精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

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4 騎士と破壊のお姫さま編

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「護衛だろ! 守るための努力は当たり前だ!」

 思わず、テーブルを拳で叩きつけ、立ち上がった。
 同時に、俺の怒気が冷気となって、元護衛に突き刺さる。

「おい、待て、ドラグニール」

「ラウゼルト、落ち着くんだ」

 総師団長とレクスがとっさに立ち上がり、風で防壁を出して勢いを削いだ。

 だが、まだ俺の冷気は止まらない。

 そのまま、元護衛に突き刺さる。と思った瞬間、元護衛のやつが土の防壁を出した。表情はずっと硬いままだ。

 そうだ、こいつ。風と土を操るんだったな。

 俺の冷気が土の壁に当たって霧散する。

「何をすました顔をしてやがる。最後まで守りきれなかったくせに」

 俺が吐き捨てた言葉を聞き、元護衛のさっと顔を赤くした。拳もぎりっと握りしめる。

「待機はグランフレイム卿の命令で、仕方なく」

 元護衛は、悔しそうな恨みがましい眼差しを俺に向けた。
 睨む相手は俺じゃないだろ。

「それで? 他に何を努力した? ただ、そばにいて、それだけだろ? それで、どうにかなると思ってたんだろ!」

 俺はテーブルの周りをゆっくりと歩いた。このムカつくやつに相対するため。

「専属護衛が出過ぎた真似など、できるわけがない。俺だって、ただ、見守るだけしかできなくて、苦しかったんだ」

 ネージュを死に追いやったのはグランフレイムだ。そいつらに怒りをぶつけず、こいつは俺に怒っている。

 こいつがそう来るなら、迎え撃つだけ。元よりこいつは気に入らない。

「何が苦しかった、だ。一番苦しくてつらかったのは誰だと思ってる。お前は見守っていたんじゃない。見て見ぬ振りをしていただけだ」

 俺は双剣を顕現させる。

 俺の怒気が魔力となって、さらに辺りに広がった。
 すでにフィアの魔力が充満しているところに、さらなる魔力の追加だ。圧がかかる。

 さすがに、レクスも総師団長も顔色が悪い。平気なのはチビだけのようだ。

「けっきょく、お前のその行動が、主を死に追いやったんだ。なのに、何をいまさら…………」

 俺がさらに魔力を強めると、こいつも応じて防壁を強める。風と土の二重防壁だ。

 こいつ、初対面のときなんて、殺気に固まって身動きひとつできなかったのに。

 俺はじりっじりっと距離を詰め、双剣を元護衛に向けた。

「ラウゼルト、そこまでにしろ」

 レクスが俺に声をかける。

 が、俺はそのまま、その場で片方の剣を振り下ろした。

 グォン

 風圧が元護衛を襲う。

 シュッ

「くっ」

 が、こいつ、俺の風圧を自分の魔力に風と土の精霊力を乗せて受け流しやがった。

 ならば、もう片方。

「ラウゼルト、もういい加減にしろ!」

 腕に手が掛かる。意外とがっしり掴まれた。

「レクス、俺は腹立たしいんだよ」

「分かってる。だから、そこまでにしろ」

 レクスの腕を振り払って俺は叫んだ。
 あの最期を見て、何も感じないのかよ。

「分かるものか。俺は、俺より近くにいて、手を差し伸べることができたコイツらも腹立たしいが、俺自身にも腹が立って仕方ないんだ」

 俺は剣を振りかぶる。

「黒竜、過ぎたことだ」

 チビがやれやれといった顔でオレを窘めるが、俺の高ぶりは収まらない。

「それでも。いまさら、何もできないことに対しても、腹が立つんだよ!」

 剣を振り下ろそうとした、まさにその瞬間。

 ズキン

 俺の胸、というか腹の辺りに衝撃が走った。

「黒竜、四番目はそれほど気にしてない」

 ズキン、ズキン

 チビの声が遠くに聞こえる。
 あまりの痛みに、振り上げた腕がズルッと落ちた。

 ズキン、ズキン

 ひとまず、怒りを収めたと思ったのか、チビがはぁーとため息をつきながら、呑気な声で話しかけてくる。

「四番目に続いて、お前まで暴れたら、収拾がつかなくなるだろ」

 痛みを周りに気づかれないよう、平静を装うが、じっとりと、額に汗がにじんでくる。

 なんだ、この焼けるような痛みは。
 フィアに何かあったのか。

 俺の様子に気づくことなく、チビが話を続ける。

「だいたい腹を立てる暇があるなら、その分、今の四番目に愛情かけてやれよ」

「あぁ、元よりそのつもりだ」

 チビになんとか言い返すと、今度は頭の中をかき乱されるような衝撃がやってきた。

 やっぱりフィアに何かあったんだ。

「三番目と四番目がやり合ってる。四番目が劣勢か」

 衝撃に耐える俺の耳元でチビの声がした。チビのやつ、俺の様子に気づいていたんだ。

 視線が合うとチビはニタリと笑った。

 くそっ。

 元護衛に怒りをぶつけている場合じゃない。自分に腹を立てている場合でもない。

 俺は何をやってるんだ。

 チビの言う通り。大事なのは今、俺といっしょに生きてくれているクロスフィアだろう。

 俺は無意識に、胸の組み紐飾りへ手を当て目を伏せる。

『大丈夫だ、フィア。俺がついている。いざという時は俺の魔力を使え』

 しばらくすると、胸の組み紐飾りがすーっと暗く光った。

 と思ったら、感じていた痛みや衝撃も、波が引いていくようにサーッと収まっていく。

 フィア、乗り切ったんだな。

 目を開けると、チビがまだ俺を眺めていた。再度、視線が合うと何も言わず、チビはニタリと笑う。

 そのまま、チビは俺から視線を外した。
 もう、俺の番は終わりとでも言うかのように。

 そして今度は、ムカつく元護衛にニタリと笑いかける。

「ところで。ネージュの最期を見て、どうだった? お前の名、呼んでただろ?」

 チビは心の抉り方をよく分かっていた。
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