精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

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3 武道大会編

4-9 総師団長は再び狼狽える

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 バーーーーン

「オッサン、また、遊びに来てやったぞ」

「ギラギラ、相変わらず、オッサンなんて呼ばれてんのねー」

 突然、扉が大きな音を立て、聞き覚えのある、大人と子ども二人組の声が聞こえてきた。

 俺は目を通していた書類を脇に置き、勝手に入室してきた二人に目を向ける。

 またかよ。

 俺は頭を抱えた。

 この二人をセットで執務室に通すなと、あれほど言っておいただろうに。

 俺付きの副官も補佐も誰ひとりいなくなった。

 とはいえ、前回のことがあるので、接客対応に慣れた人材を隣室に待機させている。
 手を叩き、隣から人を呼ぶと、来客の応対、お茶の準備、茶菓子の準備が流れるように行われた。
 
「で、何の用だ?」

 昼間の騒乱で軍部は大変なことになった。まだ完全に解決した訳でもない。
 臨時会議を終え、こっちに帰ってきたばかり。

 ということを説明しても、帰ってくれるような二人じゃないからな。
 前回の失敗を踏まえ、さっさと話しかける。

 この二人を自由に喋らせてはいけない。
 そして、自由に行動させてもいけない。

 二人はさっとソファーに座って、お茶と茶菓子に手を着けようとしているところだ。

「報告があるから来たんだろ?」

 俺は二人に催促する。

 二人はカップを片手に、もう片方には紙の束を握り、こっちに差し出した。

「スヴェート皇女の追加鑑定報告」

「スヴェート皇女の追跡調査報告」

 この二人にかかれば、短期間でこれだけのものが出てくるんだよな。

 思わず感嘆の呻きを漏らす。

 この二人だって忙しかったはずだ。
 バーミリオン様は全体の防御結界の他、国王陛下の守護も行っていた。
 エルヴェスは自分の配下を動かして、やはり防衛と情報収集に余念がない。

 二人から報告書を受け取り、目を通した。どれもこれも頭が痛くなるような内容だった。

「スヴェート皇帝に書簡を送ったんだってな」

「スヴェート皇帝からイイワケされてオワリじゃなーい?」

 俺が報告書に目を通している間に、二人は勝手にお茶を飲み、勝手に菓子を食って、勝手に話をしている。
 報告書の内容が内容なので、接待係はすでに退室済みだ。

「それと、オッサン」

「ん、なんだ?」

 バーミリオン様が話しかけてきた。

 俺はいったん報告書から目を離し、声の方に顔を向ける。
 バーミリオン様は口いっぱいに茶菓子を詰め込んで、話を続けた。

「四番目の名前はクロスフィアだ」

「それなら知ってるさ。黒竜の手前、さすがに名前では呼んでないがな」

 バーミリオン様が振ってきたのは、赤種の四番目、クリムゾン様の話題だった。
 クリムゾン様については、覚醒時の事件もあるから、忘れるはずがない。

 しかし、なぜ、その話を出されたのか、理由が分からない。
 分からないまま、俺は返答を続けた。

「職場ではクロエル補佐官だし、それ以外はクリムゾン様と呼んだ方がいいよな」

「オッサン、分かってなさそうだな」

「ギラギラだからねー」

「おいおい、俺をなんだと思ってるんだ」

 バーミリオン様はともかく、エルヴェスは失礼すぎないか?

「口調だけは穏やかで人当たり良さそうに見えるけど、陰で何やってんだか分からないギラギラ顔の総師団長」

「おい」

 失礼すぎるだろ。

「厳つい顔して威厳ありそうで怖そうに見せてるけど、実は家庭では奥さんや娘に甘くて人情に厚いオッサン」

「おい、何が言いたいんだ」

 まぁ、妻にも娘にも頭が上がらないのは事実だな。

「つまりな。グランミストの銀髪を受け継いでいても、四番目はもうオッサンの姪じゃない」

「……………………。」

「いくら、オッサンの妹の面影があったとしても、四番目はもう赤種なんだ。それを忘れるなよ」

「知ってたのか」

 言葉がない。

 そりゃそうだよな。神級の鑑定能力を持つバーミリオン様に知らないことなどない。

 そう。

 ネージュ・グランフレイム嬢の母親は俺の妹、ミラージュ・グランミストだ。

 茶から金の系統の髪色が多いこのエルメンティアで、銀の髪色を持つのはグランミストだけ。

 ミラの子どもでグランミストの色を受け継いだのはネージュだけだった。
 容姿もミラによく似ている。瞳の色が違うだけで若い頃のミラを見ているようだ。

「武道大会であの姿を見ても、グランフレイムは何も言ってこないんだろ?」

「ナイナイ。だいたい、ブアイソウのそばで、アレだけ幸せそうに笑ってるんだものねー」

「グランフレイムでは、あんな笑顔、見せてないだろうしな」

「ソモソモ、グランフレイムはさっさとソウギ、やっちゃったしねー」

 俺を無視して、言いたいことを言い合う二人。

「分かってる、分かってるさ」

 分かってはいるが、どうしてもミラに重なる。それにミラの子どもなんだから、俺にとっては大切な姪だ。

「父親が口に出さないんだ。叔父なら、なおさら。そのへん、ちゃんとわきまえろよ」

 そんな俺の心中を察してか、バーミリオン様は釘を刺しにくる。

「もし、もしもの話なんだが」

「なんだよ、オッサン」

「あの子が赤種として覚醒せず、普通のままでいたとしたら」

「いまさら、それを聞いてどうするよ、オッサン」

「竜種の伴侶や破壊の赤種としてではない、普通の幸せな人生があの子にはあったんじゃないか、ってな」

 それを手助けできるだけの地位も力も、今の俺には十分にある。

「だから、いまさらだろ。そんなこと言うなら、なんであの時、ネージュを見捨てたんだよ」

「ナニソノ、おもしろそうな話!」

 あぁ、それも知ってたのか。

 六年前のことだから、幼子だったバーミリオン様の記憶にはないとばかり思っていた。

 エルヴェスはさすがに知らないか。
 そうだよな、家門間の騒動なんて、一般には関係ない話だしな。

「ネージュの二度目の鑑定の儀の後だ」

 見捨てたと言われても仕方ない。
 あの時のことは後悔しかないのだから。

「ネージュが技能なしだと分かって、こいつらがやったのは、責任の擦り付けあいだ」

 バーミリオン様が淡々と当時のことを説明する。何も言葉が出ない。

「ソレでソレで?」

「ネージュが技能なしなのはそっちの血筋のせいだと、お互いに言い合ったんだよ。
 それっきり、グランフレイムとグランミストは付き合いを断った」

「アー、だから、ほわほわちゃん。グランフレイムを出て、ひとりで暮らそうとしてたのね」

「だろうな。自分の家門にいても酷い扱いだし、かといって、母方の実家なんてアテにならないからな」

「なんだと」

 からからに干上がった喉から、呻き声が漏れた。

「アー、ソレも知らなかったんだ、ギラギラ」

「オッサン、いまさらオジサン面、できると思うなよ」

「思ってない。思ってはいないが、あの子には、もっと何かしてやれたんじゃないかと」

 ようやく声が出たが、声ではなく血を吐いているような感じだった。

「ギラギラができることは、他人として見守ることだけねー」

「そういうことだな」

 明るく茶化すように話す二人。
 口調は軽く明るいが、内容はどこまでも暗く重く、俺の心に突き刺さる。

 二人が退室した後も、俺の心は晴れることはなく、干上がった喉も潤わないまま。

 俺は目の前の冷めたお茶をごくごくと飲み干した。心なしかいつもより苦く感じた。




「あら、グランミスト総師団長もお茶を入れてたんですね」

 茶器を下げにきた接待係が、不思議そうに俺を見て、片付けていった。

「まさか!」

 その晩。俺は謎の腹痛に苛まされることになる。

 また、エルヴェスか。覚えてろよ。
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