精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

文字の大きさ
上 下
194 / 384
4 騎士と破壊のお姫さま編

3-7

しおりを挟む
「にゃぁぁぁ」

「逃げるわけ?」

 シュッと風を切る音を立てて、破壊の大鎌を振り回す。
 ここには邪魔なものがない。何ひとつない。自由に動けてとてもいい。

 大鎌の見た目は、私の身長に不釣り合いなくらいの長さと大きさ。でも、重さは感じない。それが魔剣だ。

 三番目は大鎌をギリギリで避ける。

「がはっ」

 と見せかけて、大鎌を急転させると、見事に三番目の腹にめり込んだ。

「小動物を虐待してるみたい」

 黒い大理石のような床に丸くうずくまる猫を見て、口から言葉が漏れる。
 猫の姿をしてはいるけど赤種。小動物ではない。小動物ではないけど見た目は猫。

「ちょっと、やりにくいなぁ」

「さっきから、殴り回していて、やりにくいも何もないだろ!」

「あ、まだ喋れるんだ」

 うずくまったまま抗議の声をあげた猫は、私の冷めた声を聞いて、体躯をビクンと震わせた。

 後ずさろうとしている。うまく動けない。ヨロヨロと立ち上がってはペタンとうずくまる、を目の前で繰り返す。

「そろそろ終わりにしようかな」

 私はゆっくりと、猫に近づいていった。




 世界が暗転した後、目を開けると、例の空間が広がっていた。

 姿見があちこちに浮かぶだけの広い空間。時間と空間の狭間にあるという、始まりの三神の神殿だ。

 神殿で猫を苛めるっていうのも、どうかとは思うけど。
 大神殿の裏庭でやり合えば、他に被害が出る。責任取れと言われて直させられるのは目に見えていた。
 ならば、赤種以外は立ち入れないここでやり合った方がまだ、マシというもの。

「四番目、転移はできないんじゃなかったのか?!」

 三番目が、聞いてないとばかりに驚きの声をあげるのに対して、私は首を傾げた。

「転移ができないなんて、言った覚えないし」

「確かに見た。四番目が転移に失敗するところ。それに一番目も言っていた。トカゲのせいで四番目の能力が制限されてると」

「だから、『転移ができない』とは誰も言ってないよね」

 バカにしないでもらいたい。

 元々、転移はできる。
 ただ、ラウから離れる方向へ転移ができなかっただけ。それも最初の内だけだ。

 私だって、日々努力してるし日々進歩している。覚醒直後のままだと思わないでもらいたい。

「騙したのか」

「騙すも何も、そっちが勝手に勘違いしただけでしょ」

 私は静かに告げて、左手を横に振る。
 すると、振った方にあった姿見がすーっと消え、何もない空間ができあがった。

 破壊の大鎌をくるりと回して、肩に担ぎ上げたら、準備完了だ。

「悪い猫はしっかり躾ないとね」




 こうしてヨロヨロの黒猫ができあがる。

 ゆっくり近づく私を避けるように、少しずつ後ろに下がっていた猫が、ついに動けなくなった。

 ペタンと座り込む猫の身体から、突然、緋色の魔力が溢れ、黒い大理石の床に広がっていく。
 と思ったら、猫自身が緋色の霞のようになっていった。

 様子がおかしい。

 逃げられないよう、紅の魔力で取り囲むと、緋色の霞が徐々に人型となり、若い男性が現れた。

「ちっ。切れたか」

「そっちが本体?」

 床に座り込んだ三番目は人間だった。

 年齢はラウより少し上くらい。体つきはほっそりしている。
 座り込んでいるので背の高さはよく分からない。メモリアより少し大きいくらいかな。

 柔らかそうな黒髪が額にかかるのをかきあげる仕草は、どこか、けだるさを感じる。

「普段は猫型になってるだけだ」

「え? 趣味?」

「そんなわけあるか。隠れて行動するのにちょうどいいだけだ」

 テラが言ってたね。

『三番目は表舞台には出てこない。ひっそり隠れて変化を与える。それが三番目だ』

 だから、いつもは赤種だと分からないよう、猫に姿を変えて行動してるのか。
 三番目の権能は変化。姿を変えるのなんてお手のものだ。
 これでいろいろ合点がいった。

 でも、いつも猫になってるということは、いつも誰とも接しないということでもある。寂しくないのかな。

 そんな三番目をじっと見つめて、私はあることに気がついた。

「で、それは性癖?」

 思わず、三番目を指さしてしまう。

「何が性癖だよ?!」

「服を着ないで、うろついているってことでしょ?」

 猫から人間に姿を戻した三番目は、どこからどう見ても裸だった。隠しもしないで目の前で堂々と胡座をかいている。

 見てる私も私だけど。

「さっきまで猫だったせいだろうが」

「猫って全裸で外を歩いてるんだよね」

「猫はそういう生き物だろ!」

 顔を真っ赤にして、手をパタパタと振る三番目。

 いつの間にか、その手に黒い布が握られていた。前を隠すようにしながら、手にした物を広げる。

 着るものあるなら、最初から着てくれていいのに。

 黒い布はフードが付いた薄手の外套のようなものだった。それをそそくさと羽織って、前を閉める。
 丈の長さはどう見ても中途半端なので、裸に直に着るようなものではなさそう。

 裸に外套って、もう、ヤバい人にしか見えない。

「確かにラウも見せたがるけどなぁ」

「見せるのか?!」

「ラウは室内だけだから」

「粘着質の上に露出狂かよ」

「全裸に言われたくないよね。そっちは野外でも丸出しだし」

「猫はそういう生き物なんだよ!」

 顔を真っ赤にして立ち上がる三番目。
 見立て通り、メモリアより少し大きいくらい、男性としては平均的な身長だ。

 ちょっと見下ろされる。

 なんかムカつく。

 裸に外套を羽織っている人に、猫の生態を語られてもな。

「なんで、そんなにトカゲの肩なんて持つんだよ! 普通は、同種の肩を持つものだろ?!」

「あー、私、普通って知らないから」

 立ち上がった三番目が、ずいっと距離を詰めた。
 私より背が高いからって、気も大きくなってるんだろうか。

「なんだよ、なんでだよ。だいたい、トカゲよりオレの方が何倍も良いだろ!」

「え? どこが?」

「容姿だって、身体だって、能力だって、性格だって!」

「見た格好の変態さはラウに勝ってる」

 顔を赤くして、一歩一歩、詰め寄ってくる。
 裸に外套な人に近寄られても、いい気はしないし、問いかけの内容にも同意しかねる。

「なんだよ、その嫌そうな顔!」

 あ、顔に出てたか。

「オレだってな、ちゃんと服を着ればトカゲより格好いいんだ!」

「服を着てない時点で、人として失格だよね」

 三番目の言い分はどう聞いても、子どものワガママにしか聞こえない。
 駄々をこねる子ども。それが三番目だ。

「認めない」

「はぁ?」

 駄々をこねる三番目がまた訳の分からないことを言い出した。

 視線は私を捉えたまま、悔しそうな、やりきれなさそうな、私が何か悪いことをして傷つけられたような、そんな顔で睨んでいる。

「認めないぞ、四番目。あんなトカゲが良いだなんて、絶対にオレは認めない!」

「あ、そう。別に誰かの許可なんて要らないから」

「目を覚ませよ、四番目!」

 何この、しつこさ。

 政略結婚ならともかく。
 恋愛も婚姻も、相手と思いが通じ合ってこそ、だと思う。

 三番目は自分の言いたいことを言って、やりたいことをやっているだけ。相手がどう思っているかなんて、まるで考えていない。

 ならば、私も同じことをする。

「そっちこそ」

 私の素っ気ない言葉に三番目がキレた。

「認めないぞ、四番目!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの
恋愛
 幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。  誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。  数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。  お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。  片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。  お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……  っと言った感じのストーリーです。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

処理中です...