、第四、第五、第八師団長と師団長がずらりと勢揃いしている姿も見える。この場にいないのは近衛騎士団の第一、辺境騎士団第七、詠唱魔術師団の第九。
各師団長はさらに自分のところの同行者も伴っているので、ちょっとした集団になっていた。
「いったい、これは何の会議…………?」
次のあっち、という言葉を聞いていただけなので、参加メンバーを見ても何の会議だかが掴めない。
「むーっとするフィアもかわいい」
「は?」
会議が始まる前から夫がおかしい。
そもそも、抱き上げられては連れてこられている状態からしておかしいし、未だに抱き上げられている状態なのもおかしいんだけど。
この移動方法に関しては、専属護衛のジンクレストも何も言わなくなった。
最初はラウに、私に近づきすぎだとか馴れ馴れしいとか言ってたのに。最近は私の安全を考えると仕方ないと言い出している。
そうそう、仕事中だから夫じゃなくて上司だったわ。
ジンクレストでさえ最近はこんな感じなので、この場におかしい上司を窘めてくれる人が存在しない。
なんとかしてくれる人はいないかと、キョロキョロしていると、カーネリウスさんと目が合う。
よし。
カーネリウスさんは空気を読まない。
ラウの望むようなこともしない。
念をこめてカーネリウスさんを見つめると、カーネリウスさんは、小さくあっとつぶやいて、大きく頷いた。
よし。通じた!
「全体会です、クロエル補佐官」
違う、さっきの質問の答えを期待したんじゃないから!
ラウのいつもの発言を無視したまでは良かったのに!
まぁ、いいや。
ラウ発言はスルーできたんだから。
私もラウ発言を無視して、気になることを質問してみた。
「他の師団長もいるけど?」
全体会っていったら、普通、参加者は第六師団の人だけ。他の師団長が参加するはずがない。
けど、いるんだよね、目の前に。
「討伐大会に参加するメンバーの推薦を募るから、それで呼んだんだ」
私とカーネリウスさんが会話しているのが気に入らなかったのか、ラウが会話に割って入る。
ちなみに、抱き上げられた状態での移動は完了し、ようやくイスに座らせられた。
場所はもちろん、ラウのぴったり隣だ。
ラウがぴったりくっついているとも言う。
カーネリウスさんはラウの向こう側。
「メンバー選出って推薦制なの?」
「優勝した第六師団に優先権はあるんですが、国として参加するので、主メンバー以外は他師団からも推薦してもらうんです」
珍しくカーネリウスさんがまともに説明している。ルミアーナさんの手をまったく借りることなく。
「最終的に決めるのは俺だけどな」
「主メンバーって?」
「既に選出済みで、これから発表します」
「五人だけな」
まるで、ラウとラウの前副官カーシェイさんとのやり取りを見ているようだった。
私は感心して、カーネリウスさんをちょっとだけ誉めてみた。
「凄いね、カーネリウスさん。討伐大会については詳しいんだね」
ラウが拗ねるといけないので、ちょっとだけ。
言ってしまってから、ハッとする。
この言い方だと、捉え方によっては、バカにしているように聞こえてしまいそう。
「あー、別に他のことはよく分かってないとか、ルミアーナさんがいないと使い物にならないとか、思ってないから」
あ、余計なこと、言っちゃったかな。
恐る恐る、カーネリウスさんを見ると、カーネリウスさんは怒っている感じもなく、苦笑い。
「いちおう、総師団長の副官やってましたから。師団全体の話については、叩き込まれたんです」
「あー、なるほど」
すっかり第六師団に馴染んでいるから忘れていたけど、カーネリウスさんは元々、総師団長付きの副官だったっけ。
それで詳しいのか。
理由が分かってスッキリする。
それじゃあ、会議を始めてもらおうかな。
と、思ったところで、ラウが話しかけてきた。とても真剣な顔で。
「フィア」
これから始まる全体会の注意事項だろうか?
私も真剣な顔でラウを見つめると、ラウは私の手を握り、大きく頷いた。
「他のことはまったく分かってないとか、エレバウトがいないと使い物にならないどころか迷惑極まりないとか、ここにいる全員がこっそり思ってることだから、気にしなくて大丈夫だぞ」
私、そこまで酷いこと、言ってないし思ってないから。
ラウの向こうでカーネリウスさんが机に突っ伏す姿が目に映った。
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