精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

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3 武道大会編

4-2

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 カーネリウスが使えない。

 まったくもって使えない。

 エルヴェスがカーシェイの後任として目をつけたんだ。使えないはずがない。

 フィアも能力値は普通竜種でトップクラスと鑑定してくれたんだ。間違っているはずがない。

 だというのに、

「あのなー! ケンカ売ってんのかよ!」

 隣から怒号が聞こえてくる。




 ムカつく元護衛との面会は、無事には終わらなかった。しかも予想していたものより、さらに悪い形になった。頭が痛い。

 予定では、最終報告の説明をして、捜索打ち切りを告げて、すべてが終了。となるはずだったんだ。

 ところが、

「ネージュ様をお見かけしました」

 と、ネージュ生存宣言から始まって、

「カーネリウス副官に確認したら、こちらに勤務されているとの話。いったいどういうことでしょうか」

 カーネリウスゥゥゥ!

 だがしかし。ネージュ・グランフレイムは第六師団に勤務していない。これは事実だ。

 師団員にそんな人物はいない、容姿が似ているだけではないか、と説明しても、なら、会って確認させろの一点張り。

 けっきょく、時間内に最終報告の説明もできず、次の面会に持ち越しとなる。

 次? 次だと?
 こいつ、また来るつもりか?

 はぁ。

 さらに、面倒なことになった。
 



 そして、面倒事を増やした原因は、今も隣の執務室で、怒鳴られている。

 自然と執務の手が止まった。

「なぁ、カーシェイ。あいつ本当に大丈夫なのか?」

「能力的にはものすごく優秀、なはずなんですが」

「はず?」

 カーシェイから頼りなさげな返答が聞こえてくる。はずじゃ困るんだがな。

「なにしろ、エルヴェスが目をつけるくらいですし」

 エルヴェスは変態だが、いや、変態ゆえに人を見る目に間違いはない。

 エルヴェスが引き抜いてくる人材は、いろいろ問題はあるが、全員、超優秀。
 ちょっと優秀な程度では食指が動かない、それがエルヴェスだ。

 そのエルヴェスが、カーシェイの後任にと目を付けたのが、カーネリウスだった。

 失態を犯して第六師団送りになるというのもエルヴェスの予想通り。

 ただ、エルヴェスの予想を上回るポンコツさだったようで、叩き直しのため一ヶ月早く強制転属となって、今に至る。

「お相手様にも鑑定していただいていますから」

 確かにフィアも言っていた。
 俺はフィアの言葉を思い出す。

 単純に能力を視れば、第六師団二番手はカーネリウスで、カーシェイやドラグゼルンの上をいくとのこと。

 剣技、体技などの戦闘力はもちろん、分析力や立案能力にも長けていると。

 ただ、自分や他人の能力把握に問題があって、上位竜種レベルを普通レベルだと勘違いしている、との指摘もあった。

「能力的には問題ないと」

「はい」

 さらに頼りない声が返ってくる。

「で、使えるようになるのか?」

「おそらく」

「で、いつ、使えるようになるんだ?」

「今月末までには」

「そこが期限だよな」

 カーシェイは、来月には総師団長付きの副官に戻る。
 それまでにカーネリウスをどうにかしないと第六師団が潰れる。

「で、見通しは?」

「…………………………………………。」

 カーシェイが完全に黙り込んだ。

 仕方ない。

 やれやれとばかりに、俺はフィアからの提案事項を口に出した。

「フィアに言われたんだ。カーネリウスは、能力把握と現状分析ができていない」

 フィアはさすがに冷静に相手を分析する。鑑定結果だけに振り回されない。

「そこを補える者を補佐として付けられないかって」

 カーシェイは少しの間、考え込んでから、フィアの提案に同意してきた。他に代案もないんだろうな。

「確かに。鑑定能力を持つ補佐官が適任ですね」

 フィアの提案は的確なんだが、問題がある。

「問題は、だな」

「募集をかけて応募があるか、ですね」

 はー

 フィアは募集すればわんさか人が集まると思っているようだった。

 だが、

「やりたがるやつなんて、いないだろうな」

「第六師団ですからね」

 はー

 第六師団はフィアが思うほど人気部署ではないんだよな。

「募集、するだけしてみましょう」

「そうだな」

 はー




「師団長、まさかの希望者がいました」

「エレバウトだな」 

「ご存知だったんですね」

「フィアから話があった。かなり乗り気でやる気だったと」

「とはいえ、合格点に達してなければ採用はできませんよ」

 この際だから即決で良いだろうと思ったところに、カーシェイから待ったがかかる。

 カーネリウスの補佐まで使えないでは、話にならない、そのための試験、というのがカーシェイの言い分だ。

 試験は念入りに、書類選考、筆記試験、実技試験と行われた。




 書類選考。

 応募者一名なので選考も何もないとは思うが、カーシェイは譲らなかった。

 エレバウトは、新興家門出身。
 実家は交易品を専門に扱う商家から発展した、商業家門だ。

 流通業にも関与しているため、情報も集まる。
 なるほど。情報通なのは実家の影響か。

 鑑定室での成績は優秀。
 性格と言動に問題があるだけで、実力は申し分ない。

「書類審査は合格ですね」

 カーシェイが淡々とした表情で結果を口にした。




 筆記試験。

 鑑定能力がある上級補佐官に筆記なんて必要ないとは思うが、これもカーシェイは譲らなかった。

 第一塔でも人気部署である鑑定室に所属するだけあって、知識の質も量も問題なし。

 まぁ、このくらいでないと、鑑定室勤務なんてできないよな。

「筆記試験は満点ですね」

 カーシェイがちょっと意外そうな表情で結果を口にした。




 実技試験。

 補佐官でも情報室所属ならともかく、外回りのない鑑定室所属の人間に、騎士の実技は無謀だろう。

 そう伝えはしたのだが、やはりカーシェイは譲らなかった。

「ホホホホホホ」

「冗談ですよね」

 予想に反してエレバウトは凄かった。
 鑑定試験はともかく、体力試験や模擬戦闘もなんなくこなす。

「あら、あたくし、体力にも自信がございますのよ!」

 騎士並みの体力がある非戦闘職って、いったい。
 まぁ、俺のフィアも非戦闘職だけどな。

「実技試験も合格ですね」

 カーシェイが驚きを隠しきれない表情で結果を口にした。




 そして、

「師団長、まさかの合格です」

「実技まで合格点を出すとはな」

 二人で顔を見合わせる。

 愕然としている俺たちに、カラカラと笑い声がかけられた。

「エレバウト君は、能力自体は優秀なんだよ。でなければ、鑑定室になんて所属できないだろ」

 二人で声の主の方を見る。

 第一塔長のレクシルドだ。

「おい、レクス。エレバウトがこんなに優秀だなんて、聞いてないぞ」

「エレバウト君は、性格と言動が致命的なだけで、元々、優秀なんだって」

 致命的ってはっきり聞こえたぞ。
 優秀でも性格と言動がダメって、カーネリウスかよ。

「戦闘力が騎士並みの補佐官って、おかしいですよね」

「そうか? クロエル補佐官なんて、戦闘力は竜種以上だろ」

 フィアを引き合いに出すなよ。
 破壊攻撃で破壊の赤種に勝るやつなんているわけないだろ。

「というわけで、エレバウト君をよろしくな!」

 こうして、エレバウトの第六師団異動が確定した。 

 フィアに絡む回数一位だった、あのエレバウト。絡みが高じて、異動先にまでついてくるとは。

 密かに始末することまで考えていたのに。

「やっぱり始末しておいた方が良かったか」

「女性にまで嫉妬しないでください!」

 そんな俺をカーシェイが呆れた表情で眺めていた。
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