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4 騎士と破壊のお姫さま編

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「そもそも、俺とフィアの婚姻を応援してくれたのは、師団本部と大神殿だろ」

 俺は下を向いて、鬱憤を晴らすように、怒鳴りつけた。

 ベルンドゥアンが、なんだと?聞いてないぞ!とでも言いたげな顔をして、同じ様に下を向いて固まっている。

 俺は言葉を続けた。

「なのに、何をいまさらなことを言われなきゃならんのだ?」

「そこをなんとか、なんとかお願いしたいんだ、ドラグニール」

 総師団長は俺の目の前の床で、きっちり正座をしたまま土下座していた。

「でないと、娘に嫌われる」

「知るか」

 深々と頭を垂れる総師団長。

「お父さまは役立たずだ、そんなこと言われたくないんだ」

「だから知るかよ、そんな話」

 深く頭を垂れたまま、ボソボソと情けないことを言っている。
 と思ったら、突然、ガバッと顔をあげ叫びだした。

「妻にも愛想を尽かされたら、どうしてくれる?!」

「知るか! 家庭の話を師団に持ち込むな! 家庭内でどうにかしろ!」




 この日、第四師団問題で、総師団長、第二、第四、第六、第八の各師団長との話し合いが行われた。

 はぁ。いったい何度目だ?

「第二師団が第四師団の全面支援に回る」

 総師団長がはっきりと告げた。

「北部の黒の樹林は第六師団、自然公園は第八師団に担当を移す。期間は第四師団の人数が揃うまでだ」

 全員の目が完全に疲れている。

 無理もない。

 残った第四師団の騎士のムチャクチャぶりは酷いものだった。
 あれに振り回されたのだから、どの師団も、やり切れない疲れが溜まっている。

「採用してすぐ使えるようになるのか?」

「三ヶ月から半年くらいはかかると思う」

 俺の質問に第四師団長である紫竜が、疲れたような声を出した。

「ああいう精霊騎士を中心に集めているからね。皆、なかなか、独自路線を手放してくれなくてね」

「まぁ、それが第四師団だからな」

 精霊魔法至上主義な精霊騎士を集めた集団。それが第四師団だ。実力も頭の中身も中途半端、口だけは一人前。そんなやつが多い。

 その中でも、まともで使えるやつはスヴェートに引き抜かれたわけだから、使えるやつが残っているはずがない。

 ここにいるのは、そういった事情をきちんと理解しているものばかり。

 はぁ。

 ため息が揃って出た。

「なら、最長半年、ということだね」

 第八師団長が重い口を開いた。

 第八師団長はレクスの兄、第二王子だ。レクスが腹が真っ黒なのに対して、こっちは清廉潔白、対照的な兄弟だ。

 精霊魔法の級位は王族一。
 上位竜種で一番精霊魔法に長けている紫竜とは話が合う。
 無情である紫竜と仲が良い、数少ない普通種でもある。

「あぁ、よろしく頼むよ」

 紫竜が俺たちに向かって頭を下げた。

「第三師団の方も増員となるので、各師団の要人警護や家族の護衛に割く人数が減るはずだ」

 護衛騎士とはいえ、けっきょくは他師団の人間だ。異動してくるわけでもない。
 信用信頼という観点からすると、自前の護衛班を頼った方が何倍もいい。

 そういった理由から、この警護の話はどの師団もいい顔をしていない。

 それを証明するように第八師団長が、辛辣な言葉を返した。

「それで、こちらの負担も減るとでも言いたいようだね、総師団長は」

「第三師団は護衛に特化した騎士だ。
 もちろん、各師団の護衛班の腕前も信用している。
 その上で、護衛専門騎士が加わるので、より警護が充実すると思って欲しい」

「物は言い様だね。僕の足手纏いにはならないで欲しいものだな」

 訂正する。

 第二王子もけっこう言うな。
 穏やかだけどキレると怖い、銀竜タイプのようだ。怒らせないようにしないとな。

 そして、話があるからと、俺と第二師団長がその場に残され、いきなりの土下座が始まったというわけだ。




「それで、師団本部と大神殿がドラグニールの婚姻を後押ししたとは、どういうことなんだ?」

 ベルンドゥアンが、もっともな質問をしてくる。
 おそらく、フィアの覚醒時の話は本部と第六師団以外は一部の人間にしか、知られていないのだろう。

「竜種の婚姻は国をあげて応援、歓迎されてるからな。当然の話だろ?」

 もっともな質問に対して、俺はもっともな返答をした。
 他にも複雑な事情はあるが、根本はこれだ。

「それはそうだが」

「それに俺は黒竜だしな」

 俺たちは土下座で頭を下げた状態の総師団長を無視して話を続けた。

「あぁ、歴代の黒竜は力が強すぎて、耐えられる伴侶がいなかったんだったな」

「知ってるよな。上位竜種が伴侶を捕獲できないと、どうなるか」

「そ、それは」

 伴侶の有無は、力の強さと安定化に影響する。
 これが上位竜種となれば、事態はもっと深刻だ。伴侶を得られない上位竜種は、力と精神のバランスを崩して死にいたる。
 黒竜は代々、力の強さが災いして、伴侶を得られず、短命の者ばかりだった。

 それを知ってるのならば、俺からフィアを離す行為が何を引き起こすか、分からないはずがない。

「知ってて、俺からフィアを奪うようなことをするのか? まったく酷いやつだな、お前」

「だが、ジンも苦しんでいるんだ」

「俺に死ねって言うんだな」

「そういうつもりじゃ」

「ないなら、なんなんだよ」

 俺はベルンドゥアンを怒鳴りとばした。
 いっしょに冷気も飛び散る。

 こいつも総師団長も、まったくなんなんだ。
 そんなに大事な存在なら、なんで、手放した。なんで、大切にしなかった。

 あのムカつく元護衛もそうだ。

 そんなに大事なら、グランフレイム卿の指示に逆らって同行すれば良かったんだ。
 自分から離れておいて、何をいまさら言うだか。

 俺はあまりにも身勝手なやつらに、怒りを覚える。

 俺の怒りを受けて、二人は完全に黙りこむ。
 そいつらを置き去りにして、俺は凍りついた部屋を後にした。
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