精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

文字の大きさ
上 下
102 / 384
2 新人研修編

5-5

しおりを挟む
 三日ぶりの自然公園は広々として、澄んだ空気がとても気持ちいい。

 そして、しっかり凹んでいる姿は三日前と変わらなかった。

「お相手様、修復作業、よろしくお願いします」

 通常は、特務部隊の護衛班が、師団長やその家族の護衛をする。

 はずなんだけど、今、私に声をかけたのは、今日の私の護衛を勤める突撃部隊だった。

 突撃部隊って、戦闘時に切り込んでいくような部隊だよね?
 今日って戦闘しないよね? 戦闘にならないはずだよね?

 ギョッとして焦る私を、微笑ましい顔で見るラウ。

「公園は広くて危険だからな」

 ラウのことだ。

 あの猫の形をした何かや魔物の出現を警戒していそうだけれど。

「それにかわいらしいフィアを見たいとの声もあってな。特別に突撃部隊に許可を出した」

 続く言葉がおかしい。

 許可? 許可って何?
 私を見るのって許可制なの?

 ラウからは、訳の分からない返事をされただけだった。

 突撃部隊とは、前に赤の樹林で会ったことがあるらしい。

 第六師団でも抜きん出た荒くれ者、だなんて言われてると、上司の人から教えてもらっていたけど。
 そんなことは全然なく、皆、丁寧で礼儀正しい集団だった。

 敬語慣れしてないから、変な敬語でも容赦してほしい。

 そう言ってくれた突撃部隊長も竜種だそうで、真摯に向き合ってくれているのが伝わってくる。

 さて、修復作業だ。

 何かあったときのために、ラウは、飛竜に乗って待機。
 他の人たちは、凹みの外に出てもらう。

 六翼を顕現させた状態で、私は魔法陣を展開させた。

 ふー

 深呼吸をしながら、ゆらゆらと自分の魔力を練り上げる。

 そして、上司の人の真似をして、丁寧に丁寧に、魔法陣を組み上げてみた。

 ゆっくりゆっくり、花が開いていくように、私の魔力が広がっていく。

 凹んだ部分の全体に魔法陣が展開し終わると、一度、ラウを振り返った。

 大丈夫。

 そう言うように、大きく首を縦に振ってくれる、私の夫。

 私は目を閉じて、前の自然公園を思い出す。

 ラウとの初デートの自然公園。
 火花草がたくさん咲いて、ラウに告白されて、皆から祝ってもらえて。

 ラウといっしょに氷雪祭に行く様子を想像してみる。

 きっと楽しいだろうな。
 氷雪祭、無事に開催させないとな。

 静かに目を開く。

「《再生》」

 力のある言葉とともに、視界に映るすべてが鮮やかな光に包まれた。




 その日の午後。

 塔長室では、お茶会が開かれていた。

 また、魔力が尽きて眠ってしまうのを心配した、ラウや上司の人が、午後の仕事をすべてキャンセルしていたとのこと。

 けっこうな魔力を持っていかれたので、私も覚悟はしていたんだけどね。
 どうしたことやら、今回は全然なんともなかったのだわ。

 時間が空いたので、どうせならと、やってなかった歓迎会代わりに、お茶会を開いてくれた。

「そういえば、クロエルさん!」

「はい、なんですか?」

「第四師団の副師団長が、体調不良で異動になったそうですわ!」

「へー」

「第四塔だそうですね。でも、第四塔に騎士なんて必要ありませんよね」

「人体実験の被験者にでも、されるんじゃないのぉ」

「へー」

 あの副師団長、第四塔に異動になるんだ。ふーん。

 あのいけ好かない、ひ弱系を思い出して、思わず額にシワが寄った。
 嫌なやつだったな。

「それでね、クロエルさん!」

「はい、なんですか?」

「総師団長付きの副官が、連絡ミスの責任を取って異動だそうですわ!」

「へー」

「副官の役職はそのままで、本部から師団に異動になるようですね」

「異動で済んだのねぇ。自分で伝達すれば良かったのよぉ」

「へー」

 あの副官さん、本部から異動になるんだ。ふーん。

 まだ、若そうだったもんね。
 本部なんて熟練の切れ者が勤めるところだって、ラウも言ってたし。
 師団で経験、積むといいわ。

 でも、連絡ミスの原因になった本人たちは、けっきょくお咎めなし。

 誰が意地悪なことをしたんだか分からないけど、また、皆が絡まれないといいな。

 私はお茶を飲みながら、内心、周りの人たちの情報通振りに驚いていた。

 ま、私、情報交換したりするような友だちいないもんな。

「ま、クロエルさんは噂話なんてご存じないでしょうから。この、あたくしが集めて差し上げましたわ!」

 これはお礼を言うべきなの?

「ところで、クロエルさん!」

「はい、なんですか?」

 ところで、どうして、エレバウトさんが、このお茶会に混じってるの?と今さらながら思ってしまった。

 どこから聞きつけてきたのか、最初から混ざっていたような気がする。
 やっぱり、ラウの仲間か同類?

「氷雪祭ですけれど、あなた、初めてですわね?」

 やっぱり、ラウの仲間か同類だ。
 なぜ、知ってる、私の個人情報!

「はい。なので、ラウと行きます」

「あら、いいですわね!」

「二人っきりで行きたいそうです」

 私はラウと二人で行く氷雪祭を思い浮かべた。
 この日のために、自然公園の修復も頑張ったんだ。

「二人っきりで行かないと、師団長、暴走するわよぉ」

 そうそう、絶対にそう。

 緊急事態でラウに仕事が入る可能性がなくもないけど。
 そうなったら大変なことになる。

 だから、誰も邪魔しないで。

「二人っきりで行っても、師団長、嬉しくて暴走しそうな予感がしますけれども」

 あれ? そうかな、そうかも。

 どっちにしろ、暴走する未来しかないことに愕然とする。

「でしたらね! 取っておきの情報がありますのよ!」

 エレバウトさんの取っておきは、凄いものだった。

 やるな、エレバウトさん。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの
恋愛
 幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。  誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。  数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。  お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。  片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。  お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……  っと言った感じのストーリーです。

処理中です...