精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

文字の大きさ
上 下
267 / 384
5 出張旅行編

5-5

しおりを挟む
「報告書を作れ?」

 私はムシャクシャしていた。

 だから、ついつい声を荒げてしまったのだ。これについては私が悪いのではない。

「当然だろう。直接、開発者と接したのは君なんだから」

 平然と私に仕事を押し付ける、塔長が悪いんだと思う、絶対。




 レストスから帰ってきて次の日。

 当然ながら、第六師団の仕事がたまっていて、私もラウも忙しかった。

 当然ながら、第一塔で勤務している場合ではないほどの忙しさなので、第六師団勤務のはずだった。

 なのに、出勤してすぐ、私は第一塔の塔長室…………の真下にある例の部屋に呼び出されていたのだ。

 この部屋は、テラと塔長の秘密の場所。

 遮蔽魔法完備で超級隠密も入れないため、本来なら重要な話し合いで使われるような部屋なんだけど。
 残念な二人は、お菓子を食べ散らかすことにしか使っていない。

 そんな部屋で、私はテーブルを挟んでテラと塔長の二人と相対していた。

 もちろん、いつものようにテーブルには山積みのお菓子。そのお菓子に混じって、私が買ってきたレストス名物のドライフルーツもある。

 レストスで食べた削り氷に乗っかっていた、あのフルーツを乾燥させたもの。
 生のフルーツも、とろけるような甘さとちょっとの酸っぱさが絶妙で、とっても美味しかったんだよね。
 あれを分厚くスライスして乾燥させたものは、これまた、甘味と酸味が濃縮されていて、生では味わえないような奥深さがあって。

 これはこれで美味しくてしょうがない。

 レストス土産、何を買って帰ろうかとだいぶ悩んだけど、いい買い物ができたと思う。

 テラなんて、さっきから、ドライフルーツにかじりついたまま。食べるのに忙しすぎて無言だし。

 て。話がそれた。

 今、重要なのはドライフルーツではなく、報告書。

 そもそも、私だけが関わった訳じゃないのに。なんで、私にだけ仕事を押しつけるのかな。

 そう思いながら、ドライフルーツをしつこくかじるテラを見る。

「テラも視てたよね」

「間接的にな」

「ユクレーナさんも見てたよね」

「中心は君だろ。フィールズ補佐官は同行しただけだ」

 ああ言えば、こう言う。

 まぁ、塔長に口で勝てるとは最初から思ってない。

「それで、報告書を作れ?」

「当然だろう」

 だから、黙り込んだ。

 何か言っても言い返されるので、ムシャクシャが募るだけだから。
 それでも、ゴチャゴチャ言ってくるのは塔長だけだから、まだ、マシな方ではある。

 そんな私の行動は、ムッとした顔をして塔長を睨みつけてると、受け取られたようだ。

「納得がいかないって顔をしてるな」

「だって、仕事で行ったわけじゃないのに」

「それでも最重要事項だ」

 私はさらに黙り込んだ。

 そして、思いついた。

 塔長に文句を言っても返されるなら、別の人に言えばいい。

「なら、抗議してくる」

「誰に?」

「国王」

「は?」

 旅行をプレゼントしてくれたのは国王だ。そういう約束だったんだから。

 それなのに。これでは仕事。話が違う。

「建物、何個か壊せば、『報告書を作らなくていいよ』って言ってくれるはず」

 脅しではない。これは立派な交渉だ。

「そんなはずないだろ。バカなこと言ってないで、仕事しろ」

「なら、言ってくれるまで壊す」

 もう一度言う。これは立派な交渉だ。

「はぁ?」

「まずは実験場からね」

 手のひらでテーブルの表面を撫でると、魔法陣が現れた。

 集中して魔力を練り込むと、魔法陣はキラキラとした光を放って、一回り大きく広がる。

「《複製の視覚化》」

 力のある言葉を口にすると、魔法陣がさらに光を放ち、建物や木々を形どった。

 そう。これは模型だ。

 王城、行政部、軍部、研究部の建物を忠実に再現している。

 しかも、再現しているだけではない。

 テラも塔長も、興味深そうに、テーブルの上の光の模型を眺めていた。

 私はその中から、研究部の第三塔にある実験場に指を当てる。
 そして、そのまま指をぐっと押し付け、模型の実験場を押し潰した。

 ドゴォォォォォォン

 遠くから、何かが壊れるようなかすかな音が聞こえ、部屋が大きく揺れる。

 この部屋は防音もバッチリ、外の音なんて聞こえないはずなのに。派手に壊しすぎたようだ。

「今、何した?」

「実験場を壊した」

 さっき壊すって言ったよね。

「「はぁぁぁぁぁぁぁ?!」」

「何してるんだよ、四番目!」

 さすがに慌てたのか、テラがドライフルーツをかじるのを止めた。手には持ったままだけど。

 壊すって言ってから壊してるのに、何、その反応。

「待て待て待て待て待て。いったい、どうやったら今ので壊れるんだ?」

 テーブル上の模型と私とを交互に見る塔長。

 この模型、ただの複製ではない。見た目が同じだけでもない。本物を忠実に再現しているのだ。
 だから、模型が壊れると本物も壊れる。そういう仕組みだ。

 これを応用させるともっと凄いこともできるけど、丁寧に解説する義理はない。

「おい、舎弟! 重要なのはそこじゃない!」

「いや、だってな、師匠」

 興味津々の塔長を怒鳴りつけるテラ。

 テラの権能は創造と維持。世界の平穏無事を守るのがテラの役割でもある。無差別な破壊の力を目の当たりにして、テラのスイッチが入った。

「だってじゃないぞ! 黒竜を呼んでこい! 黒竜を!」

 こうして、夫が呼び出された。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

王命での結婚がうまくいかなかったので公妾になりました。

しゃーりん
恋愛
婚約解消したばかりのルクレツィアに王命での結婚が舞い込んだ。 相手は10歳年上の公爵ユーグンド。 昔の恋人を探し求める公爵は有名で、国王陛下が公爵家の跡継ぎを危惧して王命を出したのだ。 しかし、公爵はルクレツィアと結婚しても興味の欠片も示さなかった。 それどころか、子供は養子をとる。邪魔をしなければ自由だと言う。 実家の跡継ぎも必要なルクレツィアは子供を産みたかった。 国王陛下に王命の取り消しをお願いすると三年後になると言われた。 無駄な三年を過ごしたくないルクレツィアは国王陛下に提案された公妾になって子供を産み、三年後に離婚するという計画に乗ったお話です。  

【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。

112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。  ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。  ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。 ※完結しました。ありがとうございました。

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜
恋愛
 王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。 そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。  ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。  その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。  しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。

112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。 エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。 庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

処理中です...