精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

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5 出張旅行編

5-8

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 テラが暴露した裏情報を総師団長が処理できずに固まっている間、テラは他のことも教えてくれた。

 名もなき混乱と感情の神を倒すときに、破壊の赤種を摂理の神エルムが手助けしたこと。

 破壊の赤種は神が宿った人間の身体だけでなく、思念の核まで破壊したこと。砕け散った核が混沌の樹林となり、霧散した思念が赤の樹林、黒の樹林となったこと。

 最大の赤の樹林の近くに大神殿を作ったのではなく、大神殿の近くに、後から赤の樹林ができたこと。どんどん大きくなり大神殿を飲み込もうとしたので、大神殿が監視していたこと。

 そして、おそらく、赤の樹林で三番目が感情の神に目を付けられたんじゃないか、という推測まで。

 テラはポツッ、ポツッと話してくれた。

「三番目は、大神殿のそばの赤の樹林に、ずっと潜んでいたんだっけ」

「あぁ。黒猫に姿を変えて、ずっとあそこにいた。大神殿からも街からも近いし、気楽で良いからってな」

 赤種の三番目は表舞台には出てこない存在。隠れて生きていくしかなかったんだろう、一人寂しく。

 確か、デュク様も言っていた。
 赤種は皆、一人。だから寂しいと。

「僕もデュク様も、三番目は権能に従って行動していると思っていたんだ」

 確かに、テラは以前そう言っていた。
 三番目は、私を使って世界を『変化』させようとしていると。

「でも、何かおかしい。何か引っかかる。だから、三番目に関わるなと忠告していたんだよ」

「分かっているなら、詳しく説明してくれれば良かったのに」

「ハッキリ分かったのは、ベルンドゥアンやグランミストとの話し合いの時だ。あの時、デュク様たちが直接、三番目を視たんだよ」

 大神殿でジンクレストたちと顔を合わせたあの時のことか。

 途中で、三番目が乱入し、皆にネージュの最期を見せ、そしてその後…………

「あー、猫パンチ!」

 移動した始まりの三神の神殿で、猫の姿をしたデュク様たちが、人間の姿に戻った三番目をよってたかって殴りまくったんだ!

「浄化だ、浄化!」

「えー?!」

 あれ、猫パンチだよ?

 訝しがる私の思考を読んだかのように、慌てて、説明を始めるテラ。

「まず、前脚の先に神気を溜めるんだ。その状態で混沌の気を叩く。
 すると、神気と混沌の気がぶつかり合い、互いに消滅する。
 そうやって浄化するんだよ!」

 見た目、まんま、猫パンチだったけど?

「で、それでも浄化できなかったってことになるよね?」

「今回の様子を見ると、そのようだ」

 テラは深くため息をついた。




「それで、赤種の三番目はいいとして、開発者はどこで感情の神に目をつけられたんだ?」

「ああ、それは僕の方から説明するよ」

 ラウが重要な問題を口にした。
 散々、『接点がない』とされていた部分だ。

「そもそも、前提として考えていたことが違っていたから『接点がない』と思い込んでいた。
 前提が崩れれば非常に単純な話だよ」

 塔長がテラに代わって話を始める。

「第二塔や第三塔は、魔獣研究や魔導具の実験で赤の樹林を使う。もちろん、大神殿そばのあの樹林だ。ナルフェブルたちが良い例だろ?」

「そうだったな」

「メダル開発者も、何度も赤の樹林で魔導具の発動実験を行っている。おそらく、その時に目をつけられたんだろう」

 三番目と同じように。
 塔長の目はそう語っていた。

「実は、赤の樹林での最初の魔物事件。あの前日にも実験で訪れていて、その後、第三塔を辞めている」

「しかし、どうしてあの開発者だけ目をつけられたんだ?」

「三番目も開発者も、心に押し込めた強い感情があった。相手は感情の神だ。おそらく、そこにつけ込んだんだな」

 ラウのさらなる質問にテラが答え、塔長が補足する。

「離反した元第四師団の連中も、鬱屈した強い感情を持っている人間ばかりだったから。師匠の読みは当たりだろう」

 テラも塔長も、手探りの状況でしっかり調査はしていたんだよね。

 でも、確証がない。しかも容疑がかかっている開発者は王族関係。難しい状況だったと思う。

 ところが、今回のレストス旅行の報告書で、さらに確たる情報が増え、彼らの推論を確定づけることになったと。

 だから、しつこく、報告書報告書と急かされていたのか。

「ちょっと待ってくれ。それなら大神殿の赤の樹林に出入りしているやつは、全員、怪しいってことにならないか?」

 ようやく硬直から復活した総師団長から、質問が飛んだ。

 塔長はそれを事も無げにかわす。

「そう思って、第一塔から第四塔までの人間はすべて精査済みだ」

「第六師団も精査が入ったな」

「第五師団と第七師団も精査されたが、あれか。二度目の魔物事件で、あの樹林に入ったからか」

 ラウと金竜さんも同時に声を上げる。どうやら、塔長はかなり念入りに事を運んだらしい。

 ラウたちの話を聞いて、総師団長がガタッと大きな音を立てて、立ち上がった。

「待て待て待て待て! 本部に報告があがってないぞ!」

「内部調査にまで報告義務はない」

 塔長、本部にまでナイショで調査していたとは…………。
 切り捨てるような物言いに、総師団長がガックリとうなだれた。




「ところで、スヴェート側も同じように赤の樹林で目をつけられたの?」

 私は気になっていたことを質問した。

 スヴェート皇帝や皇女も、おそらく、感情の神の影響下にあるだろうから。
 三番目と同じような経緯なのかと思って聞いてみたのだ。

 テラや塔長の様子だと、前々から、探っていた節があるし。

 すると、テラと塔長が口をそろえて、私の疑問を否定した。

「そっちはこっちと事情が異なる」

「クロエル補佐官、スヴェート側の発端は十年前のクーデターなんだよ」

「意味を理解したくないんだけど」

 否定したどころか、もっと怖い情報をぶち込んできた。

「現スヴェート皇帝が、皇位を得ようとして、感情の神と取引したんだ」

「圧政に苦しむ国民を救うために、前皇帝を倒した正義の英雄、だったんじゃなかったの?」

 思わず口にして、それから、あっと思った。

「表向きはそういうことになっている」

「正義の英雄が、名もなき混乱と感情の神の力を使った禁忌魔法に手を染めるかよ」

 よく考えなくても、テラや塔長の話の方がしっくりくる。

「えー。世の中の情報っていろいろ間違ってるんだ」

 私はちょっと悲しくなった。

「けっきょくのところ、スヴェート皇帝も皇女も、三番目も開発者も、狙いは君だよ、四番目」

「全員が、直接だったり、間接的にだったりしてるが、感情の神と繋がっている」

「「だから、くれぐれも気をつけるんだ!」」

 テラと塔長の言葉がそろう。息ピッタリ。まるで双子のよう。

「大丈夫だ、フィアのすべては俺が守る」

「大丈夫だ、黒竜がいれば心配ない」

 上位竜種の二人は二人でやっぱり息ピッタリ。

「黒竜がいても気は抜くな、油断するな」

「そのくらい厄介な相手だってことだよ」

 話から閉め出されている総師団長以外の四人が、力強く頷きあった。

 うん、ラウがいれば、私も安心。

 ラウと離されたときは心細かったけど。いざという時は奥の手がある。

 安心して気がゆるんだのか、ふと、疑問に思ったことが口からこぼれた。

「ところで、なんで、私を狙うの?」

「「そこからか?!」」

 ラウまで愕然とした表情で私を見る。

 この場で、深刻さをまったく理解していなかったのは、どうやら私だけのようだった。
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