精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

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2 新人研修編

5-2

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「フィア、あの、これ」

 入浴後、髪を乾かしていると、ラウがおずおずと話しかけてきた。

 ラウの手には、あの箱があった。
 ラウに持ってかれた私の箱だ。

「俺、フィアが俺以外の誰かにあげるんだとばかり思ってて。勝手に誤解して、勝手に嫌な気持ちになっていたんだ」

 え?

 どうやら、ラウは私に他に好きな人がいると思ってたらしい。

 いったい、どこをどうすれば、そんな発想に行き着くのかが分からない。

「他の誰かにあげてほしくなくて。フィアが誰かにあげたら、俺、フィアに捨てられると思って。作るのを反対して、取り上げた」

 ええ?

 どうしてそうなる? どこからそう行き着く?

 フィールズ補佐官の言うとおりだった。 

 ラウの明後日な思考がヤバい。
 あ、ヤバい夫なのは元からか。

 ラウの告白は続く。

「それに恋愛成就のおまじないなんて欲しがったら、俺の恋が叶っていないのを、俺の愛がフィアに届いてないのを認めるみたいで、嫌だったんだ」

 えええ?!

 ラウは熊のくせに恋する乙女だった。
 私の方が乙女感なくて、ラウに負けてる気がする。

 でも、ラウの悩みはラウのせいばかりではないんだよね。

「ラウ、あのね。私の話も聞いてほしい」

 私もはっきり言葉にしていなかった。言葉を返していなかった。それが原因でもあると思う。

 ラウが好きだって言ってくれるから、それに甘えていたんだと思う。

「私はラウにあげたかったんだよ」

 私は返してもらった箱を抱きしめながら、ラウに話しかけた。

「でも、最初に要らないって言われちゃって。だから、ラウにあげたくても、あげられなくて」

 うまく伝わるか分からないけど、伝わらなくて失敗するのは怖いけど。

 私も自分の言葉を返さないと。

「それでも、ラウにあげたかったから、諦められなくて」

 うまく伝わらなかったら、伝わらなくて失敗したら。

 何度でも伝え直すだけだ。

「完成したら、ラウ、もらってくれる?」




「で。けっきょく、仲直りしたんだろ」

 姿見にはテラが映っている。
 間違えて苦いお茶を飲んでしまった、そんな顔だ。

 あの告白のあと、

「フィアのぜんぶをもらうから!」

 と、盛大に、ずれた返事をしてくれたラウ。

 勢いで、またギューッとされて、あやうく、私が抱えている箱が壊れるところだった。

 危ない、危ない。

 でもこれで本当に、別々は終わりだ。

 いっしょに出勤しようとした私は、ラウから、念のため今日は休むようにと言われて、テラを呼び出したというわけだ。

 たっぷり寝たから身体も魔力も回復済み。

 まぁ、夜までラウもいないことだし、後で、組み紐飾りを完成させようかな。
 ほぼ完成はしているんだけど、あともう一捻りだから。

 そして、テラに、今までの経緯を語り尽くした。
 そんな私の語りに対して、

「夫婦喧嘩なんて、そんなもんだよな。まったく。巻き込まれ損だよ」

 テラは吐き捨てる。

 巻き込まれたのは事実だから、悪態つかれても仕方ないか。

「また僕は、イチャイチャベタベタを見せつけられながら、惚気話を延々と聞かされるんだ」

 テラはさらに吐き捨てる。

 夫婦が仲良くして何が悪い。
 夫婦喧嘩で実力行使しようものなら、国が滅びるとかなんとか言って、怒るくせに。

 そんなことを言うなら、こっちにも考えってものがある。

 次のテラと上司の人との茶話会に、しっかり乱入してあげよう。
 そしてたっぷり情報交換してあげるんだ。

 今から楽しみだな。

「ところで、今日は休んでて良かったのか? 昨日の件、会議やってるだろ」

 そうそう。

 昨日、あれだけのことがあったんだから、やるよね、メダル対策会議。

「ラウから、今日は休むようにって、言われたんだよね。上司の人には言ってあるからって」

 ラウがわざわざ休むように言うくらいだ。絶対に何かある。何かがある。

「はぁあ? 君が騒動の中心だろ? 騒動の元凶が行かなくて良かったのか?」

「違うから。私が騒動の中心じゃないから。元凶は魔物を召喚するメダルだから。メダルのせいで騒動が起きたんだから」

 確かに、ちょっと自然公園を凹ませちゃったけど。
 魔物をあのままにしておくわけにはいかなかったんだ。ある程度は諦めてほしい。

「自然公園、まだ、あのままだから。後で直しておけよ」

「テラは直せないの?」

「直せなくはないけど、僕だと新しく作るから、別のものになるぞ」

 ああ、そうか。創造の赤種ってそういうことか。

「君なら、元に戻すだけだろ」

「真新しい公園もいいんじゃないの?」

「はぁ。元に戻しておかないと、氷雪祭ができなくなるぞ」

 テラは大きくため息をつきながら、私を見る。

「氷雪祭は、氷花の花と雪見草の花、この二つが咲いてるから氷雪祭なんだよ。
 こじつけっぽいけど、氷の花と雪の花で氷雪祭。
 そして基本、僕の権能は種と芽までだからな。がんばっても、花は咲かないぞ」

 こじつけっぽい。
 思いっきりこじつけっぽい。

 だけど、そういう話なら、テラの権能ではどうしようもない。

 成長や変化は赤種の二番目、三番目の権能だったっけ。

「行くんだろ、黒竜と」

 私はコクリと頷く。

 ラウと氷雪祭に行くために、頑張って直すとするか。

「そして、僕はまた、氷雪祭デートの話を延々と聞かされるんだ」

 テラがさらにさらに吐き捨てた。

 次の茶話会の情報交換は、希望通り、氷雪祭にしてあげよう。

「けっきょく、魔物を召喚するメダルだってこと以外は、何にも分かってないんだよね」

 さらにメダルが見つかり、今度は完成したものまで見つかった。
 今まで分かっている以上のことが、分かるんだろうか。

「それを今、必死になって調べているのが僕の舎弟だろ」

 そうだ。上司の人なら、何か手段があるはずだ。
 メダルはたくさんあるんだし。
 きっと何か手がかりを見つけてくれる。

「僕の舎弟は優秀なんだ」

 テラが誰かを誉めるなんて珍しい。
 まるで、自分のことのように自慢する姿も初めて見た。

 テラの自慢気な顔を見ていると、任せておけば大丈夫そうな安心感がある。

 それに、気にかかるのはメダルだけじゃない。

「うん。あの猫みたいなものにも、逃げられちゃったし」

 私の心配をよそに、テラはそっけなく応じる。

「君、破壊の大鎌を使って全力で殴ったんだろ? そりゃ、逃げるだろうな」

「あの猫みたいなもの、また出てくるかな。氷雪祭、無事にできるといいんだけど」

 それ以前に壊れた公園を心配しろよ、とでも言いたげな顔で、テラが私を眺める。

 細めた赤い目を明後日の方へ向けて、ため息をつき。最後に呆れた口調で、私の心配を軽くあしらった。

「公園が直れば大丈夫だろ。それに、君の力をまともに食らったんだ。しばらくは出てこないさ、あいつも」
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