精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

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4 騎士と破壊のお姫さま編

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 二日後。

 私はラウと飛竜に乗っていた。
 眼下には赤の樹林が広がっている。

 あそこでネージュが命を落とした。

 あれから半年になる。

 この半年間、クロスフィアとして、ネージュが経験したことのない毎日を生きてきた。
 いつの間にか、ネージュが自分ではない誰かとして感じるようになってきている。

 同一感は日を追う事にどんどん薄れていってるので、完全に他人のように感じる日がいずれやってくるんだろう。

 それでも、ネージュが最期まで必死になって生きていたことは、忘れないようにしよう。

 心の奥底でそんなことを考えながら、赤の樹林を眺めていると、飛竜が突然、降下し始めた。

「着くぞ」

 ラウが耳元で声をかける。

「うん」

 私はラウに短く返事をすると、降下先の大神殿に顔を向ける。

 大神殿の裏庭、赤の樹林に面しているのとは反対側の開けた場所に、テーブルやらイスやらが準備されているのが見えた。

 すでに何人か集まっているようだ。人が小さく見える。

「あそこに直接降りて、驚かせるか」

 後ろを振り向くと、ラウがいたずらげな笑みを浮かべていた。
 ラウに同意するように飛竜も鳴き声をあげる。

「うん、格好よくね」

 私はラウにそう注文をつけると、下に視線を戻した。

「私の夫も、夫の飛竜も、格好いいんだから。きっちり見せつけないとね」

「おう」

 私のつぶやきに、ラウと飛竜が同時に同意の声をあげ、一気に降下した。




 降下の勢いに反して、飛竜の着地はとても優雅だった。
 ふわりと羽が舞い降りるように、地面に降り立つ。

 ラウが精霊力を細やかに操って、風の煽りも、土煙も、キレイに空へと巻き上げた。
 裏庭に準備されているテーブルやイスにはまったく影響がない。

 さすが、私の夫と夫の飛竜。仕事が丁寧だ。

 ラウと飛竜の格好よさに声もでない人たちを横目に見ながら、さっと降りたラウの手を取って、ふわりと飛竜から降りた。

 ラウの手を取ったまま、テーブルへ近づく。

 今日の装いも、気合いが入っていた。

 今日は飛竜に乗るので、さすがにスカートは穿けない。ラウとお揃いで上下黒。ところどころに銀糸で刺繍が入り、シンプルながらも豪奢なものになっている。

 もちろん、発注はラウだ。

 相変わらずのピッタリサイズなのが、ちょっと怖い。

 髪はひとつに纏めて黒いリボンを飾ってもらっている。

 もちろん、髪のセットもラウだ。

 いつの間にか、髪結い技能まで習得していたうちの夫。手先の器用さは、いつも髪をセットしてくれていたメモリアが驚くレベル。

 どうなっているんだろう、うちの夫の習得技能は。

 怖い物が視えるのも嫌なので、細かくは確認していなかったりする。視ない状態なのも怖いことは確かなので、今度、時間のあるときに確認してみよう。

 そして、胸と腰にはお揃いの組み紐飾り。

 ほぼほぼ、ただの飾りと化しているけど、丹誠込めて私が作った魔道具でもある。いざというときには身も守れるし、ラウと音声伝達もできる。

 私は胸につけた小さい方の組み紐飾りに、片手を当て、もう片方はラウの手を取って、テラに近寄った。

「また、派手に現れたな」

「ラウも、ラウの飛竜も格好いいでしょ」

「そういうことに、しといてやるよ。さぁ、座ってくれ」

 さっそくとばかりにテラが着席を促す。

 テラの後ろには神官長が穏やかな表情を浮かべ、軽く頭を下げた。

 私はラウに手を取られたまま、席につく。席についても手は取られたまま。離される気配は微塵もない。

「どういう顔ぶれ?」

 テーブルにはテラの他にも、すでに六人が座っていた。誰も何も喋らない。じっと私とラウを見ている。

 その中に、つい最近、見かけたばかりの女の子がいた。グランミスト嬢だ。

「あ、この前の迷子の女の子!」

 銀髪はグランミストの特徴って、ルミアーナさんが言ってたよな。

「あ、この前の仲がとても良い人たち!」

 声をかけられて、ようやく、この前会ったことを思い出したようだ。
 緊張してガタガタ震えながら座っていたようなので、周りを見る余裕もなかったんだろう。

 グランミスト嬢の『仲がとても良い人たち』発言を聞いて、私の隣でラウがにんまり笑っている。

 うん? これもラウの仕込み?

「リナーシア、知り合いだったのか?」

「グランミスト嬢って、総師団長のご家族だったの。お家に帰れて良かったね」

 なにせ、技能マイナスの人だからな。

 グランミスト嬢は自分の父親を無視して、私の言葉に恐縮したように、身体を縮こませ、ペコペコと頭を下げる。

「はいいい。その節はありがとうございましたぁ!」

「それで、私に何の用なの?」

「いや、その、用があるのはわたくしではなく」

 もじもじとしどろもどろな彼女の発言をテラが遮った。

「おい、四番目。勝手に話を進めるな。順番てものがあるんだよ」

「えー」

「えー、じゃない。とにかく座れ。て、黒竜、四番目にくっつきすぎだ、もう少し離れて座れよ。いいか、始めるぞ」

 なぜか、ラウの位置にまで注文をつけられた。ちょっとだけ離れるラウ。

 ラウはこの位置じゃないと、暴れたり、冷気を出したりする。皆の平穏のためにもこの位置はキープあるのみ。

 コホン

「いいか、今日の茶会は、エルメンティア国王の尊い『お願い』によって実現してものだ」

 咳払いをして、テラが順番通りに話を進めた。

「大神殿側の立会人は僕、国側の立会人は舎弟、参加者は、四番目、黒竜、オッサンとオッサンの娘、他三人」

 紹介、雑だな。いいのか、それ。

「師匠、紹介が雑すぎ」

 ほらみろ。雑にやるものだから、塔長がテラの前から菓子の皿を遠ざけたよ。

「お前の親に難癖つけられて、仕方なく、茶会を開いてやってるのに。お前まで僕に文句つけるのか?」

「それはそれ、これはこれ」

 子ども仕様のテラでは菓子の皿まで、手が届かない。

 ちっ

 菓子を諦めたテラは自己紹介を丸投げした。あれ以上、説明する気は皆目ないらしい。

「家門代表者が各自適当に紹介しろ。ほら、黒竜から」

 もっと雑になった。

「ラウゼルト・ドラグニール、第六師団長で黒竜だ。隣は伴侶のクロスフィア・ドラグニール、赤種の四番目だ」

「ステファル・グランミスト、総師団長職についている。隣は娘のリナーシア」

「ルバルト・ベルンドゥアン、第二師団長だ。隣は兄のジベルトと甥のジンクレスト」

 シーーーーン

 名前と続柄を紹介するだけの自己紹介は淡々と終わる。

「自己紹介はこれでいいな。互いに、仲良く穏やかな話し合いをもち、相互理解を深めるように。以上」

「へー」

 どう見ても仲良く穏やかな雰囲気には見えない。へー、と言うしかない。

「へー、じゃない。なんだよ、その他人事な態度は」

「だって、他人事だもん」

「会って話をしてこい、って国王から言われただろ」

「うん、ここで人に会って話を聞けば、国王が旅行をプレゼントしてくれるって言うから」

 私は言葉を止め、テーブル挟んで向こう側の面々に視線を移す。

「で、私に何の用なの?」

 懐かしむ顔、戸惑う顔、困った顔、安心した顔、嬉しそうな顔。いろいろな顔が私を見つめていた。
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