228 / 384
5 出張旅行編
1-6
しおりを挟む
私とラウ、二人並んでソファーに座り、ただひたすらページを捲る。
レストスの観光情報に加え、街の詳細な地図とお店の情報、グルメ情報、人気のお土産情報と、実際に行かないと入手できなさそうな情報ばかり掲載されていた。
単なる観光情報だけではなく、レストスの地理や歴史、生活習慣に至るまでの詳細さ。
加えて、必見スポットとか必食ガイドとか。遺跡内部の地図まで載ってるし。
「レストス情報なら、このルミアーナ特製、ルミ印のガイドブックがあれば、なんっでも、分かりますわ!」
確かにね!
ルミアーナさんが自慢するだけのことはある。
でもなんか、引っかかる言葉が紛れ込んでいるんだけど。
「こちらのルミ印ガイドブック特別装丁版は、クロスフィアさんのためだけに作りましたの。ぜひ、お持ちくださいませ!」
「ルミ印」
って、なんだ?
「アー、ソレ、クルクルちゃんが手がけてるブランドねー」
突然、扉の方から声がしてビクッとなり、ラウが釣られてとっさに氷塊を投げつけた。
簡単にヒョイと避けられた氷塊はそのまま扉を抜けて、廊下の方へ。
遠くで、うひぃ、なんて声が聞こえたような気がしたけど、そんな悲鳴より気になるのは『ブランド』という言葉。
「エルヴェスさん、知ってるの?」
突然、現れた人物は、ラウのもう一人の副官、エルヴェスさんだった。
「エレバウト補佐官の家は、エレバウト商会っすよ、お相手様」
「輸入販売や流通、運搬で名のしれたところですよ、お相手様」
エルヴェスさんの後ろから、ひょいひょいと顔を覗かせたのはエルヴェスさんの補佐、一号さんと二号さん。
この二人は双子だ。
まるっきり同じ顔に同じ声。背格好も髪型も同じ。服装もまったく同じで、違うのは口調のみ。
もちろん、私は区別がつく。
他の人は区別がつかないだろう、というくらいのそっくりさだ。口調を交換するだけで、おそらく入れ替われる。
ふだんは留守番専門のエルヴェスさんに代わって、あれこれ忙しくしているこの二人。
しばらくの間、片方しか見かけなかったのに、今日は珍しく両方揃っていた。
「シュタムグループでも、オセワになってるわー」
と、エルヴェスさん。
被せるように補佐さんたちが凄い情報をぶち込んでくる。
「エレバウト商会は印刷業も手がけてるんですよ、お相手様」
「ルミ印はエレバウト補佐官が執筆した証明っす、お相手様」
「えええっ、ルミアーナさん、本を書いてるの?!」
「クロスフィアさんの存在に比べましたら、たいしたものではございませんわ!」
そことそこ、比べちゃダメだよね。
いやいやいや、と思って、私はテーブル上の特別装丁版を見る。
装丁も中の情報もよく作り込まれていて、まさしく特別版だ。
私の存在と比べても、たいしたものだと言えると思う。
「凄いな、ルミアーナさん」
自然と賞賛の言葉が漏れる。
「ホホホホホホ。クロスフィアさんからお褒めの言葉をいただくだけで、執筆疲れがなくなりますわ!」
なんか怖いこと言ってるけど、これ全部、ルミアーナさんが書いたんじゃないよね。
内心たくさん汗をかく私に対して、補佐さんたちがさらに情報をぶち込んできた。
「ルミ印って、観光ガイドとか観劇ガイドとか。情報誌や会報関係では有名ですね」
「あー、氷雪祭の穴場スポット!」
教えてくれたのはルミアーナさんだ。
あの当時は、恋人がいないのに、どうしてデートスポットに詳しいのかと不思議に思ったものだ。
「間違いなく得意分野っすね」
「観劇の初日公演に行ってるのも、もしかして」
「もしかしなくても、観劇ガイドの執筆のためですね」
「えー、ルミアーナさん、凄すぎる!」
感動の声を上げると、さらにルミアーナさんの高笑いが甲高くなった。
「ほわほわちゃんが誉めたら、もっと張り切るわよー」
「うん、でも会報関係って? クリムトの会報なんて作ってないよね?」
クリムトとは、クリムゾン様を尊ぶ会の略。その実態は破壊の赤種である私の非公式ファンクラブ。
私に内緒で作られて、内緒で活動をしているため、非公式扱いとなっている。
補佐二号さんの情報にちょっとだけ疑問を感じて聞いてみると、
「さすがにそこまでは」
「さすがに大丈夫っすよ」
補佐さんたちからは否定的な返答。
肝心のクリムト会長エルヴェスさんは、というと、
「ウヘ」
怪しい笑い声を発した。
さっと顔色を変える補佐さんたち。そして出てきた諦めたような回答。
「大丈夫じゃなさそうっすね、お相手様」
「諦めた方がよさそうですね、お相手様」
「ええええええ」
こうして私が絶叫している隙に、エルヴェスさんと補佐さんたちは、仕事を理由に退室していった。
ラウが特別装丁版を早読みし終わったころには、私の気力も回復し、ようやく今日の業務が開始となる。
ちなみに。
ラウが投げつけた氷塊は、廊下で見事にカーネリウスさんに命中したようで。
カーネリウスさんの遅刻を不審に思ったルミアーナさんに発見されるまで、カーネリウスさんは失神した状態で廊下に放置されていたのだった。
エルヴェスさんたち、出入りするときに倒れたカーネリウスさんを見ているはずなのに。
面倒臭くてカーネリウスさんを見捨てたな。
レストスの観光情報に加え、街の詳細な地図とお店の情報、グルメ情報、人気のお土産情報と、実際に行かないと入手できなさそうな情報ばかり掲載されていた。
単なる観光情報だけではなく、レストスの地理や歴史、生活習慣に至るまでの詳細さ。
加えて、必見スポットとか必食ガイドとか。遺跡内部の地図まで載ってるし。
「レストス情報なら、このルミアーナ特製、ルミ印のガイドブックがあれば、なんっでも、分かりますわ!」
確かにね!
ルミアーナさんが自慢するだけのことはある。
でもなんか、引っかかる言葉が紛れ込んでいるんだけど。
「こちらのルミ印ガイドブック特別装丁版は、クロスフィアさんのためだけに作りましたの。ぜひ、お持ちくださいませ!」
「ルミ印」
って、なんだ?
「アー、ソレ、クルクルちゃんが手がけてるブランドねー」
突然、扉の方から声がしてビクッとなり、ラウが釣られてとっさに氷塊を投げつけた。
簡単にヒョイと避けられた氷塊はそのまま扉を抜けて、廊下の方へ。
遠くで、うひぃ、なんて声が聞こえたような気がしたけど、そんな悲鳴より気になるのは『ブランド』という言葉。
「エルヴェスさん、知ってるの?」
突然、現れた人物は、ラウのもう一人の副官、エルヴェスさんだった。
「エレバウト補佐官の家は、エレバウト商会っすよ、お相手様」
「輸入販売や流通、運搬で名のしれたところですよ、お相手様」
エルヴェスさんの後ろから、ひょいひょいと顔を覗かせたのはエルヴェスさんの補佐、一号さんと二号さん。
この二人は双子だ。
まるっきり同じ顔に同じ声。背格好も髪型も同じ。服装もまったく同じで、違うのは口調のみ。
もちろん、私は区別がつく。
他の人は区別がつかないだろう、というくらいのそっくりさだ。口調を交換するだけで、おそらく入れ替われる。
ふだんは留守番専門のエルヴェスさんに代わって、あれこれ忙しくしているこの二人。
しばらくの間、片方しか見かけなかったのに、今日は珍しく両方揃っていた。
「シュタムグループでも、オセワになってるわー」
と、エルヴェスさん。
被せるように補佐さんたちが凄い情報をぶち込んでくる。
「エレバウト商会は印刷業も手がけてるんですよ、お相手様」
「ルミ印はエレバウト補佐官が執筆した証明っす、お相手様」
「えええっ、ルミアーナさん、本を書いてるの?!」
「クロスフィアさんの存在に比べましたら、たいしたものではございませんわ!」
そことそこ、比べちゃダメだよね。
いやいやいや、と思って、私はテーブル上の特別装丁版を見る。
装丁も中の情報もよく作り込まれていて、まさしく特別版だ。
私の存在と比べても、たいしたものだと言えると思う。
「凄いな、ルミアーナさん」
自然と賞賛の言葉が漏れる。
「ホホホホホホ。クロスフィアさんからお褒めの言葉をいただくだけで、執筆疲れがなくなりますわ!」
なんか怖いこと言ってるけど、これ全部、ルミアーナさんが書いたんじゃないよね。
内心たくさん汗をかく私に対して、補佐さんたちがさらに情報をぶち込んできた。
「ルミ印って、観光ガイドとか観劇ガイドとか。情報誌や会報関係では有名ですね」
「あー、氷雪祭の穴場スポット!」
教えてくれたのはルミアーナさんだ。
あの当時は、恋人がいないのに、どうしてデートスポットに詳しいのかと不思議に思ったものだ。
「間違いなく得意分野っすね」
「観劇の初日公演に行ってるのも、もしかして」
「もしかしなくても、観劇ガイドの執筆のためですね」
「えー、ルミアーナさん、凄すぎる!」
感動の声を上げると、さらにルミアーナさんの高笑いが甲高くなった。
「ほわほわちゃんが誉めたら、もっと張り切るわよー」
「うん、でも会報関係って? クリムトの会報なんて作ってないよね?」
クリムトとは、クリムゾン様を尊ぶ会の略。その実態は破壊の赤種である私の非公式ファンクラブ。
私に内緒で作られて、内緒で活動をしているため、非公式扱いとなっている。
補佐二号さんの情報にちょっとだけ疑問を感じて聞いてみると、
「さすがにそこまでは」
「さすがに大丈夫っすよ」
補佐さんたちからは否定的な返答。
肝心のクリムト会長エルヴェスさんは、というと、
「ウヘ」
怪しい笑い声を発した。
さっと顔色を変える補佐さんたち。そして出てきた諦めたような回答。
「大丈夫じゃなさそうっすね、お相手様」
「諦めた方がよさそうですね、お相手様」
「ええええええ」
こうして私が絶叫している隙に、エルヴェスさんと補佐さんたちは、仕事を理由に退室していった。
ラウが特別装丁版を早読みし終わったころには、私の気力も回復し、ようやく今日の業務が開始となる。
ちなみに。
ラウが投げつけた氷塊は、廊下で見事にカーネリウスさんに命中したようで。
カーネリウスさんの遅刻を不審に思ったルミアーナさんに発見されるまで、カーネリウスさんは失神した状態で廊下に放置されていたのだった。
エルヴェスさんたち、出入りするときに倒れたカーネリウスさんを見ているはずなのに。
面倒臭くてカーネリウスさんを見捨てたな。
1
お気に入りに追加
233
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました
かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中!
そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……?
可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです!
そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!?
イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!!
毎日17時と19時に更新します。
全12話完結+番外編
「小説家になろう」でも掲載しています。

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした
さこの
恋愛
幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。
誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。
数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。
お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。
片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。
お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……
っと言った感じのストーリーです。

追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる