精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

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2 新人研修編

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「だいたい、どこからこんなチビが紛れ込んだんだ?」

 第四副師団長は、最初から、こっちをバカにしているような態度だった。

 あからさまに、ジロジロと見てくる。

「そのチビを連れて、さっさと出ていけ、技能なし」

 目の前にいたはずのテラが、いつの間にか私の斜め後ろに移動していた。
 私を盾にしないでほしいんだけど、子どもを盾にするのも大人げないしな。

「ここは本部の中枢部だ」

 強い口調で、そして一方的な話し方で詰め寄る。

「子どもや、お前みたいな役立たずが、いていい場所じゃないんだ。立場をわきまえろ」

 上から下へと視線を動かし、最後に私の目線のちょっと下に目を留め、鼻で笑った。

「しかし、第六師団長も、こんな貧相な技能なしに手を出すなんて。物好きもいいところだな」

 貧相? 貧相?!

 私のどこが貧相だって言うわけ?
 そっちこそ、元兄みたいな、ひょろっとしたひ弱系じゃないのよ!

「ま、四番目に精霊は寄り付かないから、ある意味、寂しいよな」

 テラが私にだけ聞こえるように囁く。

「うちの師団には、それこそ優秀で美人な女性騎士がたくさんいるのに。見る目がなさ過ぎるんだよな」

 はぁあああ?!

 確かにね! 美人じゃないかもしれないけれどね!

 夫がかわいいって心の底から言ってくれてるんだから、見る目だなんだ言われたくないんだけど!

「ま、四番目は万人受けする絶世の美女ではないよな。黒竜専用かわいい系ってところだろ」

 私のかわいさはラウ専用なのか。

「ま、ロクデナシ団の団長じゃあ、精霊騎士の素晴らしさが理解できなくても、仕方ないか」

 ラウは困ったところはあるけど、ロクデナシじゃないし!
 竜種なんだから精霊魔法だって自由に使えるし!
 しかも上位竜種なんだがら、力も魔力もありあまっているくらいだし!

「うるさいな」

 思わず口走ってしまった。

「おい、四番目。すっごい不満げな顔して、ずっと睨みつけてたけど。さらに、うるさいなんて言って、大丈夫なのか?」

 ぜんぶ顔に出ていたらしい。

 おかしい。

 悪口や陰口には慣れている。耐性がある。
 この程度なら平然と受け止められるはずなのに。顔に出るはずもないのに。

 目の前のひ弱系な男は、さらに耳障りな嫌な声でまくし立て始めた。

「なんだと?! 上官に向かって、なんて口の利き方だ。竜種の伴侶だからって、いい気になるなよ、技能なし」

 私やテラより身長はあるので、リアルに上から見下ろして、自分の言いたいことを話し続けている。

「まったく、ロクデナシ団の団長は、自分の女の躾もできないのか」

 こっちに文句を言わせようと、さらに煽ってくる。
 ひ弱系は、左腰にある剣の柄に手をかけた。

 こっちが何か文句を言ったとたん、切りかかるつもりだ。

「うちの師団長と違って、上位竜種ってだけで師団長やってるやつだ」

 あくまでも悪いのは上官に対し、態度の悪い私たち。そういうことだ。

 ならば。

「馬鹿力なだけで、頭の中身も人格も大したことないしな」

 メシュッ ドガゴッッッッッ

 パラパラパラパラ

 何かがこぼれ落ちる小さな音がする以外は、静かになった。

「おい、四番目。物は壊すなって言っただろ」

 パラパラパラパラ

「しかも、破壊の大鎌、投げつけるなよ。壁にめり込んでるだろ」

 パラパラパラパラ

 いや、違った。テラがうるさい。

「ラウに酷いこと、言ったから」

「自分のはいいのか」

「いつものことだし」

「僕のことはいいのか」

「チビは事実だよね」

 テラも押し黙る。

「まぁ、静かになっていいか。見つかる前に直しておけよ、壁も人も」

「復元する」

「復元かよ」

「だいぶ使い慣れたし」

「使い慣れるほど壊したのかよ」

 テラの言葉には答えず、私は黙って魔法陣を展開させた。




「おーい、師匠! 探したぞ!」

「舎弟!」「上司の人!」

 しばらくして、上司の人がやってきた。

 中庭にはいくつか出入り口があるようで、やってきたのは私たちとは別の方面から。

「師匠、直接、来なかったのか? それにクロエル補佐官はどうしてここに?」

「誘いに行ってた」「誘われました」

「なるほどなるほど。ところで赤種の魔力がぷんぷん匂うんだけど?」

「そうか?」「そうですか?」

 息ぴったりで、しれっと答える私たち。

「気のせいか。二人、揃ってるせいかな」

 目ざとい。

 鑑定技能も超級になると、規格外なことを言い出すんだよね。

 気をつけないとな。

「クロエル補佐官は、さっきの会議、最悪だったろうから、魔力が漏れたのかもな」

 気遣うように、柔らかく微笑む上司の人。心なしか声も穏やかだ。

「菓子食えば、気分よくなるぞ」

「なら、菓子食うか」

「さっそくお菓子?」

 そうだったな。この二人は菓子好きだった。
 きっと、嫌なこともお菓子で忘れてきたに違いない。

 私もそうだったっけ。
 嬉しいときも悲しいときも、大好きなクッキーをかじってた。

 ラウのクッキーが食べたいな。 

「舎弟が用意する菓子はうまいんだ」

「お菓子はラウの手作りが一番なのに」

 私の凄くてヤバい夫は、アップルパイも美味しいんだ。
 今度、仕事用にも作ってもらおう。

「クロエル補佐官、ラウゼルトに、がっつり胃袋を掴まれてるな」

「黒竜は、捕獲した獲物にご馳走をあげて、甘やかすタイプなんだよ」

 ここで立ち話しても仕方ないと、私たちは上司の人に連れられて、応接室にやってきて。

 山積みのお菓子に囲まれながら、ちょっとした上司の人の依頼をこなすことになってしまった。

 まぁ、私も権能の練習になるからいいんだけどね。
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