精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

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3 武道大会編

5-1

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「え? なんで、スヴェート皇女やカーシェイさんの名前が出てくるの?」

 うん、そっちはエルヴェスさん担当だからね。
 エルヴェスさん。カーシェイさんの弱味が握れると大張り切りだし。

 そのうえ、エルヴェスさんはスヴェート帝国と因縁がある。
 今回の事件が起きる前から、スヴェートの動きを見張っていたそうだ。

「いやだって、そいつらが、今の騒動の中心じゃないか。普通、調べるだろ」

 テラが頭の上に乗っているデュク様を気にしながら、話を続ける。

 ま、普通はそうだよね。
 でも、こっちには、エルヴェスさんがいるからね。

 私の眼が必要なら、ラウも許可を出すだろうし、エルヴェスさんからも声がかかるだろうし。

 スヴェート関係に関しては、私は待ちの姿勢でいいと思っている。

「時空眼で視えるものには限界があるけど、ここは限界がないからな。僕ならここを使うね」

「なら、無理ってどういう意味?」

「僕がここで見ようとしたら、見られなかったって意味だ」

「へー」

 私の声に合わせるかのように、デュク様があくびをした。
 にゃーん、とかわいいあくびだ。

「へー、じゃないだろ」

 眠そうにしているデュク様を、テラが慌てて頭から下ろした。
 その場にどかっと座り、膝にデュク様を乗せる。

「テラでも、できないことがあるんだね」

 デュク様を見ながら、私もテラの横にしゃがみ込んだ。

「分からないのか?」

「名もなき混乱と感情の神が関与してるからでしょ?」

 テラの顔を見ずに返答をする。
 デュク様がまた、にゃーんとあくびをした。

「あぁ、そうだ。ここで見ることができなくて確信したよ」

「見ることができない、つまり、赤種の権能を上回る」

 眠そうなデュク様に手を伸ばして、そーっと撫でてみた。温かい。

「四番目もだいぶ理解してきたな」

 テラもデュク様を撫でる。

 赤種二人から撫で回されて、デュク様はご機嫌のようだ。ごろごろと喉を鳴らしている。

「そうだ、そういうことだ。スヴェート皇帝は混乱と感情の神と繋がっている」

「カーシェイさんも、見られなかったわけ?」

「カーシェイは見てないが、おそらく、無理だろうな」

 二人で撫で回すうちに、デュク様がウトウトしてきた。
 眠そうなデュク様を前にして、私とテラの会話は続く。

「スヴェート皇女か皇帝が伴侶だから?」

「スヴェート皇女の鑑定のからくりも理解できたか?」

「まぁね」

 私は武道大会のときを思い起こす。

 あのピンクの物体、スヴェート皇女には皇女本人の意識がまったく感じられなかった。

「スヴェート皇女の身体を、霞のようなものが操っていて、おそらく、それがスヴェート皇帝。そして意識も乗っ取っている」

 無理やり魔法も使わされ、身体が耐えきれずに血を吐いていた。

「あぁ、それで間違いない」

「カーシェイさんが皇女と皇帝、どっちを伴侶認定したかが問題だよね?」

「どっちを伴侶認定しても、身体はスヴェート皇女だ。伴侶の契約はスヴェート皇女とになる」

「え! 皇帝を伴侶認定してても、皇女と契約になっちゃうの?」

 思わず大きな声が出る。
 すかさず、シーッと注意してくるテラ。

 デュク様はテラの膝の上で静かに眠っていた。

 テラはさっきよりも声を潜める。

「君だって、伴侶の契約印は身体についてるだろ?」

「あー」

 うなじについているらしいから、自分では見えないけどね。

 ラウがよく、私の髪を払って、背中を満足そうに眺めていたんだよね。
 背中好きな変な趣味でもあるのかと思っていたら、うなじの契約印を見て、喜んでいただけだったという。

「問題なのは、皇女の身体の中に、皇帝の魔力が混じっているかどうかだ」

「視た感じは身体の回りだけだよね」

「伴侶の契約の話は知ってるのか?」

「ラウから聞いた」

 竜種の魔力を伴侶に注ぎ込み、伴侶の魔力を竜種が吸い取る。互いに互いの魔力が身体の中で混ざり合うことで、伴侶の契約が成立する。

 仮契約は、竜種の魔力を伴侶に注ぎ込むだけで成立するらしい。
 そうすることで、伴侶を逃げられなくする他、自分以外の竜種へのアピールになるそうだ。

 うん、どっちも勝手にやられたんだよな。
 いや、本契約の方は知らずに頷いたから、同意になるのかな。

 仮契約は、いつしたんだろう? と思っていたら、初対面のあの日、別れる際の握手のときだったようで。

 ジンの代わりに握手しようと思ったのが、私の運命の分岐点になったわけだ。

 この時のことを私は後悔していない。
 むしろ、よくやったなと思う。

「なら、分かるな。皇帝の魔力が混じっていれば、カーシェイは皇帝の魔力も吸い取ることになる」

「カーシェイさんも皇帝の、というか、混乱と感情の神の影響を受けるってことか」

「となると、こっちの権能が通じない」

 そう。それは想定していた。
 そのこともあって、私は別の方を調べようと思ったんだから。

「ま、そういうことになるよね」

「なんだよ、ずいぶん落ち着いてるな」

「最初からそんなとこだろうと思ってたし。そっちはエルヴェスさんが調べてるだろうから」

「ケッ。開き直ってるな」

 テラが端正な顔をしかめて悪態をつく。

 十歳のテラだと年齢に似合わないが、今の姿だとちょうどいい。
 テラの精神年齢は実年齢より十歳以上、上なんだろうな。 

「そういえば、ここに長々といて大丈夫なのか? 君の本体はそのままだろ?」

 テラが思い出したように話題を変えてきた。

「竜種最強の夫が、ベッタリくっついてるから問題ないし」

「その夫が一番問題だろ。何されてるか分からないぞ。今回はここまでにして、帰った方がいいんじゃないか」

 調べものの監視をしようとしていたテラのが、今度は帰らせようとしている。

「テラ、私がここで何か調べたら、マズいことでもあるの?」

「まさか。君の本体の心配をしているだけだよ」

「へー」

「他に調べものがあるなら、僕も手伝ってやるよ。それなら早く終わるだろ」

 テラは眠るデュク様を優しく撫で回す。
 デュク様は気持ちよさそうにテラの膝で眠ったままだ。

「で、何を見るつもりだ?」

 テラはデュク様に目を向けていて、私の方は見ていない。

 ここで躊躇して誤魔化しても、さっきと同じことになりかねないしな。
 できるだけ自然に、そしてさり気なく、私は標的をテラに伝えた。

「赤種の三番目」

「………………は?」

 少しの間をおいて、テラが反応し、くるっとこっちに顔を向けた。
 珍しく、険しい表情だ。

「おい、ちょっと待て」

 デュク様を撫でる手も止まっている。
 口調も険しい。

「今度は何?」

「赤種の三番目を調べるって」

「今、どこで、何をしているのかを見つけようと思って」

「それを調べてどうするつもりだよ」

 デュク様を起こさないよう、声の大きさは抑えているが、テラの口調はさらに険しくなった。

 対して私は、静かにゆっくりと返答をする。

「私の邪魔をするなら、排除する」

「四番目、何を言い出すんだよ。だいたい三番目になんて会ったこともないだろ」

 テラが語気を強めた。

「テラ。いくら私が覚醒して日が浅くてもね、同種の区別くらいつく」

 テラがビクッと小さく動いた。
 私は静かに言葉を返す。

「テラ。私に隠してたよね。あの猫みたいなのが『赤種の三番目』だってこと」

 テラの表情がすっと消えた。
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