精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

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4 騎士と破壊のお姫さま編

4-0 第六師団長の煩わしい日々

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 俺、ラウゼルト・ドラグニールは、この日、師団長室で緊張していた。

「エルヴェス、用というのは他でもない」

 これから相談しようとしているのは、俺の人生をかけた大切な案件であり、最重要課題だ。

 前回の最重要課題の際、素晴らしい功績をあげたエルヴェスに、今回も俺の人生を託すべく呼び出したというわけだ。

 俺は緊張もあってか、いつもより固い声が出た。

「モチのロンよ!」 

「おい、まだ何も言ってないぞ」

 そんな俺に対して、明るく軽く即答するエルヴェス。

「ほわほわちゃんと、観劇に行きたいんでしょ! ソレもサイコーの思い出になりそうなスゴイ感じで!」

「まぁな」

 そう。フィアとのデートは俺の人生にとって最重要課題だ。

 そんな俺の気持ちを分かっているのか、エルヴェスはさらに軽く話を続ける。
 何の説明もしてないのに、すべて分かったような事を並べ立てるのが気に入らない。
 が、すべて図星なので、言い返せない。

「ついでに、最近ウロチョロしてるヤツらに、仲がイイとこ見せつけるのよね!」

「まぁな」

 何から何まで、その通りなのが小憎らしい。こいつ、また何かやってるのか?

「服装はオソロイの外国風伝統柄! 帰りに市場でラブラブぶりを見せびらかしながら散策して、最後は流行りの占い師!」

「なんで、そこまで分かるんだ?」

 まるで頭の中身を覗かれているようだ。

 それにメイ群島の伝統柄は、入荷したばかりの生地を仕立ててもらい、この前できあがったばかり。

 フィアでさえも、まだ目にしてない服の話を、なんで知ってる?

「デートの鬼と呼ばれてるアタシからしたら、初心者の考えなんて、すべてまるっとオミトオシよ!」

「そういうものか?」

 何か納得のいかないものがあるが、ここはぐっと堪える。
 大切なのはフィアとのデートを成功させること。それにはこいつの協力が絶対に欠かせない。

「ソーと決まれば、予約ね!」

「大人気なんだろ?」

 元々、シュタム劇場は王都でも一、二を争うくらいの人気だった。
 そして、今回の興行は大人気だと言う。
 キャンセル待ちの予約までギッシリだという噂だ。

 いくら、デートの鬼でも不可能はあるはず。知らず知らずのうちに、額にシワが寄る。

「師団長、コノ、アタシをなんだと思ってんのよ!」

「美少年と美少女が三度の飯より大好きな変態」

「マー、ソーだけどー」

 否定はしないのか。
 しかも、なぜ自慢げ?

「シュタム劇場の特別観覧席の最特上くらいなら、イツでも用意できるわよー」

 ほぅ、さすがはエルヴェス…………って。
 さすがにそれはおかしくないか?!

「待て。一番、良い席だろ。そんな席がなんでいつでも用意できるんだ?」

 俺は一瞬納得しかけて踏みとどまった。
 エルヴェスに説明を求める。

「年間貸切してるからー?」

「冗談だろ?」

 あっけらかんと返すエルヴェス。
 すべてが冗談にしか聞こえない。

「アタシ、冗談は言わない主義なのよねー」

「しかしな、最特上席の年間貸切なんて、聞いたことないぞ」

「ソウでしょう、ソウでしょう」

「今度は何をやったんだ、エルヴェス」

 公になってはいないが、こいつの経歴はフィア以上にヤバい。
 ヤバいからこそ、フィアもこいつも経歴不詳のまま生きているんだが。

 こいつの過去の経歴からすれば、最特上席の年間予約など、普通にやってたことだろう。

 しかし、それは過去のことだ。

 今、ここにいるエルヴェスは、第六師団長付き副官のマリティナ・エルヴェス。

 どこにでもいるような、と言うには見た目も能力も突き抜けているが、ただの副官だ。
 飲食物に薬物を盛る趣味があって、他国の要人にも手を出した経歴もあるが、ただの変態だ。

 俺は疑いの目をエルヴェスに向ける。

 エルヴェスがエルヴェスになってから、今日という日まで、いったい何人が被害にあっただろうか。

 おっと、思考がずれたな。

「師団長ったら、失礼なのはブアイソウな顔だけにしなさいよねー」

「おい」

 エルヴェスは俺のずれた思考を読みとってでもいるかのように、抗議の声をあげる。

「冗談はおいといてー」

「やっぱり冗談じゃないか」

「シュタム劇場は、アタシがオーナーだからー」

 ばんと大袈裟に胸を叩くエルヴェス。

「コノ、アタシが!」

 胸のサイズはフィアの方が大きいんだよな、なんて思いながら、自信満々のエルヴェスの態度を…………って、

 今、なんか、凄いこと言わなかったか、こいつ。

「ァア?」

「新年デートで行った、レストラン『バウムシュタム』も、マリーシュタム美術館も、オーナーはアタシよ、アタシ!」

「嘘だろ。まさか、バウムシュタムの特別室も年間貸切だとか?」

「モチのロンよ!」

「そうだ、いつもフィアの服や下着を作ってる百貨店!」

 名前は間違いなくシュタム百貨店!
 メイ群島の伝統柄で仕立てたのもここだ!

 そうか、そういうカラクリか!

「いつもゴヒイキありがとー、師団長」

「おい。顧客情報、秘匿しろよ!」

 妙にフィアの服やら持ち物に詳しかったのは、情報の横流しだな。

「経営は夫に任せてるけどねー」

「はぁあああああ?!」

 忘れていた。

 エルヴェスの出自を考えれば、普通にそういうことができるんだったな。

 にしても、夫が経営者って。

 これも忘れていた。

 シュタムグループの会長の家名は、確か、

「つまり、お前の夫がヴィルゼ・エルヴェスってことだな。シュタムグループの会長の」

「ウヘ」

 こいつもこいつだが、夫も夫だな。
 なんてやつを放し飼いにしてるんだよ。

「マー、ソーいうわけで、チケットはコノ、アタシにマッカセナサーイ!」

 エルヴェスは再度、自慢げに胸を張る。

「ドロブネに乗った気持ちで!」

「それ、沈むぞ」

 そして不安を誘う言葉で締めくくった。
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