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4 騎士と破壊のお姫さま編
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待ちに待ったお休みの日。
待ち遠しすぎて前日はよく眠れなかった、なんてことはまったくなく、ぐっすり眠ってパッと目覚めた私は、朝からウキウキ気分だった。
部屋着に着替え、朝食の準備ができあがる頃には、朝一で身体を動かしに行ったラウが帰ってくる。
ちょうどいいタイミングだ。
「ラウ、朝食たべよ」
「あぁ」
楽しみにしていた一日が始まる。
「観劇、行くんだよね? シュタム劇場の」
私は朝食を少しずつ口に運びながら、ラウに恐る恐る尋ねた。
「あぁ。フィア、楽しみにしてただろ? 服も用意してあるぞ」
ラウはいつもの調子で答える。
私はなんだか、急にラウに申し訳なくなって、下を向いた。
私が行きたいって言ったから、ラウは想像もつかないような『手』を使って、無理をしてチケットを取ってくれたんだ。
「どうかしたか? 何か気に入らないことでもあったか?」
「チケットが取れないほど大人気だなんて、私、知らなくて。ラウにワガママ言っちゃったな、って思って」
焦ったようなラウの声が聞こえる。
私は、食事を運ぶ手を止めて、ポツリとこぼした。
「なんだ、そんなことか」
今度はホッとしたような声。
「大丈夫だ、フィア」
安心させてくれるような、いつものラウの声だ。
私は顔をあげてラウを見ると、いつものラウがニッコリと微笑んでいた。
「シュタムなら伝手があるんだ。だから、いっしょに楽しもうな」
朝食の後、ラウが用意したという服に着替えた。
というか、私のものはすべてラウが用意しているので、いつも通りではあるんだけど。
今日の服は一際、気合いが入っていた。
メイの民族衣装風の柄が入った明るいスカートが目を引く。黒地にカラフルな色合いで、独特の模様が入ったものだ。
それでいて上は白のシンプル開襟シャツ。袖止めは黒のバンドに銀の飾りが入っている。
髪はひとつにまとめて、黒いリボンで飾ってみた。黒い髪留めも使って髪を押さえる。
ラウも上は私とサイズ違いの白シャツで、袖止めはお揃い。タイの柄が私のスカートと同じで統一感がある。
下は黒のスラックスをそつなく穿きこなしていて、格好いい。
それから、二人でやってきた場所というのが、
「特別観覧席」
「いちばん見やすい席だぞ」
だろうね。
舞台の真正面のいちばん良い席だよね。
ここまで来るときだって特別ルートで、誰もいなかったもんね。
「しかも最特上」
「落ち着いて見られそうだろ?」
だろうね。
他の特別席は仕切り付きの席なのに、ここだけバルコニーのような造りの席になってるよね。
独立した小部屋感があるから、他の人に邪魔されないよね。
その小部屋感ある席についてみると、席の前に小さなテーブルがあった。
「なんか凄いのが用意されてる」
「お茶と茶菓子付きだからな」
お茶と、凄いモリモリのフルーツケーキが用意されてるんだけど!
茶菓子ってレベルじゃないでしょ、これ。
「いったいどういう伝手?!」
「シュタムのトップと知り合いだからな」
ラウは事も無げに答える。
「ええ?! ラウ、凄い!」
「正確にはトップの奥さんと知り合いだ」
これには再度、驚いた。
ラウに女性の知り合いがいる。
いや、まぁ、ラウだって女性の知り合いの一人や二人、いるだろうけどね。
でも、私の知らないラウがいるようで、なんとなくモヤモヤする。
そうだ。こういう時はひとりでモヤモヤしてはダメだ。ちゃんと言葉で聞かないとダメだ。
「その女性、私も知ってる人?」
「フィアもよく知ってるな」
ラウはまたもや事も無げに答える。
「えー? 誰なの、ラウ?」
「エルヴェスだよ」
え?
「あの、エルヴェスさん?!」
「あの、エルヴェスだ」
えええ?
「マリティナ・エルヴェスの旦那が、シュタムのトップなんだよ」
「えええーーー?!」
驚きが声に出た。
そして、反射的に辺りを見回す。
「まさか、また記録班が?!」
「…………どこかに潜んでそうだよな」
しばらくして上演開始の合図があり、突然の激しい演奏とともに劇が始まる。
私たちは記録班の目を気にしながらも、劇にのめり込んでいった。
「うん、良かった! すごくすごく良かった!」
劇はあっという間に終わってしまった。
私の興奮はまだまだ醒め止まない。
劇は竜とお姫さまのお話だった。
好き勝手なことばかりして嫌われてひとりぼっちになった竜が、寂れた森の中でお姫さまに出会う。
お姫さまは不思議な力を持っていたせいで、皆から疎まれて捨てられて、ひとり寂しく死を待っていた。
そんなお姫さまを、竜はいっしょに生きようと連れていく。
「荒竜、ラウみたいだった。ラウも私を連れ去ってくれたよね」
荒竜は自己中心的なところがあって、そんなところはラウとはまったく違う。
でも、最後は捨てられたお姫さまを連れて、いっしょにどこかへ旅立つんだ。
私も見捨てられ見殺しにされた後で、ラウに助けられた。
大丈夫だと言ってもらえて、心が救われたように思う。
お姫さまも、必要とされ死ななくていいって言われて、救われたんじゃないかな。
「荒竜とお姫さまも、私とラウみたいに穏やかに暮らせていればいいな」
私はラウの手をギュッと握りしめ、お話の竜とお姫さまの幸せを願った。
「で、次は?」
「ルミアーナさんが言ってた占い師、なんだけど」
ラウに手を繋がれて、シュタム劇場の特別出入り口までやってきて。次はルミアーナさんオススメの占い師、なんだけど。
行き方がどうにも怪しい。
「市場通り辺り、なんだよな?」
「うん、必要な人だけ、たどり着けるらしいんだよね」
なんだ、それ。
必要な人だけ占い師にたどり着けるって、そんなことある?
とは言っても、出所はルミアーナさんだ。ルミアーナさん情報って、ハズレはないし、意外と侮れない。
「行くだけ行ってみるか。市場の食べ歩きも楽しいぞ、フィア」
「本当? 行こう、ラウ!」
私とラウは指を絡めるように手を繋ぎ直して、市場へ向かって歩いていった。噂の占い師を目指して。
待ち遠しすぎて前日はよく眠れなかった、なんてことはまったくなく、ぐっすり眠ってパッと目覚めた私は、朝からウキウキ気分だった。
部屋着に着替え、朝食の準備ができあがる頃には、朝一で身体を動かしに行ったラウが帰ってくる。
ちょうどいいタイミングだ。
「ラウ、朝食たべよ」
「あぁ」
楽しみにしていた一日が始まる。
「観劇、行くんだよね? シュタム劇場の」
私は朝食を少しずつ口に運びながら、ラウに恐る恐る尋ねた。
「あぁ。フィア、楽しみにしてただろ? 服も用意してあるぞ」
ラウはいつもの調子で答える。
私はなんだか、急にラウに申し訳なくなって、下を向いた。
私が行きたいって言ったから、ラウは想像もつかないような『手』を使って、無理をしてチケットを取ってくれたんだ。
「どうかしたか? 何か気に入らないことでもあったか?」
「チケットが取れないほど大人気だなんて、私、知らなくて。ラウにワガママ言っちゃったな、って思って」
焦ったようなラウの声が聞こえる。
私は、食事を運ぶ手を止めて、ポツリとこぼした。
「なんだ、そんなことか」
今度はホッとしたような声。
「大丈夫だ、フィア」
安心させてくれるような、いつものラウの声だ。
私は顔をあげてラウを見ると、いつものラウがニッコリと微笑んでいた。
「シュタムなら伝手があるんだ。だから、いっしょに楽しもうな」
朝食の後、ラウが用意したという服に着替えた。
というか、私のものはすべてラウが用意しているので、いつも通りではあるんだけど。
今日の服は一際、気合いが入っていた。
メイの民族衣装風の柄が入った明るいスカートが目を引く。黒地にカラフルな色合いで、独特の模様が入ったものだ。
それでいて上は白のシンプル開襟シャツ。袖止めは黒のバンドに銀の飾りが入っている。
髪はひとつにまとめて、黒いリボンで飾ってみた。黒い髪留めも使って髪を押さえる。
ラウも上は私とサイズ違いの白シャツで、袖止めはお揃い。タイの柄が私のスカートと同じで統一感がある。
下は黒のスラックスをそつなく穿きこなしていて、格好いい。
それから、二人でやってきた場所というのが、
「特別観覧席」
「いちばん見やすい席だぞ」
だろうね。
舞台の真正面のいちばん良い席だよね。
ここまで来るときだって特別ルートで、誰もいなかったもんね。
「しかも最特上」
「落ち着いて見られそうだろ?」
だろうね。
他の特別席は仕切り付きの席なのに、ここだけバルコニーのような造りの席になってるよね。
独立した小部屋感があるから、他の人に邪魔されないよね。
その小部屋感ある席についてみると、席の前に小さなテーブルがあった。
「なんか凄いのが用意されてる」
「お茶と茶菓子付きだからな」
お茶と、凄いモリモリのフルーツケーキが用意されてるんだけど!
茶菓子ってレベルじゃないでしょ、これ。
「いったいどういう伝手?!」
「シュタムのトップと知り合いだからな」
ラウは事も無げに答える。
「ええ?! ラウ、凄い!」
「正確にはトップの奥さんと知り合いだ」
これには再度、驚いた。
ラウに女性の知り合いがいる。
いや、まぁ、ラウだって女性の知り合いの一人や二人、いるだろうけどね。
でも、私の知らないラウがいるようで、なんとなくモヤモヤする。
そうだ。こういう時はひとりでモヤモヤしてはダメだ。ちゃんと言葉で聞かないとダメだ。
「その女性、私も知ってる人?」
「フィアもよく知ってるな」
ラウはまたもや事も無げに答える。
「えー? 誰なの、ラウ?」
「エルヴェスだよ」
え?
「あの、エルヴェスさん?!」
「あの、エルヴェスだ」
えええ?
「マリティナ・エルヴェスの旦那が、シュタムのトップなんだよ」
「えええーーー?!」
驚きが声に出た。
そして、反射的に辺りを見回す。
「まさか、また記録班が?!」
「…………どこかに潜んでそうだよな」
しばらくして上演開始の合図があり、突然の激しい演奏とともに劇が始まる。
私たちは記録班の目を気にしながらも、劇にのめり込んでいった。
「うん、良かった! すごくすごく良かった!」
劇はあっという間に終わってしまった。
私の興奮はまだまだ醒め止まない。
劇は竜とお姫さまのお話だった。
好き勝手なことばかりして嫌われてひとりぼっちになった竜が、寂れた森の中でお姫さまに出会う。
お姫さまは不思議な力を持っていたせいで、皆から疎まれて捨てられて、ひとり寂しく死を待っていた。
そんなお姫さまを、竜はいっしょに生きようと連れていく。
「荒竜、ラウみたいだった。ラウも私を連れ去ってくれたよね」
荒竜は自己中心的なところがあって、そんなところはラウとはまったく違う。
でも、最後は捨てられたお姫さまを連れて、いっしょにどこかへ旅立つんだ。
私も見捨てられ見殺しにされた後で、ラウに助けられた。
大丈夫だと言ってもらえて、心が救われたように思う。
お姫さまも、必要とされ死ななくていいって言われて、救われたんじゃないかな。
「荒竜とお姫さまも、私とラウみたいに穏やかに暮らせていればいいな」
私はラウの手をギュッと握りしめ、お話の竜とお姫さまの幸せを願った。
「で、次は?」
「ルミアーナさんが言ってた占い師、なんだけど」
ラウに手を繋がれて、シュタム劇場の特別出入り口までやってきて。次はルミアーナさんオススメの占い師、なんだけど。
行き方がどうにも怪しい。
「市場通り辺り、なんだよな?」
「うん、必要な人だけ、たどり着けるらしいんだよね」
なんだ、それ。
必要な人だけ占い師にたどり着けるって、そんなことある?
とは言っても、出所はルミアーナさんだ。ルミアーナさん情報って、ハズレはないし、意外と侮れない。
「行くだけ行ってみるか。市場の食べ歩きも楽しいぞ、フィア」
「本当? 行こう、ラウ!」
私とラウは指を絡めるように手を繋ぎ直して、市場へ向かって歩いていった。噂の占い師を目指して。
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