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4 騎士と破壊のお姫さま編

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 お昼休み。

 私たち四人は、ランチタイムで大混雑する塔の食堂へやってきた。

 はずなんだけど。

「ホホホホホホ。ご安心くださいまし! 眺めの素晴らしい席を五人分、確保してございますわ!」

 向かった先には、なぜか、ルミアーナさんがいた。この状況は見覚えしかない。

 しかも、確保している席数は、ルミアーナさん自身の分を含めて五人分。人数ぴったり。
 なぜ分かったんだろ、今日のランチの人数を。

「さぁさぁ、クロスフィアさんはあたくしの隣の席を、特別に、ご用意いたしましたわ!」

 隣? そこは塔長じゃないの?

 と思っているうちに、勝手に隣に連れてこられて着席する私。

 目の前には、ラウに製作許可を出した私専用ランチクロスに、私専用カトラリーが揃えられていた。

 なんだ、ラウの差し金か。

「相変わらず、エグいな」

「エレバウトさん、進化してるわねぇ」

 続々と、ルミアーナさんが確保した席に着席する塔長室メンバー。

 ラウの差し金だとしても、ルミアーナさんて、本当にタイミングが良い。不思議なくらい良い。

 なんだろう、そういう技能? そんな技能あるのかな? 技能は奥が深い。

「あなたが新人補佐官のノルンガルスさんね! あたくしはクロスフィアさんの親友のエレバウトですわ!」

 私が考え事をしている間に、私の前に今日食べたかった定番のスパイスたっぷりシチューが置かれた。
 食器はいつの間にか、私専用品になっている。

 なんだこの、至れり尽くせり。

 隣では、初めましての挨拶をするルミアーナさんとノルンガルスさん。

 他の人たちも各々、食べたいランチを持って座り始めた。

「わぁぁぁぁ。セリナローザ・ノルンガルスです」

 ノルンガルスさんは、なんか、感極まった様子。
 赤紫色の瞳をウルウルさせて、ルミアーナさんと握手をがっちりと交わしていた。

「あなたがあの有名な、エレバウト上級補佐官ですね!」

「ホホホホホホ」

「ルミアーナさん、有名人だったの?」

 いったい、何で有名?

「あら、クロスフィアさんほどではございませんわ!」

 私の疑問はさらっとかわされた。




 けっきょくのところ、

「ま、とりあえず、今この場でできることはないよな」

 という、なんとも気の抜けた塔長の言葉により、時間も時間だったので、そのままお昼休みになった。
 さっき、格好よさげなことを言ったばかりなのに、ちょっと台無し。

 食堂にランチに行くにあたっては、先にラウに許可を取った。
 でないと帰宅したときに、拗ねたり、妬んだり、イジケたり、泣きついたりして面倒臭い夫になる。

 今は、自分で作った通信用の魔道具で、直接連絡を取り合えるから、便利でいい。
 精霊魔法技能がないと、伝達魔法が使えないので、緊急の連絡が取りづらいんだよね。
 これは精霊魔法が使えても、風の適性が皆無だと、やはり同じことになる。

 緊急時に連絡を取る手段としての魔道具が、あってもいいんじゃないかな。
 ナルフェブル補佐官が暇になったら、相談してみようとするか。

 連絡を済ませたら、さっさと鑑定報告書を作成して、さぁ、お昼へ。

 てっきり、全員で行くのかと思っていたのに。

「じゃあ、食堂に行くのは四人だな」

 グリモさんは、人気があり過ぎて(自称)人が大勢いるところを歩けない。
 ナルフェブル補佐官は、データ整理がエンドレス状態でランチどころではない。
 フィールズさんは、今日はそのまま第八師団に移動して、そっちでお昼だそう。

 塔長、マル姉さん、ノルンガルスさん、そして私の四人でのランチとなったのだ。

 そして今、今日食べたい物まで把握するルミアーナさんに、ぎょっとする私がいた。

「ルミアーナさんて、私の食べたい物まで分かるの?」

 ルミアーナさんはラウの仲間だと認定したことがあったけど。
 ヤバい人的な意味でも仲間なのではないかという疑惑が、私の中で浮上する。

 そんな私の質問に対して、なぜか、塔長が返答した。

 うん、今日は『なぜか』が多い。

「ま、そういう技能を持ってるからな」

「本当に凄いです!」

「へー」

 そういう技能か。

 て!

 聞き逃すことのできない情報を、何気なく、ぶち込んでくるし!

 何それ。『そういう技能』?!

 そういえば、ノルンガルスさんは、技能鑑定特化型の鑑定技能持ちだった!
 ノルンガルスさんに鑑定できない技能はない。

 つまり!

 やっぱり、『そういう技能』というものがあるんだ!

「え! どういう技能?!」

 私にも鑑定できない技能があるだなんて。やっぱり技能は奥が深い!

 興奮して意気込む私に、塔長の冷めた声がかかった。

「クロエル補佐官は知らない方がいいぞ」

「え? どういう意味で?」

「ラウゼルトがエレバウトくんと張り合いだしたら、大変なことになると思わないか?」

「塔長、怖いことを言わないでください」

 そんなことになったら、相乗効果で、ラウのヤバみが増す。

「ホホホホホホ。あたくしごときが師団長を超えるなんて、ございませんわ!」

 それはそれで、怖いんだけど。

 ラウはルミアーナさん以上だってことになるでしょ。まぁ、間違ってはないな。うん、怖い怖い。

「師団長のあのコレクションは、さすがのあたくしも…………」

 怖がる私の耳に、今、聞き捨てならない単語が入ってきた!

「待って! ラウ、また収集してんの?」

「ま、ラウゼルトだからな」

「塔長、そこで納得しないでください!」

 のんびりとランチを口に運びながら、のんびりした口調で納得する塔長に、ランチそっちのけで慌てる私。
 そこへ、ルミアーナさんの甲高い声が追い討ちをかける。

「クロスフィアさん、ご安心くださいまし。あのコレクションは、選ばれた方しかご覧になれませんから!」

 選ばれた方?! どういう人選?!
 ぜんぜん安心なんてできないから!

「違うよね? 閲覧制限かければ良いっていう問題じゃないよね?」

「ホホホホホホ」

「いや、今度は何のコレクションよ!」 

 ランチタイムで大混雑する塔の食堂はあまりにも賑やかすぎて、私の心からの絶叫はかき消されてしまったのだった。
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