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5 出張旅行編

6-2 調査員の上司は首をひねる

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 ウフフフフフフ。
 今回は大アタリだったわー

 アラ? 今回も、カシラー?
 アタシって運がイイノヨネー!

「エルヴェスさん、仕事してください」

 いやホント。

 アタシの一番弟子、スーパー調査員のジトジトちゃんを、アタシが前々から目を付けてたアノ店に潜り込ませておいたら、コレがまたドンピシャ。

 ブアイソウもいいタイミングでイイシゴトしてくれて。

 まんまと料理人も誑し込…………、ではなくて、相互協力の名の下、うまいこと名物料理を強奪…………、でもなくて、進化した名物風料理をゲットできたしー

 店の乗っ取りこそできなかったけど、直営店も軌道に乗りそうな感じだし。

 いやもうホントに、アタシってサイコーじゃない?

 アタシはいつものように山積みの報告書を捌き、必要事項の確認を行いつつ、配下への指示を出していた。妄想という名のシアワセに浸りながら。

 ソノ、シアワセを乱すやつが、今、ココにいる!

「エルヴェスさん、聞いてます?」

「聞いてるわよー イチイチ、ウルサいわねー」

 ソノ名もショボクレ!

 ショボクレとは、辛気くさいカーシェイ無き後、エルメンティアの普通竜種最強となったショボクレ男。

 独身。彼女なし。毎日を師団と寮の往復で過ごす、かなりサビシいやつ。

 唯一の話し相手は補佐官のくるくるちゃんのみ。しかも仕事関係の補佐をしてくれてるだけ!という関係。

「エルヴェスさんてば、仕事です仕事!」

 ハイハイ。まーったく、ショボクレのやつ、ショボクレた顔してウッサイのよね。

 コッチが気分良く仕事してるってのにさー

 アー、今日はショボクレ管理人のくるくるちゃん、午後から出勤だったわ。

 くるくるちゃんに何か言われてるのかしらー

 余計なこと言って部隊長たちを怒らせるなとか、余計なことして仕事を増やすなとか、余計な行動をして始末書を書くなとか。

 て、普段から余計なことしかしてないわね、コイツ。

「エルヴェスさんが仕事しないと、俺、エレバウトさんに怒られるんですよ」

 ハァー?!

 ショボクレがマトモに仕事できないのが原因でしょーに。

「同僚に気を配るのは、俺の仕事だって。エレバウトさんが言うんです」

 アノねー、余計なことをしないように、ワザと同僚を見張るなんていう仕事をさせてんのよ。
 まったく、ソンナことにも気が付かないでドーすんのよ、コイツ。 

「補佐一号さんや二号さんにまで、俺が怒られるんです」

 マー、一号二号は最初からバカ扱いしてたからねー

 にしても、アタシの仕事とシアワセの邪魔ばかりしてくれて。

「ダーカーラー?」

 アタシはショボクレのやつを、ギロッと睨んであげた!

「ショボクレが言われたのは『同僚に気を配れ』でしょー アタシに仕事させろとは言われてないでしょー」

「いや、まぁ、その通りなんですけど。いいです。気が向いたら仕事してください」

 ほらほら、まったく。

 意外と気が弱いショボクレ。竜種のくせに、睨んだだけで怯むなんてね。

 同じ竜種でも、ノーテンキは一切動じず脳天気に笑い飛ばすし、ブアイソウなんて逆に殺気を飛ばしてくるわ。

「ソレだから、ショボクレって言われてるのよねー」

「それ言ってるの、エルヴェスさんだけですよね?」

「アラ?」

 ソーだったかしらー?

 アタシは首をひねって、思い直す。

「首をひねるほどの相手じゃなかったわ」

「酷い」

 とーぜん、ショボクレの感想は無視よ、無視。




「マー、ソレはソレとして。仕事なら、ちゃーんとやってるわ」

「どこがですか?」

「ほら、コレよコレ」

 執務室のアタシ専用デスクに向かって、イスに座り直し、バンバンと書類を叩きつける。

 ほらほら見なさい!

「ホテルも劇場も順調順調。百貨店もフェア始まって、ガポガポね」

 て、ソコでまたショボクレた顔しないでくれるー?

「だから、エルヴェスさん。儲け話ではなく、第六師団の仕事をしてくださいって」

「第六師団?」

「そうですよ! この報告書、ぜーんぶ、シュタムグループ関係のものじゃないですか!」

「ダーカーラー?」

 今度こそ、アタシは首をひねったわ。

 正直なところ、ショボクレ意味不明。ダイジョーブかしら、コイツ。

 ソシテ、ショボクレのやつ、バンバンと机を叩き返してきた。

「ここでやるのはシュタムグループの仕事ではなく、第六師団の仕事ですって!」

「ダレがソーンナこと決めたのよ」

「誰がって?! まさかそこから?」

 愕然とした顔で、助けを求めるように周りを見るショボクレ。周りはとーぜん無視無視。

 ソリャ、ソーよね。

「何がソコからよ。アタシがいつどこで何の仕事をしたって問題ないでしょー」

「いや、問題ありありですから!」

「ホー、ソレでー?」

「ソレで?じゃ、ありません。第六師団の仕事をしてください!」

 ショボクレの大声が執務室に響き渡る。

「休みなのに?」

「そうです! て、休み?」

 ショボクレの動きが止まる。

「ソーよ、休み」

「休みって、世間一般でいう、あの休みですか?」

 ショボクレが信じられない物を見るような顔をする。

「ソーよ、お休みよ」

「エルヴェスさんでも、休むんですか?」

「ソーよ、届、出したでしょ?」

 定休日というものがない師団においても休暇はある。トップ以外は定期的に休みがあり、臨時休暇の取得や定期休暇の交代も可。イイ職場よねー

 もちろん、トップは不定休。

 長は正副の、副官は互いの休みが重ならないよう、ブアイソウはほわほわちゃんとの休みが重なるよう、調整している。

 ダカラ、アタシの休みはちゃーんと周知されてるし、アタシは休みなのでいない人間として扱われてるし。

 分かってなかったのはコイツだけ。

「じゃなくて、休みなのになんで第六師団の執務室にいるんですか? しかも制服を着て」

「ダカラ、師団は休みだから、グループの仕事をしてんのよ、ここで」

「紛らわしいですよね?!」

「ダカラ、一号と二号は使ってないでしょー」

「いや、確かにそうですけど。はっ! そういえば知らない人がいる!」

 イヤー、ソレもいまさらー?

 ココに至ってよーやく、ジトジトちゃんの存在に気づくって、ダイジョーブか、普通竜種。

 マー、ジトジトちゃんは優秀だからねー

「ソーいうことで、引き続き、辛牛亭の調査は任せたわ、ジトジトちゃん!」

 報告に来ていたジトジトちゃんに指示をとばすと、ジトジトちゃんは深く頭を下げた後、シュンと姿を消した。

 さーて、次は何を仕掛けようかしらー

 ガックリと肩を落とすショボクレを横目で見ながら、アタシは首を軽くひねった。
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