精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

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3 武道大会編

1-8

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 塔長と金短髪男は塔長室に戻ってくるなり、中央のテーブルに腰を下ろした。

 二人ともいつもより冴えない表情だ。

 フィールズ補佐官が二人にお茶を入れる。

「で、何の話だって?」

 塔長がアップルパイをつまみながら、尋ねてきた。
 金短髪男はアップルパイには手を着けず、目を擦りながらお茶を飲んでいる。

「自然公園のメダルです。どうなったのかなーと思って」

「君な、極秘事項だぞ」

 首や肩をグルグルと回しながら、金短髪男が私に文句を言い出した。
 それを塔長が制する。

「グリモ。あの鑑定をしたのはクロエル補佐官だ」

 塔長はアップルパイをつまんだ指をペロッと舐めてから、説明を始めた。

「まず、魔法陣を刻む前のメダルそのものは、第三塔で作られたことが分かった」

 話しながら、さらにアップルパイに手を伸ばす。

「クロエル補佐官に組成も鑑定してもらっただろ?」

「ちょっと、見たことない作りでしたね」

「そうなんだ。特殊だったから、第三塔で開発されたものじゃないかと思ってな」

 アップルパイをひとつ手に取り、塔長は話を続けた。

「調べてみたら大当たりだ」

「第三塔が作った物だったんですか?!」

 部屋の片隅でデータと格闘していたナルフェブル補佐官も、第三塔と聞いて顔をあげた。
 ナルフェブル補佐官、第三塔と組んで魔導具の開発もしてたからね。

「ああ、残念ながら。
 その開発者はメダルの開発と、そのメダルに《光輝》《増幅》《防御》の魔法陣を組み込んだ魔導具の製作を行っていた」

 塔長はさらに話を続ける。

「メダル型の小型照明のような物を作ろうとしていたらしい」

「《光輝》を《混沌獣の召喚》に変えれば、あのメダルになりますね」

 魔法陣の構成上はそうなるけど、そんなに簡単なものではない。

 それに同じ魔法を発動させる魔法陣でも、人によって違いが見られる。
 つまり、個性があるのだ。

「ああ。試作品と設計図が残っていたが、魔法陣の構成はまったく同じだった。
 魔法陣の組立方の癖などからも同一人物の製作と判断した」

 え。

 塔長室が静まり返る。

「で、その開発者は誰だったんだ? 本当に第三塔の?」

 青い顔をしたナルフェブル補佐官が、こわごわと尋ねた。

 開発内容で誰だか分からなかったところをみると、ナルフェブル補佐官の知り合いではないようだ。

「名前はここで公表できないが、第三塔所属の魔導技術者だ。詠唱魔法技能と魔導具製作技能が特級。
 昨年十月に職を辞して、現在、行方不明だ。本部で行方を追っている」

 ナルフェブル補佐官に対して、淡々と答える塔長。

 でも、それっておかしくない?

 魔物を召喚するメダルは、私にしか鑑定できなかった。鑑定神級の私しか。

「《混沌獣の召喚》の魔法陣の出所と、メダルの製作理由については、分かっていない」

 塔長はさらに気になっていたことも説明してくれた。

「辞職前の交友関係や接した人物から手がかりを掴めないか、今、調査を進めている」

「おかしいですね」

 私はすかさず口を挟む。

 特級製作のメダルなら、私しか鑑定できないはずがない。

「何がおかしいんだい?」

 当時、国外出張中で、魔物召喚のメダルにかかわっていなかった金短髪男が、話に入ってきた。

「自然公園のメダルは、少なくとも超級より上。赤種や魔種と同等もしくはそれに準じる者の作です」

 私の回答に対して、塔長も大きく頷いた。

「そう、級位が食い違うんだ。超級より上のメダルを特級が作ったことになる」

 ありえない。

「超級より上というのが間違いだった可能性は?」

「それはない。僕も鑑定できなかったんだ。それともグリモは僕を疑うのか?」

「いえ。その可能性がないとするなら、特級が間違いだったか、協力者がいるかですね」

「ああ。そういったことも含めて調査中だ」

 まずは、元第三塔所属の開発者探しから、ということか。

「あの公園にいた、猫の形をした何かについては?」

「調査を進めているが、こっちはまったく情報がない」

 あの猫みたいな何かが、あのとき、自然公園でメダルを使って魔物を召喚した。

 たまたまなのか、それとも…………。

「テラは何も言ってないんですか?」

「師匠はあまり多くを語らない」

「分かりました」

 テラは何か分かっているはずだ。

 でも。

 舎弟にも教えないということは、どういうことなんだろう。




「しっかし、このアップルパイ、マジで美味いな」

 話は終わりとばかりに、塔長はラウのアップルパイをむしゃむしゃと食べ続ける。

 金短髪男の方はいっさい手を出さず、お茶だけだ。

「僕、甘いのはちょっと苦手で」

 へー

 いいこと聞いた。今度、間違えてあまーいお茶でも淹れてあげよう。

「あらぁ、残念。美味しいわよぉ」

 そうそう。ラウが作るお菓子はどれも絶品なんだ。
 お店で売っているお菓子にも引けを取らないと思う。

 嬉しくなって、皆が食べるのを見ていたら、フィールズ補佐官からも誉めてもらえた。

「本当に美味しいです。クロエル補佐官、お菓子作り、お上手ですね」

「あぁ、これ」

 私が作ったと思われてるのか。
 訂正しておかないと!

「ラウに作ってもらいました」

 ゴフ

 一瞬の間をおいて、塔長以外の全員がクルッと私を見た。

 え? 私が作ったなんて一言も言ってなかったよね?

「クロエル補佐官が好きな菓子は、ラウゼルトが作った菓子だったっけな」

「はい」

「器用だよな、ラウゼルト」

 そうそう、ラウは器用なんだよね。

 塔長はラウが私のためにお菓子を作っているのを知っていたので、とくに反応はなく、ラウの腕を誉めてくれる。

「はい。しかも私の好きな味のお菓子を作ってくれるんです」

「凄いな、ラウゼルト」

 そうそう、ラウは凄いんだよ。

「はい。私の元実家のレシピを勝手に入手して、二週間でこの味が出せるようになったそうです」

「…………ヤバいな、ラウゼルト」

 そうそう、ラウは、って。

 そこは誉めるところじゃないの?
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