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4 騎士と破壊のお姫さま編
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翌日。
シュタムグループの印が入った封書が、俺宛に届いた。
『ドラグニール師団長におかれましては、いつも、妻のマリティナがお世話になっております』
本物だ。
エルヴェスのやつ、本当にシュタムのオーナーで会長夫人だった。
『この度は、数ある劇場の中から、我がシュタム劇場を選んでいただき、とても光栄に存じます』
マジか。
あんなのが会長夫人でいいのか、シュタムの会長。
『つきましては、特別観覧席をご用意いたしました。静かな環境でご観劇いただけるかと思います』
シュタム劇場でしか上演してないからな、あの人気作とやらは。
題名は『荒竜と破壊のお姫さま』。
乱暴で一人ぼっちになった竜が、捨てられた破壊のお姫さまを伴侶にして幸せを見つける、という何とも俺たち夫婦にピッタリな話だ。
て、ピッタリ過ぎないか?
話のモデルになったと思われても、不思議ではない。
『ドラグニール師団長ご夫妻の来場は、シュタム劇場としても大歓迎ですので。劇場員一同、ご来場をお待ちしております』
確かに俺とフィアが観劇したとなったら、シュタム劇場側でも、かなりの宣伝になるよな。
「エルヴェス、何かやったな」
「ヤダー、師団長。アタシの才能を妬まないでほしいわー」
執務室で招待状を見ながら、小さくつぶやいたのに。離れたところにいたエルヴェスが反応した。
「お前か。お前が劇に仕立てたのか」
「ヤダー、師団長。企画してまとめあげたけど、原作書いたのはチビッコだからー」
絶句する。
チビッコって。あれだろ、赤種のチビのことだろ。
創造の赤種に何をさせてんだ、こいつ。
「ソレで、ナンテ書いてあったのー?」
「知らんのか?」
「ウヘ」
この様子だと、どうやら本当に知らないらしい。
シュタムの会長も、師団長付き副官も、どちらも忙しい職業だ。お互い、顔を合わせる暇もないのかもしれない。
まぁ、エルヴェスの忙しさを作り出しているのは半分は俺なんだが。
俺はちょっとだけ、エルヴェスに同情する。
俺だったら、忙しくて最愛の人と会えないなんてのはゴメンだな。
どんなに忙しくたって、フィアと会話して、フィアと触れ合って、生きていたい。
俺は竜種だからな。
普通種は、伴侶との触れ合いがなくても生きていけるらしいが、俺には到底、理解できない。
「いつもお前が世話になってるからって、特別招待状をもらったぞ」
「ヤルワネ、ヴィルのやつ」
「シュタムの会長を呼び捨てか」
どうやら、仲は良いようだ。
俺は少しホッとした。
俺が忙しくさせたせいで、仲が悪くなったなんて言われたくもないからな。
「夫だからね! それに、アイツはアタシの元護衛だし!」
いらない個人情報がバンバン飛んでくる。
こいつらは護衛とお姫さまが結ばれたパターンか。まぁ、なくはないか。
しかし。
「待て。なんで護衛が実業家になってるんだ?」
しかも、大グループの会長。
出世の幅が凄すぎないか?
事業の種類も単一ではない。
服飾、飲食、芸術に娯楽。輸入と流通にも手を出していて、老舗ではないが手堅く商売をしている。
とてもじゃないが、護衛上がりの人間の手腕とは思えない。
「ハァア? ソコはフツー、なんで護衛がお姫さまと結婚してんだ?じゃないのー」
「興味ない」
護衛対象に想いを寄せる護衛騎士と聞くと、フィアの元護衛を思い起こしてしまって、気分が悪くなる。
そんな俺の表情を読みとって、エルヴェスは適当に話題を変えた。
「ウケケ。マー、いいわ。お姫さまの豪奢な生活を支えるために、護衛は実業家になって大儲けしたのよー」
「そこは騎士じゃないのか?」
しかも、ただの実業家ではない。
大儲けの度が過ぎないか?
豪奢な生活を支えるだけなら、ここまでグループ展開して、手広くする必要もないだろうに。
なんだか、引っかかりを感じる。
「元手はあったし、才能もあったからー」
そうだ。
シュタムグループは老舗ではないが、創業は十年以上前のはず。
エルヴェスがエルメンティアに来たのは十年前。あのクーデターのときだって話だったよな。
エルヴェスの護衛がエルヴェスのために創業したとすると、このズレはなんだ?
「お前がこの国に来る前から、シュタムはあるよな?」
「ソウよー 仕事が軌道に乗ってて生活できそうだったから、コッチに来れたってやつ?」
シュタムグループはスヴェートやメイ群島の品も取り扱い、輸入販売も手がけている。それは昔も今も変わらない。
品物のやり取りがあるのなら、別の物のやり取りもあるはずだ。
「なるほど。シュタムグループを隠れ蓑にして、情報組織も運営しているわけか」
一瞬、エルヴェスの口の端がヒクついた。よく観察していないと分からないくらい小さく。
図星だな。
どうりで、エルヴェスのやつ、スヴェート皇帝や皇女の情報に、未だに詳しいはずだ。
「アラ? ナンの話かしらー? 運営は夫だからアタシは門外漢なのよー」
エルヴェスは明後日の方向を見ながら、うそぶく。あぁ、これで確定だな。
「とにかく、ほわほわちゃんにエッチな下着なんて作ってないで、当日の服装、ハリキリなさいよー」
「だから、顧客情報!」
これで、チケットの心配はなくなったが、顧客情報が漏れる心配が増えた。頭の痛い問題だった。
シュタムグループの印が入った封書が、俺宛に届いた。
『ドラグニール師団長におかれましては、いつも、妻のマリティナがお世話になっております』
本物だ。
エルヴェスのやつ、本当にシュタムのオーナーで会長夫人だった。
『この度は、数ある劇場の中から、我がシュタム劇場を選んでいただき、とても光栄に存じます』
マジか。
あんなのが会長夫人でいいのか、シュタムの会長。
『つきましては、特別観覧席をご用意いたしました。静かな環境でご観劇いただけるかと思います』
シュタム劇場でしか上演してないからな、あの人気作とやらは。
題名は『荒竜と破壊のお姫さま』。
乱暴で一人ぼっちになった竜が、捨てられた破壊のお姫さまを伴侶にして幸せを見つける、という何とも俺たち夫婦にピッタリな話だ。
て、ピッタリ過ぎないか?
話のモデルになったと思われても、不思議ではない。
『ドラグニール師団長ご夫妻の来場は、シュタム劇場としても大歓迎ですので。劇場員一同、ご来場をお待ちしております』
確かに俺とフィアが観劇したとなったら、シュタム劇場側でも、かなりの宣伝になるよな。
「エルヴェス、何かやったな」
「ヤダー、師団長。アタシの才能を妬まないでほしいわー」
執務室で招待状を見ながら、小さくつぶやいたのに。離れたところにいたエルヴェスが反応した。
「お前か。お前が劇に仕立てたのか」
「ヤダー、師団長。企画してまとめあげたけど、原作書いたのはチビッコだからー」
絶句する。
チビッコって。あれだろ、赤種のチビのことだろ。
創造の赤種に何をさせてんだ、こいつ。
「ソレで、ナンテ書いてあったのー?」
「知らんのか?」
「ウヘ」
この様子だと、どうやら本当に知らないらしい。
シュタムの会長も、師団長付き副官も、どちらも忙しい職業だ。お互い、顔を合わせる暇もないのかもしれない。
まぁ、エルヴェスの忙しさを作り出しているのは半分は俺なんだが。
俺はちょっとだけ、エルヴェスに同情する。
俺だったら、忙しくて最愛の人と会えないなんてのはゴメンだな。
どんなに忙しくたって、フィアと会話して、フィアと触れ合って、生きていたい。
俺は竜種だからな。
普通種は、伴侶との触れ合いがなくても生きていけるらしいが、俺には到底、理解できない。
「いつもお前が世話になってるからって、特別招待状をもらったぞ」
「ヤルワネ、ヴィルのやつ」
「シュタムの会長を呼び捨てか」
どうやら、仲は良いようだ。
俺は少しホッとした。
俺が忙しくさせたせいで、仲が悪くなったなんて言われたくもないからな。
「夫だからね! それに、アイツはアタシの元護衛だし!」
いらない個人情報がバンバン飛んでくる。
こいつらは護衛とお姫さまが結ばれたパターンか。まぁ、なくはないか。
しかし。
「待て。なんで護衛が実業家になってるんだ?」
しかも、大グループの会長。
出世の幅が凄すぎないか?
事業の種類も単一ではない。
服飾、飲食、芸術に娯楽。輸入と流通にも手を出していて、老舗ではないが手堅く商売をしている。
とてもじゃないが、護衛上がりの人間の手腕とは思えない。
「ハァア? ソコはフツー、なんで護衛がお姫さまと結婚してんだ?じゃないのー」
「興味ない」
護衛対象に想いを寄せる護衛騎士と聞くと、フィアの元護衛を思い起こしてしまって、気分が悪くなる。
そんな俺の表情を読みとって、エルヴェスは適当に話題を変えた。
「ウケケ。マー、いいわ。お姫さまの豪奢な生活を支えるために、護衛は実業家になって大儲けしたのよー」
「そこは騎士じゃないのか?」
しかも、ただの実業家ではない。
大儲けの度が過ぎないか?
豪奢な生活を支えるだけなら、ここまでグループ展開して、手広くする必要もないだろうに。
なんだか、引っかかりを感じる。
「元手はあったし、才能もあったからー」
そうだ。
シュタムグループは老舗ではないが、創業は十年以上前のはず。
エルヴェスがエルメンティアに来たのは十年前。あのクーデターのときだって話だったよな。
エルヴェスの護衛がエルヴェスのために創業したとすると、このズレはなんだ?
「お前がこの国に来る前から、シュタムはあるよな?」
「ソウよー 仕事が軌道に乗ってて生活できそうだったから、コッチに来れたってやつ?」
シュタムグループはスヴェートやメイ群島の品も取り扱い、輸入販売も手がけている。それは昔も今も変わらない。
品物のやり取りがあるのなら、別の物のやり取りもあるはずだ。
「なるほど。シュタムグループを隠れ蓑にして、情報組織も運営しているわけか」
一瞬、エルヴェスの口の端がヒクついた。よく観察していないと分からないくらい小さく。
図星だな。
どうりで、エルヴェスのやつ、スヴェート皇帝や皇女の情報に、未だに詳しいはずだ。
「アラ? ナンの話かしらー? 運営は夫だからアタシは門外漢なのよー」
エルヴェスは明後日の方向を見ながら、うそぶく。あぁ、これで確定だな。
「とにかく、ほわほわちゃんにエッチな下着なんて作ってないで、当日の服装、ハリキリなさいよー」
「だから、顧客情報!」
これで、チケットの心配はなくなったが、顧客情報が漏れる心配が増えた。頭の痛い問題だった。
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