精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

文字の大きさ
上 下
152 / 384
3 武道大会編

5-0 そして苛立ちはくすぶり続ける

しおりを挟む
 私は例の場所にやってきた。

 そう、デュク様に会ったあの場所。
 広くてガランとした空間、姿見があちこちにあるところ。

 私はここの具体的な名前を知らないので、例の場所としか言いようがない。

 ラウが私をしっかり抱きしめて眠りに落ちた後、私もラウの心音を聞きながら、静かに寝入った。

 そして目を開けたら、ここにいた。

 身体は元の場所、つまりラウにがっちりとガードされた状態で眠りについていて、意識だけ、すっとここにやってきているようだ。

「うん、なんとなくだけど。意識して来れるようになったかも」

 今までのは無意識だったし。自分で来たというより、呼ばれて来た感じだったけど。
 今回はちゃんと意識的にやってこれた。
 私も赤種として進歩しているな。

 ふと、辺りを見回す。

「あれ?」

 いつもなら、白い猫の姿をしたデュク様が、とことこと私の回りを歩き回ったりしているんだけど。

 辺りを見回しても、デュク様がいない。
 大きな姿見があちこちに浮かんでいる。ただそれだけ。

 別にデュク様に会いに来たわけではないから、いないくても問題はない。

 でも。

「いないなら、いないで、ちょっと引っかかるよね」

 私はあてもなく歩き出した。

 目的のものを探すついでに、デュク様も見つけるため。

 少し歩くと、姿見の広場のようなところが見えてきた。

 白い猫を抱えた、背の高い若い男性がポツンと立っている。

 白い猫はもちろんデュク様。

 男性は?
 金茶色の髪に朱色がかった赤眼。私と同じくらいか、もう少し年上か、といった年齢だろう。

 朱といえば、心当たりは一人しかいない。

「なんだ、四番目か」

 朱眼の青年は私を認めると、そう、声をかけてきた。

「もう、ここを使えるようになったのか」

「テラ」

 間違いない。

 私は彼に近寄った。

 青年の姿をしたリングテラ・クロエル、赤種の一番目が目の前にいた。

「そっちの姿が本来のもの?」

 テラの見た目は十歳くらいだ。
 中身は十歳とは思いがたいものがある。

 今の見た目くらいが本来の年齢だと言われれば、なるほどと思ってしまうほど、しっくりくる。

「まさか」

 青年のテラはニタリと笑った。
 いつも見るあの笑みだ。

 デュク様はテラの抱擁から抜け出して、テラの頭の上によじ登ろうとしている。

「僕の権能は創造と維持だぞ。進化も変化もできるわけないじゃないか」

「なら、その姿は?」

「小さいと不便だからな。ここでは少し先の姿にしている」

 頭によじ登ったデュク様の身体に手を添えながら、また、ニタリと笑った。

「え? そんなことできるの?」

「僕はできてるな」

「私は?」

「君はできてないから、できないんじゃないか?」

「なんで? テラだけズルい」

 うん、テラだけズルい。

 それとも、赤種の一番目というのは万能で、あれこれいろいろなことができるのだろうか?

 私の抗議に対して、テラは端正な顔の眉間にシワを寄せた。

「ズルいって言われてもな。君はだいぶ成長した姿だろ。頑張っても、あと十年分くらいしか変化しないぞ」

「え? 赤種って年取らないの?」

 あと十年というと、今年誕生日が来れば十七になるから、二十六、七くらいの年齢ってことか。

 もう少しは大人っぽくなるのかな、私。

「取らないわけじゃないが、見た目の変化は止まるぞ。それに、普通種とは寿命の概念が違うからな」

 テラが不安になるようなことを付け加える。

 そう言えば、竜種はどうなんだろう。

 第五師団長も第七師団長も、ラウより年上っぽい見かけだけど、実年齢より、はるかに若く見える。
 第七師団長なんて、元父と同じくらいの年齢のはずだ。

「ラウは?」

「竜種の寿命は伴侶の寿命だ」

「は?」

「伴侶が死ねば竜種は死ぬ。だから、竜種にとって伴侶は生命線。普通は伴侶を巣から外に出さない。危険だからな」

 デュク様はどうやらテラの頭の上が気に入ったようだ。
 テラの頭から、にゃーと声が聞こえる。

「あぁ、外出も就職も禁止って、そういうこと?」

「ま、竜種の常識ってやつだな」

 頭でにゃーと鳴くデュク様に両手を添えながら、テラは話を続けた。

「それで、用があってここに来たんだろ?」

「そうなんだけど、その前に、ここは何なのか訊いてもいい?」

「知らないで、ここに来たのか」

 テラが驚いた顔で、私を見た。

 いやいや、誰も説明してくれないんだから知ってるわけないでしょうに。

「来るのは四回目だけど、来ようと思って来たのは初めてで」

「だいぶ、力が使えるようになってきたな」

 テラがふんと鼻を鳴らす。

 語り口は十歳のテラと変わりがない。

 だけれど、声の感じは違うし、まず、上から見下ろす視線がまったく違う。
 そんなテラの反応がなんとなく新鮮に感じてしまって、ちょっとだけ困惑していた。

「まず、質問の答えだ」

 テラは私の戸惑いなんて意にも介さず、話を始める。

「ここは、時間と空間の狭間にある、始まりの三神の神殿だな」

「狭間にあるのか。それで、ここって神殿なの?」

 だから、時間の進みがよく分からなかったんだ。

「神がいる場所って意味ではな」

「あぁ、デュク様がいるよね」

 思わずテラの頭の上を見た。
 相変わらず、デュク様はそこに鎮座している。

 私の視線を受けて、デュク様はかわいらしく、にゃーと鳴いた。

「他の二柱もここに存在してるぞ」

「ザリガ様とバルナ様には会ってないよ。いつもデュク様だけ」

 時と空の神ザリガ様と運命と宿命のバルナ様。この神様たちも猫なんだろうか? それに他の神様は? 神様は謎が多い。

 そんな私のどうしようもない思考を、テラの声が両断した。

「そのうち会えるだろ。それで、何しに来たんだ?」

 一瞬、躊躇する。
 テラに言っていいものかどうか。

 返答に迷っていると、テラがさらに言葉を被せてくる。

「なんだ、用があるんじゃなかったのか?」

 テラの朱眼が探るようなものに変わった。

 はぁ。

 きっとテラは分かっているんだろうな、私の目的を。そしてそれを邪魔しに、もしくは監視しにここに来たんだ。

 テラはぜんぶ分かってて訊いている。
 なら、隠しても仕方ないか。

「調べもの」

 半分諦めて目的を口にする。

 何の調べ物か言わなかったのは、残り半分の抵抗の意味を込めて。

 私の答えを聞いたテラからは、私が予想もしなかった名前が出てきた。

「スヴェート皇帝や皇女は無理だぞ。あと、おそらくカーシェイも、な」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの
恋愛
 幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。  誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。  数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。  お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。  片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。  お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……  っと言った感じのストーリーです。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

処理中です...