精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

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4 騎士と破壊のお姫さま編

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 咳が落ち着き、ようやく今日の大事な話に入った。

 今日、わざわざ、テラと塔長を師団長室に呼び出したのは、ラウのお菓子を自慢するためじゃない。

「それで、本題」

「あぁ、そうだよ。惚気話や菓子の話じゃなくて、もっと大事な話があったよな」

 そんなことを言いながら、お菓子を食べるテラ。文句あるならお菓子を食べなくていいのにね。
 そーっとテラの前から、お菓子の皿を遠ざける。それを目で追うテラ。

「テラが話を反らしたんでしょ」

「四番目こそ、前置きの話が長くて、しかも惚気話だっただろ」

 そーっとテラが自分の方に、お菓子の皿を引き寄せる。ジロッと睨む私。

 お菓子の皿を挟んで一触即発。

 というところで、

「師匠もクロエル補佐官も、止めるんだ。話がぜんぜん進まないだろう」

 塔長がヤレヤレとばかりに割って入った。

 ちなみにラウは「怒ったフィアもかわいい」と言って、私をギューッと抱きしめている。
 これはこれで実害はない。暑苦しいより実害がない方が安全だから。

「ちっ。それで?」

 テラに促され、私は遊撃部隊と情報部隊、それぞれが集めてくれたデータを二人に見せた。

 二人とも、さっきとは打って変わって、固い表情でデータを眺める。
 いつの間にか、テラのお菓子を食べる手も止まった。

「なるほどな。で、どうだ、師匠?」

「三番目の痕跡で間違いないな」

 そう。痕跡だ。

 でも、私たちが追っているのは痕跡ではなく、三番目本人。

 それともうひとつ気になっているのが、三番目がいた黒の樹林だけ、嫌な気配がすることと、混沌と精霊力の偏りがおかしいこと。
 遠隔鑑定のときに、ナルフェブル補佐官からは精霊力が暴走してるって言われたんだよね。

「精霊力の暴走については?」

「このデータにはそれっぽいのはないな。偏りも、とくに目を引くものはなさそうだし」

 塔長が疲れたように答える。
 テラはお菓子を加えて黙り込んでいた。

「テラはどう?」

「あ? あぁ」

 何か考え事でもしていたようだ。声をかけてようやく、ぴくんと動き出す。

「気のせいかもしれないが、黒の樹林ぽくないんだよな」

「どういう意味だ、師匠」

「なんとなく、赤の樹林に近いものを感じる」

 一瞬、静まり返った。
 黒の樹林なのに赤って? 理解が追いつかない。

 その時、塔長がポンと手を打った。

「そうか、分かった」

「分かったの?」「分かったのか?」

「ナルフェブルにデータを回してほしい。解析させる」

 え? また?

 訝しがる私に説明するように、塔長が話をする。

「ナルフェブルは事前鑑定にも立ち会ってる。事前鑑定と、今回のデータと、他の樹林データ、比較すれば何か分かるんじゃないか?」

 さらに塔長は続ける。

「それに、事前鑑定とこのデータは時間差があるだろ?」

 塔長の話を聞いて、テラも話し始めた。

「時間経過で樹林がどう変化したかも、何か見つけられるかもな」

「そういうことなら、ナルフェブル補佐官にお願いするのが一番だね」

 ところで。

 ナルフェブル補佐官、データ解析が終わらなくて、泊まり込みじゃなかったっけ?
 そんな状況で、データを追加して大丈夫なのかな?

「とりあえず、ナルフェブル補佐官の冥福を祈っておこう」

「四番目。せめて、健闘を祈れよな」




「それで、本題」

「はぁあ? 終わったんじゃないのか、本題」

 テラが嫌そうな声をあげる。

「そりゃそうでしょ。私たちが追いかけているのは痕跡じゃない」

 私がピシャリと言うと、テラはうっ、と小さく呻いてから、しぶしぶとつぶやく。

「そうだな。痕跡からすると、ここはもう移動した後だな」

「三番目は、北で待ってるって言ってたのよ」

「北か」

 テーブルの上にはお茶とお菓子、データの他に、北地域の地図を用意しておいた。私の言葉で、皆、ゴソゴソと地図を覗き込む。

「これより北となると、辺境騎士団のエリアだな」

「だがこの辺は、金竜が目を光らせている。あいつはおそらく赤種の魔力も敏感に嗅ぎ取るぞ」

 辺境の話となり、ラウも話に加わってきた。
 ラウは両親と別れてから、訓練所に入るまで、金竜さんのところにお世話になっていたそうだ。
 金竜さんの性格や能力は、よく把握している。

 ラウが言うからには、間違いないんだろう。テラもラウに同意する。

「そうだろうな。これより北で、金竜の目が届かないところか」

「どこかあるかな? それを調べてもらいたくて」

 おそらく、そこに三番目がいる。
 もしかしたら、小さいメダルの開発者もいっしょにいるかもしれない。

「第七師団長が自由に手出しできないところだとすると、この中立エリアだよな。見回りはできないだろ?」

「見回りできないだけで目は届いてる。出入り口はしっかり見張ってるしな。開発者の情報だって、金竜に回ってるぞ」

 塔長の意見の隙をラウが指摘する。

 中立エリアは、エルメンティアとスヴェートの国境沿いにある一帯だ。
 エルメンティア側にはあるものの、スヴェートの文化に影響を受けており、国内なのに他国の様な都市になっている。

 観光スポットとしても人気で、エルメンティアだけでなくスヴェートからの旅行者も多い。
 こういった事情もあって、非武装の中立地域となっている。もちろん騎士団は入れない。

 騎士団が立ち入れるのは、捜索対象者や犯罪者がエリア内にいるのが明確なときのみ。

 二人の話を聞いて、今度はテラが口を開いた。
 地図の上に、指でくるりと円を描く。

「それなら、この辺のどこかだな」

 そこは紛れもなく中立エリア。
 今さっき、塔長が意見を出して、ラウが指摘したばかりの場所だった。

 私たちは顔を見合わせる。

「理由は?」

「金竜の目が届かない場所。つまり、赤の樹林だ」

「あ、そうか。精霊力のない場所」

「確かに赤の樹林なら、直接、見回りしない限り、金竜には見つからないが。そんな見落としを金竜がするか?」

 テラの意見に同意しつつも、隙の部分をラウが指摘した。

 そこへ、さらに塔長が口を挟む。

「ちょっと待て、師匠。そんなところに赤の樹林なんてあったか? こっちの記録にはないぞ?」

「舎弟。何を勉強してきたんだよ。樹林は増えるんだよ。広がるだけじゃない。突然、出現するんだ」

「何だって?!」「へー」

 うん、樹林が突然できるのは、私も知らなかった。

「三番目は『北』にいるが、探しているのに見つからない。
 ならば考えられるのは、中立エリア内に突然できた、赤の樹林だ」

「なるほどな。中立エリア内は見回りできない。赤の樹林は精霊力を使った探索ができない。出入りを誤魔化せば逃げ込める」

 テラの冷静な指摘に、ラウが同意する。
 そこに待ったをかけたのが塔長だ。

「ちょっと待て、師匠もラウゼルトも。第七師団だろ、出入りを誤魔化すなんてできるかよ」

 まぁね。塔長の指摘は尤だ。

 普通なら、出入り口をがっちり第七師団に見張られていれば、難しいと思う。

 でも。

 私たちが相手にしているのは、ただの普通種ではない。

「舎弟。何を勉強してきたんだよ。三番目は赤種。出入りなんて転移すれば簡単さ」

 テラはニタリと笑って、塔長を窘める。

「赤種に、一般常識を求めないでもらいたいな」
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