精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

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5 出張旅行編

2-0 山と名物と目論見と

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 私とラウを乗せた飛竜は、あっという間に赤の樹林も黒の樹林も飛び越えていった。

 上空から眺めるキレイな景色に気を取られている内に、気がつけば、中立エリアの手前、第七師団が常駐する北東の砦付近までやってきている。

 ラウの話では、中立エリアにあるレストスに行く前に、北東の砦に立ち寄る予定だとのこと。

 そこには第七師団長の金竜さんと、まだ会ったことのない金竜さんの奥さんがいる。

 今回は砦に一泊するため、奥さんにも会えるそうだ。
 私はラウの伴侶になってから日も浅いので、上位竜種に限らず、竜種の伴侶に会うのはこれが初めて。

 どんな奥さんに会えるのかと思って、私は今からワクワクしていた。

 ラウは子どもの頃、金竜さんにお世話になっていて、奥さんにも良くしてもらったと言っていたんだよね。

 金竜さんの奥さんを見て、自分の伴侶もこんな人なんだろうなと想像していたらしい。

 想像通りの伴侶が私だとことなので、私に似た感じの人なのかと聞いてみても、

「フィアが一番かわいい」

 としか言わない夫。

 あの金竜さんも自分の奥さんが一番かわいいって言うのかな? 想像がつかないけど。

 そうこうしている間に、私たちは北東の砦へとやってきて。
 そして、金竜さんの奥さんは想像を絶する凄い人であるのを、知ることになる。




「よく来たな、黒竜」

「金竜!」

 出迎えてくれたのは、ラウと同じくらいの体格で、ラウより少し年上な見た目の第七師団長だった。

 第七師団の副官さんや副師団長さんをはじめとした、騎士たちもずらりと並んでいる中を通って、建物の前まで歩く。

 第七師団の騎士は皆、大柄でがっちりした体格なので、ちょっとばかり圧を感じた。

 こんな大男だらけのところに、奥さん一人でいるのかな。

 ふと心配になった。

 私の心配をよそにして、ラウと金竜さんはがっちりと握手をかわした。

「黒竜、こっちに来るのは久しぶりだな」

「あぁ、奥さんは元気か?」

「俺の心配はないのかよ」

「奥さんが元気なら、金竜も元気だろ」

 笑い合い、お互いの肩を叩き合う二人。

 私以外の人に対して、ラウがこんなに明るく振る舞うことはない。
 ラウのお父さん、という年齢よりは少し若いけど、親子のような存在なんだろうなと思う。

「そうだけどな。まぁ、黒竜も元気そうでなによりだ」

「俺も奥さんがいるからな」

「今回はどういう顔ぶれだ?」

 ここでようやく、金竜さんがラウ以外に目を向けた。

 失礼だとか思ってはいけない。

 こういうのが竜種や赤種の振る舞い方なんだとテラも言っていたっけ。

 ラウが私たちを代表して、金竜さんに紹介する。

「俺の奥さんと、奥さんの同僚と、おまけだ」

「ラウ」

 紹介が雑すぎない?

 確かに、テラの紹介の仕方も、ラウと似たようなものだったけどね。

「黒竜の言う通りだ、間違ってないぞ。奥さんの周りにいる男は、おまけか虫のどっちかだからな」

「えええ」

 まさか、紹介の仕方もこういうものだったなんて。

「この辺りの考え方は、上位竜種の皆様、共通なんですね」

「ラウ、金竜さんから竜種の常識を叩き込まれたって、言ってたからね」

 フィールズさんは平然として当たり前のように受け入れていて、ジンクレストに至っては何の文句も口にしなかった。

「まぁ、立ち話もなんだから、向こうでいろいろ聞かせてくれ」

「あぁ、世話になる」

 金竜さんの案内で建物の中に入った。

 建物の外見は強固なものだったけど、中身も同じく頑強さを感じさせられる作りだった。

 華麗な装飾は何もなく、徹底的に無駄を省いた作り。窓一つ、廊下の幅一つ取っても、守りを考えて作られている。

 金竜さんが先頭を歩き、ラウが私の手を握りしめて、その後に続く。
 私とラウの後ろには、フィールズさんとジンクレストが並んで歩いていた。

「あの小さな黒竜が、奥さん捕獲して、こうして遊びに来てくれるなんてなぁ」

「おい、金竜。小さかったのは昔の話だろ」

 ときおり、振り返りもせずに、ラウに話しかける金竜さん。明るく応じるラウ。

「仲がよろしいんですね」

「金竜さんは、ラウの親代わりだったんだって」

「なるほど。それで教わった以外のことも似てるのですね」

「うん、そっくりだよね」

 そう。体格も似ているし、笑顔もなんとなく似ている。血のつながりはないはずなのに、親子みたいだ。

「で、黒竜。奥さんとは夜の方も頑張ってるのか?」

 え。

 ちょっと金竜さん、フィールズさんやジンクレストもいる前で、なんて話題を出してるのよ!

 思わず、声をあげそうになったその瞬間。

 ドグォォォォォォン

 横の扉がさっと開き、目にも留まらぬ早さで何かが金竜さんを跳ね飛ばして、もの凄い轟音があがる。

 ぽかんとしてマジマジと見ると、跳ね飛ばされた金竜さんは、開いた扉とは反対側の壁にめり込んでいた。

 キリッとした顔で金竜さんの前にすっくと立つ、小柄な女性。

「シルシル!」

 さっきの猛攻からは想像つかない、かわいらしい声でそう叫んだ。

「かわいらしいお嬢さんたちの前で、なんてことを口にしてるの!」

 さらに叫びながら、金竜さんを注意してくれるこの女性は、もしや、金竜さんの奥さん?

「いててて。だがな、リリー。夫婦生活の確認は大事だろう」

 ドグォォォォォォン

「だーかーらー! シルシルったら! お嬢さんたちの前でそーいうこと、口に出さないの!」

「いてててててて。だってな、リリーは心配じゃないのか? こいつ、デカくて厳ついし、どう見ても加減を知らんぞ?」

 グシャッ メシャッ

「シルシル! 黒竜に失礼でしょ!」

 確認したくても、声をかける隙がない。

 あんなかわいらしい腕や脚から、どうやったらあんな攻撃ができるんだろう?

 と不思議に思うくらいの猛攻を続けて、女性は金竜さんを叩き伏せている。

 仕方なく、私は握られた手を振って、ラウの気を引いた。

「ラウ」

「金竜のお相手様だ」

 やっぱり。

 小柄でくるくるとした金髪がかわいらしいその女性は、案の定、金竜さんの伴侶だった。

 だけど、ちょっと強すぎない?

 私も他人のことは言えないけど。
 でも、私は赤種だから強いとしても、金竜さんの奥さんは普通種のはず。

「強いね」

「竜種は強さを求めるからな」

「強さ?」

 そう言えば聞いたことがある。
 伴侶の強さは竜種の強さにも繋がると。
 なるほどね。

「強さと言ってもいろいろある。力の強さだったり心の強さだったり」

「ラウもそうなの?」

 ラウは私が強いから、最強の赤種だから伴侶に選んだのかな。
 だとしたら、ちょっと寂しいような悲しいような、そんな気がする。

 でも、ラウは、私の心情を裏切るように目を輝かせた。

「ああ! フードを被ってぽわんとした表情は最強だったぞ! 俺の心臓に大打撃を食らわすぐらいだったしな!」

「うん、最強の意味がよく分からないけど、そうなんだね」

 うん、ラウはラウだったね。

「はいはい。皆さん、こっちよ。シルシルの相手なんてしなくていーからねー!」

「リリー!」

「うん、踏まれてぐりぐりされて喜んでるところも、ラウにそっくり」

 先頭が金竜さんから金竜さんの奥さんに代わり、私たちは奥へと案内された。
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