精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

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2 新人研修編

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 氷雪祭当日。

 自然公園はもの凄い賑わいをみせていた。新年の火花草のとき以上に凄い。

 雪の花と氷の花のシーズンは今月末まで続く。でも、氷雪祭は今日一日だけ。

 なので、皆、一斉に押し寄せるそうだ。

 王都にずっと住んでいるのに、知らなかった私っていったい…………。

 そして、私たちは今、氷花の花と雪見草の花が咲き乱れる、ちょうど中心にいた。

 辺りにはちらほらと二人連れがいるだけ。おそらくは恋人同士か、若い夫婦か。

「こんなところがあったとはな」

 手を繋いでいっしょに歩いてきたラウも、ここの静かさに驚いている。

「エレバウトさんに教えてもらったの」

「エレバウトか」

「でも、恋人いないのに、なんで知ってるんだろうね」

 氷と雪の花の群生地は二つある。

 公園の入り口と火花草の群生地の中間にひとつ。花壇ぽく作られていて、規模も小さい。

 もうひとつは池の北西、この前の木立の西側。小道を挟んで、片方に氷花、片方に雪見草の花が一面に広がっている。

 小さい子ども連れは入り口近く、そして大多数の人は池の北西の群生地を目指す。人も大勢いて、昼間も夜も大賑わいだそうだ。

 そして、私たちがいるのは三つ目。

「ここは景色もいいな」

 小高い丘の中腹あたりの広場。

 風に飛んできた花の種が、いつの間にか根付いてできた場所だ。
 群生地と違って、二種類の花が入り混ざって咲いていて、これはこれでキレイだと思う。

「こんなにキレイなのに、ここは、あまり知られてないみたいだよ」

「みたいだな」

 ちょっと歩いたり、登ったりもするせいかな。

「また別の日に、向こうの広い方も行ってみたいね」

「あぁ、また来よう、二人で」

 私とラウは、顔を見合わせて、笑いあった。
 別々のままにならなくて、いっしょに来れて本当に良かった。

 その後、二人で広場を歩き回る。もちろん手は繋いだまま。

 ここはそんなに広くない。ぐるっと一周してもあっという間。一回りして、すぐまた中心に戻る。

「そろそろ、戻ろうか」

 私の手を引いたラウに、思い切って話しかけた。

「ラウ、あのね」

 歩こうとしない私を怪訝に思ったラウが、私の顔を覗き込む。

 私はつないでいた手をいったん放し、ポーチを探った。そこに大切に入れていた物を取り出すために。

「ラウ、あの、これ」

「フィア、それは…………」

 取り出したのは、大小、二つずつの組み紐飾り。

 恐る恐る、ラウに見せる。

 塔長室の皆にも協力してもらって、ようやく完成させた。ラウにあげるために。

 黒と紅と銀なんてあからさまかな。おかしくないかな。不格好じゃないかな。

 ラウは本当にもらってくれるかな。

 いろいろなことを考えながらも、ラウに伝えるため、自分の心の中から言葉を振り絞る。

「もらってほしいの」

 大小ひとつずつ。自分の分を胸に抱き、ラウの分を差し出した。

 ドキドキするし、手が震える。
 目もクルクル回ってきそう。

 でも、今度は私が伝える番だから。あともうひとつ。

「ラウ、大好き、愛している。ずっとずっと、いっしょにいようね」

 ラウは何も言わない。

 ぼーっとした夢でも見ているような顔をして、私を見て、私の差し出す手を見て。

 そして、私の手を、組み紐飾りを優しく握りしめた。

 そのまま、もう片方の手で私を抱き寄せ、震える声で返事をしてくれた。

「ありがとう、フィア」

 いつものように、私をギューッと抱きしめて、さらに言葉をくれた

「嬉しい、本当に嬉しい。生きてて良かった」

 私と同じように、ラウも心の中から、言葉を振り絞っているようだった。

「俺も大好きだ、愛している。ずっとずっと、いっしょにいよう」

 ありがとう、ラウ。
 私の方こそ喜んでもらえて嬉しい。

 伝えるのも成功してホッとした。

 たとえ、うまく言えなかったとしても、ラウならこう言ってくれるだろう。

『大丈夫だ、フィア』って。




 それから二人して、組み紐飾りを胸につけ、小高い丘を後にした。

 組み紐飾りは大小二つ。
 私の想いをたくさん込めた。

 大きい方は腰のベルトに付ける用。
 小さい方は胸飾りとして付ける用。

 明日から、ラウと二人、お揃いで付けて出勤しよう
 とてもとても楽しみだ。




「はぁぁぁぁあ、なーんで、せっかくの菓子会に、デートの話を延々と聞かされないといけないのかなーーーぁ」

 私は心に誓ったとおり、氷雪祭デートの話を、テラと上司の人に語ってあげた。

 苦そうな顔でお菓子をバリバリ食べるテラと、遠い目をしながらチョコをポキポキ食べる上司の人。

「テラが聞きたいって言ってたし」

 私はラウのクッキーを持参している。

「聞きたいなんて、ひとことも言ってないぞ! 聞かされるって愚痴をこぼしただけだ!」

「まぁまぁ、師匠。世界の平穏は保たれましたから」

 遠い目のまま、テラを宥める上司の人。

「そうだけどな! なんか、ムシャクシャするよな!」

「まぁまぁ、師匠。で、それで、ラウゼルトがあんなに上機嫌なんだな」

 ラウは今日もご機嫌で仕事をしている。
 夫が幸せそうで、私も嬉しくなる。

 突然、私の胸元の組み紐飾りが光り出した。
 正確には暗く光って消えてを繰り返している。

「ん? おい、なんか、光ってるぞ?」

「あ、これね」

 私は組み紐飾りに手を当てて話しかけた。

「ラウ、どうしたの?」

『フィア、フィアに会いたくて死にそうだ』

「お昼はいっしょに食べられそう?」

『ああ! ランチを持ってそっちに行く!』

「ならそれまで、お仕事頑張ってね、ラウ」

『ああ! また後でな、フィア!』

 静かになったので、私は組み紐飾りから手を離した。

「な、な、な、な、な、」

「な?」

「何、作ってんだ、四番目!!!」

 テラがバリバリ頬張っていたクッキーを握りしめたまま、組み紐飾りを指差す。

「んーーー、伝達魔法の代わりになりそうな感じの、何か」

 だって、私。伝達魔法、使えないし。

「何かじゃないだろ、魔導具だろ! 誰だよ、四番目に魔導具の作り方を教えたのは?!」

「ナルフェブル補佐官」

「あいつか!」

 なにやら、テラが興奮している。

「量産できるのか?」と上司の人。

「伴侶の契約と転移魔法を応用して作っているから無理。私とラウ専用」

「なんてものを作ってるんだよ!」

 テラの興奮が冷めない。

「うん、ちょっと大変だった」

「ちょっとじゃないだろ、それ!」

「やっぱり、クロエル補佐官の自作は破壊力あるよなぁ」

「舎弟、呑気なこと言ってる場合じゃないぞ。そっちの大きいやつは、本気で破壊力がある」

「は?」

「しかも、神器より少し劣る程度の神級だ!」

「はぁぁぁ?!」

 この日。

 テラと上司の人から、魔導具を作るときは許可を取るようにと、約束させられた私だった。
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