精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

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5 出張旅行編

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 案内された先は広々とした応接間だった。ようやく落ち着いて挨拶と自己紹介をかわす。

 金竜さんがリリーと呼んでいたくるくる金髪の女性は、金竜さんの伴侶で、名前はリリーレーネ・エレバウト・ベルンヴィントさん。
 もしかしなくても、ルミアーナ・エレバウトさんの親戚だそうだ。

 金竜さんは、バウンシル・ベルンヴィントという名前なので、愛称はシルシル。

 うん、金竜さんをどこからどう見ても、シルシルっていうかわいらしさはまったくない。




「こっちの状況はこんな感じだ」

 リリーレーネさんが淹れてくれたお茶を大事そうに飲みながら、金竜さんは、ラウに現況を説明していた。

 私たちは金竜さんとラウそっちのけで、リリーレーネさんにお菓子のお土産を渡したり、お茶を飲んだり、王都の話やこれから行くレストスの話をしたりして、盛り上がっている。

 ラウたちは完全に仕事の話で、私を囮に使う話にまで言及していた。

「それで、フィアを囮に使うつもりか」

「伴侶を道具のように使うことには、俺も反対だ。俺だってリリーをそんなことに巻き込みたくない」

 ラウと金竜さんの真剣な様子に、私たちもリリーレーネさんも話が止まる。

「だがな、黒竜。他に手立てがないんだ」

 一息ついて、金竜さんはまた話し始めた。

「変化の赤種と開発者が潜伏しているだけでも頭が痛いのに。開発者と接触するためか、スヴェートの人間が頻繁に出入りしている」

 はぁ。そりゃ、頭が痛くなる状況だね。

 中立エリアだから、非武装で旅行者を装えば楽に入れるとはいえ、そんな人たちばかりだなんて。

「スヴェート人だけか?」

「それが」

「歯切れが悪いな、金竜」

「元第四師団のやつらも混じっている」

 はぁ。

 私だけでなく、全員がため息をついた。

 念のためとばかりに、フィールズさんが金竜さんに質問をする。

「第七師団長。元第四師団員というと、武道大会で離反した方々でしょうか?」

「あぁ、間違いない」

「面倒だね、ラウ」

「あぁ、面倒で厄介だな」

 はぁ。せっかくの旅行なのに。

「加えてな」

「なんだよ、まだあるのかよ」

 後から後から聞いてない話が飛びだしてくるので、さすがに、ラウも嫌な顔をした。

「山の上の方の精霊力が乱れてるんだ」

 その土地の精霊力が乱れると、ろくなことが起きないらしい。
 天気が荒れたり、地震が起きたり。

 山の上の精霊力となると、いったい何が起きるんだろうか。

 と、ここまで考えて、ふと気になった。

「金竜さん、中立エリアには入ってないんだよね? なんで乱れが分かったの?」

「俺は顔が割れてるし、適当な理由がないから入れないが、他のやつは問題なく潜り込めてるぞ」

 他のやつって、第七師団の騎士とか?

 大柄な、いかにも騎士ですという見た目の人たちでさえ、私的な用事を装えば簡単に出入りできるのか。

 私は愕然とした。出入りの管理、緩くない?

「なら、私が囮しなくても良くない?」

「相手は変化の赤種だ。あのちっこいのほどではないにしろ、鑑定眼がある。なかなか動向を掴めないんだよ」

 そうだった。しかも、変化の赤種である三番目は姿を変える。

 いつもは猫だったけど、猫以外にも姿を変えられるはずだ。

「まぁ、第一塔の情報室も苦労しているようだからな」

 そうか、鑑定技能を持つ第一塔情報室の人でも、赤種相手には力不足ということか。

 私やテラなら問題なく見抜けるものね。

「とにかく、変化の赤種に開発者、スヴェートに元第四師団、そして乱れた精霊力。
 何かよからぬことが計画されていても不思議ではない」

「気を引き締めておいた方が良さそうだな」

 金竜さんの脅すような言葉を聞いて、ちょっとがっかりする。

「観光してればいいって言われたのに」

「フィアは観光を楽しめばいい。フィアを守るのは俺の仕事だから」

 がっかりする私を慰めるように、頼もしいことを言ってくれるラウ。
 なんだか、いつもよりさらに格好よく見えるのは気のせいじゃないかも。

「ラウが格好いい。すごく格好いい」

 両手を胸の前で握りしめ、感激する私に、ジンクレストやフィールズさんも声をかけてくれた。

「クロスフィア様、専属の護衛騎士もいますよ」

「クロエルさん、わたくしも微力ながら力添えいたしますので」

「うん、ありがとう。ジンクレスト卿、フィールズさん」

 ラウと二人だけのほうが良かったと思ってたけど、こういう複雑な状況になってくると、フィールズさんやジンクレストの力も頼りできると、とても心強い。

 頼りになる人物が増えると、おもしろくないのはラウだ。

「ちっ」

 舌打ちする音が聞こえた。

「ラウが一番だから、味方まで消さないでね。ダメだからね」

「大丈夫だ、フィア。殺るときは痕跡もすべて消して、うまく事故に見せかけるから」

「だから、ダメだって」

 ラウの暴走を止めるべく、ラウの手をがっちり握りしめると、ラウは嬉しそうに握り返してくる。

 そして私の手を握りしめたまま、金竜さんとの話は続けられた。
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