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5 出張旅行編
0-0 精霊の国の四方山話
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ここは精霊の国。
精霊の加護厚いエルメンティア王国。
この国の人は皆、自分たちの国のことをそう呼んで称えている。
摂理の神エルムの加護たっぷりの国なわけで、エルムが司る自然の力、竜や精霊の力に満ち溢れているのは当たり前。
精霊魔法を扱える人も全王国民の約七割と、うじゃうじゃいるからなんだけど。
精霊の加護が厚いんじゃなくて、あくまでも摂理の神エルムの加護が厚いだけ。
それでもって精霊魔法を扱える人がうじゃうじゃいるだけ。
それなのに、うちの王国は精霊に愛されているのよ、と自慢げに「精霊の加護厚い……」なんて言うようだ。
そんな精霊の国も、いくつかの国と国境を接しているので、政治とは無関係ではいられない。
混沌の樹林を囲むように成立している国は四つある。
摂理の神エルムの加護を持ち『竜種』を守護者とするエルメンティア王国。
規律の神ザインの加護を持ち『魔種』を統治者とするザイオン連合国。
豊穣の神アグスの影響を色濃く受けたスヴェート帝国。
技芸の神ミンゼが祝福を与えたとされるメイ群島国。
この四つの国は神様の加護のおかげか、比較的安定して、争いも少ない。
魔物や魔獣の脅威はあるものの、国同士の戦争や、国の中での内戦の心配はない平和な地域だ。
皆の記憶にある争いといえば、十年前、スヴェートで起きたクーデターくらいだろう。
ところが、神様の加護の少ない地域では、この限りではない。
エルメンティアの西には砂漠が広がっているけど。その向こうの地域では、現在、小国が乱立し、緊迫状態が続いているという。
私、クロスフィア・クロエル・ドラグニールは、とある事件で赤種として覚醒し、赤種の四番目、破壊の赤種として暮らしている。
エルメンティアの西、遠い遠い地域の話は、赤種として覚醒する前、知識として勉強をしていた。
私にとって国と国との戦争とは、知識の中での話。自分の住んでる世界とはかけ離れた、遠い遠い国での話だったのだ。
ところがだ。
武道大会で、スヴェート騎士が中心となった騒動が起きた。エルメンティアの王都のど真ん中での話だ。
私の夫、第六師団長でもあり上位竜種の黒竜、ラウゼルト・ドラグニールをはじめ、多くの人たちのおかげで、深刻な事態には至ることはなかった。
とはいえ、騎士団が受けた傷跡は深く、ようやく人員の補充も終わったというところ。
あの騒動で、国王にもしものことがあったら、エルメンティアは今頃どうなっていたんだろう。
思わず、身震いしてしまう。
騒動を起こしたスヴェートは、エルメンティアの北に位置する。
国境周辺は中立エリアと呼ばれる非武装地域となっているため、スヴェートもエルメンティアも、武装した人間は入れない。一見、平和な場所だ。
地域柄、両国の文化が融合しており、古代遺跡もあることから、観光地としても有名で、人の出入りも少なくない。
非武装なら軍部の人間でも隠れて入れるので、観光客を装って、両国の諜報が暗躍しているという噂も聞くが、表面上は落ち着いている。
一歩間違えれば、戦争の最前線となってしまうこの中立エリアが、観光で賑わっていられるのも、政治の力であるらしい。
「四番目が持ってるのは破壊の力。でも、四番目の存在は政治の力になるんだ」
私の同種、赤種の一番目であるテラは、見た目は十歳の子どもなのに、ときおり、難しいことを言う。
赤種がいるからこそ手を出さない。
竜種がいるからこそ手を出せない。
エルメンティアの人間が、精霊の加護厚い国だなんだと言って、平和に暮らせるのも、赤種や竜種のおかげだとも、テラは言う。
「赤種や竜種が政治の力になることはあっても、精霊魔法の力が政治の力になることはないからな」
だ、そうだ。
平和が保たれるのが竜種のおかげなのは良いとして、赤種のおかげというのは、なんとも皮肉な話だと、私は思う。
しかも、精霊魔法の力自体は、政治的になんの力にもならないらしい。笑える。
この国では、精霊魔法技能を持たない人を『技能なし』と呼んで蔑む人たちがいて、赤種はこの国の人が蔑む『技能なし』なのに。
最強の『技能なし』のおかげで、『技能なし』を蔑む人たちが平和に暮らせるなんて、なんとも歪な話なんだよね。
まぁ、私は私で『技能なし』と言われようともコツコツと真面目に生きている人たちといっしょに生きていくだけ。
『技能なし』の地位向上のため、なんていう政治的なことをするつもりはないけれど。私の存在が皆の力になれるよう、頑張っていこうとは思っている。
ここは精霊の国。
精霊の加護厚いエルメンティア王国。
なのに、精霊の加護がない人間に守られる、そんな国。
精霊の加護厚いエルメンティア王国。
この国の人は皆、自分たちの国のことをそう呼んで称えている。
摂理の神エルムの加護たっぷりの国なわけで、エルムが司る自然の力、竜や精霊の力に満ち溢れているのは当たり前。
精霊魔法を扱える人も全王国民の約七割と、うじゃうじゃいるからなんだけど。
精霊の加護が厚いんじゃなくて、あくまでも摂理の神エルムの加護が厚いだけ。
それでもって精霊魔法を扱える人がうじゃうじゃいるだけ。
それなのに、うちの王国は精霊に愛されているのよ、と自慢げに「精霊の加護厚い……」なんて言うようだ。
そんな精霊の国も、いくつかの国と国境を接しているので、政治とは無関係ではいられない。
混沌の樹林を囲むように成立している国は四つある。
摂理の神エルムの加護を持ち『竜種』を守護者とするエルメンティア王国。
規律の神ザインの加護を持ち『魔種』を統治者とするザイオン連合国。
豊穣の神アグスの影響を色濃く受けたスヴェート帝国。
技芸の神ミンゼが祝福を与えたとされるメイ群島国。
この四つの国は神様の加護のおかげか、比較的安定して、争いも少ない。
魔物や魔獣の脅威はあるものの、国同士の戦争や、国の中での内戦の心配はない平和な地域だ。
皆の記憶にある争いといえば、十年前、スヴェートで起きたクーデターくらいだろう。
ところが、神様の加護の少ない地域では、この限りではない。
エルメンティアの西には砂漠が広がっているけど。その向こうの地域では、現在、小国が乱立し、緊迫状態が続いているという。
私、クロスフィア・クロエル・ドラグニールは、とある事件で赤種として覚醒し、赤種の四番目、破壊の赤種として暮らしている。
エルメンティアの西、遠い遠い地域の話は、赤種として覚醒する前、知識として勉強をしていた。
私にとって国と国との戦争とは、知識の中での話。自分の住んでる世界とはかけ離れた、遠い遠い国での話だったのだ。
ところがだ。
武道大会で、スヴェート騎士が中心となった騒動が起きた。エルメンティアの王都のど真ん中での話だ。
私の夫、第六師団長でもあり上位竜種の黒竜、ラウゼルト・ドラグニールをはじめ、多くの人たちのおかげで、深刻な事態には至ることはなかった。
とはいえ、騎士団が受けた傷跡は深く、ようやく人員の補充も終わったというところ。
あの騒動で、国王にもしものことがあったら、エルメンティアは今頃どうなっていたんだろう。
思わず、身震いしてしまう。
騒動を起こしたスヴェートは、エルメンティアの北に位置する。
国境周辺は中立エリアと呼ばれる非武装地域となっているため、スヴェートもエルメンティアも、武装した人間は入れない。一見、平和な場所だ。
地域柄、両国の文化が融合しており、古代遺跡もあることから、観光地としても有名で、人の出入りも少なくない。
非武装なら軍部の人間でも隠れて入れるので、観光客を装って、両国の諜報が暗躍しているという噂も聞くが、表面上は落ち着いている。
一歩間違えれば、戦争の最前線となってしまうこの中立エリアが、観光で賑わっていられるのも、政治の力であるらしい。
「四番目が持ってるのは破壊の力。でも、四番目の存在は政治の力になるんだ」
私の同種、赤種の一番目であるテラは、見た目は十歳の子どもなのに、ときおり、難しいことを言う。
赤種がいるからこそ手を出さない。
竜種がいるからこそ手を出せない。
エルメンティアの人間が、精霊の加護厚い国だなんだと言って、平和に暮らせるのも、赤種や竜種のおかげだとも、テラは言う。
「赤種や竜種が政治の力になることはあっても、精霊魔法の力が政治の力になることはないからな」
だ、そうだ。
平和が保たれるのが竜種のおかげなのは良いとして、赤種のおかげというのは、なんとも皮肉な話だと、私は思う。
しかも、精霊魔法の力自体は、政治的になんの力にもならないらしい。笑える。
この国では、精霊魔法技能を持たない人を『技能なし』と呼んで蔑む人たちがいて、赤種はこの国の人が蔑む『技能なし』なのに。
最強の『技能なし』のおかげで、『技能なし』を蔑む人たちが平和に暮らせるなんて、なんとも歪な話なんだよね。
まぁ、私は私で『技能なし』と言われようともコツコツと真面目に生きている人たちといっしょに生きていくだけ。
『技能なし』の地位向上のため、なんていう政治的なことをするつもりはないけれど。私の存在が皆の力になれるよう、頑張っていこうとは思っている。
ここは精霊の国。
精霊の加護厚いエルメンティア王国。
なのに、精霊の加護がない人間に守られる、そんな国。
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