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5 出張旅行編
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「報告書を作れ?」
私はムシャクシャしていた。
だから、ついつい声を荒げてしまったのだ。これについては私が悪いのではない。
「当然だろう。直接、開発者と接したのは君なんだから」
平然と私に仕事を押し付ける、塔長が悪いんだと思う、絶対。
レストスから帰ってきて次の日。
当然ながら、第六師団の仕事がたまっていて、私もラウも忙しかった。
当然ながら、第一塔で勤務している場合ではないほどの忙しさなので、第六師団勤務のはずだった。
なのに、出勤してすぐ、私は第一塔の塔長室…………の真下にある例の部屋に呼び出されていたのだ。
この部屋は、テラと塔長の秘密の場所。
遮蔽魔法完備で超級隠密も入れないため、本来なら重要な話し合いで使われるような部屋なんだけど。
残念な二人は、お菓子を食べ散らかすことにしか使っていない。
そんな部屋で、私はテーブルを挟んでテラと塔長の二人と相対していた。
もちろん、いつものようにテーブルには山積みのお菓子。そのお菓子に混じって、私が買ってきたレストス名物のドライフルーツもある。
レストスで食べた削り氷に乗っかっていた、あのフルーツを乾燥させたもの。
生のフルーツも、とろけるような甘さとちょっとの酸っぱさが絶妙で、とっても美味しかったんだよね。
あれを分厚くスライスして乾燥させたものは、これまた、甘味と酸味が濃縮されていて、生では味わえないような奥深さがあって。
これはこれで美味しくてしょうがない。
レストス土産、何を買って帰ろうかとだいぶ悩んだけど、いい買い物ができたと思う。
テラなんて、さっきから、ドライフルーツにかじりついたまま。食べるのに忙しすぎて無言だし。
て。話がそれた。
今、重要なのはドライフルーツではなく、報告書。
そもそも、私だけが関わった訳じゃないのに。なんで、私にだけ仕事を押しつけるのかな。
そう思いながら、ドライフルーツをしつこくかじるテラを見る。
「テラも視てたよね」
「間接的にな」
「ユクレーナさんも見てたよね」
「中心は君だろ。フィールズ補佐官は同行しただけだ」
ああ言えば、こう言う。
まぁ、塔長に口で勝てるとは最初から思ってない。
「それで、報告書を作れ?」
「当然だろう」
だから、黙り込んだ。
何か言っても言い返されるので、ムシャクシャが募るだけだから。
それでも、ゴチャゴチャ言ってくるのは塔長だけだから、まだ、マシな方ではある。
そんな私の行動は、ムッとした顔をして塔長を睨みつけてると、受け取られたようだ。
「納得がいかないって顔をしてるな」
「だって、仕事で行ったわけじゃないのに」
「それでも最重要事項だ」
私はさらに黙り込んだ。
そして、思いついた。
塔長に文句を言っても返されるなら、別の人に言えばいい。
「なら、抗議してくる」
「誰に?」
「国王」
「は?」
旅行をプレゼントしてくれたのは国王だ。そういう約束だったんだから。
それなのに。これでは仕事。話が違う。
「建物、何個か壊せば、『報告書を作らなくていいよ』って言ってくれるはず」
脅しではない。これは立派な交渉だ。
「そんなはずないだろ。バカなこと言ってないで、仕事しろ」
「なら、言ってくれるまで壊す」
もう一度言う。これは立派な交渉だ。
「はぁ?」
「まずは実験場からね」
手のひらでテーブルの表面を撫でると、魔法陣が現れた。
集中して魔力を練り込むと、魔法陣はキラキラとした光を放って、一回り大きく広がる。
「《複製の視覚化》」
力のある言葉を口にすると、魔法陣がさらに光を放ち、建物や木々を形どった。
そう。これは模型だ。
王城、行政部、軍部、研究部の建物を忠実に再現している。
しかも、再現しているだけではない。
テラも塔長も、興味深そうに、テーブルの上の光の模型を眺めていた。
私はその中から、研究部の第三塔にある実験場に指を当てる。
そして、そのまま指をぐっと押し付け、模型の実験場を押し潰した。
ドゴォォォォォォン
遠くから、何かが壊れるようなかすかな音が聞こえ、部屋が大きく揺れる。
この部屋は防音もバッチリ、外の音なんて聞こえないはずなのに。派手に壊しすぎたようだ。
「今、何した?」
「実験場を壊した」
さっき壊すって言ったよね。
「「はぁぁぁぁぁぁぁ?!」」
「何してるんだよ、四番目!」
さすがに慌てたのか、テラがドライフルーツをかじるのを止めた。手には持ったままだけど。
壊すって言ってから壊してるのに、何、その反応。
「待て待て待て待て待て。いったい、どうやったら今ので壊れるんだ?」
テーブル上の模型と私とを交互に見る塔長。
この模型、ただの複製ではない。見た目が同じだけでもない。本物を忠実に再現しているのだ。
だから、模型が壊れると本物も壊れる。そういう仕組みだ。
これを応用させるともっと凄いこともできるけど、丁寧に解説する義理はない。
「おい、舎弟! 重要なのはそこじゃない!」
「いや、だってな、師匠」
興味津々の塔長を怒鳴りつけるテラ。
テラの権能は創造と維持。世界の平穏無事を守るのがテラの役割でもある。無差別な破壊の力を目の当たりにして、テラのスイッチが入った。
「だってじゃないぞ! 黒竜を呼んでこい! 黒竜を!」
こうして、夫が呼び出された。
私はムシャクシャしていた。
だから、ついつい声を荒げてしまったのだ。これについては私が悪いのではない。
「当然だろう。直接、開発者と接したのは君なんだから」
平然と私に仕事を押し付ける、塔長が悪いんだと思う、絶対。
レストスから帰ってきて次の日。
当然ながら、第六師団の仕事がたまっていて、私もラウも忙しかった。
当然ながら、第一塔で勤務している場合ではないほどの忙しさなので、第六師団勤務のはずだった。
なのに、出勤してすぐ、私は第一塔の塔長室…………の真下にある例の部屋に呼び出されていたのだ。
この部屋は、テラと塔長の秘密の場所。
遮蔽魔法完備で超級隠密も入れないため、本来なら重要な話し合いで使われるような部屋なんだけど。
残念な二人は、お菓子を食べ散らかすことにしか使っていない。
そんな部屋で、私はテーブルを挟んでテラと塔長の二人と相対していた。
もちろん、いつものようにテーブルには山積みのお菓子。そのお菓子に混じって、私が買ってきたレストス名物のドライフルーツもある。
レストスで食べた削り氷に乗っかっていた、あのフルーツを乾燥させたもの。
生のフルーツも、とろけるような甘さとちょっとの酸っぱさが絶妙で、とっても美味しかったんだよね。
あれを分厚くスライスして乾燥させたものは、これまた、甘味と酸味が濃縮されていて、生では味わえないような奥深さがあって。
これはこれで美味しくてしょうがない。
レストス土産、何を買って帰ろうかとだいぶ悩んだけど、いい買い物ができたと思う。
テラなんて、さっきから、ドライフルーツにかじりついたまま。食べるのに忙しすぎて無言だし。
て。話がそれた。
今、重要なのはドライフルーツではなく、報告書。
そもそも、私だけが関わった訳じゃないのに。なんで、私にだけ仕事を押しつけるのかな。
そう思いながら、ドライフルーツをしつこくかじるテラを見る。
「テラも視てたよね」
「間接的にな」
「ユクレーナさんも見てたよね」
「中心は君だろ。フィールズ補佐官は同行しただけだ」
ああ言えば、こう言う。
まぁ、塔長に口で勝てるとは最初から思ってない。
「それで、報告書を作れ?」
「当然だろう」
だから、黙り込んだ。
何か言っても言い返されるので、ムシャクシャが募るだけだから。
それでも、ゴチャゴチャ言ってくるのは塔長だけだから、まだ、マシな方ではある。
そんな私の行動は、ムッとした顔をして塔長を睨みつけてると、受け取られたようだ。
「納得がいかないって顔をしてるな」
「だって、仕事で行ったわけじゃないのに」
「それでも最重要事項だ」
私はさらに黙り込んだ。
そして、思いついた。
塔長に文句を言っても返されるなら、別の人に言えばいい。
「なら、抗議してくる」
「誰に?」
「国王」
「は?」
旅行をプレゼントしてくれたのは国王だ。そういう約束だったんだから。
それなのに。これでは仕事。話が違う。
「建物、何個か壊せば、『報告書を作らなくていいよ』って言ってくれるはず」
脅しではない。これは立派な交渉だ。
「そんなはずないだろ。バカなこと言ってないで、仕事しろ」
「なら、言ってくれるまで壊す」
もう一度言う。これは立派な交渉だ。
「はぁ?」
「まずは実験場からね」
手のひらでテーブルの表面を撫でると、魔法陣が現れた。
集中して魔力を練り込むと、魔法陣はキラキラとした光を放って、一回り大きく広がる。
「《複製の視覚化》」
力のある言葉を口にすると、魔法陣がさらに光を放ち、建物や木々を形どった。
そう。これは模型だ。
王城、行政部、軍部、研究部の建物を忠実に再現している。
しかも、再現しているだけではない。
テラも塔長も、興味深そうに、テーブルの上の光の模型を眺めていた。
私はその中から、研究部の第三塔にある実験場に指を当てる。
そして、そのまま指をぐっと押し付け、模型の実験場を押し潰した。
ドゴォォォォォォン
遠くから、何かが壊れるようなかすかな音が聞こえ、部屋が大きく揺れる。
この部屋は防音もバッチリ、外の音なんて聞こえないはずなのに。派手に壊しすぎたようだ。
「今、何した?」
「実験場を壊した」
さっき壊すって言ったよね。
「「はぁぁぁぁぁぁぁ?!」」
「何してるんだよ、四番目!」
さすがに慌てたのか、テラがドライフルーツをかじるのを止めた。手には持ったままだけど。
壊すって言ってから壊してるのに、何、その反応。
「待て待て待て待て待て。いったい、どうやったら今ので壊れるんだ?」
テーブル上の模型と私とを交互に見る塔長。
この模型、ただの複製ではない。見た目が同じだけでもない。本物を忠実に再現しているのだ。
だから、模型が壊れると本物も壊れる。そういう仕組みだ。
これを応用させるともっと凄いこともできるけど、丁寧に解説する義理はない。
「おい、舎弟! 重要なのはそこじゃない!」
「いや、だってな、師匠」
興味津々の塔長を怒鳴りつけるテラ。
テラの権能は創造と維持。世界の平穏無事を守るのがテラの役割でもある。無差別な破壊の力を目の当たりにして、テラのスイッチが入った。
「だってじゃないぞ! 黒竜を呼んでこい! 黒竜を!」
こうして、夫が呼び出された。
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