精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

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3 武道大会編

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 第一塔の塔長室前に来たはいいものの。

 私を自分のファン扱いする自信過剰な金髪男が、私の目の前に立ちふさがっていた。

 こういうとき、ラウなら物理で退かすんだろうけど。
 さすがに、真似するわけにはいかない。ラウと違って、私、非力だし。

 ここはひとつ、穏便に声をかけよう。

「あのー、そこ、退いてください。中に入るんで」

 さっさと入って、さっさと仕事して、さっさと帰らないと。

 ひょいと避けて通ろうとすると、金髪男は手を広げて邪魔をする。

「ダメだよ。関係者以外、立ち入り禁止だから」

 そして、申し訳なさそうな顔をするだけで、入り口から動こうとしない。

 なんだ、こいつ。

「ごめんね。いくら僕のファンだからって規則は規則なんだよ」

 しまいには、やんわりと私を追い返そうとする。帰っていいなら、帰るけど。

「ぐだぐだ言ってないで、入るぞ」

 そうこうしているうちに、痺れを切らしたラウが正面突破してしまった。

 私だと退かなかったのに、ラウが一睨みするだけで退くって、どういうことよ。

 ラウに連れられ、ちょっとムッとしながら入室すると、元上司の人が声をかけてくる。
 元上司の人っていうのも長いから、塔長と呼ぶことにするか。

「ラウゼルトに、クロエル補佐官」

「これ、壊していいですか?」

 私は後ろからついてきた金髪男を指差した。

 あ、塔長も金髪だったな。
 後ろはザッパリ短くしているから金短髪男? 前髪だけちょっと長くしているから、前長男?

「ダメだから! やっとできた僕の副官だから!」

 慌てたように、早口で言葉を返す塔長。
 私の提案は即、却下された。

 塔長の副官?
 つまり、グリモ補佐官の後任か。

 私はまじまじと金短髪男を視る。

「えーっと、それでだな」

「視れば分かります」

 お返しとばかりに、塔長の言葉をピシャリと遮った。
 塔長に言われるまでもなく、《鑑定眼》は発動済みだ。

 最近は、意識しなくても、鑑定眼でいろいろ視るようになってきた。

 ナルフェブル補佐官たちに、鑑定眼、鑑定眼、言われていた時代が懐かしいな。

 て、懐かしがっている場合じゃないわ。

「デリヴァン・グリモ上級補佐官ですね」

 私は、ムカつく気分を抑え込んで、なるべく冷静に聞こえるよう、低くゆっくりとした声で告げた。

「クロスフィア・クロエル・ドラグニールです。階級は特級補佐官。三月一日付けで第六師団長専属補佐官となりました」

 とりあえず、自己紹介しておく。

「規則のため、第一塔塔長室と双方に所属します。こちらへの出勤は上司同士の話し合いにより、週一日ペースですので。どうぞ、よろしく」

 とりあえず、規則も強調しておく。
 文句あるなら、塔長と規則に言え。

「君が噂の特級補佐官ってことか」

 金短髪男が、それまでの柔和な表情からら、探るような表情へと切り替わった。
 いや、表情こそ柔和さを保ったままだが、眼光が鋭い。
 塔長がたまに見せる目つきによく似ている。

「デリヴァン・グリモだ。グリモ補佐官の後任として、第一塔長付き副官を勤める。こちらこそよろしく」

 差し出してくる手をじっと見つめた。

 これは握手でもするつもりなんだろうか。ラウの目の前で。

 案の定、ラウがグリモ補佐官の手をはたき落とす。

「おい、レクス。なんだ、こいつは」

「グリモの息子だよ。出張から呼び戻したんだ。けっこうデキるし」

「今、俺のフィアに触ろうとしたぞ」

 握手だよ、握手。ただの握手だよ。
 触ろうとした訳ではないのに、ラウの反応の過敏さは相変わらずだ。

 完全に警戒しているし、威嚇もし始めている。

 あ、そうだ。握手といえば。

 この夫は、初対面の私と握手したときに、伴侶の仮契約を勝手にやったんだっけな。
 すべてはあそこから始まったんだ。

 なんだか、言葉では表しきれない気持ちのまま、ラウを落ち着かせるため声をかけた。

「ラウ、大丈夫だから。帰りもよろしくね」

「あぁ、フィア。昼は会議があるからいっしょにいられないのが残念だ」

「また、帰りにね」

 しぶしぶ帰るラウを見送って、自分の机にカバンを置く。
 久しぶりの塔長室、久しぶりの自分の机。

 とはいっても、私物はぜんぶ、ラウの執務室に移動済みなので、ここには何も残っていない。

 ガランとした机に向かいながら、仕事の準備を始めると、グリモ補佐官がまた声をかけてきた。

「へー。君、上位竜種を完全に手懐けてるんだね」

 こいつ、ほんとにイラッとするんだけど。

「手懐けるって。ラウはペットじゃなくて、夫だから」

 うん、夫の前は熊だったけどね。今も熊みたいでかわいいところはあるけどね。

「似たようなものでしょ」

 はぁあ?!

 ぜんぜん似てないし!

「塔長。これ、壊していいですよね?」

「おー、クロエル補佐官が僕を塔長呼び!」

 相変わらず、部屋の奥でイスにふんぞり返って机に向かっている塔長。

 ふんぞり返りながら、塔長呼びに感動して喜ぶ姿は、ちょっとおもしろいものがある。

「塔長、喜んでいる場合ではありません。グリモ補佐官が壊されますよ」

 フィールズ補佐官に指摘され、ようやく我に返る塔長。

「あー、クロエル補佐官。人も物もやたらと壊すな。性格はあれだけど、グリモ補佐官は優秀な人材なんだ」

「えー。この人、なんか、イラッとするんだけど」

「まぁまぁ、クロエルさん。これでも、優秀なんだからぁ」

 フィールズ補佐官にマル姉さんまでもが、グリモ補佐官を庇い始めた。

 ようやく決まった副官なのは分かるけど、ムカつく性格は直した方が世のため人のためになると思う。

「大丈夫ですよ。壊れても、私、直せるんで」

 ふっ。

「ひぃぃぃ」

 ナルフェブル補佐官を壊そうとしているわけじゃないから。そこで悲鳴をあげないでもらいたい。

「いやいやいや、それでだな、クロエル補佐官が来てくれたところでだ、あれがあるんだよ、あれが!」

「あれ?」

「そうでしたね、あれがありましたね、あれ」

「そうだったわぁ、あれよあれ!」

「あれがあったな! あれ!」

「だから、あれって?」

「「護符の鑑定!」」

 皆の声がひとつになった。

 皆の心もひとつになっているような気がするけど。私の気を逸らそうとしている訳ではないと思いたい。
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