精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

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5 出張旅行編

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 ニヤニヤ笑いが止まらない塔長。
 ジロッと見ると、塔長は突然、視線を私から外した。

 塔長の視線が向かった先は、さっきまで私にレストスの説明をしてくれていたフィールズさんだった。

 フィールズさんは、私に説明をしていたのとはまるで別人のような表情と態度で、塔長を見ている。

 まるで、戦いのような感じ。

「ところで、フィールズ補佐官」

「なんでしょう、塔長」

 口調もさっきとは別人だ。

 ものすごく塔長のことを警戒しているような、そんなピリピリとしたものが、私にも伝わってきた。

 対して、塔長は余裕綽々。

 テラによく似た、ニタリとした笑顔を貼り付けている。

「君、実家から手紙が届いてたんじゃないか?」

 一瞬、小さくピクッとするフィールズさん。

 さっき握りつぶしていたやつだ。
 いったいあの手紙に何が書いてあったんだろう。

 話に割り込むこともできず、私は二人の様子を黙って見守った。
 ふと気づくと、グリモさん、ノルンガルスさん、マル姉さんも固唾をのんで見守っている。

 皆の視線が集まる中、フィールズさんは、コホンと咳払いをした。

「個人的な連絡です。塔の仕事とはいっさい関係ありません」

「なら、ちょうどいい」

 ピクン

 フィールズさんが、今度はさっきより大きく反応した。

「何がちょうどいいんでしょう?」

 でも、表情も態度も口調も変わらない。
 動揺する何かがあっても冷静沈着、それがフィールズさんだ。

 そのフィールズさんに対して、塔長は特大攻撃ともいえるものを仕掛けた。

「君もクロエル補佐官といっしょに、レストスに行ってくるんだ」

「はぁぁぁ? 新婚旅行に同行しろと?」

 ガバッと立ち上がって、大声を上げるフィールズさん。

 あれ? 冷静沈着どこ行った?

 グリモさん、ノルンガルスさん、マル姉さんまで目を丸くしている。

「正気ですか、塔長! 絶対、確実に、ドラグニール師団長に消されます。死んでも嫌です」

 カツカツと靴音を立てて、塔長に詰め寄る。

「ラウはそんなことしないけど。たぶん」

 フィールズさんのあまりの迫力に、思わず、弁明が口から漏れた。

 私の小さなつぶやきが聞こえたのか、フィールズさんがくるっと振り向く。

「クロエルさんとの初旅行。しかも新婚旅行ですよ。あのドラグニール師団長のことです。邪魔する輩は、端から消しにかかるに決まってるでしょう!」

「え? そうかなぁ」

 ラウは無差別に消すことはないと思うけどなぁ。ラウの扱いがちょっと酷いような気がする。

「同行するだけなら問題ないさ。それに君、実家で話し合いが必要なんじゃないか?」

 塔長が取りなすように言ってくれた。
 加えて、フィールズさんの痛いところをつくのも忘れない。

「クロエル補佐官にレストスを案内するついでに、家族と話し合ってきたらいい」

「ですが、クロエルさんもドラグニール師団長と二人きりの旅行を楽しみにしてましたよね?」

「え? 二人きり?」

 はて?と、私は首を傾げた。
 ラウと旅行にいくのは確かだ。

「師団長とお二人で行きますでしょう?」

 フィールズさんが畳みかけてくる。

 うーん、確かにラウと二人で行くけど、ラウと二人きりではない。

「うん、まぁ、ラウと行くけど。基本的に、護衛班や記録班もついてくるだろうから、たくさん」

「え?!」

 フィールズさんが固まった。

 師団内にいるときでさえ、私にはたくさんの人がついている。
 本当に二人きりなのは官舎の部屋の中にいるときだけだろう。

 この状況が嫌か嫌じゃないかといえば、嫌じゃない。見られていようが別に興味ないってところかな。

 ひとりぼっちで忘れられたように生活するよりは、皆に囲まれていた方がずっといい。

 当たり前のことのように言う私に、絶句したフィールズさんと違って、塔長は当たり前のようにコクンと頷いた。

「だろうな。そこにフィールズ補佐官がひとり増えたくらい、どうってことないよな」

「女性だし、街に詳しい人がいれば安心だから、ラウも過激な反対はしないと思うけど」

 意見が共鳴する私と塔長。

 それでもフィールズさんの心配は尽きないらしい。

「それはそうかもしれませんが、特級補佐官が二人も抜けたら、ここの業務が滞りますよね?!」

 特級補佐官が二人も、とはいうものの、私は週一勤務なので、いてもいなくても実害はない。
 さらにいえば、私とフィールズさんの勤務時間が半分になってたときだって、どうにかなっていた。
 ここは、特級補佐官が二人いないくらいで揺らぐような場所じゃない。

「鑑定関係は、ナルフェブルもいるし、師匠も来ることになってるんだ。なにせ、クロエル補佐官の旅行は『国王』からのプレゼントだからね」

「ええ?!」

 それにどうしてものときは、奥の手、赤種の一番目のテラがいる。

 塔長はテラの舎弟なので、事情を話してテラを呼んでいるんだろう。

 テラは私と三番目を関わらせたくないだろうから、その辺、塔長がどう説明しているかは分からない。

「日数限定で、しかも急な日程になったお詫びに、ありとあらゆる融通は通せることになってる」

 さらに、国王からのプレゼントという名分がある。
 これを振りかざすと大抵の人は静かになるんだ、とテラが言っていた。

「だから、ここの心配は無用。よろしく頼んだよ、フィールズ補佐官」

 テラが言ってた通り、フィールズさんも静かになった。
 もの凄い表情で、塔長を睨みつけてはいたけど。それでもフィールズさんは静かだった。怖いくらいに静かだった。
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