精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

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4 騎士と破壊のお姫さま編

3-8

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 三番目が緋色の魔力を撒き散らした。

 私はとっさに後ろに跳んで、距離を取る。

 猫への変身が解けたのは、単に魔法の継続時間が切れただけで、魔力が切れたわけではなかったようだ。

 巻き散らかさせた緋色の魔力は、辺り一面、所在なさげに漂う。

 こちらも負けじと魔力を周囲に広げた。

 三番目の権能は、変化。

 小さいメダルで魔物を召喚すること、転移魔法を使うこと、人間以外の生き物に身体を変化させられること。

 それ以外の能力は分からない。

 赤種なので、同じく鑑定眼と時空眼は持っているはず。

 なんだけれど。

 赤種同士なので鑑定眼は機能しない。
 例外はすべての始まりを司る力を持つテラ。テラの鑑定能力は赤種一のようで、赤種の鑑定もできるそうだ。

 でないと、赤種を見つけることができないもんね。

 さて、問題は目の前の三番目だ。

「認めない、認めないぞ」

 三番目は同じことをブツブツとつぶやいていた。緋色の目は暗い光を湛えている。

「オレは、絶対に、認めない!」

 三番目が咆哮のような叫び声をあげた。

 そのとたん。

 辺りに撒き散らかされた緋色が、私を取り囲むように襲いかかってきた。

「え?!」

 ギュルンと鋭い金属音を立てながら、緋色の魔力が姿を変える。速い。
 周囲に広げた魔力を瞬時に防御壁にする。全方位に張り巡らせるが、間に合わない?!

 三番目の魔力が私の動きにも影響を及ぼしている。いつもの速さには程遠い緩慢さで、防御壁がギリギリのところで完成した。嫌な汗が出る。

 さらに。

 ギュリリリッ

 衝撃が全身に加わる。

 三番目の魔力は鋭い槍に変わり、私の防御壁に突き刺さった。

「どうだ、四番目」

 三番目の自慢げな声がする。

 三番目はすぐ目の前。私の防御壁のすぐそばにいた。三番目が自分の両腕を防御壁にひたっと当てると、

 グォン

 一瞬にして、私の防御壁が消える。

「オレはあんなトカゲより凄いんだ」

 自慢げな三番目。

 その両腕は光の輪に包まれているように、光が回っている。

 そして。

 ザシュッ、と派手な音がした。お腹に焼けるような痛み。思わずよろめいた。

 ザシュッ、ザシュッ

 ザシュッ、ザシュッ

 連続して派手な音が聞こえ、私は、ガハッと何かを吐き出したような気がした。




「やられる側の気分はどうだ?」

 いつの間にか、三番目が私を見下ろしている。

 お腹だけでなく、腕や脚にも焼けるような痛みを感じて、顔がゆがんだ。
 よく見えないけど、三番目の槍が私の身体を貫通して、床まで突き刺さっているようだ。

 焼けるような痛みはあるものの、血の臭いはしない。魔力を本物の槍にしたのではなく、槍の形に変えただけか。

 黙り込んでいる私を見て、三番目が口を開いた。

「あぁ、やっと捕まえた」

 両腕の光の輪からは光が消え、奇妙な腕輪に変わっている。

 さらに黙っていると、三番目がすぐ横にしゃがみこみ、私の顔を覗き込んだ。
 顎をぐっと掴まれ、目線を強引に合わされる。痛い。苦しい。

「いい顔だな」

「…………転換の輪」

 私は三番目の腕輪を見ながらつぶやいた。

 転換の輪。

 赤種はそれぞれ、独自の権能、独自の先天技能を持つ。
 破壊の赤種が『破壊の六翼』を持つのと同様、変化の赤種が持つのは『転換の輪』。それがこれか。

 これが顕現しているということは、今の三番目が力を全解放させた状態であることを意味する。

 三番目は私の言葉を聞きにんまり笑うと、顎を掴んだまま、私の顔の横に屈み込んだ。耳元で何か囁く。聞き取れない。

「え? 今、なんて」

 言ったのか?と訊ねようとしたその時。

 遅れて、それは発現した。

「あああああああああああ」

 顎を掴まれた状態で、三番目の転換の輪から魔力が放たれた。諸に食らう。
 頭の中身を大きく揺さぶられるような、かき回されるような、気持ち悪さが襲い、目がチカチカする。これはヤバい。

「まぁ、記憶なんて、変えてしまえばいいだけさ」

 三番目の平然とした声がかろうじて耳に入ってきた。

「あのトカゲのことなんて、オレが忘れさせてやるよ」

 こいつ、私の記憶を変えようとしている。

 目だけ動かし、必死に睨みつけようとしても、目からじわじわと涙が出てくる。頭の中がかき回され、力が入らない。

「オレとたっぷり楽しもうか」

 三番目は、さらに魔力を強めた。

「あああああああああああ」

 喉の奥から呻きが漏れるだけ。きちんとした言葉にならない。
 頭の中をかき回されているせいで、集中ができない。魔力もうまく動かせない。

「ラウ、ラウ……」

「トカゲの名なんて呼ぶな、お前が呼ぶのはこのオレだろう」

 私の顎を掴む、三番目の手に力が込められた。痛い。苦しい。

「…………………、…………………。」

「あぁ? 何を言った? オレの名か?」

 顎を強く掴まれているので、うまく声がでない。
 そうでなくても、三番目の魔力を当てられている状態で、さっきから呻き声しか出せないのに。

「ようやく、トカゲの記憶が消えたか?」

 都合の悪いものは消して、都合のいい記憶に変える。合理的ではあるけど、私は物じゃない。

 三番目は、私がおもしろい存在だから欲しがっている。それがよく分かった。
 三番目のせいで、頭も顎も痛いし気持ち悪いし、吐きそうだし。もう最悪だ。

 そんな最悪の状態で、ラウの声が聞こえたような気がした。

『大丈夫だ、フィア』

 そう言って、いつもにっこり微笑んでくれるラウ。そうだ。離れていても、私にはラウがついている。

「名前なんて、知らないし」

 ポロッと言葉が出た。

「はぁあ? なんだと?」

「あんたの、名前なんて、聞いたこと、ないわよ!」

 強く叫んだとたん、私の腰から、同じくらい強い光が放たれる。

「うわっ」

 そう漏らしたのは、私だったか、三番目だったか。強い光で一瞬、目が眩んだ。
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