精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

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2 新人研修編

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 俺のフィアが就職して、早いもので二週間が過ぎた。

 研修の方は順調に進んでいるようで、毎晩、事細かに話をしてくれる。
 楽しそうに話すフィアを見ていると、俺も楽しく感じる。

 だが、最近、フィアが気になるものに興味を示し出した。

「ねぇ、ラウ。組み紐飾りってのが流行っているんだって。二個一組になっていて、とってもかわいいの」

 知っている。

「恋愛成就のおまじないなんだって。一個を自分で持って、もう一個を相手に渡すんだって。おもしろいよね」

 それも知っている。

 俺も作って、フィアにあげようかと思ったくらいだから、調査済みだ。

 が、思いとどまった。

 俺たちはすでに夫婦。
 俺の恋愛は成就しているんだ。

 フィアはかわいいものが大好きだから、欲しいとか作りたいとか、言い出すに違いない。

「そういうものは、恋人ができないとか、結婚できないとかいうやつが、願いをこめて持つものだ」

 俺はフィアに説明する。
 しかし、これでフィアが納得するとは思えない。

「フィアには俺がいる。いまさら、願いをこめる必要ないだろ」

 フィアだって、ただ、かわいいから欲しかったに違いない。
 俺以外の誰かのために、作るつもりのはずがない。

 そう思いはするのに、どうしても不安がこみ上げてくる。

 おかしい。

 不安も焦りも、胸の奥底に押し込めたはずなのに。

「俺たちは結婚済みなんだ。恋愛成就のおまじないなんて、必要ない」

 フィアに対してではなく、まるで、自分に言い聞かせているみたいだ。

「だから、ダメだ」

 このときの俺は、ダメ以外の言葉を言えなかった。




 ダメ出しをして以来、フィアは組み紐飾りの話はしなくなった。
 相変わらず、楽しそうに研修の話をしてくれる。

 良かった。諦めてくれた。

 しかし、これで本当に良かったのか?




 今日もフィアといっしょに帰るはずが、緊急会議が入った。

 俺はメランド卿に迎えを頼み、会議室に向かう。

 総師団長、第一塔長、第二師団長、第四師団長がすでに集まっていた。

 自然公園で見つかったメダルが、解析できたとのこと。
 明日の本会議に向けての事前説明だそうだ。

 ふと、思ったことが口から出た。

「なんで、俺が?」

 メダルの発見場所は自然公園。
 王都内なのだから第二師団が担当だろう。
 鑑定担当は第一塔、発見者は第四師団、俺は関係なくないか?

「解析できたメダル、これから説明するけど、魔物に関係するんだ。
 だから、第六師団も同席してくれ」

 レクスが悪びれることもなく、しれっと説明する。

 別に第六師団は魔物担当ってわけじゃないんだけどな。
 非常事態専門、厄介事専門ではあるけどな。

 そして、レクスからの説明が始まった。

「四枚目のメダルには三つの魔法陣が刻まれていることが判明した。
 それぞれ、《防御》《増幅》《混沌獣の召喚》」

 混沌獣の召喚という言葉に、場がざわつく。
 そんな魔法陣、初めて聞いたぞ。

「核となる魔法陣は《混沌獣の召喚》。《防御》でメダルへの攻撃や魔法を防ぎ、《増幅》が核となる魔法陣の働きを強める」

 静まるのを待って、レクスは説明を続ける。

「鑑定者によると《混沌獣の召喚》の魔法陣は魔物を呼び出すもののようだ。
 メダルは不完全で、発動しない失敗作だとのこと。作られたのはここ数ヶ月以内」

 失敗作と聞いて、安堵する俺たち。

 俺たちの反応を見ながら、レクスがさらに続ける。

「同じ鑑定者に前の三枚を調べてもらったが、魔法陣は見つからなかった。
 材質はまったく同じなので、刻まれる前のものの可能性が高い」

 レクスが話し終わるのに続いて、総師団長が話し始めた。

「問題は、同じメダルが他にも存在する可能性があることだな。もしかしたら完成品があるかもしれない」

 失敗作はともかく、完全なものがあったら大変だ。

 今まで混沌の濃い場所だけだった魔物が、街中にも現れる。
 そうなったら、被害は甚大だ。

「混沌獣の召喚なんて、初めて聞く。疑うようで悪いが、解析に間違いはないんだろうな。鑑定者は誰なんだ?」

 第二師団長が質問した。

 第二師団は王国騎士団。エルメンティア全般の防衛を担当する。

 確かに疑問はもっともだ。
 俺も初めて聞く魔法陣だし、魔物が魔法陣で召喚されるなんて話も初耳だ。

 第二師団長の質問に対し、レクスが手をあげて答えた。

「クロエル補佐官だ」

 ゴホ

 思わずむせる。俺のフィアか?!

「あぁ、黒竜の奥さんか」と第四師団長の紫竜。

 ニコニコと俺を見る紫竜に対して、愕然とした顔で俺を見る第二師団長。 

「なんだ、ドラグニール。結婚したのか?! 水臭いぞ、なぜ教えない?!」

 そして、周りを見回して、

「皆、知ってたのか? 俺だけ知らなかったのか?!」

「ちょっと事情があってな」と俺。

 こいつの親族はちょっと面倒だからな。確か、ムカつくあいつが甥になるはずだ。
 それもあって、あえて知らせなかったんだよな。

「メダルに関係するから、事情も説明するぞ」

 レクスがそう言って、勝手に俺のフィアの説明を始めた。
 まぁ、この場でフィアを知らないのは第二師団長だけだが。

「クロエル補佐官は赤種の四番目だ。鑑定技能は神級。
 四枚目のメダル、彼女しか鑑定できなかったんだよ、大変なことに」

「ちょっと待て。ドラグニールの奥さん、赤種だと?! おまえ、破壊の赤種を捕まえたのか! いったい、どこで? どうやって?」

 思いっきり混乱してる第二師団長。
 そうなるよな。だから話さなかったんだがな。

 だが、師団長を任されるだけあって、混乱はすぐに自ら落ち着かせる。

「いやいや、今はこれじゃない! つまり、メダルの製作者は赤種と同格かそれに近いということだな?」

「話が早いな」

「自然公園は、もうすぐ氷雪祭だぞ!」

 焦ったように話す第二師団長。

 氷雪祭まであと十日ほど。目の前に迫っている。

 フィアは氷雪祭に行ったことがないはずだ。
 この前の火花草もキレイだと嬉しそうに笑っていたし。
 氷雪祭も、連れていったら、きっと喜んでくれるだろう。

 一瞬和んでしまった俺の頭の中とは反対に、会議室は緊迫したまま。

「それを狙った可能性もある。とにかく、自然公園の再探索が必要だ。詳細は明日の会議で決める。以上」

 総師団長の言葉で、この場は解散となった。

 直接の担当でないとはいえ、大変なことになったな。

 ため息をついた俺にレクスが声をかけた。

「ラウゼルト、ちょっと寄ってくか」
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