精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

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5 出張旅行編

3-6

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 遺跡の中はシンプルだった。

 昨日訪れた西の遺跡と造りは同じ様で、私たちは迷うこともなく、あっという間に中心部にたどり着いた。

 西の遺跡はここで終わりだったけど、東の遺跡はここから細い通路がさらにさらに延びている。

 季節は六月だというのに、湿った空気がヒンヤリして肌寒い。

 そもそも遺跡は山の中腹あたりにあるので、初秋くらいの季節感。それを見越して上着も用意したのに、それでも少しヒヤッとする。

「右と左、分かれていますね。どちらに向かいます?」

 これまで通路は一本だけだったのに。
 ここにきて、分かれ道が現れた。

 目標は三番目と開発者だとはいえ、こっちは探す目印もない。まずはラウが感じとった、狂った精霊王をどうにかしないと。

「ラウ、精霊王はどっちなのか分かる?」

「方向的には真っ直ぐだな」

 ラウは右でも左でもなく、壁を指でとんとんと叩く。

 なるほど。

「なら、この壁、ぶち抜く?」

 真っ直ぐなら、ぶち抜けば最短距離。

 壁に手を当てて、ぶち抜く場所を吟味していると、私の肩に手が押かれた。

「さすがにそれは止めた方がいいな。遺跡全体が崩れるとマズい」

 えー

 ここをぶち抜くくらい、さくっと終わるのに。

「不満げなフィアもかわいい」

 うん、私の夫、また変なスイッチが入ったな。
 こんな遺跡の中で、私の顔をキラキラした目で見られても困るんだよな。

「クロスフィア様、師団長は放っておきましょうか」

 ジンクレストがラウの手をパシッと叩いて、私を引き剥がす。

「ここは二手に分かれて探索した方がよさそうですね」

 そして流れるようにスルッとラウと私の間に入り込み、次の行動提案までするジンクレスト。

 こうなるとラウが黙ってはいない。

 通常のラウももちろん黙っていないけど、今は何か変なスイッチが入ったラウだ。

 いち早く事態を察して、ユクレーナさんは、はぁーと息を吐く。その上、こめかみを指でぐりぐりし始めた。

「おい、まさかとは思うが、お前がフィアと組むとか言わないよな」

「私はクロスフィア様の専属護衛です。私がクロスフィア様と組むのは当然でしょう」

「これは俺とフィアのイチャイチャ新婚旅行だぞ。フィアの夫である俺が組むのが当然だろう」

「お二人とも落ち着いてください!」

 ぐりぐり継続中のユクレーナさんが、いつもより大きな声で割って入る。

 ここで下手に私が入ると大惨事になりかねないため、私は傍観するのが得策だった。
 ただ傍観しているのでは暇なので、三人が話し合っている隙を見て、私はごそごそと荷物からあるものを取り出す。

「これが落ち着いていられるか!」

「こんなに短気では、クロスフィア様をお任せするのが心配でなりません」

「だから、お前がついていくって言うのかよ」

「それが何か?」

 どんどん加熱する話し合いを横目に、私は手元を覗き込む。

 ラウとジンクレスト、一触即発の状況で、ユクレーナさんが私に助けを求めてきた。

「クロスフィアさん、師団長が暴れ出しそうなんですが」

「まぁとりあえず、皆で右に行けばいいんじゃない?」

 手元を覗き込みながら、私は答えた。
 別に二手に分かれる必要はない。

「って、何を見てらっしるんです?」

「ルミ印のガイドブック」

 そう。私が荷物から取り出したものというのは、ルミアーナさん特製のガイドブックだった。

 これを一晩でまとめたなんて、ルミアーナさんて凄すぎるよね。

「「?」」

 私はガイドブックを三人にバンと提示する。

 三人とも何がなんだか分かっていなさそうな様子。ほけっとした顔で、ガイドブックと私を交互に見ている。

 侮るなかれ。

 ルミ印はそんじょそこらの観光ガイドではない。私も今更ながら凄さを実感している。

 だって。

「これ、遺跡の地図も載ってるんだよね」

 そう、地図付き! しかも詳細な!

 ガイドブックに地図が付いているのは知っていたけど、まさか遺跡内部の地図までついているとは思わなかった。

 いったいどうやって情報を集めているんだろう。深くは考えないでおこうかな。

「ええ?!」

「本当ですか?!」

「あってるのか、それ?!」

 やっぱり驚くよね。
 私も最初見たときはびっくりしたもの。

「うん。ここに来るまでのものは、かなり正確だったよ」

「マジか、ルミ印」

 愕然とするラウ。

「この地図を見ると、右の道がこの壁の向こう側に繋がるってるみたいだから」

 皆で地図を覗き込んだ。

「まぁ、この先の情報まで正しいかは分からないけど」

「そうだな。大地の精霊王が暴れているから、影響を受けて道が変わってるかもしれないしな」

「それでも地図があれば心強いですね」

 皆で頷く。

「では、移動しましょうか」

 こうして、私たちは右の通路を進み出した。




 歩くにつれて、大地の精霊力が徐々に力を増していくのを感じる。

 先頭はラウ。

 真ん中はユクレーナさんで、最後尾はジンクレストだ。

 私はラウに並んだり、ユクレーナさんに並んだりして、ちょこちょこ歩いている。

 精霊魔法技能がない私が、鑑定眼で感知できるほどなので、他の三人、とくに上位竜種のラウはかなり緊張しているのが見て取れた。

「ラウがあんなに緊張するなんて、珍しいよね」

「この先の精霊王は、それほど危険な状態なんでしょうか」

 私がユクレーナさんと並んだときに、こっそり話しかけると、ユクレーナさんも真剣な面持ちで返事が返ってくる。

 口には出さなかったけど、私もユクレーナさんと同じことを考えていた。

 チラチラとラウを見る。

 ラウの緊張はさらに高まっているように見えた。

 突然、ラウが立ち止まる。
 私はそのままラウの背中に抱きつくように、ぶつかった。

 ゴスン!

 凄い音。しかも後ろから。

「フィア、こっちに」

 ラウがくるっと振り返ると同時に、ふわりと私を持ち上げ立ち位置を交換した。

「ベルンドゥアン!」

「承知」

 ラウが声をかけたときには、すでに、ジンクレストの風と土の防御が展開されていた。

「チッ、前からの気配に集中し過ぎたか」

 ゴスン!

 またもや、もの凄い音がした。
 ジンクレストの防御が弾けて消える。

 そうだ。ここは赤の樹林と似たような状態だった。
 精霊力なんてほとんどないところで、ジンクレストはなんとか力をかき集め、防御を組み上げたんだろう。

「くっ」

 ジンクレストが顔を歪めた。

 精霊力が乏しいところであるほど、精霊騎士にとっては不利な場所になる。

 ゴスン!

 もの凄い音が近づいてくる。

「クロスフィアさん、精霊王です」

 ユクレーナさんの声が震えていた。

「どけ、ベルンドゥアン。俺が行く」

 ラウが私のそばを離れ、ジンクレストの横に移動する。

 ラウと入れ替わるように、ジンクレストが後ろに下がった、その瞬間。


 グラッ


 足元が大きく波打つように揺れた。

「わわ」

「キャァァァ」

 バランスを崩し、私にしがみつくユクレーナさん。

 そして。

「あ、亀裂」

 足元の通路に一本の亀裂を発見する私。

 んんん?

 私の足元に亀裂があるということは、まさか…………。

「フィア!」

「クロスフィア様!」
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