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2 新人研修編
4-8
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目の前に箱がある。
フィアの好きそうな色と柄の、キレイな箱だ。
俺はこれをフィアから取り上げた。
返してと言われたのに無視をした。
第六師団で厳重に管理しているはずの、その箱が、俺の目の前にある。
あれほど、誰にも渡すなって言ったのに。いったい、どいつが渡したんだ、まったく。
「で、まだそんなこと、言ってるのか」
持ってきたのはこいつ。赤種のチビだ。
「フィアは、あのムカつく元護衛に、あげるつもりなんだ」
この箱の中には、フィアがあの護衛のために作った、組み紐飾りが入っているんだ。
胸がギュッと締め付けられる。
「それは君の推測だろ。四番目がそう言ったのか?」
呆れたように、そしてバカにするように、くそ生意気なチビが言う。
ムカつくが、まぁ、このざまでは、そう思われるのも仕方ない。
「いや、フィアに聞いてない。その、返事が怖くて」
だってそうだろ。
俺以外のやつにあげる、なんて、言われた日には本気で死ぬと思う。
「竜種の愛は絶対なんだろ? なら、なんで怖がるんだ? 目をそらすんだ?」
確かにそうだが。
「それは…………」
言葉に詰まる。
竜種の愛は絶対だ。でも、フィアの俺への愛は?
「あのな、君にあげないなら、誰にもあげないと思うぞ」
「俺にくれるはず、ないだろ」
不貞腐れたように言う俺に、頬杖をつきながら、チビが心を抉ってくる。
「ああ、君、要らないって言ったんだってな。四番目のやつ、ぶーぶー言ってたぞ」
頬杖をついた姿勢のまま、はぁ、とため息をつきながら、チビは話を続けた。
「四番目、作ってほしいって、君から言われたかったんじゃないか?」
「結婚済みなんだから、恋愛成就なんて必要ないだろ。だから、俺は」
「黒竜!」
そんな俺のぐだぐだな思考と言葉を、チビが強く遮った。
「四番目が作ったやつ、ちゃんと見てないだろ」
開けたくない。見たくない。
「おまえ、知ってるのかよ」
「ああ、知ってるさ。あの材料、僕が買いにいかせられたんだからな」
こいつだったのか。フィアに余計なことをしたのは。
「ほら開けろよ! 今すぐ!」
これを開けないと、チビの追求は終わりそうにもない。
触れたくないところ、目を逸らしたいところを延々と抉られる。
耐えられそうに思えない。
俺は覚悟を決めた。
震える手を蓋にかけ、そっと開ける。
箱の中に入っていたのは、大小、二対の組み紐飾り。
三色の紐と二種類の石を組み合わせて、とても器用に作ってある。キレイな仕上がりだ。
ほぼ完成なんてレクスが言っていたような気がするが、ほぼどころか、しっかりと完成していた。
言葉が出ない。
なんだか、視界が滲む。
「黒竜、石言葉って知ってるか?」
突然の質問に、俺は首を横に振った。
「こっちは成功、守護、夫婦の幸福」
チビが片方の石を指差した。
「こっちは健康、幸福な結婚、夫婦円満」
そしてもう片方も指差す。
「四番目、ちゃーんと考えて選んでたぞ」
フィアの作った組み紐飾りは、黒と紅と銀の組み紐、黒縞瑪瑙、紅縞瑪瑙でできていた。
黒は俺の色、紅と銀はフィアの色だ。
「それを見もしないで取り上げたんだ。酷いやつだな、おまえ」
ああ、俺は酷いやつだ。
「黒竜、四番目に泣いて謝れ」
フィアは、自然公園に出現した魔物を一瞬で押し潰した後、魔力切れを起こしたようだ。
俺があと少し遅かったら、フィアは天空から落下し、地面に叩きつけられていた。
そう思うと、ぞっとする。
間に合って良かった。
あのあと、眠るフィアを家に連れ帰った。
夕食を作ってないと言われたが、とてもじゃないが夕食どころではない。食べ物が喉を通らない。
「まぁ、四番目なら、落ちて叩きつけられたとしても問題なかったろうけどな」
無責任に、チビは言う。
「破壊の赤種の回復力は赤種一。だから、落下したくらいで死ぬもんか」
そういう問題じゃないと思うが、赤種のチビはあまり気にしていないようだった。
破壊力も回復力も赤種一なら、破壊の赤種が赤種で一番強いんじゃないか?
チビにそう聞いたら、当然だろうと笑われた。
赤種としての力は一番強いが、赤種としての意欲は一番低い。
だから、赤種としては二番目に役立たずなんだそうだ。
俺はフィアの能力のことを、よく知らない。
赤種であってもなくても、能力がどんなものであったとしても、フィアが好きなのには変わりがないから。
だから、気にしなかった。知ろうとしなかった。
だから、フィアの魔力が尽きてしまった今。どうしていいのか分からない。
もっともっと、赤種の、フィアの能力のことも知っておくべきだった。
早く魔力が回復して、目覚めてほしい。
俺はフィアに、泣いて謝らないといけないのだから。
フィアの好きそうな色と柄の、キレイな箱だ。
俺はこれをフィアから取り上げた。
返してと言われたのに無視をした。
第六師団で厳重に管理しているはずの、その箱が、俺の目の前にある。
あれほど、誰にも渡すなって言ったのに。いったい、どいつが渡したんだ、まったく。
「で、まだそんなこと、言ってるのか」
持ってきたのはこいつ。赤種のチビだ。
「フィアは、あのムカつく元護衛に、あげるつもりなんだ」
この箱の中には、フィアがあの護衛のために作った、組み紐飾りが入っているんだ。
胸がギュッと締め付けられる。
「それは君の推測だろ。四番目がそう言ったのか?」
呆れたように、そしてバカにするように、くそ生意気なチビが言う。
ムカつくが、まぁ、このざまでは、そう思われるのも仕方ない。
「いや、フィアに聞いてない。その、返事が怖くて」
だってそうだろ。
俺以外のやつにあげる、なんて、言われた日には本気で死ぬと思う。
「竜種の愛は絶対なんだろ? なら、なんで怖がるんだ? 目をそらすんだ?」
確かにそうだが。
「それは…………」
言葉に詰まる。
竜種の愛は絶対だ。でも、フィアの俺への愛は?
「あのな、君にあげないなら、誰にもあげないと思うぞ」
「俺にくれるはず、ないだろ」
不貞腐れたように言う俺に、頬杖をつきながら、チビが心を抉ってくる。
「ああ、君、要らないって言ったんだってな。四番目のやつ、ぶーぶー言ってたぞ」
頬杖をついた姿勢のまま、はぁ、とため息をつきながら、チビは話を続けた。
「四番目、作ってほしいって、君から言われたかったんじゃないか?」
「結婚済みなんだから、恋愛成就なんて必要ないだろ。だから、俺は」
「黒竜!」
そんな俺のぐだぐだな思考と言葉を、チビが強く遮った。
「四番目が作ったやつ、ちゃんと見てないだろ」
開けたくない。見たくない。
「おまえ、知ってるのかよ」
「ああ、知ってるさ。あの材料、僕が買いにいかせられたんだからな」
こいつだったのか。フィアに余計なことをしたのは。
「ほら開けろよ! 今すぐ!」
これを開けないと、チビの追求は終わりそうにもない。
触れたくないところ、目を逸らしたいところを延々と抉られる。
耐えられそうに思えない。
俺は覚悟を決めた。
震える手を蓋にかけ、そっと開ける。
箱の中に入っていたのは、大小、二対の組み紐飾り。
三色の紐と二種類の石を組み合わせて、とても器用に作ってある。キレイな仕上がりだ。
ほぼ完成なんてレクスが言っていたような気がするが、ほぼどころか、しっかりと完成していた。
言葉が出ない。
なんだか、視界が滲む。
「黒竜、石言葉って知ってるか?」
突然の質問に、俺は首を横に振った。
「こっちは成功、守護、夫婦の幸福」
チビが片方の石を指差した。
「こっちは健康、幸福な結婚、夫婦円満」
そしてもう片方も指差す。
「四番目、ちゃーんと考えて選んでたぞ」
フィアの作った組み紐飾りは、黒と紅と銀の組み紐、黒縞瑪瑙、紅縞瑪瑙でできていた。
黒は俺の色、紅と銀はフィアの色だ。
「それを見もしないで取り上げたんだ。酷いやつだな、おまえ」
ああ、俺は酷いやつだ。
「黒竜、四番目に泣いて謝れ」
フィアは、自然公園に出現した魔物を一瞬で押し潰した後、魔力切れを起こしたようだ。
俺があと少し遅かったら、フィアは天空から落下し、地面に叩きつけられていた。
そう思うと、ぞっとする。
間に合って良かった。
あのあと、眠るフィアを家に連れ帰った。
夕食を作ってないと言われたが、とてもじゃないが夕食どころではない。食べ物が喉を通らない。
「まぁ、四番目なら、落ちて叩きつけられたとしても問題なかったろうけどな」
無責任に、チビは言う。
「破壊の赤種の回復力は赤種一。だから、落下したくらいで死ぬもんか」
そういう問題じゃないと思うが、赤種のチビはあまり気にしていないようだった。
破壊力も回復力も赤種一なら、破壊の赤種が赤種で一番強いんじゃないか?
チビにそう聞いたら、当然だろうと笑われた。
赤種としての力は一番強いが、赤種としての意欲は一番低い。
だから、赤種としては二番目に役立たずなんだそうだ。
俺はフィアの能力のことを、よく知らない。
赤種であってもなくても、能力がどんなものであったとしても、フィアが好きなのには変わりがないから。
だから、気にしなかった。知ろうとしなかった。
だから、フィアの魔力が尽きてしまった今。どうしていいのか分からない。
もっともっと、赤種の、フィアの能力のことも知っておくべきだった。
早く魔力が回復して、目覚めてほしい。
俺はフィアに、泣いて謝らないといけないのだから。
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