精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

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5 出張旅行編

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「美味しいね、ラウ」

「そうだな、フィア」

 旅行三日目の夜は、いろいろあったおかげで、フィアと二人だけの食事となった。

 今、俺たちがいるのは、レストス市街に軒を連ねる小皿料理屋のひとつ。

 十人も入ればいっぱいになりそうな狭い店舗。厨房は丸見えで、ムスッとした店主がひとりで切り盛りしている。
 店主の奥さんが明るい声をあげながら、注文を取ったり料理を運んだり。

 お世辞にもキレイとはいいがたいテーブルにつき、俺とフィアはゆっくりと食事を楽しんでいた。

 この街は、辛牛亭のような大きなレストランもあれば、屋台のような席もない飯屋もある。今いる店のような規模が主流だろう。

「さぁさぁ、遠慮せず、どんどん食べてくれ」

 ムスッとした顔の店主は、意外にも優しい声で気遣ってくれた。とくにフィアのことを労るような目で見つめながら。

「おじさん、ありがとう」

「店主、助かったよ」




 辛牛亭の中でも外でもいろいろとあった後、俺たちは、周りにいた観光客やら通行人やらの好奇な視線を受けた。

 だが、悪いものばかりではなかった。

 気の毒に思ったのか、地元民がよく食べに行く、とっておきの店とやらを教えてくれたやつがいた。

 いろいろ気にせず、飲み食いできるから行ってみろ、と他の何人かの人間も声をかけてくれる。

 フィールズ補佐官には悪いが、あの両親とは違った種類の人間もいるようで、ホッとした。

 そしてたどり着いたのがこの店だ。

「いい体格してるんだから、遠慮なんてするなよ」

 店についたときは満員だったこの店。

 この店に限らず、大きなレストランは予約でいっぱい。小さな店も込み合っているところばかりの時間帯だ。

 少し待つか持ち帰りかと思っていたのに。

「困ったときにはお互い様だ。しかし、まったく酷いやつもいたものだなぁ」

「新婚さんなのにねぇ。まったく!」

 店を紹介してくれたやつか、周りで見ていたやつかが、辛牛亭での騒動を伝えてくれていたらしい。

 すんなりと中に通され、席も二人分、用意してくれたのだ。

 おかげで、フィアもご機嫌だし、ムカつく護衛もいないし、俺もうまい酒を飲めて気分がいい。

 人情味が溢れまくっているせいか、二人きりの世界には浸れないが、まぁ、それも旅の醍醐味だろう。

 そうこうしている間にも、周りは勝手に盛り上がっていた。

「確かに精霊魔法が使えると便利だけど。ただ、それだけだろ?」

「ここはなぁ、半分以上の人間が精霊魔法を使えないんだよ」

 なんだと?! エルメンティアの平均より率が高くないか? 地理的なことも影響してるのか?
 同じエルメンティアの端でも、南の方は変わりなかったと思ったが……。

「え?!」

 フィアは俺以上にびっくりしたようで、驚きの声をあげる。かわいい。

「辛牛亭の人の話だと、精霊魔法技能がないとちゃんとした仕事に就けないとか、昔からの住人は良い印象持ってないとか」

「あぁ、それな」

「言い方に悪意あるよな」

 店主も他の客も大きな声で笑い出した。
 ひとしきり笑った後は、全員、神妙な顔になる。
 そして、ぽつりとひとりが話し始めた。

「昔、この辺りは遺跡があるだけで、産業なんて何もなかったからな。精霊魔法技能がないと生活していけなかったんだよ」

「ちゃんとして仕事に就けないわけじゃない。仕事そのものがなかった。だから、ここを捨てて他に行くしかなくてな」

「ここで仕事があるやつも余裕はないから、引き留めることもできなくてさ。お互い気まずかったんだ」

「そうそう。大変な時代だったよな」

 俺もフィアも、店主たちの話を静かに聞いていた。

 精霊魔法技能がなくて、家門から追い出される。

 王都では未だに珍しい話ではない。理解のある家門もいなくはないが、直系となると扱いがとたんに厳しくなる。

 フィアの元家族、グランフレイムもグランミストもそうだったよな。

 気になって、俺はフィアの頭をそっと撫でた。フィアがこれ以上、気に病むことがないよう、祈りを込めて。

「でも今は、観光やフルーツ栽培など産業が増え、精霊魔法技能がなくてもできる仕事がたくさんある」

 店主たちの話はまだまだ続いた。

「それに、スヴェート側からも人が入ってくるようになったから、精霊魔法を使えない人間が増えたんだよ」

「つまり、今もなお、レストスで精霊魔法技能にこだわるのは時代遅れってわけだ」

「まぁ、とるに足らないプライドとか見栄ってやつ? その程度だよ」

 神妙な顔で静かに語っていたやつらが、ガハガハ笑い出した。

「新婚なんだろ? もっと気分良くならないとな!」

「そうそう! 時代遅れの話なんて、気にするなよな!」

 人情味の洪水はまだまだ止まりそうもなかったが、俺はしばらく浸り続けることにした。

 嬉しそうに笑うフィアの横顔を眺められる上、うまい料理と酒がある。

 こうして、夜は更けていった。
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