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3 武道大会編
5-6
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第一会議室で、全体会議が始まった。
総師団長、すべての正副師団長、全塔長の他、各副官も勢揃いしている。
第六師団は、師団長のラウ、副師団長、師団長付き補佐官の私、そして副官はカーネリウスさん。
姿はないが、エルヴェスさんはどこかで会議の内容を窺っているはずだ。
半壊した第四師団は、師団長が意識不明、副師団長が命を落としたため、正副不在。代理で師団長付きの副官二名が参加していた。
人数が少ないといえば、本体を混沌の樹林とスヴェート国境沿いに置く第七師団も、師団長と副官のみの参加だった。
「さぁ、始めようか」
太い声が響く。
議長席につくのは総師団長、その人だ。
隣に控えるはずの副官も補佐もいない。
その代わりに、神官服を纏った朱眼の少年がちょこんと腰掛けて、参加者ひとりひとりを舐めるように見つめていた。
そして、内容が内容だからか。軍部の会議なのに、行政部のトップであるこの国の宰相も席についている。
それを見て、カーネリウスさんが、私たちだけに聞こえるくらいの小さな声で呟いた。
「行政部が顔を出すなんて珍しいですね」
エレバウトさんのおかげで、場所を弁えるようになったカーネリウスさん。
元は総師団長付き副官だけあって、こういう場は詳しい。
「研究部が軍部の全体会議に参加するのは、慣例ですけどね」
第一塔から第四塔までの塔は本来、研究部であって、軍部とは別の組織。
軍部や行政部と違って、研究部を一つに纏めるトップはいない。
今日も各塔長と塔長付き副官での参加だ。
私も参加者ひとりひとりをじっと視回す。
「まずは、昨日の被害状況を経過と交えて説明する」
総師団長は太い声を響かせた。
二時間後。
私は師団長室でランチを食べていた。
今日のランチは片手でも手軽に食べられるサンドイッチだ。
トマト、レタス、キュウリといった野菜と、ハム、蒸し鶏、卵、それにソテーした白身魚を思い思いに組み合わせていて、彩りも鮮やか。
ソースも三種類くらい使っているのかな。具材に合わせたものになっている。
今度、家でも作ってみよう。
サンドイッチは、料理長にお願いして、小さいサイズにしてもらった。ラウなら一口で食べられそうな大きさだ。
ソファーに座って、両手にサンドイッチを取り、片方を一口かじる。トマトの酸味とソースが合わさって美味しい。
「エレバウトさんたちも、ひとつどう?」
目の前のソファーには、分厚い資料を捲っているエレバウトさんと、ホケーッと私の頭の辺りを眺めるカーネリウスさんが座っていた。
「あたくしたちは先ほど食堂でいただいてきましたので! お気遣いは結構ですわ!」
エレバウトさんの甲高い声が、そーっと伸びたカーネリウスさんの手に刺さった。
カーネリウスさんの手が止まる。
「ですよね? カーネリウスさん!」
「はい、そうでした」
カーネリウスさんの手が引っ込んだ。
「それより、クロエルさんこそ、しっかり召し上がってくださいませ」
分厚い資料を凄い早さで読み込みながら、エレバウトさんが話を続ける。
「朝食がジュースだけでは、身体が保ちませんわ!」
うん、誰から聞いたの、それ?
「それで、全体会議の話はこれだけですのね」
エレバウトさんが捲っていたのは全体会議の内容をまとめた資料。この短時間ですべてに目を通し終わったようだ。
私は片方のサンドイッチをかじりながら、もう片方を頭の上に差し出した。
「そうなんだよね。取り急ぎ、被害状況と離反者の情報共有かな」
頭の上でもくもくとサンドイッチを食べる音がする。
「被害状況は目新しいものはないですわね。スヴェートへの対応と離反者の処分についてはどうなりますの?」
「スヴェートには、国王名義で抗議の書簡を送ったって」
「スヴェートの捕虜については、現在、拘留中。こちらはスヴェートの返答待ちですね」
エレバウトさんの質問に、私とカーネリウスさんで答えた。
「離反者については、処分保留だね」
「その理由が、これですわね?」
エレバウトさんが今見たばかりの資料を捲って、該当の箇所を指し示す。
スヴェートの魔導騎士と皇女が、禁忌魔法《混乱》と《狂乱》を使用。
名もなき混乱と感情の神と、なんらかの繋がりがあると推測される。
とんでもないことをやってくれたと思う。
ため息をついて、新しいサンドイッチをかじった。頭の上にもサンドイッチを差し出すのを忘れない。
カーネリウスさんが不思議そうな顔をしたのを、エレバウトさんは見逃さず、すかさず突っ込みを入れた。
「カーネリウスさん! もしかして、理由が分からないんですの? 名もなき混乱と感情の神の話はご存知ないのかしら?」
「いや、習った記憶があやふやで」
「仕方ありませんわね。あたくしが教えて差し上げますわ!」
「はい、お願いします」
情けないことを言い出したカーネリウスさんに対して、高らかに笑いながら説明し始めるエレバウトさん。
「名もなき混乱と感情の神は、精神魔法の根源ですの。意識や感情を操る魔法と言った方が分かりやすいかしら」
エレバウトさんは見た目の派手さに目が引かれるけど、能力は地味に凄い。
知識部分の地味なところも、しっかりきっちりフォローできる。
「スヴェートは混乱や狂乱以外にも、そういった類の魔法が使えた訳ですのよ。
魔法で意識や感情を操られて離反した、そのような方がいても、おかしくありませんわ」
カーネリウスさんも地頭は悪くないので、すっと話が繋がる。
「あー、自分の意識ではなく離反したってことですね。だから、処分は保留と」
「そういうことですわね!」
「なるほど」
「それで、処分については、スヴェートからの返答待ちなんだよね」
スヴェートがどういう回答をしてくるかで、いろいろ変わってくる。
公式には、騒乱を起こしたのはスヴェート皇女。
全体会議でも、スヴェート皇女とスヴェート皇帝の関係や三番目の話はまったく出なかった。
「欠員の穴埋めについてはどうなんですの? 書いてありませんけど」
「第四師団は師団長の回復を待ってから、団員選定だって」
第四師団長は意識不明状態が続いている。上位竜種なので命に別状はないそうだ。
「それまでは第二師団、第六師団、第八師団で業務を担当することになります。
ほぼ、第二師団で賄えそうなんですが、後日、師団長同士で話し合いですね」
「でしたら、こちらで担当可能な業務をリストアップしておきますわね」
「はい、よろしくお願いします」
「総師団長付きについては、至急、選定するみたい」
「あら、カーネリウスさん、本部に戻られますの?」
サラサラとメモを取っていたエレバウトさんの手が止まる。
カーネリウスさんは、元々、総師団長付きの副官だったから、エレバウトさんはそれを思い出したようだ。
「あ、それはないです」
カーネリウスさんはあっさり否定する。
「全体会議で総師団長から言われました。第六師団で引き続き頑張れと」
「ホホホホホホ。それではあたくし、引き続き、カーネリウスさんを全力でサポートしますわ!」
「はい、今後ともよろしくお願いします、エレバウトさん」
「それで、師団長はどうされましたの?」
うん、いまさら、それを突っ込む?!
私は頭の上にサンドイッチを差し出した状態で固まった。
事情を知っているカーネリウスさんも無言だ。
「「…………………………………………。」」
全体会議が終わって、師団長室に戻ってきてからというもの、ラウはずっと私にくっついて離れない。
今も隣に座って、ベッタリと私を抱きしめた状態のまま。
私が差し出すサンドイッチをもくもくと無言で食べている。
はぁー
「全体会議で席を離されたんですよね、クロエル補佐官」
「正副師団長以外は、後ろの席に座らないといけなかったからね」
原因はなんのことはない、全体会議の席次だった。
私の隣に座れなかった分を取り戻そうとでもするように、ラウはいつもよりベッタリくっついていた。
「それで、俺の隣にクロエル補佐官が座ることになって。生きた心地がしませんでしたよ」
「ラウが拗ねちゃって、ちょっと大変だったね」
「ちょっと大変なんてものじゃないですよ! 俺、師団長の殺気と冷気をモロに食らってたんですよ!」
あれ? そうだった?
「でも、ほら、消されなかったし」
「当然ですよ! そんなんで消されたくありませんから、俺!」
絶叫が師団長室に響き渡り、『そんなんで』扱いを不満に思ったラウから、再度、冷気を浴びせられることになるカーネリウスさんだった。
総師団長、すべての正副師団長、全塔長の他、各副官も勢揃いしている。
第六師団は、師団長のラウ、副師団長、師団長付き補佐官の私、そして副官はカーネリウスさん。
姿はないが、エルヴェスさんはどこかで会議の内容を窺っているはずだ。
半壊した第四師団は、師団長が意識不明、副師団長が命を落としたため、正副不在。代理で師団長付きの副官二名が参加していた。
人数が少ないといえば、本体を混沌の樹林とスヴェート国境沿いに置く第七師団も、師団長と副官のみの参加だった。
「さぁ、始めようか」
太い声が響く。
議長席につくのは総師団長、その人だ。
隣に控えるはずの副官も補佐もいない。
その代わりに、神官服を纏った朱眼の少年がちょこんと腰掛けて、参加者ひとりひとりを舐めるように見つめていた。
そして、内容が内容だからか。軍部の会議なのに、行政部のトップであるこの国の宰相も席についている。
それを見て、カーネリウスさんが、私たちだけに聞こえるくらいの小さな声で呟いた。
「行政部が顔を出すなんて珍しいですね」
エレバウトさんのおかげで、場所を弁えるようになったカーネリウスさん。
元は総師団長付き副官だけあって、こういう場は詳しい。
「研究部が軍部の全体会議に参加するのは、慣例ですけどね」
第一塔から第四塔までの塔は本来、研究部であって、軍部とは別の組織。
軍部や行政部と違って、研究部を一つに纏めるトップはいない。
今日も各塔長と塔長付き副官での参加だ。
私も参加者ひとりひとりをじっと視回す。
「まずは、昨日の被害状況を経過と交えて説明する」
総師団長は太い声を響かせた。
二時間後。
私は師団長室でランチを食べていた。
今日のランチは片手でも手軽に食べられるサンドイッチだ。
トマト、レタス、キュウリといった野菜と、ハム、蒸し鶏、卵、それにソテーした白身魚を思い思いに組み合わせていて、彩りも鮮やか。
ソースも三種類くらい使っているのかな。具材に合わせたものになっている。
今度、家でも作ってみよう。
サンドイッチは、料理長にお願いして、小さいサイズにしてもらった。ラウなら一口で食べられそうな大きさだ。
ソファーに座って、両手にサンドイッチを取り、片方を一口かじる。トマトの酸味とソースが合わさって美味しい。
「エレバウトさんたちも、ひとつどう?」
目の前のソファーには、分厚い資料を捲っているエレバウトさんと、ホケーッと私の頭の辺りを眺めるカーネリウスさんが座っていた。
「あたくしたちは先ほど食堂でいただいてきましたので! お気遣いは結構ですわ!」
エレバウトさんの甲高い声が、そーっと伸びたカーネリウスさんの手に刺さった。
カーネリウスさんの手が止まる。
「ですよね? カーネリウスさん!」
「はい、そうでした」
カーネリウスさんの手が引っ込んだ。
「それより、クロエルさんこそ、しっかり召し上がってくださいませ」
分厚い資料を凄い早さで読み込みながら、エレバウトさんが話を続ける。
「朝食がジュースだけでは、身体が保ちませんわ!」
うん、誰から聞いたの、それ?
「それで、全体会議の話はこれだけですのね」
エレバウトさんが捲っていたのは全体会議の内容をまとめた資料。この短時間ですべてに目を通し終わったようだ。
私は片方のサンドイッチをかじりながら、もう片方を頭の上に差し出した。
「そうなんだよね。取り急ぎ、被害状況と離反者の情報共有かな」
頭の上でもくもくとサンドイッチを食べる音がする。
「被害状況は目新しいものはないですわね。スヴェートへの対応と離反者の処分についてはどうなりますの?」
「スヴェートには、国王名義で抗議の書簡を送ったって」
「スヴェートの捕虜については、現在、拘留中。こちらはスヴェートの返答待ちですね」
エレバウトさんの質問に、私とカーネリウスさんで答えた。
「離反者については、処分保留だね」
「その理由が、これですわね?」
エレバウトさんが今見たばかりの資料を捲って、該当の箇所を指し示す。
スヴェートの魔導騎士と皇女が、禁忌魔法《混乱》と《狂乱》を使用。
名もなき混乱と感情の神と、なんらかの繋がりがあると推測される。
とんでもないことをやってくれたと思う。
ため息をついて、新しいサンドイッチをかじった。頭の上にもサンドイッチを差し出すのを忘れない。
カーネリウスさんが不思議そうな顔をしたのを、エレバウトさんは見逃さず、すかさず突っ込みを入れた。
「カーネリウスさん! もしかして、理由が分からないんですの? 名もなき混乱と感情の神の話はご存知ないのかしら?」
「いや、習った記憶があやふやで」
「仕方ありませんわね。あたくしが教えて差し上げますわ!」
「はい、お願いします」
情けないことを言い出したカーネリウスさんに対して、高らかに笑いながら説明し始めるエレバウトさん。
「名もなき混乱と感情の神は、精神魔法の根源ですの。意識や感情を操る魔法と言った方が分かりやすいかしら」
エレバウトさんは見た目の派手さに目が引かれるけど、能力は地味に凄い。
知識部分の地味なところも、しっかりきっちりフォローできる。
「スヴェートは混乱や狂乱以外にも、そういった類の魔法が使えた訳ですのよ。
魔法で意識や感情を操られて離反した、そのような方がいても、おかしくありませんわ」
カーネリウスさんも地頭は悪くないので、すっと話が繋がる。
「あー、自分の意識ではなく離反したってことですね。だから、処分は保留と」
「そういうことですわね!」
「なるほど」
「それで、処分については、スヴェートからの返答待ちなんだよね」
スヴェートがどういう回答をしてくるかで、いろいろ変わってくる。
公式には、騒乱を起こしたのはスヴェート皇女。
全体会議でも、スヴェート皇女とスヴェート皇帝の関係や三番目の話はまったく出なかった。
「欠員の穴埋めについてはどうなんですの? 書いてありませんけど」
「第四師団は師団長の回復を待ってから、団員選定だって」
第四師団長は意識不明状態が続いている。上位竜種なので命に別状はないそうだ。
「それまでは第二師団、第六師団、第八師団で業務を担当することになります。
ほぼ、第二師団で賄えそうなんですが、後日、師団長同士で話し合いですね」
「でしたら、こちらで担当可能な業務をリストアップしておきますわね」
「はい、よろしくお願いします」
「総師団長付きについては、至急、選定するみたい」
「あら、カーネリウスさん、本部に戻られますの?」
サラサラとメモを取っていたエレバウトさんの手が止まる。
カーネリウスさんは、元々、総師団長付きの副官だったから、エレバウトさんはそれを思い出したようだ。
「あ、それはないです」
カーネリウスさんはあっさり否定する。
「全体会議で総師団長から言われました。第六師団で引き続き頑張れと」
「ホホホホホホ。それではあたくし、引き続き、カーネリウスさんを全力でサポートしますわ!」
「はい、今後ともよろしくお願いします、エレバウトさん」
「それで、師団長はどうされましたの?」
うん、いまさら、それを突っ込む?!
私は頭の上にサンドイッチを差し出した状態で固まった。
事情を知っているカーネリウスさんも無言だ。
「「…………………………………………。」」
全体会議が終わって、師団長室に戻ってきてからというもの、ラウはずっと私にくっついて離れない。
今も隣に座って、ベッタリと私を抱きしめた状態のまま。
私が差し出すサンドイッチをもくもくと無言で食べている。
はぁー
「全体会議で席を離されたんですよね、クロエル補佐官」
「正副師団長以外は、後ろの席に座らないといけなかったからね」
原因はなんのことはない、全体会議の席次だった。
私の隣に座れなかった分を取り戻そうとでもするように、ラウはいつもよりベッタリくっついていた。
「それで、俺の隣にクロエル補佐官が座ることになって。生きた心地がしませんでしたよ」
「ラウが拗ねちゃって、ちょっと大変だったね」
「ちょっと大変なんてものじゃないですよ! 俺、師団長の殺気と冷気をモロに食らってたんですよ!」
あれ? そうだった?
「でも、ほら、消されなかったし」
「当然ですよ! そんなんで消されたくありませんから、俺!」
絶叫が師団長室に響き渡り、『そんなんで』扱いを不満に思ったラウから、再度、冷気を浴びせられることになるカーネリウスさんだった。
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