精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

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3 武道大会編

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 カーネリウスさんが使えるようになってきたところで、第六師団に別の問題が持ち上がった。

 臨時で緊急な特別幹部会議で議題にあげるも、話は一向に進展しない。

「師団長は、ドーすんの?」

 その問いかけ、何回目だったっけ?

 そもそもだ。カーシェイさんの後任を、カーネリウスさんがしっかりと務めきれていれば、起こらなかった問題だとは思う。

 結果論だけどね。




 テラや塔長から聞いてた通り、武道大会の今月末開催が告示された。

 日程は三日。

 メインは騎士による個人戦。
 見習騎士、一般騎士、上級騎士、幹部騎士と各部門に分かれて行われる。

 試合結果は昇格の査定にも影響するため、皆、必死だ。

 健康上もしくは業務上の問題がない限り、正副師団長以外の騎士は全員参加、騎士以外の師団員は希望者のみ参加となる。

 そして、大会最終日には、師団長同士の団体戦が行われる。こちらは娯楽的要素が高い。

 チームに竜種を含む場合は二名まで、含まない場合は四名までの人数で戦うため、戦略戦術も重要となる。

 戦い方次第では、上位竜種も負けてしまうそうなので、気は抜けない。

 例年、第六師団の団体戦は、ラウとカーシェイさんが出場していたそうだ。

 今年、カーシェイさんはいない。

 そこで持ち上がったのが『誰が師団長と組んで出場するのか』問題。

 第六師団が揺れ動いた。

「今年は後任のカーネリウス副官か?」

「いやいや、副師団長だろ。戦闘経験は師団一だぞ」

「ここは竜種の突撃部隊長だろ。経験も実力も十分じゃねぇか?」

「複数相手なら掃討部隊長だって、かなりのものだぞ」

 噂が噂を呼んで、部隊同士がちょっとギスギスしてくる。




 それで急遽行われたのが、今やっている師団内会議だ。

 なのに、なかなか話が進まない。
 あれこれ意見を言い合った結果、最初に戻る。

「ソレで師団長は、ドーすんのよ?」

 と、単刀直入に切り込むエルヴェスさん。

「ァア? だから、竜種を含む場合は二名までだろ。俺ひとりで問題ないぞ」

 と、あっさり答えるラウ。

 この回答に対して、

「いや、二人の方が人数いるし」

「いや、師団長だけの方がかえって動きやすいし」

 という話になり、けっきょく、最初のエルヴェスさんの問いかけに戻っていた。

 またもや、同じことの繰り返しかと思っていたら。
 それまで沈黙を保っていたエレバウトさんが、甲高い声で一石を投じる。

「あら! なら、師団長! クロエルさんとお二人で出ればよろしいのでは?」

 と、高笑いしながら、会議をかき回し始めたエレバウトさん。

 はい? 私、騎士じゃないけど?!

「師団長の隣にクロエルさんが立ってニッコリしていれば、師団長だってお元気になりますでしょ!」

 え? どういう理屈?

「そうだな! さすが、エレバウト! 良い案だ!」

 と、腕を突き上げ、喜んで乗ってしまったラウ。

 え? ラウ、乗り気なの?!

「だな!」

 と、小躍りしながら、軽く同調する突撃部隊長。

 え? まさかの同意?!

「ちょっと待て、師団長! 騎士でもない女の子を参加させる気か?!」

 と、突然、わたわたと焦り出す副師団長。

 だよね。そう来るよね。

「お相手様、騎士との戦闘経験はないですよね……」

 と、最近、ようやく考える癖がついてきたカーネリウスさん。

 まったくその通り。私、魔獣に魔物、そして無生物としか戦ってない。

「勝ち負け関係なくても、さすがに、マズくないか? 女の子だろ?」

 と、頭を抱えて、うんうんと悩む掃討部隊長。

 だよね。そうだよね。

「何、言ってんだ! 出るからには、勝てるメンツだろ!」

 と、ふんすか鼻息荒く息巻く戦闘部隊長。

 うん、ところで私は勝てるメンツ? 勝てないメンツ?

「何それ、女の子だから勝てないって言いたいわけ?!」

 と、キィキィ怒りを露わにする援撃部隊長。

 あ、女の子=勝てないメンツ扱いか。
 そりゃ怒るな、援撃部隊は女性騎士の隊だもんな。

「師団内選考会でも開けばどうですか?」

 と、あくまでもどこまでも冷静な遊撃部隊長。

 間髪入れず、

「ソレじゃ、明後日に選考会ね! アタシの優秀な補佐一号二号! 準備シクヨローーー!」

「「了、解!」」

「美少女ちゃんも参加よ、サンカ! ハイハイ、決まり決まり、会議はコレにて解、散!」

「「え?!」」

 皆が呆気にとられた。

 その間に、エルヴェスさんが日程から準備から、すべて手配して、この会議まで終了宣言。

 というわけで、エルヴェスさんの発言により、なし崩し的に決まってしまった師団内選考会の開催。

 有無を言わさずさっと決めて、深く考えこむ前にさっと解散。
 エルヴェスさんのあまりの手際の良さに、ほとほと感心する。

 さて、呆然としてもいられない。

 選考会に出ると決まったからには、私には確認しないといけないことがあった。

 それはルール。

 未だに呆然としている皆を見回して、聞いてみる。

「ルールは? なんでもあり?」

「「そこから?!」」

 皆の声が揃う。

 え? そんなに驚くこと?

 私は首を傾げた。

 そんな私を見て、心配に思ったのか、ラウが耳元で、

「フィア、ルールは帰ってから教えるから」

 と、囁いた。




 帰宅して、いつものまったりとした二人だけの時間。
 ラウが簡単にルールを教えてくれた。

 ラウの説明をまとめると、

・一試合十分。勝敗決しない場合は延長。
・勝敗は三人いる審判が判定。
・相手を死亡させるのは不可。
・武器防具は使用可。制限なし。
・魔法は使用可。制限なし。

・神器は武器扱い=使用可。
・魔導具は魔法扱い=使用可。

 という感じだった。

 自分の手の内を見せることになるので、どこまで力を出すかの判断が重要そうだ。

 さすが、ラウはなんでも知っている。

「ラウは凄いね」

 と伝えたとたんに、「フィアっ」と言って、ギューッと抱きしめてくるし。勢い余ってソファーに倒れ込むし。

 なんて言うか、大型の熊にじゃれつかれている感じ。
 毎回のことだから、だいぶ慣れてきた。

 あとは団体戦の説明をしてもらわないとな。
 というところで、ラウから変な声が聞こえ出す。

「ぐぅぅぅ、フィアがかわいすぎて、もうダメだ。あちこち力が入る。身体が保たない」

 うん、夫がおかしい。これもだいぶ慣れた。

 ラウも誉められて嬉しいんだろうな。

 そんな様子が十分過ぎるほど伝わってくるので、おかしい夫に悪い気はしない。

 もう少し穏やかな反応がほしいとは思う。
 でも、ヤバさとおかしさが同居しているのが、通常のラウ。諦めよう、私。

 私が諦めの境地にたどり着いたとき、ラウが耳元で囁いた。

「だから、もう夫婦の時間にしような」

 おかしい夫がさらにおかしいことを言い出した、と思ったときには遅かった。

 ラウに抱え上げられ、移動している。

「はぁあ? 待って、ラウ。まだ説明、終わってないよね?」

「もう待てない」

「だって、団体戦の説明は?」

「フィアは俺との時間より、団体戦の説明がいいのか?」

「ええっ?! いや、そういうことじゃないよね?」

「毎日いっしょにいるのに、夫婦の時間は減ってるし」

「えぇー?」

 減ってない、絶対に減ってないよね、ラウ。むしろ増えてるよね?

「職場でも帰宅しても、仕事の話ばかりだし」

「えぇっ?!」

 職場では仕事の話をしないとね、帰宅して仕事の話は今日だけだよね?

「だから、もう夫婦の時間だからな」

 うん、なんだか理由は分からないけど、絶対、なんか拗ねてる!

 この夜、拗ねまくってごねるラウを説得しきれず。
 ラウは団体戦の説明を放棄して、夫婦の時間に強制突入した。
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