精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

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4 騎士と破壊のお姫さま編

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 総師団長の様相に構うことなく、テラは話を続ける。

「さっきから、ベルンドゥアンが思い出話をしてるだけだよな」

「テラ、話すほど思い出話なんて、ないんじゃないの?」

 ネージュの記憶にグランミストの記憶なんて、まるでないしね。
 少しでも関わりがあったのなら、独立計画なんて立てる前に相談でもしていたはずだ。

 チラッと総師団長を窺うと、顔色が悪いまま。黙り込んで何も話す気配がない。

「オッサンのあの顔じゃ、なさそうだな」

「もう、十分、聞いたからいいよ。つまんない話ばかりだし」

「そうだな。そろそろ、まとめるか」

「これだけ、聞けばいいよね。まとめろとは言われてないし」

 国王との会話を思い出す。

 国王は会って話をするだけと言っていた。気持ちの整理をしたいのだろうと。

 ただ、今の感じでは、まだまだ気持ちの整理はついていそうもない。
 総師団長もジンクレストもまだ何かを抱えたままだ。

「僕は言われたんだよな。『取りまとめ』とハッキリ」

「なら、頑張って。国王からの差し入れのお菓子、バクバク食べちゃったんだから」

「ちっ」

 そう。テラはジンクレストが話している間、ずーーーっとお菓子を食べていた。第一塔長が持ってきた、王都で流行りのお菓子を。

 テラが夢中になるのも分からなくはないほど、美味しいお菓子だったんだよね。

「それじゃ、」

「待ってくれ」

 取りまとめにかかろうとテラが口を開いたところで、ようやく、総師団長が話し出した。

 ちっ

 舌打ちするテラを横目で見ながら、総師団長の話に耳を傾ける。

「直接の関わりはないが、妹のミラージュの子で、グランミストの銀髪を受け継いだのはネージュ嬢だけだ」

「銀髪?」

「そうだ、銀髪はグランミストの証。銀髪だということはグランミストの血が流れている証拠だ」

「だから?」

「今まで叔父らしいことができなかったから、何か、してやれることがあるんじゃないかと思って、だな」

「ないわね」「ないよな」

 何を言ったところで、いまさらだし。
 何か言ったところで、言い訳にしかならない。

「クロエル補佐官、師匠。総師団長が凹んでる」

 慌てた様子の塔長。

 そう言われたって、

「そもそも、ネージュ・グランフレイムは故人だし」

「死んだ人間に、してやれることなんて、ないよな」

「二人とも待った待った。ほら、総師団長がさらに凹むから!」

 慌てる塔長に、私とテラは顔を見合わせて肩をすくめた。

 家族だなんだと言うのならば。

 ここにいるのは、まったく会ったことのない叔父の『グランミスト』ではなく、同じ館で暮らしていた『グランフレイム』だろう。
 ネージュの家門は『グランフレイム』なのだから。

「でも、あなたはネージュ様です」

「それ、前も聞いた」

 母方の親戚筋のグランミストが撃沈してもなお、赤の他人のベルンドゥアンはしつこかった。

「あなたはネージュ様としての記憶を失われていて、黒竜殿の伴侶だと思い込んでおられるだけです」

「だから、記憶喪失じゃないって」

「あなたのすべてがネージュ様です。髪の色、瞳の色、容姿、背の高さ、体つき、体の動かし方、ちょっとしたしぐさ、すべてがネージュ様なんです」

「え? すべてって。詳しすぎない?」

 あれ? ネージュの元護衛ってこんなに粘着質だったっけ?

「専属護衛として、何年ごいっしょしたと思っているんですか。ネージュ様のことはすべて把握してます」

「ラウの同類」

「フィア。俺はあんな偏執狂じゃないぞ。俺の執着は純真無垢だ」

 ジンクレストの勢いに怯んだ私を、ラウが脇からガッチリ抱きしめる。

 うん、そうだね。ラウはあんな程度じゃないよね。ジンクレストをはるかに上回る偏執狂だったよね。
 それに、純真無垢な執着って、想像つかないんだけどな。

「黒竜殿。ネージュ様から離れてください。ネージュ様はご令嬢なんです」

「はっ。クロスフィアは俺のフィアだ」

「ネージュ様です。みだりに手を触れないでください。ネージュ様が汚れます」

 いや、すでに『ラウまみれ』だね。

 鑑定眼、持ってないから視えないのか。
 視えてるテラが無表情で見守ってるし。

「何を言ってる。フィアは俺と伴侶の契約をしたんだ、ほら、これをよく見ろ」

 ラウは、後ろでまとめた私の髪をさっと持ち上げ、何かをジンクレストに見せた。
 おそらく、うなじについている、伴侶の契約印を見せたのだろう。

「竜種の契約のことは知ってますよ。気に入った相手が逃げないよう、勝手に契約印をつけるんでしたよね」

「フィアとは同意の上、本契約をしている。証拠の映像記録もあるぞ」

 あれか。

「同意したんだよね」「同意してたよな」

「騙して同意させたに決まっています」

 騙してはない。

 きちんと最後の大事な部分(=結婚しよう)を聞き取れず、まぁいいや、で頷いちゃっただけ。

 言うと、さらに面倒な事態になりそうなので、言わないでおく。

 それに竜種は普通、契約してから同意を得るそうなので、竜種としてはかなり譲歩した部類だろう。

 これも言うと、さらに面倒な事態になりそうなので、黙っておく。

「騙すだなんて人聞きの悪い。それ以上、誹謗中傷するなら、こちらも相応の手段を取るまでだ」

「相応の手段」

「黒竜のことだから、どんな手を使ってでも相手を叩き潰すって意味だな」

「ラウ、凄い」

 腕を組み顔をしかめながら解説するテラ。

 ラウは私との穏やかな夫婦生活を守るために、全力で立ち向かってくれるんだ。なんだか嬉しさがこみ上げてくる。

 私の夫が凄い。強い。格好いい。

「そこ、喜ぶところじゃないぞ、四番目。黒竜も照れるな、嬉しがるな」

 テラがつっこんでいる間も、ラウとジンクレストの睨み合いは続いていた。

「師匠もクロエル補佐官も、他人事のように見てないでくれよ」

「他人事だよね」「他人事だよな」

「グランミストやベルンドゥアンが、ラウに消されたって関係ないし」

「そうだよな、美味しい菓子さえあればいいよな」

「だから、二人とも!」

 ラウとジンクレストの対立を仲裁してほしいのか、塔長が悲鳴混じりの声を上げる。

「だって、平行線だろ」「平行線だよね」

 私とテラはまたもや顔を見合わせ、どちらともなく話し出した。

「ネージュ・グランフレイムは、赤の樹林で魔物の襲撃に遭い、崖下に落下して死亡した」

「なのに、ベルンドゥアンは私がネージュだと言い張っている」

「ベルンドゥアンがネージュの死を受け入れない限り、この話は決着しないだろ?」

 その通り。

 だから、国王だって『気持ちの整理』という言葉を使っていた。

「お言葉ですが! 目の前に本物のネージュ様がいらっしゃるというのに、ネージュ様の死なんて信じられますか!」

 ジンクレストの血を吐くような叫びが辺りに響き渡った。

 次の瞬間。

 ざわり。

 覚えのある気配が辺りに充満し、私もテラも瞬時に赤種の力を展開させる。
 私とテラの反応を感じ取って、ラウも身構えた。

「それなら、見せてあげたらいい。ネージュがどうなったのかを」

 突然、何もないところから現れ、すたっとテーブルのど真ん中に降り立つ。

「何しに来た、三番目」

 ちょうどいいところに現れたのは、猫の姿をした三番目だった。
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