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3 武道大会編
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テラはしばらく無言だった。
ただただ、デュク様の寝息だけが聞こえる。
私はテラが口を開くのを静かに待った。
私の感覚で五分程度の時間が経っても、テラに反応はない。
これ以上待っても時間の無駄かな。
そう思って、三番目の痕跡を探しにいこうと立ち上がろうとした、そのとき。
「なんで、分かった?」
テラがようやく口を開いた。
にゃー
デュク様も起きて、赤い目で私を見ている。
「視れば分かるわ」
「それで、どうして、三番目が君の邪魔をすると決めつける?」
「決めつけてはないわ。でも、今まで邪魔ばかりされてるし」
ラウと出会った最初の魔物遭遇、鑑定の儀の帰り道での魔物襲撃、自然公園での魔物召喚。
おそらくすべて、三番目が関わっている。
赤種が魔物を生み出すなんて話は聞いたことがないので、召喚魔法で呼び出しているのだろう。
それで、あの魔法陣《混沌獣の召喚》か。
いずれにしても、毎回毎回、魔物と戦っている。そんな大した強さじゃないから、深刻な事には至らなかった。
とはいえ、気持ちのいいものじゃない。
「そうか? 結果として、君にとっては良い方向に進んだだろ」
「そうかな。すべてラウに捕獲されて終わってるような気がする」
私にとって、グランフレイムでの人生より、ラウとともに歩む人生の方が、はるかに良いものなのには間違いない。
間違いはないけど、魔獣をけしかけられて『結果として良い方向』なんて言われても、素直に喜べない。
私はジロッとテラを眺めた。
「つまり、テラも共犯か」
「違う。最初のを見逃しただけだ。結果的に、君は自由に生きられるようになっただろ」
最初の?
ちょっと引っかかる言い方だな。
まぁ、それは後からでも追求するとして、私はこれ見よがしに自分の首を見せた。
「捕獲されてこの状態で、自由だって言うの?」
ラウと交わした伴侶の契約は、赤種の鑑定眼には首輪のように視える。
テラの朱眼にも、この首輪がしっかりと視えていることだろう。
「………………黒竜の関与は想定外だ」
テラは下を向いた。私の首輪から目を反らすように。
テラの視線の先、膝の上にはデュク様がいて、相変わらず、にゃーとかわいい声をあげている。
「テラが何かやったんじゃないの?」
「違う。本当に違うんだ」
責められているとでも思ったのか、テラはバッと顔をあげ、慌てて説明を始めた。
「黒竜に関しては何もやってない。鑑定の儀で初めて君に会って、そのときに気づいたんだ」
テラは一瞬、言葉につまり、また話し始めた。
「君が黒竜と仮契約していることに」
テラと初めて会ったとき。テラは私を見るなり、こう言っていた。『一足遅かったみたいで、残念だな』と。
あの時点で、すでに、伴侶の契約のことを分かっていたんだ。
「分かっていたなら、なんで、教えてくれなかったの?」
「教えたところで、何ができるんだよ。仮契約は済んでいたんだし」
「心の準備とか」
「準備したところで、何も変わらないだろ。それに余計なことをして、黒竜に睨まれたくなかったしな」
なんだか、おもしろくない。
でもこれで、テラが余計な関与をしていないことは分かった。
余計な関与をしたのは三番目だよね。
「後は君も知ってるとおり。覚醒して暴走した君の力が、僕らの手に負えないことが分かって、黒竜の助けを借りた」
「その対価が婚約許可書と婚姻許可書か」
「仕方ないだろう。あのままでは、君も、そして世界も危なかったんだ」
テラが真面目な顔でそう言ったが、危ないという実感はまったくない。
にゃー
デュク様も、テラの話をつまらなさそうに聞いているようだ。
「黒竜は仮契約をした上で、執着の鎖で君を縛っていたから。暴走している君の力を抑えられると思ったんだよ」
テラは息を吐いた。
同時にデュク様がもぞもぞと動き出す。
「だから僕は、共犯でも何でもない。世界の平穏を守っただけだ」
「なら、三番目のことを隠してたのは?」
「隠してはない。説明する機会がなんて、なかっただろう」
「とにかく、あの猫を見つけて、どう処理するかはそれから決めるから」
「ダメだ! 三番目に関わるな!」
思わず、テラが大きな声をあげた瞬間、テラの注意がデュク様から反れた。
フワッ
テラの腕から抜け出すデュク様。
テラがあっと声をあげたときには、デュク様は私の肩にひらりと飛び乗っていた。
「それは私が決める」
「分かった。最初から説明するよ」
デュク様が私の肩から頭の上に移動した。けっこう重いかも。
意識だけ、この空間にいるはずなのに、不思議と重みを感じる。
デュク様はそんな私に構わず、頭の上でにゃーと鳴いた。テラに話の先を促すかのように。
ただただ、デュク様の寝息だけが聞こえる。
私はテラが口を開くのを静かに待った。
私の感覚で五分程度の時間が経っても、テラに反応はない。
これ以上待っても時間の無駄かな。
そう思って、三番目の痕跡を探しにいこうと立ち上がろうとした、そのとき。
「なんで、分かった?」
テラがようやく口を開いた。
にゃー
デュク様も起きて、赤い目で私を見ている。
「視れば分かるわ」
「それで、どうして、三番目が君の邪魔をすると決めつける?」
「決めつけてはないわ。でも、今まで邪魔ばかりされてるし」
ラウと出会った最初の魔物遭遇、鑑定の儀の帰り道での魔物襲撃、自然公園での魔物召喚。
おそらくすべて、三番目が関わっている。
赤種が魔物を生み出すなんて話は聞いたことがないので、召喚魔法で呼び出しているのだろう。
それで、あの魔法陣《混沌獣の召喚》か。
いずれにしても、毎回毎回、魔物と戦っている。そんな大した強さじゃないから、深刻な事には至らなかった。
とはいえ、気持ちのいいものじゃない。
「そうか? 結果として、君にとっては良い方向に進んだだろ」
「そうかな。すべてラウに捕獲されて終わってるような気がする」
私にとって、グランフレイムでの人生より、ラウとともに歩む人生の方が、はるかに良いものなのには間違いない。
間違いはないけど、魔獣をけしかけられて『結果として良い方向』なんて言われても、素直に喜べない。
私はジロッとテラを眺めた。
「つまり、テラも共犯か」
「違う。最初のを見逃しただけだ。結果的に、君は自由に生きられるようになっただろ」
最初の?
ちょっと引っかかる言い方だな。
まぁ、それは後からでも追求するとして、私はこれ見よがしに自分の首を見せた。
「捕獲されてこの状態で、自由だって言うの?」
ラウと交わした伴侶の契約は、赤種の鑑定眼には首輪のように視える。
テラの朱眼にも、この首輪がしっかりと視えていることだろう。
「………………黒竜の関与は想定外だ」
テラは下を向いた。私の首輪から目を反らすように。
テラの視線の先、膝の上にはデュク様がいて、相変わらず、にゃーとかわいい声をあげている。
「テラが何かやったんじゃないの?」
「違う。本当に違うんだ」
責められているとでも思ったのか、テラはバッと顔をあげ、慌てて説明を始めた。
「黒竜に関しては何もやってない。鑑定の儀で初めて君に会って、そのときに気づいたんだ」
テラは一瞬、言葉につまり、また話し始めた。
「君が黒竜と仮契約していることに」
テラと初めて会ったとき。テラは私を見るなり、こう言っていた。『一足遅かったみたいで、残念だな』と。
あの時点で、すでに、伴侶の契約のことを分かっていたんだ。
「分かっていたなら、なんで、教えてくれなかったの?」
「教えたところで、何ができるんだよ。仮契約は済んでいたんだし」
「心の準備とか」
「準備したところで、何も変わらないだろ。それに余計なことをして、黒竜に睨まれたくなかったしな」
なんだか、おもしろくない。
でもこれで、テラが余計な関与をしていないことは分かった。
余計な関与をしたのは三番目だよね。
「後は君も知ってるとおり。覚醒して暴走した君の力が、僕らの手に負えないことが分かって、黒竜の助けを借りた」
「その対価が婚約許可書と婚姻許可書か」
「仕方ないだろう。あのままでは、君も、そして世界も危なかったんだ」
テラが真面目な顔でそう言ったが、危ないという実感はまったくない。
にゃー
デュク様も、テラの話をつまらなさそうに聞いているようだ。
「黒竜は仮契約をした上で、執着の鎖で君を縛っていたから。暴走している君の力を抑えられると思ったんだよ」
テラは息を吐いた。
同時にデュク様がもぞもぞと動き出す。
「だから僕は、共犯でも何でもない。世界の平穏を守っただけだ」
「なら、三番目のことを隠してたのは?」
「隠してはない。説明する機会がなんて、なかっただろう」
「とにかく、あの猫を見つけて、どう処理するかはそれから決めるから」
「ダメだ! 三番目に関わるな!」
思わず、テラが大きな声をあげた瞬間、テラの注意がデュク様から反れた。
フワッ
テラの腕から抜け出すデュク様。
テラがあっと声をあげたときには、デュク様は私の肩にひらりと飛び乗っていた。
「それは私が決める」
「分かった。最初から説明するよ」
デュク様が私の肩から頭の上に移動した。けっこう重いかも。
意識だけ、この空間にいるはずなのに、不思議と重みを感じる。
デュク様はそんな私に構わず、頭の上でにゃーと鳴いた。テラに話の先を促すかのように。
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