精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

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4 騎士と破壊のお姫さま編

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「ラウ、ちょっとボコボコにしてくるね」

「ここで待ってる。気をつけるんだぞ」

「うん」

 ちょっとそこまで、と散歩に行くかのような気軽さで、フィアから声がかかった。

 その直後。

 もの凄い圧がこの場にかかる。フィアの魔力圧だ。かなり怒ってるな。

 俺すらも、胃から何かがせり上がってくるような、どうしようもない吐き気に襲われた。
 さすがに総師団長と第二師団長は耐えているが、ベルンドゥアン卿と元護衛は今にも吐きそうだ。

 と思ったそばから、ベルンドゥアン卿が倒れる。

 第二師団長が慌ててベルンドゥアン卿の身体を支え、建物の方へ避難させた。
 グランミスト嬢が向かったところに連れて行ったのだろう。

 はぁ。

 弱いな。普通種はこの程度か。




 大神殿には約束の時間通りにたどり着いた。
 フィアのリクエスト通り、飛竜で颯爽と降り立つ。格好いいぞ、俺。

 そこには、グランミスト師団長とその娘、ベルンドゥアン第二師団長とその兄、そして元護衛が揃っていた。

 大神殿側の立会人として、赤種のチビと神官長がいる他、国側の立会人として、レクスも来ている。

 話し合いは完全に平行線だった。

 元護衛もその親も、総師団長も勝手なことばかり。対して、フィアはどっちもぶった斬った。
 元護衛の話はつまらない、総師団長の思いは興味なし。

 そりゃそうだ。

 ネージュとして死んだ時点で、フィアは新しい人生を始めたんだ。なんで、いまさら、過去に向かう必要がある?

 そこへ赤種の三番目だとかいう、黒猫がやってきて見せたのが、ネージュの最期とフィアの最初の記録映像。 

 フィアとチビは菓子を食いながら見ていたが。
 とてもじゃないが、穏やかな気持ちでなんて、見ていられなかった。

 ネージュの兄も妹も、グランフレイムの護衛も、その場に居合わせたら、全員消してやったのに。

 そして、ネージュの最期の叫びが耳に残った。




「黒竜。何、ニヤニヤしてるんだよ」

 赤種のチビが俺を現実に引き戻す。

 記録映像の後、俺を侮辱した黒猫に突然攻撃を仕掛けたフィア。それから俺だけに言葉をかけて消えたフィア。

 うん、俺は愛されている。間違いない。

「俺のフィアが、俺だけに言葉をくれたんだ。これぞ、俺だけ愛されている証」

「けっ」

 頷く俺を、変なものでも見るように、ジロッと見る赤種のチビ。
 そこへ、総師団長が割り込んだ。

「ドラグニール、そういうのは要らないから。何がどうなってるんだか説明してくれ」

「見て分からんのか?」

「分かるかよ」

「俺の奥さんは最強だってことだ」

 自慢げに胸を張る俺。
 伴侶の強さは俺の強さにも繋がる。逆もまた然り。

 俺の堂々とした宣言が総師団長は気に入らなかったようで、嫌そうな顔をした。

「お前に説明を求めた俺がバカだった」

「オッサンは、臆面もなくここに顔を出してる時点でバカだろ」

 嫌な顔の総師団長に対して、もっと嫌そうな顔をしているチビがつっこむ。

「あれほど警告したのにな」

 どうやら、事前に何らかの話があったようだ。チビの言葉にぱっと顔を赤くする。

「師匠。つまり、さっきの黒猫が変化の赤種、三番目のクロエル様ってことだよな」

「そうだな」

「三番目のクロエル様が関与をして、クロエル補佐官の覚醒につながった」

「それは何とも言えないな」

 レクスが話をまとめにかかるが、チビが待ったをかけた。

「違うのか、師匠?」

「運命なんて、そんな単純なものじゃない。いろいろなものが複雑に絡み合っているんだ」

 チビのくせに、訳知り顔でものを語る。
 こういうところが、本当に子どもらしくない。

「なら、複雑に絡み合った結果、クロエル補佐官は赤種として覚醒したと?」

「まぁ、そういうことだな」

「それで、現在はラウゼルトがクロエル補佐官を縛っている」

「騙して同意させて、縛り付けているわけですよね」

 レクスの言葉に、記録映像を見て呆然としていた元護衛が復活してきやがった。
 しかし、元護衛をチビが否定する。

「それは違うぞ。ネージュの元護衛。赤種の四番目は最強なんだ。本人に自覚がないだけで」

「だから、何だと言うんですか」

「だから、黒竜が四番目を縛っているんじゃない。四番目が黒竜に縛られてやってるんだよ」

 俺がフィアを選んだだけではなく、フィアも俺を選んでくれたってことか。
 嬉しくて顔が緩む。

 元護衛の方は声も顔も硬くしていた。

「本人の意志だと言うんですか」

「当然だな。破壊の赤種は神をも壊す。伴侶の契約なんて簡単に壊せるはずだ」

「でも、クロエル補佐官はそうはしなかった」

「つまり、俺は愛されてるってことだ」

 そのとき、緩みっぱなしの俺にチビがチクリと警告を放った。

「お前も調子に乗るなよ、黒竜。竜種の愛は一方通行。いつどこで、破壊の赤種の癇に障るか分からんぞ」

 一瞬で、俺の心は引き締まる。

「分かってる。だから、お互い、すれ違わないよう、考えてること、思っていることは伝えあってる」

「その辺は進歩したな」

 俺は顔の緩みを抑えて話を続ける。

「それに、愛されるための努力は欠かしてない」

「多少ずれてるけどな」

「お前は、何も努力してないだろ」

 俺は元護衛を揶揄するように声をかけた。

 ムカつくこいつは、硬い顔のまま下を向いていたが、俺に話を振られ、身体をビクンとさせる。

「五年間、常にネージュ様に寄り添い、持てるすべてを捧げてお守りしていました。努力は怠っていません」

 なんだと。なら、なんでネージュは死んだんだ?!

 挑むような元護衛の言葉が耳に入るや否や、俺の怒りが突然、膨れ上がった。
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