精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

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4 騎士と破壊のお姫さま編

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 二日後。

 ついに、グランミスト、ベルンドゥアンとの話し合いの日が来た。

 俺は朝から、いや、起きる前から緊張していた。

 寝ぼけたフィアが、かわいい顔で俺にしがみついていたのだ。
 たいていは、俺が抱きしめている方なのに珍しい。なんともない口振りだったが、フィアもそれなりに緊張していたのだろう。

「ラウ、おはよう」

 寝ぼけた顔で、ムニャムニャ言いながらも、朝の挨拶をしてくれる。

「フィア、本当に本当に大丈夫か? 本当は今日の話し合い、嫌なんじゃないか? 旅行のために我慢しなくていいんだぞ?」

「ラウにくっついていると、ぐっすり眠れて、回復が速いんだよね」

 違った。

 今日の話し合いが不安で、俺にくっついてたわけじゃなかった。

「昨日、鑑定眼と時空眼を発動させたでしょ?」

 そうだった。

 フィアが指摘していた黒の樹林二ヶ所は、見事に第六師団の担当になった。
 緊張する部隊長たちを安心させようと、フィアが遠隔で鑑定すると言いだしたのだ。

 精度は落ちるという話だったので、少しでもフィアの負担を減らそうと、俺は第一塔からナルフェブルを取り寄せた。
 ナルフェブルは樹林研究の第一人者。他の樹林との違いには敏感なはずだ。

 俺の予想は当たり、ナルフェブルが精霊力の暴走を指摘。本部にかけあったところ追加予算が出る運びとなる。

 フィアからは尊敬の眼差しを向けられ、ナルフェブルからは新たな事象を発見できたお礼を言われ、部隊長たちは情報増と予算増に安心し、良いこと尽くし。

 フィアは遠隔鑑定の影響で、疲れてぐったり。俺に抱き抱えられて帰宅するほどの、状態だったのだ。

「けっこう、魔力も体力も持っていかれたから」

「それなら、体調、悪いんじゃないか? どこかおかしいところはないか? 大丈夫か?」

 フィアの体調が悪ければ、あいつらだって、無理にとは言わないはずだ。
 なにせ、あいつらは、ネージュを心配して話し合いを求めているのだから。

「いや、何ともないけど」

「魔力も体力も持っていかれたんだろ。無理せず、今日は休もう」

 俺はベッドから出ようとするフィアを押しとどめる。
 物理的なものなら、フィアに負けるはずもなく、フィアはこてんと俺の腕の中に転がってきた。

「え、もうたっぷり休んだけど」

 抗議の声をあげるフィア。かわいい。
 ちょっと上目遣いで睨みつけるような紅の瞳が、とてもかわいい。

 フィアの頭をそっと撫でる。癖になりそうだ。

「いやいや、フィアには休息と俺の愛が必要だ」

「え、またラウが、おかしくなってるんだけど」

「大丈夫だ、フィア。俺はいつも通りだ」

 頭だけでは物足りず、あちこち撫で回してみる。
 そうだ、あそこも。と思ってフィアの寝衣に手を入れようとした矢先、ガシッとフィアが俺の手を押さえた。

「ラウ。話し合いを先延ばししても事態は変わらないでしょ?」

 事態は変わらないが、フィアを撫で回す時間が増えるのに。

 フィアの口調は穏やかだが、目つきがきつくなってきた。どうやら、撫で回しは許してもらえそうにない。

「だったら、さっさと終わらせよう」

 俺の手を握ったまま、フィアは器用に起き上がる。そして、俺も起き上がらせる。

「ね」

 下から覗きこむようして念を押された。
 俺はしぶしぶ、返事をする。

「あぁ、そうだな。そうしようか」

「うん、さっさと終わらせて、二人で旅行いこうね!」

 けっきょく、フィアの頭の中は旅行でいっぱいだった。

 あぁ、そうだ。

 グランミストやベルンドゥアンのこと、あのムカつく元護衛のこと、俺はいろいろと不安に思っていたが。

 フィアが考えていることは、けっきょく、俺との旅行のことだった。
 他のことなんて、微塵も考えていないんだ。

「あぁ、そうだな、フィア」

 俺は伴侶の言葉に大きく同意した。




 そうと決まればそれからの行動は早かった。約束の時間は十時。時間の余裕はあるので、服装は念入りに準備していく。

「ラウ。ここまで揃える必要あるの?」

 今日のフィアは上下黒。ところどころに銀糸の刺繍が入っている。俺とまったく同じ服装だった。かわいい。

 もちろん、用意したのは俺。

 夏場、飛竜で遊覧デートでもするときに、と思って発注しておいたのに。

 まさか、グランミストやベルンドゥアンとの話し合いの場で着ることになるとは思わなかった。

 髪はサイドに編み込みをして、後ろでひとつにまとめる。真後ろではなく、やや左側にして、伴侶の契約印がチラッと見えるようにした。
 こういった細かいところの見せびらかしが重要だと、金竜がよく言ってたよな。

 もちろん、髪のセットも俺。

 メランド卿を信用していないわけではないが、やはり、奥さんの髪は俺の手でセットしたい。

 そう思って、髪結いの技術を学んだ。

 王族の専属髪結い師から、直接、指導を受けたので、技術はもちろんのこと、状況に応じた髪型が作れるようになって、かなり満足している。

 フィアは銀髪なので、生花でも飾るともっと映えるのだが、これから飛竜での移動。
 防風の魔法は使っても、風で吹き飛ばされる恐れがあるため、黒いリボンの編み込みと飾り付けだけで、我慢することにした。

「うん、かわいいね」

 姿見の前で、くるんと回る。

 そんなフィアに俺は手を伸ばした。

「さぁ、行こうか」

 いざ、飛竜に乗る時点になって、俺はちょっと躊躇する。

 こんなかわいいフィアをあのムカつく元護衛に見せたくない。
 あいつは初めて会ったときから、いや、違うな、会う前からだ、ムカムカして気にくわなかったんだ。

「行こう、ラウ」

 かわいい笑顔を向けてくれるフィアを飛竜に乗せ、出発した。

 俺のぐだぐだな感情が俺の飛竜にも伝わっているんだろう。いつもより、飛竜も元気がない。
 心配そうに、グルグルと声をあげている。

 そんな飛竜をなだめるように、フィアが飛竜を優しく撫でた。

「やっぱり、ラウとラウの飛竜が一番格好いいね」

 グルグルという声がぴたりと止まる。

「今日はよろしくね」

 クォーーー

「調子のいいやつだな」

 フィアに誉められたとたんに、元気になったぞ、こいつ。

 俺のぐだぐだはまだ少し残ったまま。
 それでも、一番格好いいと言ってくれる奥さんに、格好悪いところは見せられない。

「行くぞ」

 飛竜に短く声をかけ、宙に舞い上がる。

 風を切って大神殿へ着く頃には、俺のぐだぐだも、さらに落ち着いてきた。

 よし、これなら、格好悪いところを見せずに済むな。

 このときの俺は、自分のぐだぐだに気を取られるばかりで、これから起こる事態をまったく想定できていなかった。
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