精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

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6 討伐大会編

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 一通り、ラウの尋問……ではなく、質問とそれに対するテラの回答が終わった。

 かいつまんで言えば、混沌の木の成長速度がいつもより速いこと。それに伴い、混沌の気の濃度も高く排出量も多いこと。それが魔獣数増加の原因だということ。

 そもそも、混沌の木は封印された名もなき混乱と感情の神の神気が滲み出たもので、人間の悪感情を吸い取るようにできているそうだ。

「つまり、混沌の木の成長速度が速いというのは、神気が強くなったり、悪感情が強くなった結果だと言うわけか」

 ミラマーさんが唸った。

「でも、そんなに世論は乱れてないですよね。神様の封印が緩んだんですかねー」

 と緩んだことを言う、カーネリウスさんの発言は見事に無視。

 されるのかと思いきや、

「逆だ」

 テラがブスッとした、おもしろくもなさそうな顔でつぶやく。

「人間の悪感情が強くなったから、封印が緩んだってことか?」

「神様の封印が緩んだから、いろいろ企んで、悪感情が増えてるんじゃないの?」

「…………黒竜の方が近いな」

 テラがまたもや、ブスッとした顔でつぶやくと、それまで黙っていたエルヴェスさんが食いついてきた。

「ちょっと、チビッコ! アタシの情報網でも、悪感情増加の話なんて入ってきてナイワヨ!」

「…………人数の問題じゃない」

 テラの顔はブスッとしたままだ。そして訝しげに尋ねる。

「本当に思い当たらないのか、悪感情の最大の原因に?」

 そのとき、


 ゴツン!


 と派手な音がした。

「知ってるなら、サッサと教えなさいよ、チビッコ!」

 エルヴェスさん、今、テラの頭を殴ったよね?!

 頭を抑えて呻くテラ。握り拳で挑発するエルヴェスさん。

 周りではカーネリウスさんにルミアーナさんが、あっけにとられて目を丸くして、口もポカンと開けているし。

 ラウやミラマーさんに至っては、またかよ、みたいな顔をしていた。
 どうやら、エルヴェスさんの暴力はいつものことらしい。

「ホラ、早く!」

 エルヴェスさんに急かされて、テラは慌てて答えた。察するに、もう一度、叩かれるのは嫌だったようだ。

「ネージュではなく、クロスフィアを欲しがっていた最大の理由がそれだ!」

 必死に頭を庇いながら、答えている。

「ハァーア?! ホントに?!」

「いや、たぶんだけど。ほぼ間違いないだろ。魔獣の数が増え始めたのは、四番目が覚醒してからだから…………」

 たぶん、て。

 断定してたような言い方だったよね、さっきまでは。
 しかも、しどろもどろだし。どれだけ信用できるのかも怪しそうだ。

 でも、テラの話には続きがあった。

「四番目が覚醒する際の原動力。人間や世界に対する悪感情だ。破壊の衝動を呼び覚ますくらい強力な」

「………………………………………………あ」

 一瞬、思考が停止する。

 ネージュの最期の感情。

 実兄たちに崖から落とされたときの絶望と悲しみ、護衛騎士への怒り、世界に対する憎悪。

 いろいろなものが混じり合い、破壊の衝動を呼び覚まして、私は覚醒した。

 あの時の感情か。

「自覚あるだろ!」

 テラの言葉にハッとなる。
 確かに、悪感情と言われてしまえば、その通り。

 だとはいえ、テラに対して言い返したいことがある。

「不可抗力」

「ふかこうりょく?!」

 うん、普通の人間だったネージュに何ができたと言うんだろうね。

 だって。

「私の覚醒って、テラが三番目をしっかり監視してたら防げた話なんでしょ?」

「うっ」

 テラ自身が言ってたよね。
 三番目が楽しそうにしていたから、つい見逃してしまったって!

「だから、テラのせいで魔獣の増加が起きたと」

「ううううっ」

 お菓子を喉に詰まらせたようなうめきかが聞こえ、エルヴェスさんの声がとどめをさした。

「チビッコ、イタいとこツかれたわねー」




 呻くテラを横目で見ながら、ミラマーさんがまとめにかかる。

「えーっとだな、つまり、あれだ。まとめるとだな」

 頭をエルヴェスさんの肘置きにされながらも、静かに唸るだけのテラ。他の人たちも静まりかえっていた。

 ミラマーさんの声だけが執務室に響く。

「破壊の赤種を狙っている名もなき混乱と感情の神が、変化の赤種を利用して、破壊の赤種を覚醒させた。
 覚醒時の強力で強大な悪感情が、神の封印を緩めると同時に、混沌の木の糧となり、魔獣の増加につながっていると」

「おそらくな」

 テラがポツリと応じる。

 ミラマーさんのまとめの話を受けて、ラウが腕組みしながらつぶやいた。

「混沌の木がどんどん成長すれば、それだけ、封印もどんどん弱まるということか」

「そういうことだ」

「なら、魔獣の討伐や浄化は念入りに行わないといけないな」

「ふん、分かってるじゃないか」

 ようやく、テラがいつもの調子に戻ってきた。頭の上にはまだエルヴェスさんの肘が乗ってるけど。

「で、黒竜と四番目も参加するだろ、封土記念祭に?」

「え? 封土記念祭?」

 初めて耳にする単語に、首を傾げる。
 そんなお祭りあったっけ?

「一般人にはあまり馴染みはないか」

「フィアは、」

「黒竜は黙れ、話がややこしくなる」

「なんだと、チビのくせに!」

 喧嘩を始めた二人を無視して、私はルミアーナさんの方を向いた。

「封土記念祭とは、名もなき混乱と感情の神を大地に封印して世界に平穏が戻ったことを祝って行う祭事ですわ」

「それで、具体的には?」

「年に一度、魔獣の活動が一番活発な時期に、混沌の樹林で魔獣の掃討を行いますの。
 その後、樹林の浄化と、神の封印を強化する儀を行いまして、各国の代表者、赤種、竜種、魔種が集まり式典を行って終わりですわ」

 ルミアーナさんがサラサラと流れるように説明をしてくれた。

 あー、そうだったんですねー、名前だけは知ってましたー、と後ろでカーネリウスさんが呑気に独り言を言ってるけど。

 カーネリウスさんの反応からしても、一般人には直接関わらない行事のようだった。

 なのに、なんでここで参加の話が出るんだろう。

「今の話、聞いていたよな。『各国の代表者、赤種、竜種、魔種が集まり式典を行う』って」

「あー、私とラウも参加ってことだね、初耳だけど」

 きっと、これから話があるんだろうけどね。もしかしたら、ラウのことだから、私にナイショでいろいろ進めているかもしれないし。

「あぁ。あと、あれにも参加だな」

「あれ?」

 テラの『あれ』という発言で、私以外の全員に緊張が走った。
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