精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

文字の大きさ
上 下
272 / 384
5 出張旅行編

6-0 解決には程遠くても

しおりを挟む
 レストス旅行から戻ってきて、二週間が経った。

 三番目や開発者についての案件は解決の目処が立たないまま、季節は夏になり、魔獣の活動期へと入ってしまっている。

 この二週間は今までにないほど、多忙を極めた。

 レストス旅行の休暇で溜まった分に加えて、迎えた魔獣の活動期。

 第六師団は非常事態専門なこともあるのか、魔獣や魔物専門だと思われているせいか、他師団担当の場所からも平気で応援要請が入る。

 忙しくない方がおかしい。

 でも、二週間も経つと忙しさに身体が慣れるのか、忙しさのコツが掴めるのか、普段と変わらなくなってくる。

 そしてようやく明日は待望のお休み。

 この二週間、私もラウも休みなしでの働き詰めだったので、やっと息抜きができる。

 しかも!

 ラウがシュタム百貨店に連れて行ってくれるのだ!

 前に約束してくれたんだよね、お店の中を見て歩くやつ。
 安全の問題もあるので、警備のしやすい貸し切りにはなってしまったけど。

 来週から始まるレストスフェア、これのプレオープン前に丸ごと貸し切ったので、フェア一番乗りを味わえる。

 本物のレストスに行ってきたばかり。だけど、フェアはフェアで楽しめるはずだ。

 なにせ、今回のフェアは、エルヴェスさん会心の出来。選りすぐりのレストスが待ちかまえているに違いない。

 明日がとても楽しみだ。

「だぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 と、突然、テラが叫び声をあげた。

「いきなり、何なの?」

「なんで、僕が呼び出されてまで、君と黒竜のデートの話を聞かされないといけないんだよ!」

 なんだ、そんなことか。

「他に話せる人、いないし」

「しかも、行くのは明日だろ! 明日!」

「楽しみすぎて」

 そう。ここは師団長室。

 明日のお休みに備え、テラをお菓子で誘い出し、いろいろ語ってあげたのだ。

「行く前から惚気話はやめてくれよ!」

「大丈夫。ちゃんと行った後も報告するから」

「違う! デートの報告が聞きたいんじゃない! デートの話そのものを聞きたくないんだ!」

 文句をギャーギャー言う割には、しっかりお菓子を握りしめてるんだよね。
 なんだかんだ言っても、テラはお菓子の誘惑に勝てないんだから。嫌ならこっちの誘いに乗らなければいいだけなのに。

「はぁ。まったくテラは我が儘だなぁ」

「君が言うか?!」

「とにかく明日はお休みするから」

「勝手に行け、バカ夫婦!」

 プンプン怒りながらも、テラはお菓子を食べる手を止めなかった。




 そうして迎えた、シュタム百貨店貸し切り日。

 正面入り口の前に、ずらーっと従業員が勢揃いして、私たちを出迎えてくれた。
 なんだか、師団の騎士が一列に揃って敬礼する様にも似た何かを感じて、ちょっと圧倒される。
 百貨店の従業員なら、非戦闘員のはずなのに。なんだろう、この圧は。

「レストスホテルの従業員さんたちも凄かったけど、シュタム百貨店の従業員さんたちも凄いね」

「あぁ、どう見ても非戦闘員に見えんな」

 ラウも同じことを感じていたようだ。

 そして中に案内され、念願の見て歩きながらのショッピングが開始となった。

 さすがはシュタム百貨店。

 どこまでもレストス尽くしだ。

「エルヴェスの目的は元々、このレストスフェアだったからな。俺たちの旅行に協力的なはずだよな」

 と、大きく頷きっぱなしのラウ。

「見て見て、ラウ。レストスでいっしょに食べたフルーツがあるよ」

 これ、最初にラウと食べたよね。
 あーんて食べさせてあげたら、ラウ、すごく喜んでたよね。

「見て見て、ラウ。レストスでいっしょに食べたスイーツもあるよ」

 これ、ユクレーナさんも初めて食べたって言ってたやつ。
 これもラウにあーんてしてあげたんだったな。ラウ、すごくすごく喜んでたよね。

「見て見て、ラウ。レストスでいっしょに食べた料理もあるよ」

 て、あれ?

「さっきから、俺たちがいっしょに食べた物しか、見当たらないような気がするんだが」

「うん、そんな気がする」

 ふと、レストスフェアの宣伝の横断幕が目に入った。

「見て見て、ラウ」

 思わず指をさす。

「荒竜と破壊のお姫さまが巡ったレストスフェア、て書いてある」

「あーーいーーつーーー!」

 『荒竜と破壊のお姫さま』とは、シュタム劇場で上演されている大人気の劇だ。人気過ぎて、いまだにキャンセル待ちが続いているらしい。

 シュタム劇場もシュタムグループの傘下。話題の劇はエルヴェスさんのプロデュースだという。

 私とラウは、一時期、この劇のモデルじゃないかとも噂されていた。

 そんな噂がある私たちが、レストス旅行で巡った場所や食べた物が、堂々と紹介されていて、しかも、宣伝文句がこうなってくると、考えられるのはひとつしかない。

 人気の劇と絡めて百貨店でフェアを開催し、大儲けする。

 劇場も百貨店も繁盛するし、なんなら、レストスのホテルも予約で賑わいそうだ。

「エルヴェスさんの本当の目的は、これだったんだね」

 普通のレストスフェアよりもこっちの方が話題性があるし、なにより儲かるよね。

 おっと。のんびりしている場合ではなかった。

 ラウが荒ぶりすぎて、本物の荒竜になる前に宥めておかないと。

 私の隣で、ぐむむむとうなり声をあげるラウ。その手をギュッと握って、私はラウの腕を引っ張った。

「ラウ、旅行の思い出巡りみたいで、楽しいね」

「そうか? まぁ、フィアがそう言うのなら、いいか」

 納得がいかなそうな顔をしていたラウも、私から手をギュッと握ったのが嬉しかったのか、目尻を緩めた。

「それじゃあ、どこから行く?」

「そうだねぇ」

 私は首を傾げる。
 どのお店もラウとの思い出がいっぱい。

 レストスで巡った順番で回るのが、一番かな。

 正直、レストス旅行の『仕事』の部分は失敗だらけだった、と思っている。

 開発者は確保できず、三番目は姿をくらまし、スヴェート側の動きも分からないまま。
 感情の神の関与と目的が分かったくらいで、解決には程遠い。

 それでも。

 心強い夫や仲間といっしょなら、不思議と自信がわいてきて、なんとかなりそうな気分になってくる。

「あそこから行こうよ」

 私はラウの手を握りしめ、シュタム百貨店のフェアを楽しんだのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの
恋愛
 幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。  誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。  数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。  お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。  片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。  お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……  っと言った感じのストーリーです。

処理中です...