精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

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4 騎士と破壊のお姫さま編

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 午後からは関係する部隊長を集めての会議だった。

 議題は、この前、遊撃部隊のハーセルさんが親切(?)で締め上げたら決裂しちゃった、という第四師団関係。

 今回の関係部隊は、遊撃部隊、特務部隊、情報部隊。
 実働をお願いする遊撃部隊以外は、非戦闘系部隊だ。通常はこういった会議には参加しない。
 その部隊を呼んだ、ということは何か考えがあるんだろう。

 そこに、師団長のラウと私、カーネリウスさんとルミアーナさんが加わって、計七人で会議が始まった。

 議事進行はカーネリウスさん、書記はルミアーナさんが行っている。

「それで現況についてですが」

 戦闘系部隊が遊撃部隊だけのせいか、とても落ち着いた雰囲気で会議が進んでいった。

「それについては、うちから」

 情報部隊長のルブレフさんが手を挙げる。なるほど、ルブレフさんが今回の件、いろいろと情報収集してるんだ。

「現況ですが、第二師団が第四師団とともに、巡回などの業務に同行している状態です。
 第四師団慣れした人員を配置しているようで、トラブルはまったく起きてません」

「第四師団のあれは、慣れでどうにかなるレベルではないと思いますが」

 締め上げた本人のハーセルさんが淡々と告げると、ルブレフさんがため息を尽いた。

「だから、ほぼほぼ放置ですよ」

「はっ」

 ハーセルさんがバカにしたように、鼻で笑う。
 冷静沈着なハーセルさんがここまで感情を出すのも珍しい。相当、ダメなことをやったんだな、第四師団。

「情報部隊は動かしてるな?」

「はい、第二師団と第四師団の業務の様子は交代で見張っていますんで」

 ラウの問いかけに、ルブレフさんが平然と答えた。

「業務が一巡したら、第六師団と第八師団が単独で請け負えるものが、割り振られてくるはずだ」

「となると、うちはやっぱり、黒の樹林でしょうねぇ」

 特務部隊長のツェルナーさんがぼやく。

 さっきから、手帳に何か書き付けては止まりを繰り返している。
 ツェルナーさんは増える巡回費用の計算係として、会議に参加しているようだ。

 ツェルナーさんのぼやきに応じて、ルブレフさんがテーブルに大きく広げられた地図を指差した。

「あちこち点在しているんで、赤の樹林に近い個所は、うちに割り振られるんじゃないかと」

「業務が割り振られてきたら、担当は遊撃部隊かな。能力的にも適任だよね」

 私はそう言ってラウを見上げると、ラウは大きく頷く。

「まぁ、それが無難だろうな。どうだ、ハーセル」

「任務とあらば、どんな任務でもきっちりがっちり、こなしますので」

 ハーセルさんは基本、なんでも請け負い、なんでもこなす万能タイプ。

 ただ、私には気になることがあった。

「その時に、情報部隊を一班、つけることはできる?」

「お相手様、遊撃部隊は情報部隊としての役割もありますから、遊撃部隊だけで事足りますわ」

 出費を減らしたいツェルナーさんから、待ったが掛かる。

「うん、遊撃部隊の能力や技能は私も把握してる」

「俺たちでは足りないと?」

 力不足を疑われたと思ったのか、ハーセルさんからも質問が出る。

「戦闘系の収集情報と非戦闘系の収集情報と、両方ほしいの」

「理由を訊いても?」

 訝しく思うよね、普通は。

 でも、これはさっきテラにも確認済みだ。ラウの新作を食べさせるためだけに、テラを呼び出した訳じゃない。

「うん。こことここの黒の樹林は、嫌な気配がする」

 大神殿そばの赤の樹林。その北には小規模な黒の樹林がいくつかある。
 私はその内の二つを、丸印を描くように指し示した。

「フィア、どういうことだ?」

「他の黒の樹林とは違うんですね?」

 ラウとルブレフさんから同時に声があがった。

「うん、他は感じない。この二ヶ所だけ。だから、念のため情報収集してほしいのと、用心してほしいの」

 きっぱり言い切って、部隊長さんたちを見つめる。

 場が静かになった。

「この二地点は遊撃部隊と情報部隊、その他は遊撃部隊のみ、で、どうです?」

 今まで成り行きを見守っていたカーネリウスさんがおずおずと口を挟むと、

「了解した」「分かりました」

 ハーセルさん、ルブレフさんか同意の声があがり、ツェルナーさんも無言で頷く。

「それと、お相手様。大神殿近くですので、バーミリオン様にも確認を」

「うん、テラにはさっき確認した」

「あー、だから、あのチビを呼び出していたのか」

 ラウの言葉に私は頷いた。

「うん、テラは、黒の樹林なのに混沌と精霊力の偏りがおかしい、って言ってた」

「おかしい原因というのは?」

「テラにも分からなかった。私も嫌な気配を感じる理由が分からない」

 分かれば、情報収集なんてお願いしないで済んだのに。
 とはいえ、赤種といえど限界はある。限界を見誤ってはいけない。

「お相手様とバーミリオン様、お二人で微妙に意見というか、感じ方が違いますね」

「同種でも権能が違うし、得意分野が違うから」

「あー、ですよねぇ」

「でも、テラが言うにはね」

 質問してきたカーネリウスさんに、私は答えられる範囲で説明をする。

「破壊の赤種は意欲なしの赤種だから、赤種として『不快感』を覚えることは滅多にないんだって」

「えっと、赤種として不快感を感じるとどうなるんでしょう?」

「うーん、イラッとしたときなんかは、人でも物でも、無性に壊したくなるよね」

「うひぃ」

「だからその私が、はっきりと嫌な気配を感じるんなら、絶対に何かある、気をつけろって」

 またもや、場が静まり返った。

 そしてそれぞれが思っていることを口にする。

「嫌な気配。なんでしょうね」

「確か、魔物を召喚するメダルの件も、まだ解決してませんよね」

「自然公園と同じ事が、黒の樹林で起きてもおかしくないですわね」

「魔物が出てくるとなると、残念ながら、遊撃部隊だけでは厳しいです」

 最後にハーセルさんが悔しげに呟いた。

 第六師団の中でも魔物と軽々やり合えるのは、切り込み部隊である突撃部隊くらいだけ。
 戦闘力としては、主力の戦闘部隊、残党狩りの掃討部隊が突撃部隊に続く。

 単純に戦闘力で比べてしまうと、遊撃部隊はその次となり、単隊での魔物戦は危険が伴う。

 もちろんそのことは、ラウも私も分かっていた。

「あぁ、その時は即時撤退だ。連絡は情報部隊に丸投げしろ」

「テラにも、黒の樹林を見張るように言っておくから」

 今回の遊撃部隊の任務は巡回と情報収集だ。討伐ではない。だから、それでいい。

「ならば、安心して遂行できます。この遊撃部隊にお任せください」

 こうして、第六師団の中で、第四師団関係の対応準備は着々と進んでいき、準備は無駄になることはなかった。
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