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4 騎士と破壊のお姫さま編
6-0 そうして物語は続いていく
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交流会も何事もなく終わり、研修を終えた新人たちが通常業務に組み込まれるようになってきた。
第六師団は関係ないし。
と思っていたら、本部から突然の連絡。
本部の余計な方針のせいで、第六師団がまた揺れ動いている。
師団長室のラウの隣、いつもの場所で、私は業務をこなしながら、この前の交流会でのマリージュとした会話を思い出していた。
「お姉さまに守っていただいた命なので、お姉さまの分まで一生懸命、頑張ろうと思いましたの」
「え? それで就職したの?」
「はい。精霊魔法の勉強もできますし、少しでも多くの方のお手伝いができますから」
「へー」
ネージュが死んだ後、マリージュにも思うところがあったようだ。
家門の騎士や使用人に囲まれて、ちやほやされる日常から脱出し、世間に揉まれる日常を選ぶとは。
こんな日が来るなんて、思ってもみなかった。
「お姉さまの専属だった護衛騎士が、グランフレイムを辞めましたの。やりたいことが見つかったそうで」
ジンクレストも、やっと、新しい人生を見つけたんだ。ちょっとホッとする。
「口うるさい護衛がいなくなって、わたくしもホッと、いえいえ」
うん、護衛の腕はともかく、話が長くて口うるさい傾向にあるよね。
「もしかしたら、どこかで会うかもしれないので、気は抜けませんわ。お話させていただき、ありがとうございました」
「第八師団でがんばってね」
「はい、必ず!」
マリージュは力強く返事をした。どことなく、懐かしむ眼差しを私に向けながら。
話はそれで終わり、迷子常習犯のグランミストさんを引きずって、マリージュは去っていった。
コンコン。
師団長室の扉を叩く音のすぐ後に、カーネリウスさんの声が外から聞こえてくる。
「第三騎士団の護衛騎士の方が、こちらにお見えです」
あれ?
カーネリウスさん、いつもなら扉なんて叩かないで、ばーんと勝手に開けて入ってくるのに。
首を傾げる私の横で、ラウが不満げに口を開いた。
「フィアの護衛はメランド卿もいるし、護衛班や情報部隊もつけているから、第三師団なんて要らないんだがな」
「重要人物には、第三師団の護衛騎士をつけることになっちゃったでしょ?」
そう。第六師団が揺れた原因、本部からの連絡はこれだった。
いちおう、私は赤種の四番目。自分で言うのもなんだけど、最強の重要人物だ。
正直、メモリアも護衛班も情報部隊も不要だと思う。なのに、加えて第三師団の護衛騎士が専属でつくことになってしまった。
ラウの機嫌が悪い。本気で悪い。悪すぎて、普通竜種のカーネリウスさんとドラグゼルンさんですら、逃げ出すほど悪い。
「そうは言ってたけどな。王族だとか、宰相だとか行政部の重要職についてるやつにつけるだろ、普通」
「だから、そこにも第三師団の護衛騎士がついたんだって」
私はラウの手を撫でながら宥める。私に撫でられて、ちょっと機嫌良さそうにするラウ。
「テラや塔長のところにも、軍部所属の王族にもついたんだよね。二人とも嫌な顔してたわ」
「今まで個人護衛なんて、してこなかったくせにな」
機嫌は持ち直したものの、腹の虫は納まらないらしい。
「だからー、あの武道大会の騒動で警護の見直しと護衛強化をするって。散々、総師団長が言ってたじゃないの」
「入っていただきますよ、師団長」
私とラウの会話を遮るように、カーネリウスさんの声が室内にも響いてきた。
「ちっ」
扉付近に控えていたメモリアに、ラウが声をかける。
「メランド卿、護衛としての格の違い、第三師団のやつに見せつけてやれよ」
「ラウ」
私が声をかけるのと同時に扉が開いた。
入ってきたのは、カーネリウスさんと、少し小柄な第三師団の騎士。
「失礼いたします」
「え?!」
「な、お前!」
金茶の短髪が涼しげな騎士は、髪と同じ色の瞳で真っ直ぐ私を見つめる。
「本日付けで、クロスフィア様の専属護衛となりました。クロスフィア様に忠誠を捧げ、護衛として誠心誠意、お仕えしたく思います」
「なんだと!」
「あー」
聞き覚えのありすぎる声。
きびきびと無駄のない動きで一礼した。
「ジンクレスト・ベルンドゥアンです。ベルンドゥアンでは叔父の第二師団長と同じですし、ジンクレストでは長いので、」
いったん言葉を止め、ふわりと微笑む。
「どうぞ、ジンとお呼びください、クロスフィア様」
目の前に現れたのは、紛れもなく、ジンクレスト・ベルンドゥアンだった。
「えー」
やりたいことが見つかったから、グランフレイム、辞めたんだよな。マリージュ、そう言ってたな。
はぁ。
頭を抱えたくなった。
「ふざけるな! 他の男の名を愛称呼びなど、させる訳ないだろ!」
「略称ですよ。簡単でご負担にもなりませんし。それに、クロスフィア様には、きちんと理由もお伝えしましたが?」
「だいたい、なんで、馴れ馴れしく名前で呼んでんだ?! クロエル補佐官だろ!」
「クロスフィア様の場合、職位に対してではなく、赤種という存在に対して護衛強化の指示が出ております」
まさか、今度はクロスフィアの護衛騎士になるとは。
「だから、なんだ!」
「ですので、職名呼びは不適切かと。誠意を込めて、クロスフィア様とお呼びした次第ですが」
「なら、家名でいいだろ、家名で!」
「家名だと、ドラグニールかクロエルですが、どちらも他の方と重なりますし。家門ではなく、個人にお仕えしますので」
「ゴチャゴチャ、言うなよ!」
私、男運、悪いって言われてたな。これか、これがそうか。
「私は職務に従っているまでです、ドラグニール師団長。職務に関するご意見は、エアヘイゼル師団長にお願いします」
「お前! フィアの前でだけ、『私』なんて気取った言い方しやがって! 普段は、『俺』って言ってるよな!」
「いけませんか? クロスフィア様には礼儀正しい騎士だと思っていただきたいですしね。短気で乱暴な男とは違って」
「俺にケンカ売ってるだろ! 第三師団の護衛なんぞ、この第六師団に要るか! 追い出せ!」
ついに、ラウが爆発した。
私が隣にくっついてるので、冷気は爆発させてないけど、これはマズい。
「ラウ、落ち着いて」
「マズいですって、師団長」
「ナニナニ、修羅場ー?!」
「この辞令はエアヘイゼル師団長からいただいていますので。ドラグニール師団長に決定権はありませんよ」
ラウの怒鳴り声を聞きつけて、エルヴェスさんまでやってきた。おもしろそうに見ている。
「クロスフィア様、よろしいんですか? こんな男と結婚して。まぁ、私がおそばでお守りしますので心配ご無用ですが」
「お前がいなくても、フィアに心配なんてあるかよ!」
ジンクレストも、ラウのことを煽るだけ煽っていた。あぁ、もう収拾がつかない。
火花が飛び散りまくる。
「口でなら、なんとでも言えますよね」
「なら俺と勝負だ! 負けたら出てけ!」
「勝負ですか? 望むところです」
「ええっ。ちょっと待ってったら」
睨み合いながら、足早に部屋を出ていく二人。慌てて追いかける私たち。
「仲が良さそうで、良かったですわね!」
「ルミアーナさん、あれ見て言う?」
「ホホホホホホ」
うん、今日も第六師団は賑やかだ。
三番目の問題やらスヴェート関係の問題が解決してなかったりはするけど。第六師団にはとりあえず、関係ない。
私としては、夫婦円満で暇すぎなければ、それでいい。
最愛で最強の夫と、新しい生き方を見つけた昔馴染みの背中を追いかけて、私は外に走り出していくのだった。
第六師団は関係ないし。
と思っていたら、本部から突然の連絡。
本部の余計な方針のせいで、第六師団がまた揺れ動いている。
師団長室のラウの隣、いつもの場所で、私は業務をこなしながら、この前の交流会でのマリージュとした会話を思い出していた。
「お姉さまに守っていただいた命なので、お姉さまの分まで一生懸命、頑張ろうと思いましたの」
「え? それで就職したの?」
「はい。精霊魔法の勉強もできますし、少しでも多くの方のお手伝いができますから」
「へー」
ネージュが死んだ後、マリージュにも思うところがあったようだ。
家門の騎士や使用人に囲まれて、ちやほやされる日常から脱出し、世間に揉まれる日常を選ぶとは。
こんな日が来るなんて、思ってもみなかった。
「お姉さまの専属だった護衛騎士が、グランフレイムを辞めましたの。やりたいことが見つかったそうで」
ジンクレストも、やっと、新しい人生を見つけたんだ。ちょっとホッとする。
「口うるさい護衛がいなくなって、わたくしもホッと、いえいえ」
うん、護衛の腕はともかく、話が長くて口うるさい傾向にあるよね。
「もしかしたら、どこかで会うかもしれないので、気は抜けませんわ。お話させていただき、ありがとうございました」
「第八師団でがんばってね」
「はい、必ず!」
マリージュは力強く返事をした。どことなく、懐かしむ眼差しを私に向けながら。
話はそれで終わり、迷子常習犯のグランミストさんを引きずって、マリージュは去っていった。
コンコン。
師団長室の扉を叩く音のすぐ後に、カーネリウスさんの声が外から聞こえてくる。
「第三騎士団の護衛騎士の方が、こちらにお見えです」
あれ?
カーネリウスさん、いつもなら扉なんて叩かないで、ばーんと勝手に開けて入ってくるのに。
首を傾げる私の横で、ラウが不満げに口を開いた。
「フィアの護衛はメランド卿もいるし、護衛班や情報部隊もつけているから、第三師団なんて要らないんだがな」
「重要人物には、第三師団の護衛騎士をつけることになっちゃったでしょ?」
そう。第六師団が揺れた原因、本部からの連絡はこれだった。
いちおう、私は赤種の四番目。自分で言うのもなんだけど、最強の重要人物だ。
正直、メモリアも護衛班も情報部隊も不要だと思う。なのに、加えて第三師団の護衛騎士が専属でつくことになってしまった。
ラウの機嫌が悪い。本気で悪い。悪すぎて、普通竜種のカーネリウスさんとドラグゼルンさんですら、逃げ出すほど悪い。
「そうは言ってたけどな。王族だとか、宰相だとか行政部の重要職についてるやつにつけるだろ、普通」
「だから、そこにも第三師団の護衛騎士がついたんだって」
私はラウの手を撫でながら宥める。私に撫でられて、ちょっと機嫌良さそうにするラウ。
「テラや塔長のところにも、軍部所属の王族にもついたんだよね。二人とも嫌な顔してたわ」
「今まで個人護衛なんて、してこなかったくせにな」
機嫌は持ち直したものの、腹の虫は納まらないらしい。
「だからー、あの武道大会の騒動で警護の見直しと護衛強化をするって。散々、総師団長が言ってたじゃないの」
「入っていただきますよ、師団長」
私とラウの会話を遮るように、カーネリウスさんの声が室内にも響いてきた。
「ちっ」
扉付近に控えていたメモリアに、ラウが声をかける。
「メランド卿、護衛としての格の違い、第三師団のやつに見せつけてやれよ」
「ラウ」
私が声をかけるのと同時に扉が開いた。
入ってきたのは、カーネリウスさんと、少し小柄な第三師団の騎士。
「失礼いたします」
「え?!」
「な、お前!」
金茶の短髪が涼しげな騎士は、髪と同じ色の瞳で真っ直ぐ私を見つめる。
「本日付けで、クロスフィア様の専属護衛となりました。クロスフィア様に忠誠を捧げ、護衛として誠心誠意、お仕えしたく思います」
「なんだと!」
「あー」
聞き覚えのありすぎる声。
きびきびと無駄のない動きで一礼した。
「ジンクレスト・ベルンドゥアンです。ベルンドゥアンでは叔父の第二師団長と同じですし、ジンクレストでは長いので、」
いったん言葉を止め、ふわりと微笑む。
「どうぞ、ジンとお呼びください、クロスフィア様」
目の前に現れたのは、紛れもなく、ジンクレスト・ベルンドゥアンだった。
「えー」
やりたいことが見つかったから、グランフレイム、辞めたんだよな。マリージュ、そう言ってたな。
はぁ。
頭を抱えたくなった。
「ふざけるな! 他の男の名を愛称呼びなど、させる訳ないだろ!」
「略称ですよ。簡単でご負担にもなりませんし。それに、クロスフィア様には、きちんと理由もお伝えしましたが?」
「だいたい、なんで、馴れ馴れしく名前で呼んでんだ?! クロエル補佐官だろ!」
「クロスフィア様の場合、職位に対してではなく、赤種という存在に対して護衛強化の指示が出ております」
まさか、今度はクロスフィアの護衛騎士になるとは。
「だから、なんだ!」
「ですので、職名呼びは不適切かと。誠意を込めて、クロスフィア様とお呼びした次第ですが」
「なら、家名でいいだろ、家名で!」
「家名だと、ドラグニールかクロエルですが、どちらも他の方と重なりますし。家門ではなく、個人にお仕えしますので」
「ゴチャゴチャ、言うなよ!」
私、男運、悪いって言われてたな。これか、これがそうか。
「私は職務に従っているまでです、ドラグニール師団長。職務に関するご意見は、エアヘイゼル師団長にお願いします」
「お前! フィアの前でだけ、『私』なんて気取った言い方しやがって! 普段は、『俺』って言ってるよな!」
「いけませんか? クロスフィア様には礼儀正しい騎士だと思っていただきたいですしね。短気で乱暴な男とは違って」
「俺にケンカ売ってるだろ! 第三師団の護衛なんぞ、この第六師団に要るか! 追い出せ!」
ついに、ラウが爆発した。
私が隣にくっついてるので、冷気は爆発させてないけど、これはマズい。
「ラウ、落ち着いて」
「マズいですって、師団長」
「ナニナニ、修羅場ー?!」
「この辞令はエアヘイゼル師団長からいただいていますので。ドラグニール師団長に決定権はありませんよ」
ラウの怒鳴り声を聞きつけて、エルヴェスさんまでやってきた。おもしろそうに見ている。
「クロスフィア様、よろしいんですか? こんな男と結婚して。まぁ、私がおそばでお守りしますので心配ご無用ですが」
「お前がいなくても、フィアに心配なんてあるかよ!」
ジンクレストも、ラウのことを煽るだけ煽っていた。あぁ、もう収拾がつかない。
火花が飛び散りまくる。
「口でなら、なんとでも言えますよね」
「なら俺と勝負だ! 負けたら出てけ!」
「勝負ですか? 望むところです」
「ええっ。ちょっと待ってったら」
睨み合いながら、足早に部屋を出ていく二人。慌てて追いかける私たち。
「仲が良さそうで、良かったですわね!」
「ルミアーナさん、あれ見て言う?」
「ホホホホホホ」
うん、今日も第六師団は賑やかだ。
三番目の問題やらスヴェート関係の問題が解決してなかったりはするけど。第六師団にはとりあえず、関係ない。
私としては、夫婦円満で暇すぎなければ、それでいい。
最愛で最強の夫と、新しい生き方を見つけた昔馴染みの背中を追いかけて、私は外に走り出していくのだった。
応援ありがとうございます!
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