精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

文字の大きさ
上 下
229 / 384
5 出張旅行編

1-7

しおりを挟む
 旅行先がレストスに決まると、付随する諸々の予定やら計画やらが一気に決まっていった。

 第六師団は基本的に、副師団長のミラマーさんとラウ付きの副官二人がいればどうにかなる。
 会議も訓練も書類関係も、この三人で問題ない。

 不在時の予定や、行動や判断指針をまとめて指示しておけばいいだけ。

 師団長判断が必要な案件や、師団長決裁が必要な書類は、できる限り終わらせる。

 どうしてもの場合は、伝達魔法で連絡も取れるし、なんなら書類のやり取りもできる。

 私とテラが組めば、鏡を介して会話も可能。会議も中継して参加できたりする。

 仕事ではないけど、半分仕事のような感じでの旅行となったため、関係するところからの協力体制が怖いくらい。

 いろいろ業務やなにやら一日で終わらせて、そして、翌日は通常のお休みの日。

 私はラウといっしょに、シュタム百貨店を訪れていた。




『旅行に必要なもの、揃えてくでしょー? シュタム百貨店なら半額でいいわよー』

 と、言ってくれたエルヴェスさん。

 エルヴェスさんはラウ付きの副官であると同時に、シュタムグループの会長夫人で、シュタムグループの物件のオーナーでもある。

「て、言われたんだけど。エルヴェスさんに」

 私は恐る恐る、案内の人にエルヴェスさんの言葉を告げた。

「オーナーより承っております」

 お腹の辺りで手を重ね、礼儀正しく、一礼する案内の人。

「あいつがオーナーで大丈夫か?」

「問題ございません」

 案内の人はまた一礼すると、ではこちらにどうぞと、どこかに連れて行かれる。

「で、どこに向かってるの?」

「特別室でございます」

「え、百貨店の中、見たかったのにな」

 百貨店の中をあちこち見ながら買い物するのかと思ってた。

「私、こういうところでお買い物するの、初めてだったのに」

「クロエル様と黒竜様がいらっしゃると、大変な事態になることが想定されます」

 私の言葉に、申しわけなさそうな顔をする案内の人。

「安全のためにも、どうかご理解ください」

「それなら仕方ないね」

 確かにシュタム劇場でも凄い人だった。
 別経路で出入りしてなかったら、大混乱になっていたかもしれない。

 残念だけど仕方ない。

 今度、人が少ない時を見計らって、こっそり来ればいいか。

「フィアは百貨店の店内で買い物したかったのか?」

「ラウはいつも買い物してるんでしょ?」

「買い物はしてるが、直接ここに来ることはあまりないぞ。来ても特別室だな」

「そうなんだ」

 そうだった。ラウも上位竜種。私と同じく普通種ではない。
 それに師団長という要職についていて忙しい。

 ラウも普通の人と同じ様なことはできていないんだ。

 と思って、ちょっと安心していたら、ラウから思いも寄らないことを提案された。

「今度、店内も見てみるか」

「え? いいの?」

 でも、大変な事態になるって言われたばかりだよね? 大丈夫なの?

 私の心の声が伝わったのか、

「大丈夫だ」

 と言ってラウはニッコリと笑う。

「貸し切るから」

「え? ええ?」

 まさかの貸切。私が思っていた店内での買い物とちょっと違う。いやいや、かなり違う。

「たまに、ございますよ」

「あるんだ」

 凄いな、お金持ち。

「で、今日は何を買いにきたの?」

「レストス観光に必要な物をと、承っております」

「あと、金竜のところに顔を出すから、手土産も見繕ってくれ。酒と菓子でいい」

「承知いたしました」

「それで買い物できるの?」

「ついていけば、分かるぞ」

 そう言って、ラウは私の手を握り直した。




「こちらでございます」

「わぁ、たくさんある」

 通された部屋にはたくさんの品々。
 今さっきラウが付け加えた注文の品まで、見事にそろっている。

「必要に応じた物が取り揃えられているから、気に入った物を選ぶだけだ」

「真夏の物と秋物と両方あるね」

 選び抜かれた品々を見て、私が口にした言葉に、案内の人が丁寧に説明をしてくれた。

「レストスは山の上と下で気候が異なっております。山の上の方面や遺跡に行かれるのでしたら、秋物の準備もされた方がよろしいかと」

 暑いと寒いを同時に体験できる。塔長やフィールズさんが言っていたっけ。

 案内の人もその辺はしっかり勉強しているようだ。それに遺跡観光のことも配慮されていた。

「靴もいろいろあるね」

「山の麓の街は平坦ですが、上の方面は山道です。階段や岩場も多いので、観光先別に使い分けるとよろしいでしょう」

「至れり尽くせり」

 私のサイズにぴったりな靴が何種類も並ぶ。

 その中から、夏っぽいサンダルとふだん使いの靴、疲れにくい岩場用の靴をいくつか選び、さらに好みのデザインと色の物をお願いした。

「採寸を行いますので、こちらにお願いいたします」

「採寸」

 採寸するのなんて、久しぶりだ。
 お店で採寸するのは、これが初めて。

 ネージュのときは、一応、お店の人が採寸しに部屋まで来ていたと思う。よく覚えていないけど。

「体の部分ごとの長さを測るだけだぞ」

「それは知ってる」

「たまには『専門職』に採寸してもらうといい」

「え? いつもは?」

 いつも着ている服、服に限らず師団の制服なんかも、すべて受注生産品。私の身体に合わせたサイズになっている。

 採寸もしたことないのに、なんで、こんなぴったりサイズ?

 私の予想はこうだ。

 昔、私の服を頼んでいた服飾店にある私のサイズ情報をいろんな手を使って手に入れた。
 うん、個人情報の不正入手。犯罪だよね。

 あるいは、私が寝ている間に勝手に服を脱がせて採寸をしてサイズ情報を手に入れた。
 長々と眠りについていたときもあったので、私にバレずに採寸することも可能なはずだ。
 うん、勝手に服を脱がしている時点で、ヤバいよね。

 絶対にどっちか、もしくは両方なんじゃないかと思う。訊くのも怖いので今までずっと黙っていたんだけど。

 その質問をつい、はずみで、口に出してしまった。

 怖々とラウを見る。

 ラウは良い笑顔を浮かべ、なんともないことのように答えてくれた。

「俺の目分量だ」

 もっと怖い答えが返ってきた。

 奥さんの身体のサイズを目分量で正確に当てる夫。ヤバい。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

処理中です...