精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

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5 出張旅行編

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 私とラウ、二人並んでソファーに座り、ただひたすらページを捲る。

 レストスの観光情報に加え、街の詳細な地図とお店の情報、グルメ情報、人気のお土産情報と、実際に行かないと入手できなさそうな情報ばかり掲載されていた。

 単なる観光情報だけではなく、レストスの地理や歴史、生活習慣に至るまでの詳細さ。

 加えて、必見スポットとか必食ガイドとか。遺跡内部の地図まで載ってるし。

「レストス情報なら、このルミアーナ特製、ルミ印のガイドブックがあれば、なんっでも、分かりますわ!」

 確かにね!

 ルミアーナさんが自慢するだけのことはある。
 でもなんか、引っかかる言葉が紛れ込んでいるんだけど。

「こちらのルミ印ガイドブック特別装丁版は、クロスフィアさんのためだけに作りましたの。ぜひ、お持ちくださいませ!」

「ルミ印」

 って、なんだ?

「アー、ソレ、クルクルちゃんが手がけてるブランドねー」

 突然、扉の方から声がしてビクッとなり、ラウが釣られてとっさに氷塊を投げつけた。

 簡単にヒョイと避けられた氷塊はそのまま扉を抜けて、廊下の方へ。

 遠くで、うひぃ、なんて声が聞こえたような気がしたけど、そんな悲鳴より気になるのは『ブランド』という言葉。

「エルヴェスさん、知ってるの?」

 突然、現れた人物は、ラウのもう一人の副官、エルヴェスさんだった。




「エレバウト補佐官の家は、エレバウト商会っすよ、お相手様」

「輸入販売や流通、運搬で名のしれたところですよ、お相手様」

 エルヴェスさんの後ろから、ひょいひょいと顔を覗かせたのはエルヴェスさんの補佐、一号さんと二号さん。

 この二人は双子だ。

 まるっきり同じ顔に同じ声。背格好も髪型も同じ。服装もまったく同じで、違うのは口調のみ。

 もちろん、私は区別がつく。

 他の人は区別がつかないだろう、というくらいのそっくりさだ。口調を交換するだけで、おそらく入れ替われる。

 ふだんは留守番専門のエルヴェスさんに代わって、あれこれ忙しくしているこの二人。
 しばらくの間、片方しか見かけなかったのに、今日は珍しく両方揃っていた。

「シュタムグループでも、オセワになってるわー」

 と、エルヴェスさん。

 被せるように補佐さんたちが凄い情報をぶち込んでくる。

「エレバウト商会は印刷業も手がけてるんですよ、お相手様」

「ルミ印はエレバウト補佐官が執筆した証明っす、お相手様」

「えええっ、ルミアーナさん、本を書いてるの?!」

「クロスフィアさんの存在に比べましたら、たいしたものではございませんわ!」

 そことそこ、比べちゃダメだよね。

 いやいやいや、と思って、私はテーブル上の特別装丁版を見る。

 装丁も中の情報もよく作り込まれていて、まさしく特別版だ。
 私の存在と比べても、たいしたものだと言えると思う。

「凄いな、ルミアーナさん」

 自然と賞賛の言葉が漏れる。

「ホホホホホホ。クロスフィアさんからお褒めの言葉をいただくだけで、執筆疲れがなくなりますわ!」

 なんか怖いこと言ってるけど、これ全部、ルミアーナさんが書いたんじゃないよね。

 内心たくさん汗をかく私に対して、補佐さんたちがさらに情報をぶち込んできた。

「ルミ印って、観光ガイドとか観劇ガイドとか。情報誌や会報関係では有名ですね」

「あー、氷雪祭の穴場スポット!」

 教えてくれたのはルミアーナさんだ。

 あの当時は、恋人がいないのに、どうしてデートスポットに詳しいのかと不思議に思ったものだ。

「間違いなく得意分野っすね」

「観劇の初日公演に行ってるのも、もしかして」

「もしかしなくても、観劇ガイドの執筆のためですね」

「えー、ルミアーナさん、凄すぎる!」

 感動の声を上げると、さらにルミアーナさんの高笑いが甲高くなった。

「ほわほわちゃんが誉めたら、もっと張り切るわよー」

「うん、でも会報関係って? クリムトの会報なんて作ってないよね?」

 クリムトとは、クリムゾン様を尊ぶ会の略。その実態は破壊の赤種である私の非公式ファンクラブ。
 私に内緒で作られて、内緒で活動をしているため、非公式扱いとなっている。

 補佐二号さんの情報にちょっとだけ疑問を感じて聞いてみると、

「さすがにそこまでは」

「さすがに大丈夫っすよ」

 補佐さんたちからは否定的な返答。

 肝心のクリムト会長エルヴェスさんは、というと、

「ウヘ」

 怪しい笑い声を発した。

 さっと顔色を変える補佐さんたち。そして出てきた諦めたような回答。

「大丈夫じゃなさそうっすね、お相手様」

「諦めた方がよさそうですね、お相手様」

「ええええええ」

 こうして私が絶叫している隙に、エルヴェスさんと補佐さんたちは、仕事を理由に退室していった。

 ラウが特別装丁版を早読みし終わったころには、私の気力も回復し、ようやく今日の業務が開始となる。

 ちなみに。

 ラウが投げつけた氷塊は、廊下で見事にカーネリウスさんに命中したようで。

 カーネリウスさんの遅刻を不審に思ったルミアーナさんに発見されるまで、カーネリウスさんは失神した状態で廊下に放置されていたのだった。

 エルヴェスさんたち、出入りするときに倒れたカーネリウスさんを見ているはずなのに。
 面倒臭くてカーネリウスさんを見捨てたな。
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