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4 騎士と破壊のお姫さま編

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 お昼休み。

 第一塔へ迎えにきたのはラウだった。
 嬉しくて、思わず飛びついた。

「ラウ! 忙しいんじゃないの?」

 ラウは忙しかったはずだ。

 朝一で、第二師団との打ち合わせがあるとかで、今日の送迎はメモリアに代わったんだもの。

「打ち合わせが早めに片が付いてな」

 ラウは忙しさをまったく感じさせない口調で、サラッと答える。
 こういうところは格好いいんだよね。

「さぁ、行こうか、フィア」

 そう言うと、ラウはサッと私の手を取って、歩き出した。もちろん、私の速さに合わせるのも忘れない。

 うん、私の夫は本当に格好いい。

「早く帰って、フィアの匂いを堪能したいな」

 ヤバいけど。




 そして、第一塔から第六師団に向かって、歩いている途中のこと。

 いつものように、ラウと手をつなぎながらペタッとくっついて歩いていた。
 今日の第一塔の話を、もちろん差し障りない部分だけ、ラウに話ながら。

 穏やかにラウは話を聞いてくれていて、私の中のモヤモヤも徐々に落ち着いてきた。

 と、誰かが後ろから付いてくる。

「ねぇ、ラウ」

「あぁ」

 ラウを見上げると、ラウもコクンと頷いた。どうやらラウも気付いたらしい。

 自然と足が止まる。

「不審者ではなさそうだな」

 周囲に散開している護衛班とやり取りをするラウ。
 ラウの手をギュッと握りながら、辺りを見回すと、木陰から覗く人物とバッチリ目が合った。

「…………………………。」

 確実に目が合ったのに、何も反応しないその人物。

 あれ、もしかして、気付いてないの?

 丸見えなのにバレてないつもりかな。

 銀髪に涼しげな緑色の目をした女の子だ。木と同化している、つもりのようだけど、丸見えなので完全に変な人になっている。

 私はラウに目配せすると、思い切って声をかけた。

「あのー」

「はひ?」

 ビクン!!

 声をかけたとたん、変な声をあげて、女の子が飛び上がった。

 うん、反応がおもしろすぎる。
 本気でバレてないつもりだったんだね。

「どうかしましたか?」

 私は首を傾げながら、怖がらせないように静かに話しかけた。

「ごごごごごめんなさい。覗き見するつもりはなかったの! 仲が良さそうでいいなぁ~と思って」

「仲が良さそう」

 見ず知らずの他の人からもそう見えるんだ。なんだか、嬉しくなる。

 パッとラウを見ると、

「おい」

 思いっきり機嫌が悪くなってる!

 機嫌悪くなる要素あった?!

 ラウからは冷気も漏れ出していて、見るからに怖がってブルブル震えている銀髪の女の子。

「ごごごごごめんなさい」

「仲が良さそう、じゃない」

 え、ラウ、それに反応したの?
 仲が良さそうに見えて、嬉しくないの?

「俺たちは仲がとても良いんだ」

 え、そっち?

「はいいい」

「言い直せ」

 え、言い直し?

「はいいい。仲がとても良くていいなぁ~と思いましたぁ!」

「よし」

 冷気が収まりご機嫌のラウと、会話しただけなのにヨレヨレになった女の子。

 いいのか、これ?

 いやいや、最初の目的を忘れてる。
 話しかけたのは仲が良いって言わせるためじゃなくて。

「それで、ここでは何を?」

 ここへの訪問目的だ。

 こんな道端で木と同化して私とラウを眺めているなんて。不審者じゃないとしても、十分、変な人だ。

「師団員の募集があると聞いて。応募の書類をもらいに行こうと思って」

「それなら、こっちじゃなくて本部だけど」

 私はまた首を傾げた。
 入り口から本部へ向かうとなると、ここは寄り道どころか、かなり脇にそれている。
 真っ直ぐ本部に行くつもりなら、絶対に通らない。

 やっぱり不審者?
 でも、こんなあからさまな不審者いる?

「えーっと、あの。その。本部にたどり着けなくて…………」

 ゴニョゴニョと言い訳をする女の子。最後の方はよく聞き取れない。

「迷子か」

「ごごごごごめんなさい」

 平身低頭で謝りまくる女の子を視ると、方向感覚の能力が低く、地図作製技能なるものがマイナスだった。

 技能マイナス。初めて視たよ。
 まだ、技能なしの方がマシかも。

 なんだか、かわいそうになってきた。

「ラウ、かわいそうだから、連れてってあげようよ」

「そうだな」

 ラウも害がないと分かったのか、ご機嫌になっているだけなのか、あっさり私に同意してくれる。

「それなら、さっそく」

 本部へ、と思ってラウの手を握り直すと、ラウから指示が飛んだ。

「エレバウト、頼んだ」

 シュピッ

「師団長、お任せあれ!」

「ルミアーナさん、いつの間に?!」

 目の前には、朝、塔長室を去っていったルミアーナさん。

「最初からいたぞ」

「えぇっ」

 どこに?!

 私が狼狽えている間にルミアーナさんは銀髪の女の子に声をかけ、シュバッと本部方面を指差した。

「さぁ、グランミストさん、行きますわよ!」

「はいいい。って名前! 名乗ってないのに、どうして?」

「あら、銀髪といったらグランミスト家でしょう?」

「あああ」

「さぁ、遅くなりますわ、走ってくださいませ」

「きゃー、無理無理。あ、待って、置いていかないで!」

 どうやら最短距離で行くつもりのようで。二人はガサゴソと下草を掻き分け、道なき道を走っていった。

「うん、若いって元気があっていいね、ラウ」

「そうか? フィアの方が年下だろ?」

「えぇっ」

 年上? あの女の子、年上だったの?
 あ、もう遠くて鑑定眼が届かないや。

「やっぱり、私って若さがない?」

「そんなことないだろ。さぁ、俺たちも行こうか、フィア」

 グランミスト嬢が無事に本部へたどり着けることを祈りながら、私はその場を後にした。
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