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3 武道大会編
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「それでですわ! 最近、組み紐のお守りが流行ってるんですって! クロエルさん、ご存知?」
私の目の前で、にこやかに甲高い声をあげて、クリンとした金髪の女性が話を始めた。
言わずと知れた、エレバウトさんである。お茶を片手にいつもの調子全開。
ところで、組み紐のお守りって何? また、私の知らない流行物?
「組み紐のお守り? 組み紐飾りと何か違うんですか?」
「まぁ、やはり、ご存知ないのね?」
エレバウトさんが、予想通りといった顔で、うんうん頷く。
なんでこの人、いろいろ知ってるのかな?
「あたくしが懇切丁寧に教えて差し上げましてよ!」
「あ、お願いします」
食いつくような返答に、思わずお願いしてしまった。
この日は週一度の塔長室勤務の日。
先月のお茶会が好評だったので、月に一度は空いた時間にお茶会でもしよう、と話していたんだけど。
ちょうど上手い具合に午後の時間がまるまる空いて。
午前中に第八師団に行っていたフィールズ補佐官もやってきて。
マル姉さんも出張から帰ってきて。
アスター補佐官(弟)は泊まりで出張中。
ナルフェブル補佐官は部屋の片隅、自分の机でデータと格闘中。
視界に入ると面倒臭い塔長&金短髪男は会議で不在。
ラウにアップルパイも焼いてもらって持参して。
フィールズ補佐官がオススメだというお茶を入れてくれて。
さぁ、お茶会!
と始まってみたら、なぜか、エレバウトさんが混じってる。
「エレバウトさん、いつから混じってました?」と聞いても、
「あら! あたくし、最初からいましたわよ!」と返ってくるだけ。
エレバウトさんて、隠密技能持ち立ったっけ?と思って視ても、うん、ないよな隠密技能。
エレバウトさんは不思議が尽きない。
で、けっきょく、組み紐のお守りの話を一通り聞き終わる。
エレバウトさんは語り口調も有無を言わせない迫力があった。
話によると、組み紐のお守りとは、キレイな模様が描かれた札と組み紐を合わせて作った、何の効力もない物だという。
自作するものではなく、売り物だそうだ。
どこで売ってるかまでは、詳しく教えてくれなかった。
どうやら、王都にある市場のどこかに、露店が出るらしい。
見た目のキレイさと華やかな感じが話題になって、服飾品やちょっとした贈答品として、人気を集めているんだとか。
「けっきょく、あの偽造の護符はいつの間にか消え失せましたわね。流行が去ったという感じで」
そう。この前、鑑定したあの護符。
何の効力もないのに、いかにも効力があるかのように騙って売られていたらしい。いわゆるインチキ商売だ。
見た目もかわいらしいものではなかったからね。
それでいて何の効果もなしなら、買う人はいなくなる。
「護符って何かしらの効力があるものなんですよ。効力がないただの紙切れは護符とは言いません」
「あれは、ただの紙切れでしたのでしょ? だから『偽造』なんですわ!」
鑑定室では、こういった偽物の鑑定もよく持ち込まれるそうだ。
「ただの紙切れかどうか、何もないかどうかの鑑定が、一番難しいなんてねぇ」
「それが鑑定の奥深さですわよ!」
「へー」
マル姉さんの言葉ももっともだけど、偽物だということを鑑定するのは、確かに難しい。
私は鑑定眼があるから、比較的たやすく見抜ける。
普通の《鑑定》だけだと、あれもこれもと確認しないといけない。
手間がかかるうえ、分かったところで偽物なので、ガッカリ感もある。
私はお茶を飲みながら、皆の会話に相づちを打った。
「そういえば、クロエルさん! 第六師団で補佐を募集しているんですってね!」
「あー、そうですね。師団長付き副官さんの補佐をする人を探しています」
ラウの予想通り、補佐探しは難航していた。
「総師団長の副官を首になった人ですわね!」
「まぁ、そうなんですけれど」
「カーシェイ副官、元は総師団長付き副官だったからぁ。入れ替わる形になっちゃったのねぇ」
「補佐の募集はしてるんですけど、第六師団、あまり人気がないみたいで」
募集はしてみたものの応募者ゼロ。
師団長付き副官の補佐という好ポジションであるにも関わらず、応募はない。
「「……………………。」」
無言の反応が辛い。
「あら! でしたら、あたくしに良い考えがありますわ!」
「え?! 本当ですか!」
さすが、一筋縄ではいかないエレバウトさん!
こんな状況で良い考えがあるなんて!
「ええ! あたくしが応募して差し上げますわ!」
はい?? どこから出てきた、その発想?
「え?! いや、エレバウトさん。鑑定室勤務ですよね?」
「ええ! ですから、補佐もできますのよ!」
「え?! 塔長室勤務希望でしたよね?」
「ええ! ですけど、あたくしの技能では無理だと断られましたの!」
はい?? 初耳ですけど??
「え?? どなたに?」
「レクシルド様にですわ!」
「「……………………。」」
あの人、本人に直接お断りをいれたんだ。かける言葉がない。
「では、さっそく応募しに行きますわね! 皆様、ごきげんよう!」
「「……………………。」」
「行きましたね」
「第六師団は実力主義だからぁ、応募しても採用されないかもねぇ」
「彼女、性格と行動が塔長室向きでないだけで、実力は十分ですよ」
「あらまぁ。クロエルさん、退屈しないで良かったわねぇ」
「そうですね。お茶会も毎日できますね」
「ええーーーーー」
皆の中で、エレバウトさんの第六師団異動が確定となった。
て、冗談でしょ?!
「そ、そういえば、メダルはどうなったんですか? 進展、ありましたか?」
エレバウトさんがいなくなったところで、気になっていたことを聞いてみた。
あの自然公園での騒動のあと、舎弟(=塔長)が調べているとテラから教えてもらっている。
自然公園で見つかったメダルは、魔物を召喚する代物だった。
いったい、誰が、何のためにそんなものを作ったのか。
「責任者に訊いてみたらぁ?」
マル姉さんの指差す先には塔長室の扉。
ちょうどタイミングよく、塔長と金短髪男が戻ってきた。
私の目の前で、にこやかに甲高い声をあげて、クリンとした金髪の女性が話を始めた。
言わずと知れた、エレバウトさんである。お茶を片手にいつもの調子全開。
ところで、組み紐のお守りって何? また、私の知らない流行物?
「組み紐のお守り? 組み紐飾りと何か違うんですか?」
「まぁ、やはり、ご存知ないのね?」
エレバウトさんが、予想通りといった顔で、うんうん頷く。
なんでこの人、いろいろ知ってるのかな?
「あたくしが懇切丁寧に教えて差し上げましてよ!」
「あ、お願いします」
食いつくような返答に、思わずお願いしてしまった。
この日は週一度の塔長室勤務の日。
先月のお茶会が好評だったので、月に一度は空いた時間にお茶会でもしよう、と話していたんだけど。
ちょうど上手い具合に午後の時間がまるまる空いて。
午前中に第八師団に行っていたフィールズ補佐官もやってきて。
マル姉さんも出張から帰ってきて。
アスター補佐官(弟)は泊まりで出張中。
ナルフェブル補佐官は部屋の片隅、自分の机でデータと格闘中。
視界に入ると面倒臭い塔長&金短髪男は会議で不在。
ラウにアップルパイも焼いてもらって持参して。
フィールズ補佐官がオススメだというお茶を入れてくれて。
さぁ、お茶会!
と始まってみたら、なぜか、エレバウトさんが混じってる。
「エレバウトさん、いつから混じってました?」と聞いても、
「あら! あたくし、最初からいましたわよ!」と返ってくるだけ。
エレバウトさんて、隠密技能持ち立ったっけ?と思って視ても、うん、ないよな隠密技能。
エレバウトさんは不思議が尽きない。
で、けっきょく、組み紐のお守りの話を一通り聞き終わる。
エレバウトさんは語り口調も有無を言わせない迫力があった。
話によると、組み紐のお守りとは、キレイな模様が描かれた札と組み紐を合わせて作った、何の効力もない物だという。
自作するものではなく、売り物だそうだ。
どこで売ってるかまでは、詳しく教えてくれなかった。
どうやら、王都にある市場のどこかに、露店が出るらしい。
見た目のキレイさと華やかな感じが話題になって、服飾品やちょっとした贈答品として、人気を集めているんだとか。
「けっきょく、あの偽造の護符はいつの間にか消え失せましたわね。流行が去ったという感じで」
そう。この前、鑑定したあの護符。
何の効力もないのに、いかにも効力があるかのように騙って売られていたらしい。いわゆるインチキ商売だ。
見た目もかわいらしいものではなかったからね。
それでいて何の効果もなしなら、買う人はいなくなる。
「護符って何かしらの効力があるものなんですよ。効力がないただの紙切れは護符とは言いません」
「あれは、ただの紙切れでしたのでしょ? だから『偽造』なんですわ!」
鑑定室では、こういった偽物の鑑定もよく持ち込まれるそうだ。
「ただの紙切れかどうか、何もないかどうかの鑑定が、一番難しいなんてねぇ」
「それが鑑定の奥深さですわよ!」
「へー」
マル姉さんの言葉ももっともだけど、偽物だということを鑑定するのは、確かに難しい。
私は鑑定眼があるから、比較的たやすく見抜ける。
普通の《鑑定》だけだと、あれもこれもと確認しないといけない。
手間がかかるうえ、分かったところで偽物なので、ガッカリ感もある。
私はお茶を飲みながら、皆の会話に相づちを打った。
「そういえば、クロエルさん! 第六師団で補佐を募集しているんですってね!」
「あー、そうですね。師団長付き副官さんの補佐をする人を探しています」
ラウの予想通り、補佐探しは難航していた。
「総師団長の副官を首になった人ですわね!」
「まぁ、そうなんですけれど」
「カーシェイ副官、元は総師団長付き副官だったからぁ。入れ替わる形になっちゃったのねぇ」
「補佐の募集はしてるんですけど、第六師団、あまり人気がないみたいで」
募集はしてみたものの応募者ゼロ。
師団長付き副官の補佐という好ポジションであるにも関わらず、応募はない。
「「……………………。」」
無言の反応が辛い。
「あら! でしたら、あたくしに良い考えがありますわ!」
「え?! 本当ですか!」
さすが、一筋縄ではいかないエレバウトさん!
こんな状況で良い考えがあるなんて!
「ええ! あたくしが応募して差し上げますわ!」
はい?? どこから出てきた、その発想?
「え?! いや、エレバウトさん。鑑定室勤務ですよね?」
「ええ! ですから、補佐もできますのよ!」
「え?! 塔長室勤務希望でしたよね?」
「ええ! ですけど、あたくしの技能では無理だと断られましたの!」
はい?? 初耳ですけど??
「え?? どなたに?」
「レクシルド様にですわ!」
「「……………………。」」
あの人、本人に直接お断りをいれたんだ。かける言葉がない。
「では、さっそく応募しに行きますわね! 皆様、ごきげんよう!」
「「……………………。」」
「行きましたね」
「第六師団は実力主義だからぁ、応募しても採用されないかもねぇ」
「彼女、性格と行動が塔長室向きでないだけで、実力は十分ですよ」
「あらまぁ。クロエルさん、退屈しないで良かったわねぇ」
「そうですね。お茶会も毎日できますね」
「ええーーーーー」
皆の中で、エレバウトさんの第六師団異動が確定となった。
て、冗談でしょ?!
「そ、そういえば、メダルはどうなったんですか? 進展、ありましたか?」
エレバウトさんがいなくなったところで、気になっていたことを聞いてみた。
あの自然公園での騒動のあと、舎弟(=塔長)が調べているとテラから教えてもらっている。
自然公園で見つかったメダルは、魔物を召喚する代物だった。
いったい、誰が、何のためにそんなものを作ったのか。
「責任者に訊いてみたらぁ?」
マル姉さんの指差す先には塔長室の扉。
ちょうどタイミングよく、塔長と金短髪男が戻ってきた。
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