精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

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3 武道大会編

3-5

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 第四師団チームは、第四師団長さんと就任したての副官さんだった。

 試合場の中央で、相対する。

「お手柔らかに頼むよ」

 キャーーー

 観客席から女性の甲高い声があがる。
 さすが、見初められたい男性の上位三人の一角。大人気だ。

 でも、爽やかな笑顔とは裏腹に、目は冷え冷えとする光を放っている。

 無情の紫竜。

 第四師団長のテオドリクス・グランスプリタスさんは、確か、そう呼ばれていた。

 爽やかで、穏やかで、優しそうな印象を相手に与えるが、中身は『無情』。

 見かけに騙されてはいけない。

 エルヴェスさんの話では、精霊王を召喚してくるという。

 ピィィィィーーー

 試合開始の合図が鳴り響いた。

 ラウがスッと間合いを詰めると、第四師団長と副官もスッと身構える。

 それからは、互いの出方を窺いながら、ジリッ、ジリッとした動き。

 案外、地味だな。

 精霊王召喚、というからには、もっと派手な攻撃をしてくるかと思っていたのに。

 緊張の中、我慢できずに副官がハッと息を吐いた。

 その瞬間を狙って、ラウが双剣を顕現させ、切りかかる。

 その時。

 ブワッと大風が吹いた。

 堪えきれない!

 ザザザッ

 私だけ後ろに吹き飛ばされる。

「フィア!」

 しまった! ラウと離された!

 追い討ちをかけるように、私とラウの間に、さらに突風が巻き起こる。

「くっ!」

 強風で目を開けているのがやっと。
 なんとか、堪えて周りを見ると、

「風の精霊王に、大地の精霊王……」

 私を囲むように二体の上位精霊が顕現していた。

 シュルッ

「え?!」

 二体の精霊王に気を取られて、足に巻きつこうとした蔓を、慌てて避ける。

「植物の精霊王も?!」

 私の背後には、いつの間にか、植物の精霊王もいて、蔓を広く伸ばしていた。

 私の魔力をその場に巡らせると、蔓はシュルッと退いていく。

 面倒だな。

「フィア!」

 ラウの焦る声。

「おっと、黒竜。行かせないよ」

「紫竜!」

 ラウは、第四師団チームの二人に牽制されていて動けない。

「黒竜、君を倒すのは大変だからね」

 しれっと話す第四師団長。

 精霊王三体を召喚して顕現させる展開に、観客席も大興奮だ。
 加えて、第四師団長が言葉を発する度に聞こえてくる、キャーーーという歓声。

 聞き飽きたな。

「勝負から逃げるつもりか」

「頭脳戦だよ。彼女に退場してもらう」

「俺に勝てないからって、俺のかわいいフィアを狙うなんて」

「なんとでも言ってくれ。勝ちは勝ちだ」

 最初から、ラウを動けなくして、私を狙う作戦だったんだろうね。

「団体戦は、ひとりでも試合続行不能になれば、負けだったっけ」

 私もこのままでは動けない。

「さぁ、大地の精霊王、植物の精霊王。彼女の動きを封じろ」

 拘束されて脱出できなければ、試合続行不能になるのかな?

「これで終わりだ」

 そういうことになるんだろうな。

 端から見たら大ピンチなんだろうけど、私は落ち着いていた。

 焦る必要ある? 精霊王ごときに。

「へー、私なら楽に倒せると?」

 ぽわんとしてるなんて、よく言われる。

 でも、これでも赤種の四番目。
 ずいぶんと甘く見られたものだ。

「おもしろくないなぁ」

 ポツリとつぶやく。

 私は迫ってくる精霊王から目を離し、自分の手のひらを見つめた。

 そしておもむろに、右の手のひらを天に向ける。

 そのまま右手を軽く握りしめ、大地の精霊王に向かって、シュッと振り下ろした。

 ドゴウッッッ

 まず一体。

 今度は右手を流すように、植物の精霊王に向かって、スッと横薙ぎにする。

 ドゴウッッッ

 これで二体。

「ふー」

 ズゥゥゥゥーーーン

 遅れて、二体の精霊王が音を立てて崩れ落ちた。

 風の精霊王は、他の二体が倒されるやいなや、ビューッと突風を巻き上げて消える。

「「何?!」」

 突風が吹き荒れる中、私は右手の大鎌を肩に担いだ。
 そのまま、ラウのところにゆっくりと歩み寄る。

 第四師団長とその副官、そしてラウが互いに牽制しあっていたはずが、いつの間にか、動きを止めて私を見ていた。

「で、誰が終わりなの?」

 首を傾げて、第四師団長を見る。

「精霊王を倒しただと?!」

「普通、精霊を攻撃するか?!」

「フィアがかわいすぎてヤバい!」

 魔物でも見るような目で、私に対する第四師団チームと、頬を染めてもじもじしている、おかしさ全開のラウ。

「私に精霊なんて関係ないし」

 事実だけを淡々と告げる。

「ラウ、おかしくなってないで。さっさと終わらせよう」

「あぁ」

 声をかけると、ラウはガラッと雰囲気を変えた。
 さっきまでのもじもじとしたラウとはまるで別人だ。

 お互いの神器を構える。

 ラウが持つ破壊の双剣と、私の持つ破壊の大鎌。

 この二つが揃うのは、赤の樹林のとき以来。
 あのときはお互い相対する状況だったけど、今回は協力して戦う状況。

 魔法陣を練り上げるように、神器に力を注ぎ込み、合気になるのを見計らう。
 私の隣で、ラウも同様に気を練り上げていた。

 キーーーーーーン

 ラウと私の魔力が共鳴し、澄んだ音を立て始める。

「くっ」

 怯む第四師団長。

「ヤァァァァァ」

 神器に気圧された副官が、なんの前触れもなく動いた。

「待て!」

 第四師団長が止めるが間に合わない。

 グギン、ドゴゥ

 ラウと私の神器がそれぞれ、第四師団長と副官を捉え、軽々とねじ伏せる。

 留め!

 地面に転がった副官の首筋に、大鎌を振り下ろした瞬間、

 ピィィィィーーー

 試合終了の合図が鳴り響き、勝負が決まった。




 観客席からはさらに大音量で、拍手と歓声が響き渡る。

 第六師団チームの勝利を祝う声、第四師団チームの健闘を称える声、いろいろな声も入り混じる。

「見つけた」

 そんな声も微かに耳に届く。

「ん??」

「どうした、フィア?」

「いや、なんか、聞こえたかなーと思って」

 キョロキョロ、辺りを見るが、当然ながらもう声は聞こえない。

 なんだったのかな。

「それより、ご褒美だろ?」

「え、えー? 今回、私も頑張ったよね?」

 だから、ご褒美の公開キスはなし。

 そういう意味でラウに話しかけると、

「そうだな」

 ラウは大きく頷く。

 そして、私を引き寄せると、私の頬にチュッとキスをした。

 え?

「ご褒美のキスだろ?」

 私も頑張った=私もご褒美=私もキスして欲しい。

 どうやら、私が思ったこととは違うふうに、ラウの中では変換されたようだ。
 誤変換したラウによって、けっきょく、公開キスする羽目になる。

 こんな大観衆の前で公開キスなんて、するのも、されるのも恥ずかしすぎるんだけど!

「ううっ。嬉しすぎて心臓が痛いっ。これ以上、保たない」

 狼狽える私を見て、またまた、おかしなことを言い出すラウ。
 いくら上位竜種とはいえ、心臓が止まったら死ぬと思う。

 自分がされても、自分がしても、ラウの心臓は止まりそうになるらしい。

 ま、公開キスでも、そうでなくても、ラウの心臓は嬉しくて止まりそうだ。

 ラウが喜んでくれてるから、まぁ、いいかな。

「フィア、大好きだっ」

 どちらにしろ、興奮したラウが私を抱き上げて、明るく生き生きとしているのには変わりがなく。

 私も嬉しくて、つい、観衆に手を振ってしまった。
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