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5 出張旅行編
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周りの皆が、私の理解のなさを非難する視線を向けた割には、周りもよく分かっていないようだった。
なにせ、テラがハッキリ言っている。
「世の中にはいろいろな解釈が出回っているけどな。本当のところは不明だ」
しかも、偉そうに言い切った。
赤種のトップでもあるテラでさえ、こう言うんだから、もっと詳しい人がいるはずない。
思わず、聞き返して確認してしまう。
「それって、なんで狙うのか分からないってことでしょ」
「確かなのは、名もなき混乱と感情の神が、この世界の法則を根本から崩したがってるってこと」
テラはいったん言葉を止めた。
私の顔を改めて見る。ため息をひとつこぼし、言葉を続ける。
「そのために、破壊と終焉の力を欲していることだ」
「………………なるほど」
ネージュじゃなくてクロスフィアを欲しがっているのは、ただ単に『破壊』の力が欲しいからなのか。
今、終焉の赤種は覚醒していない。世界のどこかにはいるんだろうけど。探し出すすべもない。
「私が感情の神のところに行けば、丸く収まるって話じゃないんだね」
名もなき混乱と感情の神は、人間の身体を乗っ取ることができた。
私の権能である『破壊』の力を奪って、行使することだってできるのかもしれない。
私が考え込んでいると、突然、金竜さんが割って入った。
「あのな、怖いこと言わないでくれ!」
「怖いこと?」
何かに脅えたような目つき。
「黒竜の奥さんが感情の神のところになんて行ってしまったら、感情の神が世界の法則を崩す前に……」
最後まで言わずに口ごもった。
「その前にどうにかなるの?」
先を促すと、金竜さんは私の隣に視線をちらっと走らせる。
「黒竜が暴走して、この国が滅びる」
恐ろしいことを口にした。
ラウを見ると無言で頷いてるし、テラはテラで、
「当然、そうなるだろうな」
と肯定するし。
うん。どちらにしろ、この世界の命運は尽きそうだな。
会議が終わると、日常業務が私たちを襲った。旅行にいって溜まった業務もあるので、普段の倍は忙しい。
書類を処理しながら、レストス旅行を振り返る。
初めて経験することばかりだった。楽しいことも楽しくないこともあった。それでも、またいつか、ラウと二人で訪れたいと思った。
心残りがあるとすれば、ユクレーナさんと家族のこと。
「ユクレーナさんの方も、けっきょく、中途半端に終わっちゃったね」
隣に座って同じように書類の処理をするラウに話しかけると、ラウからは違った答えが返ってきた。
「そうか? 大打撃を与えたし、少しは懲りたんじゃないのか、あの親」
大打撃なんて与えたつもりはないんだけどな。思い当たることもないし。
そもそも、何が大打撃になるのかが分からない。
「大打撃、与えられたかなぁ」
「あぁ、間違いない」
首を傾げながらつぶやく私に、ラウは力強く頷いてくれる。
「だと、いいなぁ」
「何か心配なことでもあるのか?」
歯切れの悪い返事をする私の頭を、ラウがポンポンと優しく叩く。
「ラウは心配じゃないの?」
「俺は今、フィアといっしょに幸せに暮らしているのに、心配する必要あるのか?」
「この先のこととか、不安にならないの?」
「それを言ってたら、キリがないだろ」
「そうだけどね」
今度は私を安心させるように、ラウは頭を撫でてくれた。
「それに、もうすぐ新婚期間が終わるからな。結婚式をしないとな」
「うん、やっぱり竜種の常識って、よく分からないわ」
この先の不安より、ラウにとっては結婚式の方が重要そうだった。
そういえば。
結婚したばかりの頃、竜種の新婚期間は短くて五年だとか言われたような気がする。
なのに今のラウは、もうすぐ新婚期間が終わると浮かれている。
竜種の新婚期間て、何か条件があるんだろうか?
ラウに聞いてもはぐらかされそうな気がするので、今度、テラに聞いてみよう。
思考が途切れると、また不安が押し寄せてきた。
今度の不安は三番目のことについて。
さっきの会議で、テラはこう言っていたのだ。
「スヴェート皇女は混沌の気に蝕まれて、自我をなくし、ほぼ操り人形。親善と称して各国を渡り歩いていたのは、破壊の赤種を探すためだな」
そしてこうも言っていた。
「今回の情報から、開発者もスヴェート皇女と同じ状況なのが分かった。
今はまだ、自我や記憶がところどころおかしい程度で済んでいるが、時間の問題だろう」
スヴェート皇女はスヴェート皇帝に操られているとばかり思っていたのに。
こうなってくると、感情の神と取引したとされるスヴェート皇帝も、正常を保てているのかどうか気になってくる。
おそらく、一番長く感情の神と接しているんだろうし。スヴェート皇女よりも悪い状態になっていてもおかしくない。
三番目はどうなるんだろう。
三番目とは意見が合わないけど、同種のひとりだ。
デュク様を裏切った嫌なやつでもあるけど、だからと言って冷たく突き放せないものがある。
「まさか、三番目も同じように、自我がなくなるの?」
「さぁ、どうだろうな」
そう言って、テラは悲しそうな目をするだけだった。
なにせ、テラがハッキリ言っている。
「世の中にはいろいろな解釈が出回っているけどな。本当のところは不明だ」
しかも、偉そうに言い切った。
赤種のトップでもあるテラでさえ、こう言うんだから、もっと詳しい人がいるはずない。
思わず、聞き返して確認してしまう。
「それって、なんで狙うのか分からないってことでしょ」
「確かなのは、名もなき混乱と感情の神が、この世界の法則を根本から崩したがってるってこと」
テラはいったん言葉を止めた。
私の顔を改めて見る。ため息をひとつこぼし、言葉を続ける。
「そのために、破壊と終焉の力を欲していることだ」
「………………なるほど」
ネージュじゃなくてクロスフィアを欲しがっているのは、ただ単に『破壊』の力が欲しいからなのか。
今、終焉の赤種は覚醒していない。世界のどこかにはいるんだろうけど。探し出すすべもない。
「私が感情の神のところに行けば、丸く収まるって話じゃないんだね」
名もなき混乱と感情の神は、人間の身体を乗っ取ることができた。
私の権能である『破壊』の力を奪って、行使することだってできるのかもしれない。
私が考え込んでいると、突然、金竜さんが割って入った。
「あのな、怖いこと言わないでくれ!」
「怖いこと?」
何かに脅えたような目つき。
「黒竜の奥さんが感情の神のところになんて行ってしまったら、感情の神が世界の法則を崩す前に……」
最後まで言わずに口ごもった。
「その前にどうにかなるの?」
先を促すと、金竜さんは私の隣に視線をちらっと走らせる。
「黒竜が暴走して、この国が滅びる」
恐ろしいことを口にした。
ラウを見ると無言で頷いてるし、テラはテラで、
「当然、そうなるだろうな」
と肯定するし。
うん。どちらにしろ、この世界の命運は尽きそうだな。
会議が終わると、日常業務が私たちを襲った。旅行にいって溜まった業務もあるので、普段の倍は忙しい。
書類を処理しながら、レストス旅行を振り返る。
初めて経験することばかりだった。楽しいことも楽しくないこともあった。それでも、またいつか、ラウと二人で訪れたいと思った。
心残りがあるとすれば、ユクレーナさんと家族のこと。
「ユクレーナさんの方も、けっきょく、中途半端に終わっちゃったね」
隣に座って同じように書類の処理をするラウに話しかけると、ラウからは違った答えが返ってきた。
「そうか? 大打撃を与えたし、少しは懲りたんじゃないのか、あの親」
大打撃なんて与えたつもりはないんだけどな。思い当たることもないし。
そもそも、何が大打撃になるのかが分からない。
「大打撃、与えられたかなぁ」
「あぁ、間違いない」
首を傾げながらつぶやく私に、ラウは力強く頷いてくれる。
「だと、いいなぁ」
「何か心配なことでもあるのか?」
歯切れの悪い返事をする私の頭を、ラウがポンポンと優しく叩く。
「ラウは心配じゃないの?」
「俺は今、フィアといっしょに幸せに暮らしているのに、心配する必要あるのか?」
「この先のこととか、不安にならないの?」
「それを言ってたら、キリがないだろ」
「そうだけどね」
今度は私を安心させるように、ラウは頭を撫でてくれた。
「それに、もうすぐ新婚期間が終わるからな。結婚式をしないとな」
「うん、やっぱり竜種の常識って、よく分からないわ」
この先の不安より、ラウにとっては結婚式の方が重要そうだった。
そういえば。
結婚したばかりの頃、竜種の新婚期間は短くて五年だとか言われたような気がする。
なのに今のラウは、もうすぐ新婚期間が終わると浮かれている。
竜種の新婚期間て、何か条件があるんだろうか?
ラウに聞いてもはぐらかされそうな気がするので、今度、テラに聞いてみよう。
思考が途切れると、また不安が押し寄せてきた。
今度の不安は三番目のことについて。
さっきの会議で、テラはこう言っていたのだ。
「スヴェート皇女は混沌の気に蝕まれて、自我をなくし、ほぼ操り人形。親善と称して各国を渡り歩いていたのは、破壊の赤種を探すためだな」
そしてこうも言っていた。
「今回の情報から、開発者もスヴェート皇女と同じ状況なのが分かった。
今はまだ、自我や記憶がところどころおかしい程度で済んでいるが、時間の問題だろう」
スヴェート皇女はスヴェート皇帝に操られているとばかり思っていたのに。
こうなってくると、感情の神と取引したとされるスヴェート皇帝も、正常を保てているのかどうか気になってくる。
おそらく、一番長く感情の神と接しているんだろうし。スヴェート皇女よりも悪い状態になっていてもおかしくない。
三番目はどうなるんだろう。
三番目とは意見が合わないけど、同種のひとりだ。
デュク様を裏切った嫌なやつでもあるけど、だからと言って冷たく突き放せないものがある。
「まさか、三番目も同じように、自我がなくなるの?」
「さぁ、どうだろうな」
そう言って、テラは悲しそうな目をするだけだった。
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