197 / 384
4 騎士と破壊のお姫さま編
4-0 第六師団長の煩わしい日々
しおりを挟む
俺、ラウゼルト・ドラグニールは、この日、師団長室で緊張していた。
「エルヴェス、用というのは他でもない」
これから相談しようとしているのは、俺の人生をかけた大切な案件であり、最重要課題だ。
前回の最重要課題の際、素晴らしい功績をあげたエルヴェスに、今回も俺の人生を託すべく呼び出したというわけだ。
俺は緊張もあってか、いつもより固い声が出た。
「モチのロンよ!」
「おい、まだ何も言ってないぞ」
そんな俺に対して、明るく軽く即答するエルヴェス。
「ほわほわちゃんと、観劇に行きたいんでしょ! ソレもサイコーの思い出になりそうなスゴイ感じで!」
「まぁな」
そう。フィアとのデートは俺の人生にとって最重要課題だ。
そんな俺の気持ちを分かっているのか、エルヴェスはさらに軽く話を続ける。
何の説明もしてないのに、すべて分かったような事を並べ立てるのが気に入らない。
が、すべて図星なので、言い返せない。
「ついでに、最近ウロチョロしてるヤツらに、仲がイイとこ見せつけるのよね!」
「まぁな」
何から何まで、その通りなのが小憎らしい。こいつ、また何かやってるのか?
「服装はオソロイの外国風伝統柄! 帰りに市場でラブラブぶりを見せびらかしながら散策して、最後は流行りの占い師!」
「なんで、そこまで分かるんだ?」
まるで頭の中身を覗かれているようだ。
それにメイ群島の伝統柄は、入荷したばかりの生地を仕立ててもらい、この前できあがったばかり。
フィアでさえも、まだ目にしてない服の話を、なんで知ってる?
「デートの鬼と呼ばれてるアタシからしたら、初心者の考えなんて、すべてまるっとオミトオシよ!」
「そういうものか?」
何か納得のいかないものがあるが、ここはぐっと堪える。
大切なのはフィアとのデートを成功させること。それにはこいつの協力が絶対に欠かせない。
「ソーと決まれば、予約ね!」
「大人気なんだろ?」
元々、シュタム劇場は王都でも一、二を争うくらいの人気だった。
そして、今回の興行は大人気だと言う。
キャンセル待ちの予約までギッシリだという噂だ。
いくら、デートの鬼でも不可能はあるはず。知らず知らずのうちに、額にシワが寄る。
「師団長、コノ、アタシをなんだと思ってんのよ!」
「美少年と美少女が三度の飯より大好きな変態」
「マー、ソーだけどー」
否定はしないのか。
しかも、なぜ自慢げ?
「シュタム劇場の特別観覧席の最特上くらいなら、イツでも用意できるわよー」
ほぅ、さすがはエルヴェス…………って。
さすがにそれはおかしくないか?!
「待て。一番、良い席だろ。そんな席がなんでいつでも用意できるんだ?」
俺は一瞬納得しかけて踏みとどまった。
エルヴェスに説明を求める。
「年間貸切してるからー?」
「冗談だろ?」
あっけらかんと返すエルヴェス。
すべてが冗談にしか聞こえない。
「アタシ、冗談は言わない主義なのよねー」
「しかしな、最特上席の年間貸切なんて、聞いたことないぞ」
「ソウでしょう、ソウでしょう」
「今度は何をやったんだ、エルヴェス」
公になってはいないが、こいつの経歴はフィア以上にヤバい。
ヤバいからこそ、フィアもこいつも経歴不詳のまま生きているんだが。
こいつの過去の経歴からすれば、最特上席の年間予約など、普通にやってたことだろう。
しかし、それは過去のことだ。
今、ここにいるエルヴェスは、第六師団長付き副官のマリティナ・エルヴェス。
どこにでもいるような、と言うには見た目も能力も突き抜けているが、ただの副官だ。
飲食物に薬物を盛る趣味があって、他国の要人にも手を出した経歴もあるが、ただの変態だ。
俺は疑いの目をエルヴェスに向ける。
エルヴェスがエルヴェスになってから、今日という日まで、いったい何人が被害にあっただろうか。
おっと、思考がずれたな。
「師団長ったら、失礼なのはブアイソウな顔だけにしなさいよねー」
「おい」
エルヴェスは俺のずれた思考を読みとってでもいるかのように、抗議の声をあげる。
「冗談はおいといてー」
「やっぱり冗談じゃないか」
「シュタム劇場は、アタシがオーナーだからー」
ばんと大袈裟に胸を叩くエルヴェス。
「コノ、アタシが!」
胸のサイズはフィアの方が大きいんだよな、なんて思いながら、自信満々のエルヴェスの態度を…………って、
今、なんか、凄いこと言わなかったか、こいつ。
「ァア?」
「新年デートで行った、レストラン『バウムシュタム』も、マリーシュタム美術館も、オーナーはアタシよ、アタシ!」
「嘘だろ。まさか、バウムシュタムの特別室も年間貸切だとか?」
「モチのロンよ!」
「そうだ、いつもフィアの服や下着を作ってる百貨店!」
名前は間違いなくシュタム百貨店!
メイ群島の伝統柄で仕立てたのもここだ!
そうか、そういうカラクリか!
「いつもゴヒイキありがとー、師団長」
「おい。顧客情報、秘匿しろよ!」
妙にフィアの服やら持ち物に詳しかったのは、情報の横流しだな。
「経営は夫に任せてるけどねー」
「はぁあああああ?!」
忘れていた。
エルヴェスの出自を考えれば、普通にそういうことができるんだったな。
にしても、夫が経営者って。
これも忘れていた。
シュタムグループの会長の家名は、確か、
「つまり、お前の夫がヴィルゼ・エルヴェスってことだな。シュタムグループの会長の」
「ウヘ」
こいつもこいつだが、夫も夫だな。
なんてやつを放し飼いにしてるんだよ。
「マー、ソーいうわけで、チケットはコノ、アタシにマッカセナサーイ!」
エルヴェスは再度、自慢げに胸を張る。
「ドロブネに乗った気持ちで!」
「それ、沈むぞ」
そして不安を誘う言葉で締めくくった。
「エルヴェス、用というのは他でもない」
これから相談しようとしているのは、俺の人生をかけた大切な案件であり、最重要課題だ。
前回の最重要課題の際、素晴らしい功績をあげたエルヴェスに、今回も俺の人生を託すべく呼び出したというわけだ。
俺は緊張もあってか、いつもより固い声が出た。
「モチのロンよ!」
「おい、まだ何も言ってないぞ」
そんな俺に対して、明るく軽く即答するエルヴェス。
「ほわほわちゃんと、観劇に行きたいんでしょ! ソレもサイコーの思い出になりそうなスゴイ感じで!」
「まぁな」
そう。フィアとのデートは俺の人生にとって最重要課題だ。
そんな俺の気持ちを分かっているのか、エルヴェスはさらに軽く話を続ける。
何の説明もしてないのに、すべて分かったような事を並べ立てるのが気に入らない。
が、すべて図星なので、言い返せない。
「ついでに、最近ウロチョロしてるヤツらに、仲がイイとこ見せつけるのよね!」
「まぁな」
何から何まで、その通りなのが小憎らしい。こいつ、また何かやってるのか?
「服装はオソロイの外国風伝統柄! 帰りに市場でラブラブぶりを見せびらかしながら散策して、最後は流行りの占い師!」
「なんで、そこまで分かるんだ?」
まるで頭の中身を覗かれているようだ。
それにメイ群島の伝統柄は、入荷したばかりの生地を仕立ててもらい、この前できあがったばかり。
フィアでさえも、まだ目にしてない服の話を、なんで知ってる?
「デートの鬼と呼ばれてるアタシからしたら、初心者の考えなんて、すべてまるっとオミトオシよ!」
「そういうものか?」
何か納得のいかないものがあるが、ここはぐっと堪える。
大切なのはフィアとのデートを成功させること。それにはこいつの協力が絶対に欠かせない。
「ソーと決まれば、予約ね!」
「大人気なんだろ?」
元々、シュタム劇場は王都でも一、二を争うくらいの人気だった。
そして、今回の興行は大人気だと言う。
キャンセル待ちの予約までギッシリだという噂だ。
いくら、デートの鬼でも不可能はあるはず。知らず知らずのうちに、額にシワが寄る。
「師団長、コノ、アタシをなんだと思ってんのよ!」
「美少年と美少女が三度の飯より大好きな変態」
「マー、ソーだけどー」
否定はしないのか。
しかも、なぜ自慢げ?
「シュタム劇場の特別観覧席の最特上くらいなら、イツでも用意できるわよー」
ほぅ、さすがはエルヴェス…………って。
さすがにそれはおかしくないか?!
「待て。一番、良い席だろ。そんな席がなんでいつでも用意できるんだ?」
俺は一瞬納得しかけて踏みとどまった。
エルヴェスに説明を求める。
「年間貸切してるからー?」
「冗談だろ?」
あっけらかんと返すエルヴェス。
すべてが冗談にしか聞こえない。
「アタシ、冗談は言わない主義なのよねー」
「しかしな、最特上席の年間貸切なんて、聞いたことないぞ」
「ソウでしょう、ソウでしょう」
「今度は何をやったんだ、エルヴェス」
公になってはいないが、こいつの経歴はフィア以上にヤバい。
ヤバいからこそ、フィアもこいつも経歴不詳のまま生きているんだが。
こいつの過去の経歴からすれば、最特上席の年間予約など、普通にやってたことだろう。
しかし、それは過去のことだ。
今、ここにいるエルヴェスは、第六師団長付き副官のマリティナ・エルヴェス。
どこにでもいるような、と言うには見た目も能力も突き抜けているが、ただの副官だ。
飲食物に薬物を盛る趣味があって、他国の要人にも手を出した経歴もあるが、ただの変態だ。
俺は疑いの目をエルヴェスに向ける。
エルヴェスがエルヴェスになってから、今日という日まで、いったい何人が被害にあっただろうか。
おっと、思考がずれたな。
「師団長ったら、失礼なのはブアイソウな顔だけにしなさいよねー」
「おい」
エルヴェスは俺のずれた思考を読みとってでもいるかのように、抗議の声をあげる。
「冗談はおいといてー」
「やっぱり冗談じゃないか」
「シュタム劇場は、アタシがオーナーだからー」
ばんと大袈裟に胸を叩くエルヴェス。
「コノ、アタシが!」
胸のサイズはフィアの方が大きいんだよな、なんて思いながら、自信満々のエルヴェスの態度を…………って、
今、なんか、凄いこと言わなかったか、こいつ。
「ァア?」
「新年デートで行った、レストラン『バウムシュタム』も、マリーシュタム美術館も、オーナーはアタシよ、アタシ!」
「嘘だろ。まさか、バウムシュタムの特別室も年間貸切だとか?」
「モチのロンよ!」
「そうだ、いつもフィアの服や下着を作ってる百貨店!」
名前は間違いなくシュタム百貨店!
メイ群島の伝統柄で仕立てたのもここだ!
そうか、そういうカラクリか!
「いつもゴヒイキありがとー、師団長」
「おい。顧客情報、秘匿しろよ!」
妙にフィアの服やら持ち物に詳しかったのは、情報の横流しだな。
「経営は夫に任せてるけどねー」
「はぁあああああ?!」
忘れていた。
エルヴェスの出自を考えれば、普通にそういうことができるんだったな。
にしても、夫が経営者って。
これも忘れていた。
シュタムグループの会長の家名は、確か、
「つまり、お前の夫がヴィルゼ・エルヴェスってことだな。シュタムグループの会長の」
「ウヘ」
こいつもこいつだが、夫も夫だな。
なんてやつを放し飼いにしてるんだよ。
「マー、ソーいうわけで、チケットはコノ、アタシにマッカセナサーイ!」
エルヴェスは再度、自慢げに胸を張る。
「ドロブネに乗った気持ちで!」
「それ、沈むぞ」
そして不安を誘う言葉で締めくくった。
2
お気に入りに追加
235
あなたにおすすめの小説
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。
112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。
ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。
ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。
※完結しました。ありがとうございました。

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。
完菜
恋愛
王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。
そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。
ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。
その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。
しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。
112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。
エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。
庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる