精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

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4 騎士と破壊のお姫さま編

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 それからは、私にとって静かな日となった。

 あれほどまでに、うるさくしつこく絡んできていたベルンドゥアンが何も言ってこなくなったのだ。

 元々、ジンクレストはグランフレイムの騎士。今も変わりなく、グランフレイム卿やマリージュの護衛騎士を交代で行っていると言っていた。
 専属護衛にならなかった理由はただひとつ。ネージュが戻ってくれば、また、ネージュの専属に戻るつもりでいたから。

 何度も、私はクロスフィアだと言ったのにね。

 ま、そんなわけで、ジンクレストは個人的な用がない限りは師団には来ない。
 今までの個人的な用事も、今回の話し合いですべてなくなった。なので、もう会うことはない。

 ようやく、肩の荷が降りたというか、ホッとしたというか。




「それ、貸して」

「あ、お返しします。これはネージュ様の物なので」

 あの時。ジンクレストはネージュのペンダントを大事に持っていた。
 これがひっかかったせいもあって、ネージュは車体から出られなかったんだよね。

 ジンクレストが差し出したペンダントの紅い石は、大きくヒビが入っていた。

 目を凝らすと、時が視える。

「これはミラージュの物だよ」

 私は石の表面を撫でた。
 うん、これなら直りそうだ。

「え?」

「幼いネージュがキレイな紅い石を欲しがって、ミラージュがネージュにあげたから。だから、元はミラージュの物」

 ネージュの記憶には残ってない、紅い石の記憶。撫でる手に魔力を込めると、魔力がヒビに吸い込まれる。

 撫でていた手を退けると、そこには傷ひとつないキレイな紅い石が現れた。

「え!」

「はい。直った」

 紅いペンダントをジンクレストに手渡すと、彼は嬉しそうな、悲しそうな、戸惑っているような、いろいろな表情を浮かべた。

「え? でも、これは」

「ネージュにとって、いつもそばにいた護衛騎士は母親代わりだったから」

 ま、男性が母親ってのもおかしいけどね。

「要らないなら、グランフレイム卿か総師団長にあげたら?」

 それがジンクレストとの最後の会話となった。




 あれから、ベルンドゥアンは元より、グランミストも何も言ってこなくなった。

 グランフレイムは最初から音沙汰なし。

 今から思えば、グランフレイム卿は、分かっていてネージュの死を肯定したんだろう。

 総師団長と第二師団長には、会議や打ち合わせでたまに顔を合わせるけど。
 個人的なことは何も話題に出ず、仕事の話だけして終わりになる。

 面倒臭く思っていた国王のお願い。

 蓋を開けてみたら、想像以上に面倒臭いことになって。とくに三番目関係の問題が山盛りとなって。

 それでも、ベルンドゥアンとグランミストの件は片が付いたから、良かったのかな。

 あとは国王から、旅行のプレゼントを貰うだけ。

 私の初めての旅行が、ラウとの初めての旅行になる。まだ新婚期間だから、新婚旅行っていうのかな?

 国王には、新婚旅行にぴったりなところをお願いしておこう。うん、毎日、楽しみが増える。

 またラウは旅行用にと張り切って、服やら下着やら発注していそうだけど。
 まぁ、とくに害もないだろうし、ラウの好きな物を着てあげるとするか。

「て! なんでまた僕が、呼び出されてまで、君の惚気話を聞かなきゃならないんだよ!」

 突然、テラが怒り出した。
 テラは、ラウの作ったお菓子を手にして叫ぶ。

 同時にソファーから立ち上がったものだから、テーブルにぶつかって、カップがガチャンと揺れた。

 隣で静かにテラ用のお茶をいれてる塔長が、突然のことに、慌ててカップを押さえる。

「え? 今のどの辺が惚気?」

「どう考えたって最後じゃないか?」

 私の自然な問に、憮然と答える塔長。

「そうだよ! 新婚旅行? けっ! 勝手に行けよ!」

「フィアとラブラブでイチャイチャな新婚旅行。楽しみ過ぎる」

 新婚旅行という言葉に恍惚としなから、私をギュッと抱きしめている暑苦しい夫は、そのままにしておくとして。

「ま、勝手に行くけど。お菓子を食べたがってここに来たのは、テラだよね」

「そう、菓子! 菓子だ! なんで、あの菓子が再現できているんだ?!」

「文句あるなら食べないでいいよ、テラ」

 あの菓子とは、大神殿での話し合いで、塔長が持ってきたお菓子のこと。

 美味しかったので、なくなる前にひとつ、ラウにも食べさせたんだ。
 もしかしたら、似たようなものを作れるんじゃないかと思って。

 そうしたら、まったく同じ、いや、それ以上のものができあがってしまったと。そういう訳だ。

「そっちだって用事があって呼び出したんだから、菓子くらい食わせろよ。じゃなくて、菓子!」

「仕方ないでしょ、ラウなんだし」

「黒竜の技能、いったい、どうなってんだよ?」

 まったくだよね。怖いから詳しく視てないけど。

 ルミアーナさんの推し活技能がラウにもあるんじゃないか。

 この推測はすぐさま消えることになる。

 ラウにとって私は『推し』ではなく『奥さん』。だから、推し活技能はありえない。

 後は推し活技能に類似した他の技能か、もしくは個々の技能にラウの適性があるかのどっちか。

「私を喜ばせたいというラウの気持ちが、技能に形を変えてるんだよ」

 良いこと言った!

 と思ってるそばから。

「凄いな、黒竜。執着が他の技能を引き寄せてるぞ」

 ゲホ

 それってどういう鑑定?

「言ってることは、師匠もクロエル補佐官も同じだよな」

 ゲホゲホ。違う、絶対に違う。

 咳き込んで声が出ない。言葉が返せない。
 私の様子に慌てたラウが、私の背中をさすってくれる。
 なのに咳が止まらない。声が出ない。

「これが現実だ。そろそろ現実を見た方がいいぞ、四番目」

 反論しない私に向かって、テラがさらに怖いことを言い出した。

「伴侶が絡むと、黒竜の執着に会得できない技能はないということだ」

 言い切って満足したのか、ポリポリとお菓子を食べ出る音が聞こえてくるし。
 隣では「涙目のフィアがかわいい」なんて声も聞こえてくるし。

 とりあえず、私は咳が治まるのを待つしかなかった。
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