精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

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3 武道大会編

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 けっきょく、団体戦の詳しい説明はないまま、選考会の日を迎えた。

 後方部隊以外の各部隊から代表が二名ずつ参加。副師団長は補佐一名と組んで二名の参加だった。

 ルール通り、竜種の突撃部隊長とカーネリウスさん、そして赤種の私も竜種扱いってことで一名での参加。

「選考会は本番の団体戦と同じルールで行きます」

 補佐二号さんが進行を勤める。

 ってルール!!

「団体戦も個人戦とほぼ同じなんで、慌てなくても大丈夫っすよ」

 補佐一号さんから声がかかった。

 二号さんの言葉に私がピクリと反応したのを、一号さんは見逃さなかったのだ。

「人数については知ってるっすよね」

 私はコクリと頷く。

「団体戦は複数なんで合わせ技あり」

 一号さんは話を続けた。

「そして、一人でも試合続行不能になったら、敗退っす」

 あー、人数、多ければいいってものでもないんだね。
 それで、ラウはひとりで出ると言ってたのか。

「だから、師団長の言い分も分からなくはないっす」

 なるほどね。

「いくら、ラウが強くても、パートナーが足を引っ張ればダメってことか」

「そういうことっす」

 一号さんと団体戦の話をしている間に、準備は整ったようだ。

 選考会は第六師団の訓練場で行われる。

 その壁に対戦表が貼られていた。

 竜種二名は実力が明らか。シードで三回戦から。私は対騎士の実力不明ということで、一回戦から。

 対戦表の作成はエルヴェスさん。


 一、ほわほわちゃん 対 ガツガツ
 二、ヤサグレ 対 ジミ
 三、ナイスバディちゃん 対 スマシ 
 四、お人形ちゃん 対 コマリ

 五、一勝者 対 二勝者
 六、三勝者 対 四勝者

 七、ノーテンキ 対 五勝者
 八、ショボクレ 対 六勝者

 九、七勝者 対 八勝者


 なんだこれ。

「ガツガツって何かの暗号?」

 一号さんに尋ねると、一号さんは黙ってエルヴェスさんの方を向く。

「ガツガツは、ガツガツ顔のことよー! コイツ、いっつもガツガツした顔、してんのよねー」

 エルヴェスさんが、思いっきり戦闘部隊長さんを指差して、でっかい声で教えてくれた。遠くから。

 うん、どう聞いても悪口にしか聞こえない。

 戦闘部隊長さん、顔、真っ赤にして、エルヴェスさんに食ってかかってるよ。

 私もつい最近まで、エルヴェスさんから美少女ちゃんと呼ばれてた。
 でも、美少女って訳でもないし、そもそも少女じゃないし。

 そう言ったら、

「ソレなら、ほわほわちゃんね!」

 と言われて、ほわほわちゃんだ。

「エルヴェス! 後で見てろよ!」

「ハイハイ、ほわほわちゃんに勝ったらね!」

 そして、第一試合。

 私とガツガツ顔(エルヴェスさん曰わく)の戦闘部隊長さん&副部隊長さんの試合は一瞬で終わった。

「偉そうなこと言ってた割に、大したことナイわねー アンタ、一生、ガツガツって呼んであげるわ」

「うぐぐぐぐ」

 エルヴェスさんの酷い言いように歯噛みする戦闘部隊長さん。

 試合開始後すぐ、距離を詰めて、回し蹴り二発。
 あっさり勝負がついてしまった。

「フィアのキレイな脚に蹴ってもらえるなんて! ズルいぞ、ベルンネーズ!」

「うぐぐぐぐ」

「俺を差し置いて、フィアに蹴られるなんて!」

 そしてあっさり負けた戦闘部隊長さんに食ってかかるラウ。

「俺もフィアのキレイな脚に蹴られたい。踏みつけられたい」

 うん、ラウが拗ねてた理由、なんとなく分かったような気がする。

 でも、踏みつけてはないからね。




 その後も順調に勝ち上がり、第七試合は突撃部隊長のドラグゼルンさんと。

 初の竜種との対戦だ。

 私は鑑定眼をフル稼働させる。

 能力値的には師団三位。ラウ、カーネリウスさんに次ぐ実力者で、経験も豊富。
 第六師団の切り込み部隊の長を務める勇猛果敢な人物だ。
 剣を片手にスピードのある戦い方を特徴とする。

 対する私は素手。

 神器もあるけど、いざという時に取っておきたい。
 それに武器なしの素手なら、魔法陣の展開も素早くできるし。

 ピィィィィーーー

 試合開始の合図と同時に、ドラグゼルンさんが動いた。速い。

 あっという間に近寄って、素手の間合いの外から、剣を繰り出す。
 間合いは剣の方が広いので、遠間からの攻撃は向こうが有利だ。

 シュッ ズサッ

 上段からの切り下ろしを間一髪避けた。

 と思ったら、剣の軌道が急に横なぎに変わり、私の脇腹を狙う。

 バキッ 

「何?!」

 こっちも負けてはいられない。脇腹を狙った剣を素手で叩き落とし、そのまま叩き折る。

「くっ!」

 折れた剣を逆手に持ち替え、そのまま接近戦となった。

 接近戦でも腕や脚の長さで、向こうの方が有利なのには変わりない。

 ブン

 右脚からの蹴りをかわされ、その直後の隙を狙って、今度は左脚からの回し蹴り!

 ブン ドガッ

 左脚が首筋に入った!

 と、思いきや、当たって砕け散ったのは土塊?!

 精霊魔法か。

 ニヤリと笑うドラグゼルンさん。

 でも甘い。

 私は用意していたもう一発、右脚の蹴りを同じところに繰り出していた。




「アンタも、ほわほわキックにやられるなんて、大したことナイわねー」

「エルヴェス! あの蹴りの、どこがほわほわだよ!」

 さすが、竜種。復活が速い。

 頭を直撃して吹っ飛んでいったから焦ったけど。

「お前もか、ドラグゼルン! ズルい、ズルすぎる!」

「おい、好きで蹴られたんじゃねぇぞ! ガード、間に合わなかったら、ヤバかったわ、あれ!」

「俺ならフィアのキレイな脚をすべて受け止めるのに」

「嘘だろ。マジで死ぬぞ」

 そして、今度はドラグゼルンさんに食ってかかるラウ。

「俺もフィアのキレイな脚に蹴られたい。踏みつけられたい」

 だから、踏みつけてないって。




 ラウとドラグゼルンさんが掴み合いのケンカ(?)をしている間に、第八試合が終わってしまった。

 第八試合は、カーネリウスさんとメモリアの対戦。

 隠密技能全開で俊敏な動きのメモリアに、苦もなく合わせるカーネリウスさん。

 メモリアの精霊魔法と剣を絡めた攻撃を、さっと見切って防ぎきる。

 そして、どこからか取り出した長剣を振るって防御魔法を切り崩し、メモリアの眉間に長剣を突き付けた。

 そこで、審判がすかさず終了の合図。

 メモリアが敗退し、最終試合は私とカーネリウスさんの勝負となった。

 やるな、カーネリウスさん。

 まさか、神器を持っているとは思わなかったけど。

「ホホホホホホ、ビビりの癖にやりますわね、カーネリウスさん!」

「ホントホント、ショボクレの癖にお人形ちゃんにカツなんて、よくやった!」

「エレバウトさんもエルヴェスさんも、悪口ですよね、それ?」

 勝ちあがったのに悪口を言われて、カーネリウスさんは肩を落とした。

 手にした長剣はさっと一振りで、キレイになくなる。

「出し入れできるなんて、おもしろいですわね!」

 うん、神器だからね。
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